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師事

今回は少し短めです。

 8話


 あれから俺は男に担がれ、選手室に戻っていた。

 もう涙は止まったが、あの時のことを思い出すだけで顔から火が出るほど恥ずかしくなる。そんなわけで俺は選手室の隅っこで体操座りをして、落ち込んでいた。

 そんな俺を、他の選手達は居たたまれなさそうな目で見ていた。誰も彼もが言葉を発さず、選手室は重い空気に包まれている。

 そんな空気に耐えられなくなったのか、一人の男が俺に近づき、俺の前に立った。


「えーと、その、なんだ、ほら元気出せよ、最初はみんなそんなもんだよ」


 男は俺の肩に手を置き、俺を慰めて来る。

 だが俺にとってはそんなことは屈辱でしかなく、俺は返答せずに、顔を俯ける。

 俺の様子を見て無駄だとわかったのか、男は俺を少し見ると、先ほどにいた場所に戻った。

 また重い空気が広がった。

 そんな空気に耐えられなくなったのか、先ほどの大男が俺に近づき、俺の前に立った。


「おい、いつまでもくよくよしてんじゃねえよ。受付の時の威勢はどうしたんだ!!」

「……はは、無様だろう。あんなに威張っていた俺がこの様だ。笑えよ」


 そう俺が自傷して、半笑いで笑うと、目の前の男は俺の頭を掴み、無理やり俺を立たせると、顔を近づける。


「笑えねぇよ、笑っちまったら、俺はこんな奴と喧嘩したことになるんだぞ!!少なくとも俺が喧嘩した相手はこんな腑抜け野郎じゃなかった!!」


 男は俺に叫んだ。周りの連中はそんな俺たちを見てざわついている。


「……あの時は知らなかったんだ。まさかこの俺の力が彼処まで通じないなんて」

「ならこんな所で項垂れてないで、鍛えてくればいいだろう。誰だって最初は弱いもんだろ」

「だが俺一人では限界があるんだ。俺一人でここ何日か修行したが、強くなれるとは到底思えないんだ!!」


 俺がそう答えると、男は舌打ちをした。


「じゃあなにか、お前は教えてくれる人がいるなら強くなれるというのか?」

「ああそうだ。コツさえつかめばお前なんてすぐに倒せるさ」

「……そうか。なら俺がお前に教えてやる」

「なにっ!?」


 俺は驚いた。まさかこいつが俺に師事を申し出てくれるなんて、だがこいつ本当に強いのだろうか?

 そんな俺の失礼な視線に気づいたのか、男は咳払いをすると言った。


「俺だって多少のことは教えてやれる。それにお前より強いのはもう知ってるだろ」

「……だがなぜそんなことをする?してお前のメリットはあるのか?」


 俺はそう言うと、男はハッキリと大きな声で答えた。


「確かにお前を鍛えてもメリットなんかねぇよ。だがなこのままお前を見捨てたんじゃ、後味が悪い。まぁ、要するに俺の自己満足だ」


 そう言って男は笑う。……なんだかこの男を見ていると、何故かは知らないが落ちこんでいるのが、馬鹿らしくなって来た。それに教えてくれるというなら落ち込んでいる暇はない。


「よし、なら早速此処から出て修行に行こう。さぁ、さぁ」


 そして俺は元気良く立ち上がり、男を急かす。そんな俺を見た男は何故か溜息を吐き、頭をポリポリとかく。


「まぁ待てよ、俺たちはお互いについて何も知らないんだぜ。まずはクラブの方で少しお互いを紹介し合おう」

「なるほど、一理あるな。よし、なら早速クラブに向かうぞ」


 そして俺たちはクラブに向かうことにした。



 *****


「よし、まずは俺たちの名前からだが、これは先ほどの試合の時に聞いたから無しでいいな」

「なにっ、そんなのあったか?」

「はぁ、聞いてなかったのか」


 男は溜息を吐いた。だがあの時はテンションが上がって声援以外は耳に入っていなかった。まあしょうがない。


「はぁ、全く、今度は良く聞いとけよ、俺の名前はレールだ」


 レールは自分の右胸を叩きながら、自分の名前を名乗った。

 俺もそういう風に名乗りたいと思いつつ、俺は腕を組んだ。


「よし、ではまずはお互いの強さからいっていこうと思う」

「……そうか。余り言いたくはないが、俺は知り合いに一般人にすら勝てないと言われた程の実力だ」


 俺がそう答えると、レールは呆れたような表情を見せ、納得したように頷く。


「なるほどな、道理で弱いわけだ」

「弱いのは事実だが、余り言うな」

「……さっきから思っていたが、お前今から師事しようって相手に態度がでかいな」

「これは癖みたいな物だ、気にするな」

「……まぁ、いいか」


 レールは諦めたような顔で呟いた。その態度が俺にはイラッときたが、実際に俺の態度は相当悪いのでそんなことは言えなかった。


「で、貴様の強さはどうなんだ?」

「俺の実力か、う〜ん、まあビギナーズの中では強いほうか」


 ……それはつまり余り強くないということか。だがそれを言うと教えてくれなくなるかもしれないので、そんなことは言わない。


「……取り敢えずそろそろ行かないか?紹介も終わったし、俺は強くなりたいんだ」


 俺が修行に行こうと急かすと、レールは余り納得していない様子だが、席を立ち、俺たちはレールの知っている修行場所に向かうことにした。


 *****


 レールが知っているという修行場所は森の中にあった。

  そこはなかなか使い込まれた跡があり、所々地面が削れていたり、ボロボロになった木で出来た人型の人形などが落ちている。


「此処で貴様はいつも修行しているのか?」

「ああ、修行はだいたい此処でしてるな」

「ほう、なかなか期待出来そうじゃないか」


 俺は腕を組み、周りを見渡す。近くに川でもあるのか、先ほどから川の音が聞こえてくる。

 ここなら、修行が終わった後も、川で水浴びをして汗を流すこともできるだろう。なかなか整った修行環境だ。


「よし、早速始めるとしよう。で、どうすればいい?」

「う〜ん、最初だからな。じゃあ最初はエネルギー弾のコントロールから始めるか、取り敢えず掌にエネルギー弾を出してくれるか」


 俺は言われた通りに掌にエネルギー弾を出した。


「よし、なら次はそれをどれくらい操れるかを見るから動かして見てくれ」

「ふっ、そんなことでいいのか」


 俺は弾を操る。俺が人差し指をクルクルと回すと、それに反応して弾もグルグルと回っている。


「どうだ、これが俺のコントロール力だ」


 俺はドヤ顔でそう言って、レールを見た。レールは少し関心したような顔をしている。


「結構出来るじゃないか、こういうことは得意なのか」

「こういうのは強さと関係ないからな。これくらいなら余裕だ」


 俺は高笑いをしながら、調子にのって、弾をハート型に変えてみる。


「どうだ、こんなことも出来るんだぞ」

「なるほどな、なら弾のコントロールは余りやらなくてもいいな」

「なら次は何をすればいい」

「う〜ん、そうだ、お前キャンセラーは持っているか?」


 キャンセラーだと?スキルブロッカーなら知っているがキャンセラーの方は知らないな。

 俺が首を傾げると、レールは目をパッチリと開け、こっちをみる。


「お、お前もしかしてキャンセラーを知らないのか?」

「そんなもの聞いたことはないな」


 俺がそう言うと、レールは頭を抱え、俺を見る。


「強さを求めるならこのスキルは必須なんだぞ。それを持ってないならまだしも知ってすらいないとは」


 レールは溜息を零し、先ほどのように頭を抱える。


「おい、それはなんなんだ、教えろ」

「はぁ、いいかキャンセラーというのはだな、その名の通り行動をキャンセルするスキルなんだ」

「行動?相手の行動をなかったことにできるのか?」

「いやキャンセルできるのはあくまで自分の行動だけだ。例えば大技を出した後はどうしても隙ができてしまうだろ、だかこのスキルを使って行動をキャンセルすることにより、隙をなくし、より良い動きをすることが出来るんだ」

「なるほど、それは中々便利そうだな」


 それを使えば技を出した後の硬直などもなくなるし、連続で攻撃がしやすくなる。

 そのスキルは考えれば考えるほど、様々な使い方が思いつく。俺はそのスキルに非常に興味を持った。


「なるほど、そのスキルは中々おもしろそうだな、だがどうせ会得するのは中々たいへんなんだろ?」

「このスキルは数あるスキルの中でも簡単に取れるんだ。そうだ今から行ってみるか?」

「なにっ、今から行って取れるもんなのか」


 俺が妖精の森に行った時は中々大変だったが、そんなに軽く言ってくるということは本当に簡単に取れるのだろうか。

 俺は少し悩んだが、レールに「行く」と一言言うと、レールは「そうか」と頷く。

 こうして俺たちはキャンセラーを会得する為、歩き出した。

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