コロシアム
7話
「っち、あの野郎、自分で呼んどいて自分が遅刻とは」
俺はズクに呼び出され、あの時騙された店の前であいつが来るのを待っていた。
だがズクの奴はまだ来ない。
俺は苛立ちながら壁になんかかっていると、ズクの奴が手を振りながら、こっちの走ってきた。
「わりぃな、ちょっとそこで可愛い子見つけたからナンパしてたら、遅れちまった」
「貴様ァ!!俺が早くから来て待っていたのにナンパなんかしてやがったのか!!」
「だから謝ってるだろ、でもよぉ、俺の好みにドストライクだったんだからしょうがねぇだろ」
ズクは反省した様子もなく、いつものヘラヘラ顔で笑っている。そんなズクを見てますます腹が立ってくる。
「ふざけるなぁ!! 貴様は俺に金貨1枚の借りがあるんだぞ、そこを自覚しろ」
「分かってるって、だからこそ今日はこの街を案内してやるんじゃねえか」
「っち、こんな奴に街案内をされるなんて、恥ずかしくてしょうがないぜ」
「まあまあ、んなこと言うなよ〜、さ、行こうぜ」
そういうと、ズクは歩き出した。
俺はため息を吐きながら、後に続いた。
*****
「ということで、俺が最初に紹介するのは、此処でーす」
そう言うと、ズクは目の前の建物を指差す。
その建物は外から見ると綺麗な建物なのだが、入り口から出てくるのは、男か、過激な服装をした女だけ。そして建物の看板を見た。
「って、ここ娼館じゃねぇか!!」
俺はズクの頭を殴った。ズクには相変わらず効いていないようだが、俺はズクに怒鳴った。
「貴様ァ、最初にこんな所を紹介する案内人が何処にいる!!普通は観光スポット的な所を紹介するだろーが!!」
「んなこと言ったってよぉ〜、俺からしてみりゃここは一番の観光スポットだぜ」
ズクはいつものヘラヘラ顔と違い、まじな顔でそう言った。俺は頭を抱えた。こんなことになることくらい予想できたはずなのに、
「兎も角、俺はこんな所には入らん。違う所に案内しろ」
「ちぇ、折角来たのによぉ、まあいいや、次の場所はお前でも楽しめるはずだぜ」
既にズクには期待していないが、兎も角、俺はズクと共に次の場所に行くことにした。
*****
「おっしゃ、着いたぜ!!」
次にズクが俺を連れて来た場所は町外れの寂れた喫茶店だった。中に入っても、中にいるのは店長らしき男が一人だけで他の客はいる気配するない。
「おい、ここが貴様のおすすめスポットなのか?」
俺が顔をしかめながらズクに尋ねると、ズクはヘラヘラと笑いながら答える。
「へへ、お楽しみはこれからだ」
そう言うと、ズクは懐から手帳のような物を取り出し、店長らしき男に話しかけ、それを見せる。すると男はニヤリと笑い、店の奥を指差した。
「ほら、行こうぜ」
俺たちは店員の指差した席へと移動し、その椅子に腰掛けた。するとその椅子はガタガタと動き出し、そして俺を乗せ、何処かへと消えた。
「な、なんだ!?」
気がつくと、そこには先ほどの喫茶店はなく、俺は何処かのクラブ?のような場所の席に座っていた。
「い、いったいどういうことだ」
俺が辺りを見渡すと、そこには、ニヤニヤと、辺りの女を見渡しているズクの姿があった。俺はすぐさまズクの元に駆けつける。
「おい、貴様、ここは何処なんだ?」
「ん?見てわかんねぇのか?クラブだよ。中央を見てみろよ、なかなか面白いショーがあってるぜ」
ズクはステージを指指し、いやらしい笑みを浮かべる。俺がその方向を見ると、そこには卑猥な格好をした女が卑猥な動きをしながら踊っている。
「はぁ、結局こう言う所にしか、貴様は連れて来れんのか」
俺がため息を吐きながら、ズクに尋ねると、ズクは心外だという表情でこちらを見る。
「待てよ、ここは別にあれだけじゃねぇんだ。クラブ以外にもカジノや闇市もあるし、お前の好きそうなコロシアムだってあるんだぜ」
なに、コロシアムだと?俺が顔をしかめる。
ズクの説明を聞いていると、ここは明らかに正規の場所ではないことが分かる。そんな所にコロシアムがあるということは、
「……コロシアムというのは殺し合い会場のことか?」
俺が顔をしかめながら尋ねると、ズクは安心しろと言わんばかりに笑顔になると、こちらに親指を立てる。
「安心しろ、コロシアムは戦いの場だ。確かに少しハードだが、人が死なないようにサポートもついてるし、基本は死なねぇよ」
「基本は?つまり死ぬ時もあるのか?」
「まぁ本当に偶にだからよ。確かに血生臭い戦いもあるけど、結構おもしろいぜ」
ズクはこう言うが、実際には分からない。だが俺は別に殺し合いであろうが良かったが、兎も角一度コロシアムという場所に行ってみたくなった。
「おい、それは何処にあるんだ?」
「おっ、行く気になったか。なら俺についてこいよ」
ズクはキョロキョロと周りを見渡して、ある椅子を見つけると、手招きして俺を呼んだ。
そして俺が指差した椅子に着くと先ほどと同じように椅子がガタガタと動き出し、いつの間にか、別の場所に飛んでいた。
俺は椅子から立ち上がり、周りを見渡すと、そこはコロッセオのような場所で、中央には激しい死闘を繰り返す男達と、それを周りで盛り上がって見ている観客の姿が目に入った。
ほう、ここがコロシアムか、なかなかおもしろそうじゃないか。俺がコロシアムを見ていると、背後からズクが肩を叩いてきた。
「どうだ、コロシアムは?なかなかおもしろそうだろ」
「ふん、確かに貴様の紹介にしてはマシな方だな」
「素直になれよ。まあいいや、さあ席に座ろうぜ」
俺たちは席に着くと、行われている試合を見る。
そこで俺は見た。本当の戦いというのを。
俺の目先で行われる男達の熱いぶつかり合い、様々な技の応酬、その全てが俺を魅了し、気付けば俺は席から立ち上がり、大声を出し、二人を応援していた。
横でズクが少し引いていたが、そんなことは気にもならず、俺は試合に熱中していた。
そして試合は終わり、俺は席に座る。
すると、横で見ていたズクが少し引いた顔で俺に尋ねてきた。
「は、はは、楽しんでもらえたみたいでなによりだ」
「そんなことより次の試合はまだか!!」
「今日はあんな試合はもうねぇぞ」
な、なんだと、
俺は落胆した。あんなに熱中したのは久々だというのにもう見ることが出来ないなんて。
俺が見るからに落ち込むと、ズクは頭を捻り、何かを思いついたように手のひらをポンッと叩き、俺に何かを言ってきた。
「そうだ、ならお前が出ればいいじゃねぇか」
……こいつはなにを言っているんだ?
俺はズクに呆れた視線を送るが、奴は俺が呆れたことに気付かないのか、いつものヘラヘラ顔で笑っている。
「貴様はバカか?俺は弱いんだぞ、あんな連中に勝てるわけないだろ」
「大丈夫だって、今からあるのはビギナーズリーグって言って、弱い奴らが戦うリーグなんだぜ。それなら弱いお前でもイケるって」
そう言ってアレスは鼻を擦りながら、何故か自慢気に答えた。
こいつ、俺のことを弱い弱いと、言ってきやがる。だが事実なので、なにも言い返すことが出来ない。
……ここで俺がコロシアムを勝ち上がれば、こいつは俺を見直すんじゃないのか?そうだ、こんな奴に見下されるほど俺は低俗な男じゃないんだ。
「……本当にそいつらは弱いのか」
「ああ、はっきり言って、ただの雑魚だ。そこら辺にいる魔物の方がたぶん強いし」
ズクは親指を俺に突き立て、いい笑顔で答えた。
「よし、なら早速リーグに登録しに行くぞ!!」
「おう、俺についてこい」
早速俺たちは登録しに受付へと向かった。
*****
受付に着くと、そこにはビギナーズリーグに出るための様々な人物で溢れていた。
「……ビギナーズリーグだっていうのになかなか人数が多いな」
俺は周りの出場者らしき人達を見渡すが、どれもこれも今の俺にはちっぽけな存在に見えてくる。何人かは俺の目を惹くやつがいるが、まあ俺に勝てるやつなんていないだろう。
兎も角、俺はさっさと登録を済ませる為、行列に並び、自分の番を待った。
しばらくして俺はようやく登録することが出来た。参加料銀貨一枚は痛かったが、これで俺もあの場で戦うことが出来る。
そういえばズクの奴は何処にいったんだ?
俺は周りを見渡すと、そこには頭を捻りながら、参加者を見つめるズクの姿があった。
俺はズクに近付いて、何をしているのか尋ねた。
「おい、参加者達をジロジロと見て、どうかしたのか?」
「ああ、それは誰に賭けるべきかを見極めてるんだ」
こいつ、人の戦いを賭け事にするのか、まぁここはそういう所か。
俺はそんなズクに溜息を吐く。だが誰に賭けるかも気になったのでズクに聞いてみることにした。
「おい、貴様は誰に賭ける気なんだ?」
「ん?そうだなぁ、俺としてはあそこの大男とかいいと思うぞ」
俺はズクの目線の先にいる男を見る。
その男は2メートルはあるんじゃないかと思うほどでかく、民族衣装のような服を身につけたガタイのいい黒人が立っていた。
「ふん、貴様もまだまだだな。大男はかませと相場が決まっている。例え俺と当たったとしても絶対に勝つ自信があるぞ」
俺がそう言うと、男は此方を見て、そして俺を睨めつけながら近づいて来た。
「おい、今大男はかませだとか言ったのはお前か?」
男の様子は明らかに怒っており、俺は少し縮こまる。
まずい、先ほどのが、聞こえてしまったようだ。
だがここで引いてしまうともうその時点で俺は負けたのと同じだ。ということで俺は精一杯威張りながら答えた。
「ふん、そうだがなにか?」
そんな俺の返答にさらにイラッときたのか男は声を荒げ答える。
「俺はお前のような弱そうな奴にかませと言われたのが気に食わない。謝って貰おうか」
「ふん、負け犬に下げる頭はない」
「……そうか」
そう言うと男は殺気を出しつつ、俺を睨みつけた。
正直言って怖い。少しだが、手が震えてしまった。だが俺はすぐに立て直すと、俺も精一杯の殺意を出しながら、男を睨め付ける。
そんな二人を見て、ズクはまずいと思ったのか、俺たちの中に割り込んだ。
「ちょっと待てよ、此処で暴れられるとどっちも失格になっちまうぞ。」
だが俺たちはどちらも引く気はないようで、どちらもズクを完全に無視した。
「おい、話聞けって、こんな所で喧嘩するんならコロシアムでやれよ。あそこなら此処より思う存分暴れられるんだから、な」
ズクがそう言うと、男は殺意を収め、俺に一言呟いた。
「コロシアムで貴様を潰す。そしてお前の頭を下げさせてやる」
「ふん、俺が負けたら頭などいくらでも下げてやる。ま、そんなことはあり得んだろうがな」
そして男は何も言わずに、この場から去った。
「……ふう、ようやく行ったか」
「全く、お前ら馬鹿かよ。お前らが喧嘩したら、失格になるんだぞ、あいつが失格になったら賭ける奴をまた決め直さないといけないだろうが」
そんな理由でさっきは止めたのか、まあ正直あのままだったら俺が持たなかっただろうから有り難かったが。
兎も角、俺はあいつを倒すという目標が出来た。俺は絶対にあいつに勝つことを誓った。
それからしばらくしてリーグが始まった。
俺の試合の前に何人かの試合を見たが、先ほどの試合に比べれば、はっきり言っていい試合とは言えなかった。だが俺よりは強そうな気がして、少し不安な気分になる。
そんなとき、今の試合が終わり、ついにおれの番が来たのだ。
少し緊張するが、俺は顔を叩き、気合を入れ直す。よし俺なら勝てる。何故かそんな気がしてきた。
そして俺はコロシアムに向かった。
俺が出ると、少ないが声援が上がる。声援を聞くと、なんだか力が湧いてくるような気がした。
そして次は俺の相手が声援と共に向かってきた。
なにっ、俺は目を疑った。なぜならそれは俺の相手は先ほどおれがびびったガタイのいい大男だったからだ。
男は俺を見ると、少し驚くが、すぐに表情を変え、此方を先ほどのように睨め付ける。
「まさか最初に当たるとな」
「ふん、まあ俺は貴様をさっさと倒すことができるんだ、中々嬉しいぞ」
「……俺は今まで口だけの奴をいくらでも目にしてきた。経験から言ってお前もその類いだろう」
「そう思うなら試してみるか?」
そう言うと、俺は相手を見ながら腕を構える。
男も俺を見て、腕を前に構えた。
「では尋常に、始め!!」
今、試合を告げる合図を審判が叫んだ。だが男は動こうとせず、こちらを見つめている。
「……先手は譲ってやる。だが一度で俺を倒せなかったらお前の終わりだ」
っち、くそ、こいつ俺を完全に舐めてやがる
。俺は舌打ちをした。だが先手でいきなり大技を喰らわせてやればこいつも理解するはずだ。
そして俺はニヤりと笑うと、両手を前に広げ、力を溜める。
男は動かずにじっと此方を見つめている。
俺は相手が動かないことを確認すると、力を最大限に溜め、そしてエネルギー波を一気に放出した。
そしてエネルギー波は男に直撃し、大きな砂煙をまき上げた。
俺は直撃したことを確認すると、高笑いを上げ、男に叫んだ。
「どうだ!!この俺の圧倒的な力を思い知ったか」
俺は上を向いて高笑いをあげる。そして砂煙がはれるのを待ち、だんだんと、男の姿が見えてくる。
俺は男がどんな滑稽な姿をしているかをいる為、砂煙がはれるのを待った。
だがそこに俺の期待した光景はなく、代わりにあったのは、目を丸くして驚いている男の姿だった。
「な、なんだと、俺のエネルギー波をくらって無傷だと!!」
俺が男に叫ぶと、男は我に返ったような反応をして俺に尋ねてきた。
「……おい、もしかして今の本気でやったのか?」
「なに?当たり前だ!!俺は貴様相手に俄然などせん」
俺がそう答えると男はさらに驚き、そしてため息を吐いた。
「はぁ、まさかこんな奴に俺は怒っていたのか」
俺は明らかに俺を馬鹿にしている男を見て、
怒りが込み上げる。そして地面を蹴り、男の懐に入ると、拳を振りかぶり、思いっきり男の腹に拳を振り下ろした。
だが男に効いた様子はなく、のんきに頭をポリポリとかいていた。
その光景を見て、さらに苛立った俺は連続で拳を繰り出す。だが男に効いた様子まるでなかった。
男はそんな俺を見て、哀れに思ったのか、俺が拳を繰り出すと明らかにわざとよろめいた。
男にとっては優しさかもしれないが、俺からしてみたらそれは煽りでしかなく、俺は拳に加え蹴りも追加し連続で繰り出す。
男は頭をポリポリとかくと、手を動かし、俺にデコピンを繰り出す。すると俺の身体はコロシアムの壁に向かって勢いよく飛び、俺は壁に叩きつけられた。
「く、くそー、あいつ強すぎる」
俺が呟くと、男は倒れた俺に近づき、俺の目線までしゃがむとこう言った。
「いや、別にそんなに強くはないんだが、えーと、それは演技とかではないんだよな?」
「あ、当たり前だ!!もし演技なら貴様が近付いてきた時になにかしている」
哀れだ。俺はそう思った。こんな人前で先ほどあんなに威張った男にコテンパンにやられ、まるで園児を見るように、しゃがみながら俺は相手に同情されている。こんな悔しいことはない。
俺は右手で思いっきり地面を殴った。悔しくて仕方がなかった。
俺の目から思わず、涙が溢れた。俺は恥ずかしくなり、止めようとするが、涙は全く止まらない。
そんな俺を見かねたのか、男は俺を担ぎ上げ、審判に一言棄権することを告げ、選手室に戻った。
こうして俺の初めてのコロシアムは幕を閉じたのであった。