出会い
今回の話はこの会だけでは終わりません。ご了承下さい。
5話
ふんふっふふーんと鼻歌を歌いながら俺はワイワイと賑やかな街の市場を歩いていた。
異世界に来て、今日で5日経ったが、最近は鍛錬が終わると、市場を覗いて暇つぶしをしている。
この世界の市場はあっちの世界に比べて妙な物がよく置いてある。そのため、様々な商品を見比べたり、店員に商品の説明を聞くだけで充分に楽しめるのだ。
一応ニーヤから金はもらっているのだが、流石に市場で無駄使いはしなかった。
まぁ、そんな感じで俺はいつものように市場を歩いていると、後ろから誰かに「よぉ」と声を掛けられた。声につられ振り向くと、そこには、逆立った青い髪の青年が笑顔でこちらに話しかけてきた。
「見ねぇ顔だけど、最近この街に来たのか?」
「……そうだが、俺に何か用でもあるのか?」
見る限りその男の身体は鍛えられており、アレスほどではないが、身長もかなりある。
何人も強者を見てきた俺なら分かるが、かなり腕も立ちそうだ。
「いや、別に用ってわけでもないけどさ、色々見て回ってるみたいだから案内してやろうと思ってさ」
「……何が目的だ?」
「目的?う〜ん、そうだなぁ。まぁ、目的ってわけでもないけどさ、俺今腹へっちまってよ〜、だから誰かと食べようと思ったんだけど、誰もいなくてさ。そんな時、見ねぇ顔の奴を見かけたから一緒に飯でも食えねぇかなぁと思ってさ」
なんなんだ?こいつは、とぼけた顔をしているが、まさか本当にそんなことを言っているのか?だが俺が見る限りこいつが嘘をついている様子はない。今も目の前の男は笑いながら、俺のことを見ている。
「で、どうする?俺、結構美味い店知ってんだぜ」
何故かドヤ顔でそんなことを抜かす男はこちらの返答を待っているようだ。だが、この男は腕も立ちそうだし、少し話を聞いてみたい気もしないでもない。
「……本当に美味い店知っているのか?」
「そりゃ勿論さ、それよりそう言うってことは行くってことでいいんだな。よっしゃ、じゃあ案内は後でやるからとりあえず食べにいこうぜぇー」
そう言って男は見るからに機嫌が良くなり、今にも踊りだしそうなくらいはしゃいでいた。人と飯を食うというだけでこれほど喜ぶ奴など俺は初めて見た。
「あ、そういえばまだ言ってなかったな。俺の名前はズクってんだ。お前はなんていうんだ?」
「……ゴーマだ」
俺が答えるとズクは「そうか」と答えると俺の手を引いて走り出した。
「っておい!!何故俺の手を引いている!!」
「いーじゃねーか、まぁ、ともかくさっさと行くぞ〜」
こうして俺は引きずられるようにズクに引っ張られていった。
*****
ズクに引っ張られ、店に入った俺たちはとりあえず注文を済ませ、お互いのことについて話していた。
「最強を目指すねぇ、そいつは大変そうだな。」
「確かに大変かもしれないが、俺は一番になりたいんだ。あ、飯が来た。……ってなに!?」
俺は驚いた。何故かというと、店員が運んできた料理の大きさだ。パッと見るだけで十人前はある。俺がズクのほうを見ると、ズクは目を輝かせてそれを見ていた。
「おい、なんだこのデカさは!!」
「何って?これ位、普通だろ。」
何かおかしいことでもあるかという顔をしてズクはこちらを見ている。だが幾らここが異世界だからと言ってこれが普通である筈がない。実際に俺達の周りに座っている連中のテーブルを見ても此処までデカイ料理は一つもない。
「どう考えてもおかしいだろ!!というか何故俺の分までこんなにあるんだ!!」
「え、何?お前食べないのか?じゃあ俺が貰うけど」
「そう言うことを言ってるんじゃない!!何故俺の分までこんなにあるんだと聞いているんだ!!」
「まあまあ、落ち着けって。そんなこと言ってないで、さっさと食おうぜ」
そして俺の抗議には耳を傾けず、ズクは料理を食べ始める。急かす奴がいるわけでもないのに、滅茶苦茶なスピードで料理を食べているこいつにもはや何を言っても届かないだろう。
取り敢えず俺は来た飯を食べることにした。ここでまずかったら、こいつを一発ぶん殴る予定だったが、なかなかに美味い。どんどん箸が進んでしまう。
……それにしてもよく食べる奴だ。先ほど運ばれてきた料理がすでに無くなりつつある。
まあ、金は別々なんだからどうでもいいが。
「ふぅ、やっぱりここの飯はうめぇな」
そう言いながら食べ物を頬張り、まるで飢えた獣のようにズクは食べ物を食べ続ける。
そして注文した料理を全て完食すると、満足したのか、幸せそうな顔でこちらを見る。
「あれ、お前まだ食ってなかったのか」
「黙れ、貴様が速すぎるだけだ。あれだけの量をこんなに速く食べ終わるとは」
「まあいいや、俺そろそろ行かなきゃ行けないからよぉ。案内はまた今度でいいか?」
おそらく元から案内する気はなかったんだろうが、俺は既にこいつから幾つかの話を聞くことが出来たし、それにまだまだ目の前の料理を完食できそうにない。
ということで俺はズクの返答に頷くと、ズクは「そうか」と一言言うと、俺の前から去っていった。
だが今はそんなことを気にしている場合ではない。俺は目の前の料理をどう食べるかを考えることにした。
*****
結局俺はズクと別れてから大分経った後に料理を完食した。こんな物をあんなにペロリと食べたズクが少し恐ろしくなる。
取り敢えず俺はこの店から出ることにし、レジで支払いを行うことにした。
「おい、そろそろ支払いを頼む」
「はい、えーと、お客様が払う代金は金貨2枚ですね」
「……なんだと」
俺は顔をしかめた。
ここの世界の通貨単位は銅貨1枚、100ゴールド、銀貨1枚、1000ゴールド、そして金貨は1枚で10000ゴールドだ。
確かにボリュームはあったが、流石にそれは高すぎる。だが店員の様子を見ると、別に間違っているというわけでもなさそうだ。
「……それは流石に高すぎるんじゃないか」
「え、ですがお客様が頼まれた料理は量が非常に多いんです。それに2杯分払うんだからそれ位は頂かないと」
「……おい、お前今2杯分って言ったか?」
「ええ、言いましたがそれがどうかしましたか?」
この瞬間、俺は理解した。そうズクは代金を俺に押し付けて帰りやがったんだ。そもそもあいつは色々とおかしな所があった。
あいつが、あんなに速く食べていたのも、俺の分もあんなに多い量を頼んだのも全てこの為だったんだ。
「くそっ!! ふざけやがって!!」
「……どうかしましたか?」
怒る俺を見て、店員は心配そうな顔をして俺を見る。
「そうだ、おい、お前青い髪の男を見なかったか?」
「ズクさんのことですか? それなら見ましたよ」
「あいつを知っているのか!? なら話は速い。あいつは何か言ってなかったか?」
「ええ、今日はお連れの方の奢りだから代金はあいつに言ってくれと言っておりました」
くそっ、やはりあいつは俺を利用したらしい。そう考えると腹が立ってくる。
俺は目の前の男を見る。男は細く、殴れば折れてしまいそうな体つきをしている。だが今ここで騒ぎを起こしてここに居られなくなることは避けなければならない。
俺は財布の中身を確認する。中には今朝貰った金貨が3枚入っている。俺はそこから金貨を2枚取ると、それを店員に渡し、支払いを済ませ外に出た。
今日はこれから修行をやる予定だったが、予定が変わった。
俺は今誓った。ズクの奴を絶対に見つけ出し、そして金貨2枚を取ることを。
こうして俺はまずは聞き込みから始めることにした。
*****
結論から言うと、ズクは意外とすぐに見つかった。何故こんなに速く見つかったかと言うと、ズクの悪名は街でも有名らしく、あいつがよくいるという場所を教えてもらったからだ。
そして俺はズクに後ろから近づいていく。ズクはそんな俺に気づかずに先ほどのように何処ぞの誰かに声を掛けている。
「よお、なあお前さ、俺といっしょに飯食いに行かねぇか?俺いい店知ってんだぜ」
「えっ、いや、今はちょっと」
「お前見る限りこの街あんま慣れてないんだろ? なら俺が案内してやんよ」
「えっ、ほんとかい?」
ズクと話す気の弱そうな男は、今にも着いて行ってしまいそうだ。その姿は先ほど着いて行った俺のようでいっそう腹が立ってくる。
「おい、止めておけ、そいつに着いて行ってもろくなことにはならんぞ」
「あぁ?なんだお前は。……ってお前は!?」
ズクは俺の顔を見ると、すぐさま逃げようと走り出す。だが、ここは人が多い。この様な場所では十分に逃げることが出来ず、ズクを捕まえることが出来た。
「おい、貴様、さっきはよくもやってくれたな」
俺がそう言うと、ズクは誤魔化すように笑いながら
「お、落ち着けよ。あそこの飯美味かっただろ?ならいいじゃねえか、あれは紹介料ってことで」
と答えた。その返答に頭にきた俺は何も言わずに、ズクの顔面を殴った。
「おいおい、いきなり殴るなんてお前には常識がないのか?」
だが、ズクに効いた様子はなく、ズクは平然と立っている。
「ま、取り敢えず1発殴ったんだし、これでいいだろ。そろそろ行ってもいいか?」
「……クズが、貴様が金貨を寄越すまでは返さん」
「ええ〜、でも俺はそんなもん持ってねえよ。金があったら、自分で食うしよぉ〜」
と言いながらズクは惚けた顔をして笑っている。
「……金がないなら作ればいい。その辺の店で皿洗いでもしてゴールドを貯めろ」
「やだよ、俺は働きたくねぇんだよ」
こいつどうしようもないクズだなと思いながら俺はどうやってこいつからゴールドを貰うかを考える。だがいくら考えてもこいつがゴールドを返すとは思えなかった。
「……っち、貴様はどうしても返すつもりはないのか?」
「いや、返す気はあるよ。まあいつかは返すよ」
確定だ。こいつ絶対返す気がない。
俺は目の前のズクをともかく痛い目に合わせたくなった。だが実力はどう考えてもズクの方が上だし、何をいってもこいつは気にしなさそうだ。
そして、俺は考えていると、ある一つの名案を思いついた。
「おい、ゴールドを返すのは今度にしてやる。だがそのかわりにある男と戦ってくれ」
そうその案とはこいつをアレスと戦わせて弱った所を俺が倒すというものだ。こいつを痛い目に合わせることが出来るし、アレスの戦いを見ることが出来る。まさしく一石二鳥の案だ。
俺がそう言うと、ズクは目を輝かせながら、俺の肩を掴む。
「まじで!? 戦うだけでチャラになるならお安いもんだ」
「ええい、肩を掴むな!! あとチャラになるんじゃない、あくまで待ってやると言っているだけだ」
「まあ、それは置いといてさっさと行こうぜ」
「……ああ」
俺はズクの手を振り払い、以前ニーヤから聞いたアレスの家へと向かった。