初めての探索
4話
はっ、目覚めるとそこは知らない天井ではなく、昨日借りた部屋の天井であった。ニーヤの奴が運んでくれたのだろうか。
それにしても顔が痛い。だがこれでも手加減はした方なのだろう。そう考えると、一度殴られただけなのに朝まで気絶していた自分が恥ずかしくなる。……んっ?顔が痛いだと
待て、おかしいぞ。俺は超回復力を持っている。どんな傷でも一瞬で治るし、細胞の一つでも残っていれば再生だってできるのだ。なのに何故痛みが残っているのだろうか?
俺が考え込んでいると、ドアが乱暴に開けられ、そして大声で
「おはようございまーーす」
と挨拶してきた。相変わらず狙ったかの様なタイミングで入ってきやがる。実は何処かで俺のことを見ているのかもしれない。
まぁそんなことは置いといて、先ほどから気になっていることをニーヤに尋ねることにした。
「おい、昨日あいつに殴られた傷が今も治らんのだがこれはどういうことだ?」
「はい?どういうことですか?」
そうか、そう言えばこいつは俺の超回復力を知らないんだった。全く、手間を掛けさせやがって
「あ、もしかして超回復力のことですか?だったらしょうがないですね」
な、こいつ知ってやがったのか。というか俺はこいつにはエネルギー弾と飛行能力くらいしか教えていないのに何故こいつは知っているんだ?いや今はそんなことを気にしている場合ではない。
「おい、しょうがないとはどういうことだ‼︎」
「えっとですね、ゴーマ様はスキルブロッカーにより、超回復力を封じられてしまったんですよ」
「スキルブロッカーだと、一体それはなんだ?」
「えっと、スキルブロッカーというのはその名の通り、使用者の攻撃に対し、相手のスキルを封じるスキルのことです。今回はゴーマ様がスキルブロッカーにより、超回復力を封じられてしまったんですよ」
なんだそれは、強すぎじゃないか。俺は今まで様々な奴と戦ってきた。その中には俺の様な超回復力を持つ奴だって存在した。だがだ、流石にそれは強すぎではないか、どんなに凄い力を得ようがそれさえ使えば簡単に勝負がついてしまう。
「強すぎって顔してますけど、これくらいのスキルなら結構皆持ってますよ」
う、嘘だろ。こんな反則スキルを皆持っているなんて
「じゃ、じゃあお互いがスキルブロッカーを使ったらどうなる?」
「それはより強いスキルブロッカー使いが勝つに決まってるじゃないですか」
もうやだこの世界、しかもニーヤはスキルブロッカーをこの程度と言っていた。つまりはこの世界にはスキルブロッカーよりも強いスキルがごろごろころがっているのだろう。
「くそ、俺だって強いスキルがあるんなら習得したいぞ‼︎いったいどこで得られるんだ」
「う〜ん、そうですね〜。そうだなら妖精に力を借りてみるというのはどうでしょうか」
「妖精?それ強いのか?」
「まぁ、持ってて損はありませんよ。それにスキルなんて無数にあるんですから、いちいち強さに拘らなくても良いじゃないですか」
俺は強さが欲しいんだがな、だが最初から飛ばし過ぎても後々燃料切れになるかもしれんし、まぁいいか。
こうして俺たちは妖精が住む森「妖精の森」に行くことになった。
*****
俺たちは森にやって来た。
移動自体はニーヤの空間魔法によって簡単につくことができた。だがニーヤ曰く妖精と契約するにはまず、妖精を探さなければならないらしい。そして俺とニーヤは少し別れて妖精を探していたのだが、
「……こ、ここは一体何処だーーー!!」
俺は遭難していた。一応目印を木につけておいたのだが、それも見失い、俺は完全に森の中をまよっていた。
「くそ、こんなことなら別れるんじゃなかった」
そう俺はあの時、この俺がこんな所で迷う訳がないという根拠のない自信を持っており、珍しく心配してなにかを呟くニーヤを無視して俺はニーヤと別れたのだ。
さらに厄介なことにこの森は神秘だかなんだかで守られており、俺の飛行スキルは封じられている。同じ理由でニーヤの転移魔法も使えない。まさに絶対絶命の状態だ。
だが、こんな時こそ冷静になることが大切だ。兎も角、俺は周りの木に目印をつけ、先ほど来た道を戻ることにした。とはいえ妖精探しに夢中になっていた為、余り正確な道は覚えていない。兎も角、今は先に進むしかない。そして俺が来た道を戻っていると、そこには全く見覚えのない湖が広がっていた。
「……どこだここ、こんなとこ見たことないぞ」
……そういえばこの世界に来た時も俺は森に倒れていたっけ。そうだ、前も俺は疲れて眠っていたな。
前には透き通ったとても美しい湖が広がっている。もうこうなったらここで泳いで遊ぼう。そうだ、きっと遊べば頭がスッキリして名案が思いつくに違いない。
こうして俺はこの湖で遊ぶことに決めた。幸いにも気温はたかいので楽しく遊ぶことが出来るだろう。そして服を脱ごうとしたその時、俺は湖の中央に光る玉の様なものが浮いているのが見えた。その光る玉はニーヤから聞いていた妖精の特徴にとても似ていた。
あれが妖精なのだろうか?とはいえどうせやることが無いので俺は試しに光る玉に話しかけてみることにした。
「おい、貴様が妖精なのか?」
だが玉は喋らない。というかまず喋ることは出来るのだろうか?
俺は湖に入り、玉に近づいてみた。
近くから見てもやはり、光る玉にしかみえない。ニーヤから聞いていた話では近づけば何らかの反応をするらしいが、俺が近付いてもこの玉は動く気配すらない。俺が不審に思っていると、急に俺の周りの湖が動き出した。
何事だと思い、俺は湖を見ると俺の真下から巨大なアンコウみたいな奴がでかい口を開けながら物凄い速さで俺に噛みつこうとしているじゃないか。
そう、この光る玉の正体は、この魚の滅茶苦茶長いちょうちんだったのだ。
「ぎゃあーーーー!!」
俺は一目散に逃げ出し、間一髪で魚からの一撃をかわすことができた。だがその魚は諦めず、また俺を食べようと物凄い速さで俺に迫ってくる。
ま、まずい、なんとか動きを止めようと、俺は魚目掛けて高威力のエネルギー弾を連続で放つ。が、だめ。多少は勢いが落ちた気もするが、魚の動きは止まらない。
最悪だ、今はこの森の所為で飛行することも出来ないし、俺はこの広い湖の中央辺りにいる為、陸に上がろうにもまだ距離は大分ある。
まさに、最悪の状態だ。だかここで焦ってはいけない。今までだってこんな危機くらい何度かあったんだ。俺は一度落ち着くと、相手を観察することにした。
だがよく考えて欲しい。相手は猛スピードで向かって来ているというのにこんなに長いこと考え事をしていたのだ。俺が魚を見た時、魚は既に俺の目の前まで迫っていた。
「ぎゃあーーー!!ちょっ、死ぬって!!」
俺は魚の目にエネルギー弾を放つ。こんな距離だ、もちろん命中。そして魚が少しだけ勢いが落ちたすきになんとか逃れることに成功した。そして魚は急には止まれないのか、そのまま前に泳ぎ、ある程度スピードが弱まると、また俺の方へ向きを変え、こちらに向かって襲いかかってくる。どうやらこの魚はスピードは速いが、急には曲がれないらしい。つまり突っ込んで来るだけの能無しということだ。なら話は簡単だ。魚を直前まで誘き寄せ、そしてかわす。この手を使い、俺は無事陸に戻ることができた。
「ふぅ、全くこんな能無しに殺されかけるとはこの俺も落ちたものだ」
そして俺がもう一度来た道を戻ろうとすると、俺の背後からパチパチと音が聞こえてきた。俺はおもわず身構え振り返ると、そこには笑顔のニーヤが拍手をしていた。
「流石ですね、ゴーマ様。少し危なかったですが、見事あの魚の弱点を見破り、そして無事陸に戻られるとは」
「なにっ!?貴様見ていたのか!!というか何故お前は俺の居場所が分かったんだ?」
すると、ニーヤは人指し指をこちらに向け、そして何かを呟いた。すると俺の肩から光る玉が出てきた。
「おい、なんだこれは?」
「それは私が契約している妖精です。絶対迷うと思いましたので、ゴーマ様と別れる時につけさせていただきました」
「なるほど、それで別れる時に何か呟いていたのか」
なにはともあれ助かった。俺が安堵していると、ニーヤは瓶を取り出した。瓶の中には羽根の生えた光る玉が浮いていた。
「そ、それはもしかして妖精なのか?」
「はい、一応探しておきました。後はこの妖精と契約を結べば目的は達成されますね」
そう言うと、ニーヤは瓶の蓋を開け、妖精を外に解き放った。妖精は外に出ると、解放されたからなのか、嬉しそうな様子で飛びまわっている。
「さぁ、今こそ契約の時です、ゴーマ様」
「それはそうだが、一体どうすればいい?」
「それは、妖精に契約を持ちかけて、妖精がゴーマ様を気に入れば契約は完了です」
意外と簡単なんだなと思いながら、俺は妖精に話しかけてた。
「おい、妖精よ、俺と来る気はないか?俺ならばお前を完全に使いこなすことができる。そして俺と世界最強を目指そうじゃないか」
俺がそう言うと妖精はぴょんぴょんと跳ねながら俺の周りを飛び、そして俺の中へと入って行った。
「流石はおれだな。妖精を一瞬で手なずけるとは、だがなにか変わった様子はないな、一体なにが変わったんだ?」
「ふふふ、ゴーマ様。試しに飛んでみてください」
飛ぶだと?ここでは出来ないし筈だが。だが一応俺は飛んでみることにした。すると俺の身体はそれに舞い上がった。先ほどまで飛べなくなっていた筈なのに、今では、いつも通り快適に空を飛ぶことが出来た。
「おい、もしかしてこれが妖精の力なのか?」
「ええ、その妖精は契約することにより、妖精の森でもスキルを使えるようになるんですよ」
なるほど、これでもう道に迷うことはないわけだ。……ん?あ、あれ?
「……おい、もしかしてそれだけなのか?」
「はい、それだけですけどそれがどうかしましたか?」
「どうしたもこうしたもない!!俺が求めていたのは戦闘スキルを上げる為の妖精なんだぞ!!これでは此処に来た意味がないではないか!!」
そうだ、これでは俺が道に迷ったのも、魚に殺されかけたことも、全て無駄になってしまう。
「まあまあ、ここ以外にも妖精の加護がある森はありますし、まあ便利なことは便利なのでいいじゃないですか」
「良くないわーーー!!」
こうして俺の異世界に来て最初の探索は幕を閉じた。