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驚異

 3話



「あんなことを言ったものの、これからどうしようか」

「え〜、考えてないんですか?まあともかく近くの街にでも行きましょうか」

「街か、そこはどんなところなんだ?」

「う〜ん、まあ王都みたいなところですよ」


 王都、その言葉は聞くだけで嫌なことを思い出す。あそこであんなことをしなければ俺はこっちの世界に来ることはなかっただろう。

 だがあっちの世界にいたところで、大して強い奴などいないし、こっちに来れたことは案外良かったのかもしれない。

 そんなことを考えていると、ニーヤが紫色の歪んだ空間のようなものを作り出していた。


「おい、それはなんなんだ?」

「これですか?これは空間魔法を使った穴で空間と空間を繋いで行きたい場所に行けるんです。まあ早い話がワープできるんですよ」


 確かに便利そうではあるが、ここの連中は皆こんなことができるのだろうか。俺の周りにいた連中はよく空を飛んでいたが、これを使えばそんな手間もかからない。俺にも出来るのならやってみたいものだ。


「あ、一応言っておきますけど多分ゴーマ様には無理ですよ」


 ……この女は心でも読めるのだろうか?それともそんなに顔に出ていたのか。だが俺に出来ないということは何か特別な技なのだろうか?

 とはいえいくら考えようが無駄であることに変わりわないだろう。あっちの準備も終わりニーヤがこっちに来いと手で即している。

 あいつが作ったという点は不安ではあったが、俺はその穴へと飛び込んだ。



 *****


 穴を抜けるとそこには、たくさんの人で賑わう街があった。だが王都とは違い、ちらちらと強者のオーラを放つ者など様々な人で溢れていた。

 ……様々な奴がいるが、ここにいる連中は皆俺よりも強いらしい。あそこで果物を売っているヒョロイ男や小汚い服装をした物乞いなんかに負けていると思うとなんだか腹が立ってくる。だがそれは少しの辛抱だ。少し修行すればこいつらくらいならすぐに抜かせるはずだ。

 ……それにしてもここは本当に異世界だと実感できるものだ。周りを見渡せば、訳のわからんものや明らかに体に悪そうな色をした果物、それに王都じゃ絶対に見られないような店もここには山の様にある。

 色々と物色してみたいものだが、俺はこの世界のことを殆ど知らない。当たり前ではあるが商品の相場も全くわからない。というか金がない。一応ポケットの中にはいくらかの金はあるが、ここでは恐らく使えないだろう。よって今は商品を眺めるくらいしか出来ない。

 こうして俺は周りをキョロキョロと見ながら歩いていると、遅れてやって来たニーヤが何故か恥ずかしそうな顔をしてこちらに走ってくる。


「ちょ、ちょっとゴーマ様、そんなにキョロキョロしてると、田舎者かと勘違いされますよ」

「田舎も何も俺はこの世界を知らんのだ。別に色んな所を見てもいいだろう」

「ともかく、部屋を取ってきましたから、そこでこの世界について話しますよ」


 どうやらこいつが遅れてきたのは、何処かで部屋を借りていたかららしい。

 兎も角、この世界について色々と聞きたいことがあった為、俺はニーヤの案内の元その部屋へと移動した。


 *****


 そして俺たちはお世辞にも綺麗と言えない部屋の中で、対面して座っていた。


「全く、あんなことされると一緒にいる私まで恥かくんですから止めてくださいよ」

「ふん、そんなことはどうでもいい。この世界について貴様のわかるだけ話せ」

「はぁ、相変わらず態度だけはでかいんですから。まあいいです。で、なにが聞きたいんですか?」


 ……聞きたいことか。聞きたいことは山ほどあるがやはり聞きたいのは、この世界の人間がどれほど強いのか。いや、やはりまず聞きたいのは


「先ほど貴様は空間魔法とか言うのを使っていたが、あれはここの連中なら皆使えるのか?いや俺があれを使えないというのは何故だ」

「あぁ、えっと、少なくとも全員は無理でしょうね、空間魔法なんかは結構レアな魔法でして、私は空間系の魔法のスペシャリストなので使えましたが、まぁ使える人は少ないと思いますよ」


 なるほど、どうやら魔法という奴は、種類があり、使える奴と使えない奴がいるのか。

 これはいいことを聞いたな。


「じゃあ次に聞きたいことはここの奴らの強さだ。これから競う相手として聞いておきたい」

「ん〜、強さですか。まぁはっきり言ってここの世界の皆さんは最強に相応しい人達だと思います。少なくとも私がこれまで旅してきた異世界ではここの一般男性に勝てそうな人は少なかったし、正直な話、ここの一般男性を送り込めば、その世界じゃ完全に無双状態ですしね」


 こいつ今さらっと自分が異世界に行けることを暴露したな。あの時にこの世界を捨てろとか言ってたのはなんだったんだ?

 それにしてもやはりここの連中は異常な強さを持っている様だ。これからそんな奴らを相手に戦うことを考えると、少しだけ手が震えてきた。


「まぁいい、他にも聞きたいことはあるが、やはり一番聞いておかなければならないことがある。……お前はなぜ俺をこの世界に連れてきた。そして何故こんなに俺に尽くそうとしている?」


 そう俺が聞くと、ニーヤは考える様な素振りを見せ、はっとした表情をし、そして笑顔で答えた。


「それはあなたが面白そうだったからです」

「……は、なんだその理由は」


 そして俺が唖然とした表情を浮かべるとそれを見たニーヤはこちらに指を向けて笑った。


「おい、もしかして俺をからかっているのか?」

「そんなわけないじゃないですか。私がこれまでゴーマ様をからかったことはありますか?」

「ありまくるわ!!逆に俺をからかわなかった日がないわ!!」

「そうでしたっけ?まぁ、最初はこんな事する気は無かったんですが、ゴーマ様と一緒にいるうちにゴーマ様がこっちの世界に来たらどうなるんだろうなぁと思い、つい連れてきてしまいました」


 ……これほどまでに女を殴りたいと思う事などそうそう無いだろう。だが例え殴っても効かないだろうし、そんなことをしても時間の無駄だ。……なんだか色々と考えていたが馬鹿らしくなってきた。もう今日は眠ろう。

 そう思い俺はニーヤを部屋から追い出すと、ベットの上に横向けに寝転がり、目をつぶって眠ろうとすると、ドアが開き、そして俺の肩を叩いてくる奴がいる。まあ、あのバカだろうが、あんなのにいちいち構っていると、ストレスが溜まるだけだ。そう思い、俺がしばらく無視していると、今度は俺の体を揺らしてくる。

 流石にイラついてきた。ただでさえイラついているのにふて寝まで邪魔されるともう限界だ。

 俺は力を溜めそして素早く振り向き、最大火力のビーム砲をそいつ目掛けてぶっ放した。

 もちろんこんな距離から撃たれた相手は避けきれず直撃し、煙が上がる。普段なら部屋ごとぶっ壊れるがこの世界では、やはり壊れていない。これによりさらに苛ついてきたが、兎も角さっさとこいつを部屋から追い出そうと煙がはれるのを待っていると、明らかにあいつよりも大きいシルエットが浮かび上がった。

 ……まずい。もしかしたら全然違う人だったのかもしれない。

 そして煙がはれるとそこにはニーヤとは似ても似つかない巨大な大男がたっていた。

 顔は笑っているが目が笑っていない。まずい、この男、明らかに俺より強い。目の前に立っているだけで伝わってくる圧倒的プレッシャー、俺の本能が逃げろと訴える。それほどまでに目の前の男が俺は怖かった。


「あ……あの…今のは、その違くて、えーと」


 男は何も答えずにまるで俺を試しているかの様にこっちをじっと見つめている。

 ……どうすればいいのだろうか。正直な話、今すぐにでもここから逃げ出したかった。

 だがまるでヘビに睨まれたカエルの様に俺はまるで動く事が出来なかった。

 そんな俺を見て男は失望したかの様にため息を吐き、黙って出て行ってしまった。

 そして俺はその男が目から離れるとようやく体を動かすことができるようになったが俺は膝から落ちてしまった。

 屈辱だ。この俺が初対面の男に威圧され、動くことすら出来ないなんてそんな事は許されない。だが体は男が去った今も震えは止まらない。

 その時、ドアが開いた。俺はまたあの男が来たのかと、身構えた。だが今回は本物のニーヤが来たようだ。


「情けないですね〜、ゴーマ様、いつもはあんなに威張ってるのに、あの人を前にしただけで震え上がっちゃって」

「……見ていたのか」

「ええ、最初から最後までずっと」


 こいつにまで見られるとは、だがいつもなら最悪な気分になるが、今はそんなことは頭に入らなかった。今、俺の頭にある事はあの男の事だけだ。


「……あの男はだれなんだ?」

「彼の名前はアレス、この世界でもかなりの実力を誇る戦士です」

「……何故あいつはここにいたんだ?」

「それは私が呼んだからです」


 な、こいつがあいつをよんだのか。だが今こいつを攻めたところで何も変わらない。なんにせよ俺があいつに恐怖したのは変わりない。


「……何故、お前は、あいつをよんだ?」

「勿論、ゴーマ様を紹介する為です。彼はとてもお強いですし、せっかくならゴーマ様を見てもらおうかと思いまして」

「……だが恐怖で動けない俺を見て呆れて帰ったというわけか」


 くそっ、俺は力のままに床を叩いた。悔しかった。俺はこの世界を舐めていた。俺ならばここの連中などすぐに抜ける。所詮は少し強いだけだと思っていた。だが実際は目の前の強者を前に俺は動く事すら出来なかったのだ。それにあの男は最後に俺に失望し、そして呆れていた。此処までプライドをズタズタにされるとは思いもしなかった。くそっ、くそっ、くそっ。


「……ま、まあ大丈夫ですよ。あのお方は本当に強いんです。この世界でも彼に震えるしとくらい山ほどいますし」


 まさかこいつにまでフォローされるなんて俺はもう駄目だ。……だがこのままで終わりたくない。少し前に誓った宣言はなんだったんだ。そうだ、俺にはまだやらなければならない事がある。

 そして俺は窓から外へ飛び降りると、周囲を見渡した。そして先ほどの男が歩いているのを俺は見た。

 そして俺はその男の元に走り、男へと叫んだ。


「おい、貴様、さっきはよくも俺を侮辱してくれたな‼︎」


 男は後ろを振り向き、先ほどと同じようにこちらを無言で見つめている。

 正直怖かったが、いまはそんな事などどうでもいい。


「いいか、よく聞け‼︎貴様など所詮はこの俺が最強になる為の踏み台でしかない。貴様如きがこの俺を侮辱するなーー‼︎」


 そして俺は一瞬で距離を詰め、男の顔面目掛けて渾身のストレートを打ち込んだ。

 すると、男は笑いながら後ろへと下がる。


「ハッハッハッ、先ほどはただの腑抜けだと思ったが、まさかいきなり顔を殴られるとは思わなかったぞ」

「ふん、俺が腑抜けだと、笑わせてくれるじゃないか。俺は最強になる男だ。よーく覚えておけ」


 やった。俺は壁を乗り越えたぞ。そうだ。俺は最強になる男だ。こんな所で挫けるわけにはいかない。


「よく聞け、アレス!!今はそうやって笑っていられるかもしれんが、俺は絶対に貴様を超えてみせる。その日を首をあらって待っていろ‼︎」

「……一応期待しといてやる。」


 アレスの表情は先ほどと違い、期待に溢れている目に変わっていた。待っていろ、必ず俺は貴様を超えてやる。

 そして俺は高笑いしながら、部屋に帰ろうとした。


「おい、どこへいくんだ?」

「なにっ、どこって部屋に決まっているだろう」


 なにを言っているんだ、と俺がそんな顔で答えるとアレスは笑いながら答えた。


「……貴様忘れたのか?俺の顔にグーパンを入れたのを」

「忘れる訳がないだろう。それがどうかし……っは⁉︎」

「ようやくわかったようだな、覚悟しろ」

「や、やめろ。折角いい感じで終わっているんだからもういいだろ」


 俺は一目散に逃げ出した。……があっさりと捕まってしまった。


「安心しろ、手加減はしてやる」

「ま、まて、話せば分かる。だからその手を引っ込めてくれ」

「ふっふっふっ、はっはっはっ、一発は一発だ。」


 そう言ってアレスは手を後ろに下げ、そして俺の顔面目掛けてグーパンを放った。そしてそれは勿論俺の顔面に直撃し、俺は空へと飛ばされた。


「結局こういうオチなのかーー‼︎」


 そしてその勢いのまま、俺は最初の森に飛ばされて、そのまま意識を失った。


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