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宣言

  2話


 爽やかな風が吹く、そして鳥は鳴き、その鳴き声が、今の俺を癒してくれる。そう、俺は今森の中にいる。俺は最近疲れていた。だから俺には癒しが必要なのだ。だから今はゆっくりと休もう。そう思い柔らかそうな草の上に寝転がり、空を見上げているとなにやら横から歩いてくる音がした。不審に思いそちらを見るとそこには子供のような身長をした腑抜けた面をした男が立っていた。

 男はなにをする訳でもなく、そこに立っている。さすがに不気味になってきた俺はその男に話しかけた。


「おい、貴様さっきから何をしている?」


 聞いても男はなにも答えない。だが口を開く代わりに手を俺の背後に指差した。

 なんだと思い振り向くとそこには一人男がいた。その男もまた先ほどの男のように動かない。

 ここまでされると流石に頭にくる。ともかく俺はそいつらをぶん殴り口を割らせようとしたその時だった。男が急に動き出し、俺の足を掴んだ。急に足を掴まれたせいで俺は倒れてしまった。するとそれを見た最初の男が俺の頭を掴んでくる。

 まったく身動きが取れなかった。ここまでされたなら手加減はいらないと俺はエネルギー弾を放った。だがその弾は男をすり抜け、後ろに木に当たった。

 そして俺は見た倒れた木の後ろに男がいるのを、いや違うよく見ると同じ顔をした男が何人もこっちに向かって歩いてくる。

 このままではまずい。だが俺の技は何故かこいつらに通用しない。


「や、やめろーー、俺に乗ってくるなーー‼︎」


 だがその叫びは通じず男はどんどん俺の身体に乗りかかってきた。そして俺は男の群れに潰され意識を失った。


 *****


 はっ、な、なんだ、俺は今男の群れに潰されたはずだぞ、

 ……まさか夢?この俺が殺される夢を見ただと、だが今も少し重いぞ、どういうことだ。そうして俺が近くを見渡すとそこにはこっちを指差して笑っている俺の部下がいた。

 何故笑っているかは知らないが、それより最初に言っておかなければならないことがある。


「おい‼︎貴様ーー‼︎こっちに来い‼︎」

「え〜、いやですよ〜、ゴーマ様今怒ってるし」

「当たり前だぁ‼︎貴様は自分がしたことをわかっているのか‼︎」

「なにって、異世界に飛ばしたことですか?だったら聞いたじゃないですか、全てを捨てる覚悟はありますかって」

「言葉がたりなすぎるわ‼︎せめて異世界に行くことくらいは言えよ‼︎」

「まぁまぁ、ようやく迫り来る勇者から解放されたんですから、そこはこの際気にしないようにしましょう」


 ほんとうにふざけたやつだ。俺は異世界に連れてこられたんだぞ。それをそんなに軽く済ませられるわけがない。だがそんな俺を目の前の部下はニヤニヤしながら観察している。


「ちっ、まぁいい、聞きたいことはやまほどあるが、少し確かめたいことがある。ここは本当に異世界なのか?」

「ええ、もちろんですよ。証拠はゴーマ様がすでに体感されていますしね〜」


 体感だと?俺が少し顔をしかめると部下は驚いたような顔をして、そしてまたすぐにニヤニヤ顔に戻り、俺に聞いてきた。


「先ほどから少し身体が重くないですか?それはここと向こうの重力が違うからなんです」

「なんだとっ、そんなはずはない、俺はすでに100万倍の重力を克服しているんだぞ‼︎それにならばなぜ貴様はそう平然としているんだ‼︎」

「そんなこと決まってるじゃないですか、私がゴーマ様より強いからですよ」


 笑顔でこいつはそう答えた。

 こいつとはそう長い付き合いではないが、こいつが大して強くないことを俺は知っている。


「う〜ん、納得してないみたいですね。あ、そうだ、じゃあ試しにそこの木を壊してくださいよ」


 ……どうやらこいつは俺を舐めているらしい。木を壊すことくらいなら王国にいたあの護衛達ですら倒せるだろう。だがこいつはまるで俺がこの木を壊せないような言い方をしやがった。確実に俺はこいつに舐められている。ここまでコケにされたのは久し振りだ。

 そして俺は木はおろか山をも壊すエネルギー弾を森に向けて放った。そしてエネルギー弾は森に当たり、そして爆発した。これでこの森は跡形もなく消えてなくなっただろう。そしてこいつも俺の恐怖を思い知ったはずだ。

 こうして俺は高笑いしながら、部下に向かって言った。


「おっと、つい必要以上にやってしまったなぁ。これでは森がなくなってしまったかもなぁ」


 俺は半笑いしながら、部下に言うと部下は手を森の方に向け、そしてこちらに笑顔を向けてきた。


「流石の威力ですね、ですがこの森を壊すには少したりなかったようですよ」


 強がっているのか笑いながらそんなことを言う部下に呆れながら俺は空を飛び森全体を見渡した。するとそこには信じられない光景が広がっていた。そう森は先ほどと変わった様子はなく、まるで俺の放ったエネルギー弾などなかったかのようにそこにあった。


「な、な、いっ、一体どういうことだ?」

「ね、だから言ったでしょう。少し足りなかったって」


 信じられなかった。いや信じられる方がおかしかった。そして俺はそんな事実をなかったことにする為、連続で先ほどより威力の高いエネルギー弾を放った。

 が、やはりそこにあったのは無傷の森であった。

 さっぱり意味がわからない。そんな俺を見てニヤニヤしている部下が言った。


「ね、だから言ったでしょう。ゴーマ様はこちらの世界では木すらも壊すことができないんですよ」

「一体どういうことだ、説明しろ‼︎俺は今、この森いや一つの都市が崩壊する威力で打ったんだぞ‼︎それが森どころか木の一本も壊れてないなんて」

「それはあちらの世界での話です。こっちではあんな威力じゃ傭兵の一人も倒せませんよ」


 意味が分からなかった。少なくとも俺はあっちでは世界いや宇宙一最強の男だったはずだ。それが木の一本はおろか、傭兵の一人も倒せないと言われる始末。だがあいつが笑っているということはほんとのことなのだろう。俺は絶望に包まれた。


「こ、この世界はいったいなんなんだ」

「なにって、ここは地球ですよ、あっちとは少し違いますが」

「少しどころではない。あちらでは宇宙すら破壊できた俺がこちらでは傭兵の一人も殺せないなんて」

「それがこちらの世界の普通なんですよ。こっちじゃゴーマ様位の強さじゃ一般男性にも勝てないかもしれませんし」



 屈辱だった。あっちじゃ最強を気取っていたが、いざ別の世界に行けば俺は猿山で威張っていただけに過ぎなかった。それではあまりにも哀れではないか。……そんなことは許せない。俺はこれまでの人生を強さだけを求めて生きてきた。ひたすらに鍛錬と戦いを続けてきた。そしてついに、俺は最強になったのだ。だがそれは所詮、小さな世界での出来事であり、俺の目の前にはふざけた態度をとる俺よりも何千倍も強い奴がいる。いやこんな奴よりも強い奴などこの世界には溢れているのだろう。

 ……確かに俺は一度は絶望した。目の前の現実から目を背けたいと思ってしまった。

 だが今の俺は違う。こんなことは初めてじゃない。これまでの人生において俺は多くの壁にぶち当たってきた。だがそんな壁など俺は全て乗り越えてきたのだ。

 そんな俺がこの程度の壁を乗り越えられず、いったい何を乗り越えられるというのだろうか。

 俺は決心した。この世界でも俺は最強になってみせる。


「流石はゴーマ様。もう立ち直ったんですね」

「ふん、俺を誰だと思っている。俺はありとあらゆる面に最強なんだ。もちろん精神面もな」

「私には情緒不安定にしか見えませんけどね」

「黙れ‼︎誰が情緒不安定だ‼︎……まあいい、それよりもだ、貴様には言っておかなければならないことがある」


 そう言って俺はそこら辺の出っ張った岩に片足を乗せ、片手を天高くあげ、高らかに宣言した。


「俺はこの世界でも最強になってみせる‼︎これは虚言ではない。絶対に実現してやる‼︎」


 宣言した俺を見ても、部下は驚いたような素振りは見せずに笑顔で答えた。


「ならばこのニーヤはあなたを全力でサポート致します」

「……あれ、お前ってそんな名前だったんだ」


 いまいち決まらなかったが、なにはともあれこれから俺の異世界物語は始まった。


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