ゴーマ
遅くなって申し訳ありませんでした。
俺はベットに寝転んで考えごとをしていた。
この世界に来てから結構経ったが、はっきり言って俺は全然強くなっていなかった。
もちろん多少は強くなっているが、まだ俺の周りの奴には到底かなわないし、それどころか、以前行ったあのコロシアムの最下層にすらかなわないだろう。
それに、脳裏に浮かぶのは、あの男、アレス。以前に奴と戦ったことがあるが、あの男には、いくら鍛えても勝てる気がしない。
「……いかんな、まさかこの俺が勝てないなんて思うとは」
今の、俺の思考は、はっきり言ってただの弱者の思考だ。こんなことでは勝てる奴にも勝てなくなってしまう。
俺はベッドから飛び起きると、外に飛び出した。
修行だ。今日もまた修行だ。いつかは奴を超えてやる。思いを胸に刻むと、いつもの場所に走った。
***
「はぁ、はぁ、駄目だ」
あれから何時間が経っただろうか。少なくとも5時間は経っていると思うが、あの思考が頭から離れない。
俺は勝てない。アレスには勝てない。
修行をすればするほど、離れると思っていたこの思考は、逆にどんどん俺の胸に鋭く突き刺さる。
俺は、頭を振って、思考を外に追い出す。
このままでは、駄目だ。駄目だと分かっているというのに、風呂場の汚れのように、思考は、俺の頭にへばりつく。
いま何をしても無意味だろう。いくら修行をしようと、こんな考えでは、何も生まれない。
俺はいったん修行をやめ、ズクの家にでも行くことにした。
奴の家はここからそう遠くはない。走ればすぐにでもつくだろう。
それにしても、この世界に来てから、奴とは随分、同じ時間を過ごしている気がする。
奴は俺のことをどう思っているのだろうか。
そんなくだらないことを考えていると、ズクの家が見えて来た。
俺は一切の遠慮もなく、ドアを開いた。
「ん?誰だ?なんだゴーマじゃないか。今日はどうしたんだ?」
ズクは椅子に座って、ラーメンをすすっていた。それにしても相変わらず汚い家だ。
「別に用はない。ただ暇だっただけだ」
「おぉ、お前も暇なのか。なら一緒に女の子捕まえにでも」
「そんな下品なことを俺がやると思うか?」
「んだよ、つれねぇなぁ」
ズクはふざけた顔で、悪態をついた。
「ならどこでもいいから遊び行こうぜ。あ、もちろんお前もちで」
「ふざけるな。行くのならお前もちだ」
「んな金ねぇよ。俺はいつだって金欠なんだぜ」
「……相変わらず、ふざけた奴だ」
おそらくこの男には、悩みなどないのだろう。例えあったとしてもくだらんことだ。
この男と話しているとなんだか自分がバカらしくなってきた。こんな奴が能天気に暮らしているのに、なぜ俺が悩まなければならないんだ。
なんだか腹がたってきた。
俺はズクの腕を掴む。
「なんだ、なんだ」
「飯でも食いに行くから付き合え」
「え?でもおれいまラーメン」
「奢ってやるから早くこい!!」
俺はやや強引にズクを連れて、近くの飯屋に駆け込んだ。
その飯屋は、少し混んでおり、相席を求められた。俺は軽く舌打ちをすると、その席に座っている男を睨む。……ん?
「あれ?ゴーマじゃないか、まさか相席がお前だとはな。そっちのやつはズクじゃないか?」
「おぉ、レールじゃねえか。今日はゴーマの奢りらしいぜ」
「おい!!奢るのはお前だけだ」
「騒いでないで、さっさと席に座れよ」
俺は舌打ちをすると、席に座る。それにしてもこんなところでレールに会うとは思わなんだ。
取り敢えず適当に注文を済ませる。ズクのやつが無駄に多く頼んでいたので、殴っておいた。その様子を見て、レールは苦笑いを浮かべる。
「相変わらずだな、お前たちは」
「……どういうことだ」
なんだか侮辱された気分になる。俺は運ばれてきた料理を食べながら、バツの悪い顔になる。
ズクは横で猿のように飯を食べている。相変わらず下品な食い方だ。
「っち、少しは行儀よくしたらどうだ」
「うめぇんだもん。しょうがねぇよ」
「まあまあ、いいじゃねぇか。それより修行の調子はどうだ、ゴーマ」
「……まぁ、順調だ」
「……そうかい」
最近は、レールと修行する回数が減ってきたな。
それにしてもあいつの顔、修行がうまくいっていないことを悟られてしまったかも知れない。
「店員さーん!おかわりくれー!」
「……ってな!?」
ズクはすでに料理を完食しており、つぎの料理を頼もうとしている。
「おい、やめろ。金がなくなるだろーが!」
「うるせーぞ、食べ放題だろーが」
「なわけねーだろがぁ!!」
「おいおい、静かにしろよ、追い出されちまうぞ」
どんどん騒がしくなる俺たちの間に、レールが入ってくる。
「っち、これ以上は頼むなよ」
「え〜、まあいいか」
「はぁ、今日は静かに一人で飲むつもりだったってのに」
レールは頭を抱えて、ため息を吐いた。
俺は追加で、料理と酒を頼んで、まず酒を飲んだ。
この世界の酒は前の世界で飲んだものよりもうまい。そのせいかどんどん酒がすすむ。
酒を飲んだせいだろうか。なんだか俺の中の闘志が盛り上がってきた。
俺は勢いよく椅子から立ち上がる。その様子にレールはビクリと驚いた。
「なんだぁ」
「フッフッフッ、よく聞け」
俺は天高く手をかざし、高らかに宣言した。
「俺は、アレスを倒す!!」
「はぁ?お前が?」
「やめとけって、俺でも倒せなかったんだぞ」
ズクとレールは、口を揃えて無理だと言う。
だが今の俺には、自信がある。今こそ奴に勝負を挑むべきだ。
俺は店員を呼んで、会計を頼んだ。レールとズクは不満そうだったが、んなことは知らん。
俺は二人を引き連れ、アレスの家に向かう。
アレスの家には、何度か足を運んだことがあるので、門番には顔パスで、通ることができる。
俺達はアレスの家の中に入り、アレスの部屋の前についた。
俺は遠慮なく扉を叩くと、ほどなくしてアレスが顔を出した。
「……何の用だ?」
「勝負だ!!アレス!!」
「ほぅ、俺とか、いいだろう」
アレスに二つ返事で許可をもらい、俺たちは外に出る。
「覚悟はいいか?この俺に倒される覚悟は」
「フッ、相変わらず威勢だけはいいな」
俺たちはお互いに構え、そして、二人同時に、地面を蹴った。
***
「まだまだだな」
「く、くそぉ」
俺は負けた。それもボロクソに。相変わらず俺は弱かった。
俺は今、空を見ている。仰向けに倒れているからだ。夜空は何もいってこない。
「おい、大丈夫か」
レールが話しかけてきた。俺は手を借りて、立ち上がる。ズクのやつはどこだ。
周りをキョロキョロと、見渡すと、ズクはすみのほうで、何かを食べていた。……相変わらずだな。
それにしても体がボロボロだ。アレスの奴め、やりすぎだ。俺はため息をついた。
「相変わらずボロクソにやられましたねぇ」
「……見てやがったのか、ニーヤ」
目の前には、いつの間にかニーヤが立っていた。ニーヤは俺に手をかざし、治療をやり始める。みるみる俺の体の傷が治っていく。
ほんと大したやつだ。
それにしてもなんと言うか賑やかになったものだ。この世界に来てから俺は、様々な奴に出会った。俺を直してくれる奴がいる、俺を心配してくれる奴がいる、一緒にバカをやる奴がいる。以前の俺には考えられないことだ。
俺の口は自然と、ニヤけていた。それを見た、ニーヤは怪訝な表情を浮かべる。
「どうしたんですか?気持ち悪いですよ」
「黙れ、治療に集中しろ」
「もう終わりましたよ」
気がつけば、俺の体は完全に、元に戻っていた。
「まったく、世話のやける人ですね」
「うるさい」
「それにしてもまた勝てませんでしたね」
「無理もねぇよ。あいつは俺でも敵わなかったんだぜ」
いつの間にか、ズクが近くに来ていた。
「あいつは顔もおっかねえし、お前じゃ勝てねぇよ。あいつと戦うなんて時間の無駄だぜ」
「……確かにそうかもしれんな」
「ん?諦めちまうのか?」
レールが俺に、訪ねて来た。その言葉に俺は笑いをこぼしてしまった。
「フッ、いいか、よく聞きやがれ。俺の名前はゴーマ、この世界において最強になる男。
あの程度の障害など俺には壁にならん。まだまだ鍛えて、奴など簡単に超えてやるわ!!」
「それでこそ、ゴーマ様です!!」
俺は高笑いをあげ、ニーヤは俺に拍手を送った。レールは少し、困ったような顔をしていたが、関係ない。俺は最強だ。世界でいや、宇宙で、ありとあらゆる生物の頂点だ。
何を悩んでいたんだ。そうだ、俺は無敵だ。どんな敵が来ても負けん。あの程度の壁など軽く超えてみせよう。ここからが俺の伝説の幕開けなのだ。
「ハァッハッハッハッハッ」