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七章7:上陸! アルデヒト大陸!


 沢山の砲声がアルデヒト大陸を覆う曇空へ響き渡った。

 元砲魔獣軍団の副将のガルーダを中心とした、

俺の従えたヴァイツェン航空兵団が、

大陸への西海岸へ向けて爆撃を開始する。


【ヌーン!】


 姿は見えないけど、

元副将クラーケンの甲高い唸り声が聞こえた。

 そしてこれが陽動隊のみんなと決めた、

突入の合図だった。


「みんな、行くよ!」

「「「「「「かしこまりました、マスター!」」」」」


一緒に蒼いゴムボート:ガロインマーク弐に乗った獣神達みんなから、

頼もしい返事が返ってくる。


気合転身オーラチェンジ!」

着鋼ちゃっこう!」

結晶装着クリスタルメイル!」

電磁装着キャストオン!」

「シューティング・フォーメンション!」

獣神化レベルアップ!」


 獣神達は咆哮こえを上げて、

それぞれの武装を完了させる。


「ガロインマークツー発進!」

「ジェット・タイ・フーン!」


 俺の声に呼応して、

ランビックが手を薙いで、風を発生させる。

 さっきまでただ波に揺られているだけだった、ゴムボートが

まるで動力を持ったみたいにまっすぐと全身を始めた。

 船頭はピルス、操舵はボックさんが担当して、

アルト・エール・スーが周囲を警戒する。 


「にゅ! 上!」


 前進するガロインの上で、スーが指さす。

 上空を警戒していた鳥型の魔獣ヴァイツェン航空兵団が、

俺たちに気づいて急降下を始めていた。


「スー、マスターを頼むぞ! 行くぜ、アルト!」

「はいッ!」


 エールはそう声を張って、アルトと共にガロインから飛び上がった。

 高度は丁度航空兵団の真下。

 そこで二人が何もない空の上を踏む。

 すると、足がまるで地面に着いたみたいにピタッと安定感を得た。


「おりゃっ!」


 空中でエールはしっかりと足を踏みしめて、

バスターソードを薙ぐ。

 巨大な刀身から発生した鋭い稲妻は、

一瞬で航空兵団を飲み込んで、蒸発させる。

 だけど爆炎の向こうから、

撃ち漏らした航空兵団が迫る。


炎龍脚ドラゴンキック!」


 アルトは宙を蹴って飛び上がり、

足を接近する航空兵団へ向けた。

 アルトの体が真っ赤な炎に包まれる。

 まさに炎の矢になったアルトは鋭く航空兵団を過り、

燃やし尽くした。

 だけど、航空兵団は次々と空の向こうから、

こっちへ向けて飛来してくる。

 エールとアルトは繰り返し、空中で迎撃を続けているけど、

間に合わない。

 上空の航空兵団から、

ボートへ向けて爆弾が投下される。


「ボック、舵そのまま! ラン、速度上げて!」


 ピルスの指示に従って、

ゴムボートがランビックの風を受けて、

更に加速する。

 ボックさんの正確な操舵は、水面に綺麗な軌跡を描きながら、

航空兵団の爆弾を確実に回避してゆく。

 

 だけど航空兵団てきは果敢にも、

俺たちの攻撃と回避の間を縫って、

鋭い嘴をこっちへ向けて接近してきていた。

 いよいよ、俺の周りにいる獣神達みんなだけじゃ、

対処仕切れなくなる。


『航空兵団接近! 少年、スーよ、今だ!』


 レーダーみたいにずっと航空兵団の様子を、

伺っていたブレスさんが叫んだ。


「行くよ、スー!」

「はい!」


 俺とスーは二人で背中をぴったりとくっつけ合って、

同時に杖を召喚した。


「「ナイトオブファイヤーッ!」」


 声を重なて呪文を唱えれば、

杖の先端から紫の炎が勢いよく噴き出す。

 炎はまるで生き物みたいに蠢いて、

ゴムボートへ接近してきている、

航空兵団を次々と、確実に撃ち落としてゆく。


 航空兵団の攻撃は確かに凄まじいし、勢いもある。


――だけど、俺たちの敵じゃない!


 空中でのアルトとエールの迎撃、

ピルスの的確な指示、

ボックさんの確実な操舵、

ランビックが発生させる凄まじい速度、

ブレスさんの索敵、

そして最後の砦として機能するスーと俺。


 まるで俺たちは一つの心と魂みたいに、互いに補い合いながら、

青いゴムボート:ガロインを確実に進ませる。

 さっきまでは凄く遠くに見えていた、茶褐色のアルデヒトの

海岸がグングン迫って来ている。


――このまま進めば!


『むっ! 海中から何かが接近してきている! 皆、注意するのだ!』

 ブレスさんがそう声を上げた瞬間、ゴムボートの前方に

大きな水柱が、幾つも上がった。


【ギネェースッ!】


 海の中から、長いライフル銃みたいな武器を持った、

沢山のスライム型魔獣ギネース兵が姿を現した。


「ボック、右! ああ、いや! 左に! ああ!」


いきなり目の前に現れたギネース兵にピルスは大慌て。


「ピルスしっかりしてください!」


ボックさんが激を飛ばして、


「速度はどうするのよ!?」


ランビックも声を上げる。


俺とスーは杖をギネース兵へ突き付けようとするけど、

敵は既にたくさんの銃口をこっちへ向けて、

今まさに引き金を引こうとしていた。


「うおぉぉぉりゃぁぁぁッ!」


 すると上空か勢いの良い声と一緒に、

金色の閃光を纏ったエールが割って入ってきた。

 彼女は一瞬、俺とスーの方を見ると、笑みを浮かべる。

そしてすぐに表情を引き締めて、ギネース兵へ向き直った。


「ブライトサンダー!」


 水面の上へ立ったエールは、

叫びと一緒にバスターソードを叩きつけた。

 水面から地面の時と同じように、

金色の衝撃波が噴き出して、


「クラッシュッ!」


 バスターソードに撃ちだされた金色の輝きは、水面を割って、

こっちへ銃口を向けているギネース兵をたった一撃で蒸発させた。

でも、それでも居なくなったのは一部でしかない。

 進行方向の水面には次々とギネース兵が姿を現している。


「あたしが先端を開く! みんなはそのまま! スーはちゃんとマスターを守るんだぜ!」

「わかった! 守る!」


 エールとスーはお互いに笑みを送り合った。

エールへ見るからに気力が漲る。


「オラオラ―! 雷鳴の獣神のお通りだぁ! 道を開けやがれぇ! 開けなきゃただじゃすまねぇぞぉっ!」


 エールはバスターソードを構えて、水面を蹴って、前進を始めた。


「はいぃっ! やぁっ!」


 空中でアルトは相変わらず地上と変わらないステップを踏んで、

次々と航空兵団を撃ち落としている。


 陣形は既に完ぺきに形作られていた。


目の前へどんなにギネース兵が現れようと、

空中からどんどん航空兵団が攻めて来ようとも、

俺たちを乗せたガロインマーク弐の進行は止まらない。


「ラン! 一気に!」


 アルデヒトの海岸まであと少しの所で、

船頭のピルスが叫んだ。


「分かったわ! ボック、舵を上げて!」

「ええ!」


 ランビックの声を受けて、

ボックさんが舵を水面から離した。

 目の前には、エールに撃退されて、殆どギネース兵の姿は無い。


「行くわよ! それっ!」


 ランビックが手を思いっ切り凪いだ。

 途端、ボートの後ろに凄まじい風が巻き起こる。

 風はゴムボートの船尾を浮かせて、底面へ風を滑り込ませる。

 ボートがフワッと浮き始めて、俺の体勢が崩れた。


「うわっ!?」

「にゅっ!」」


 間一髪、ボートの上から転げ落ちそうになった俺を

スーが支えてくれた。


『皆! 対ショック体勢! ボートへしっかりと掴まるのだ!』


 ブレスさんの声を聴いて、ボートの上にいるみんなは

一斉に姿勢を低くして、淵のロープに掴まる。


「ま、マジぃ!?」


 思わず俺は叫ぶ。

 なんでかって、水の上を進んでいた大きな青いゴムボートが

突然まるで紙飛行機みたいに風に乗って、

空を飛び始めたからだ。

 空へ浮かんだ途端、物凄い風が、

俺を吹き飛ばそうと吹き込んでくる。


「知人くん! 守るッ!」


 スーが、ビビっている俺に覆いかぶさってきた。

 彼女から微弱な摩力が流れ込んできて、

グラグラ揺れてた俺の体勢を落ち着ける。


 俺は唖然と空飛ぶボートをみつめるギネース兵を目下に収めて、

同じく飛んでいたヴァイツェン航空兵団の間を縫って、

俺たちを乗せたゴムボートは勢いよく空を滑空する。


 未だ遠くに見えたアルデヒトの岩ばかりの海岸がすぐに

ボートの下に広がって、そのままどんどん先へ進んでゆく。

減速を始めたころには、下に見えるのは深く険しい森だけになっていた。


「ここは私が! それっ!」


 空飛ぶボートの上で、ボックさんが再び操舵を開始する。

 ボックさんの動きに合わせて、左右に振れる舵は

まっすぐ飛んでいたボートを蛇行させた。

 蛇行する度にボートは減速して、木々の間をすり抜ける。

 ボックさんの操舵で、まるで木の葉のようにハラハラと舞っていた

ボートはやがて、静かに深いアルデヒトの森の中へ着陸するのだった。


「たっはー……まじ怖かった……!」


 思わず正直な感想が漏れた。

 下手な絶叫マシーンよりはるかに怖かった。

 それにちょっと酔っちゃったのか、少し気持ち悪い。


「知人くん、大丈夫?」

「あ、うん、たぶん……おえっ……」

『情けない……。最終決戦なのだぞ? これぐらいでへこたれてどうするのかね?』


 ブレスさんの辛辣な声が聞こえた。


「だって、生理現象ですもん。勘弁してください……」

「皆さん、お疲れ様でした!」


 空からアルトが降り立ってきた。

 だけど上陸したっていうのに、どこか表情が硬いように見える。


「よっと」


 続いてバスターソードを肩に抱えたエールが着地してくる。

 やっぱり表情は硬い。

 それは俺の周りにいる獣神達みんなも一緒だった。


「なぁ、ボック、どう思うよ?」


 エールが険しい表情のボックさんへ聞く。


「おかしいですね。陽動をして貰っているにしても、どうも警戒が薄すぎて気味が悪いです」


 ボックさんが目配せをすると、

獣神達は小さく首を縦に振った。


「とりあえず進みましょ。ここにいても埒が明かないし、もうここまで来たら前進すべきよね?」


 ランビックの言葉に誰も異を唱えなかった。

 獣神達の視線が一気に俺へ集まる。


――ランのいう通りだ。ここにいても仕方がない。


「行こう!」


 俺の一声で、獣神達は一斉に動き出す。

 彼女たちは俺を取り囲み、そして深い森の中へ歩を進ませ始めた。


 アルデヒトの森を進むと違和感を覚える俺がいた。

森は陽の光を浴びて、青々とした輝きを放っている。

 空気も澄んでいる。

 見た目は以前、グリーンレオことボックさんが司る、緑の国ラガ―の

森と大して変わらない。

 だけど俺の胸の中には、もやもやとした気持ち悪さが漂っていた。


――生き物の気配が全くない。そして静かすぎる……


 ただ俺たちが踏みしめる、土の音が響くだけ。

 周りの獣神達も顔に緊張感を漂わせながら、歩き続ける。

 やがて森が終わって、視界が開けた。


「町、だよね、ここ……?」


 目下に見えた光景に、思わずつぶやく。

 森の中を切り開かれて、たくさんの石造りの家々が立ち並ぶ町。

 だけど町の真ん中を通る大きな道には人通りは全くない。

 それどころか、森の中と同じように、人や生き物の気配を全く感じさせなかった。

 

――なんだかここを通るのが嫌だ……


 そう思った俺はテイマーブレスを掲げる。


「ブレスさん、迂回できませんかね?」

『やはり少年も感じたか?』

「ブレスさんもですか?」

『ああ。おそらく獣神達みなもだろう。だがな……」


 いつもは流暢りゅうちょうなブレスさんが、

珍しく言い淀んでいた。


「チートさん、ここを迂回するとなるとかなりの遠回りになります。今でこそ、陽動隊は持ちこたえていますが、時間に比例して被害が拡大するのは必至です。もしもチートさんが、被害の拡大を覚悟しているのでしたら話は別ですが……」


 ボックさんの進言を聞いて、胸が痛む。


――迂回すれば陽動隊の被害が拡大する。それだけは嫌だ。


 ぼんやりと前の世界では「大を成すためには小を切り捨てる」と

云われていたような気がする。

 甘いかもしれない。

 だけど俺には何もかもが「大」で「小」なんて一つもない。

 覚悟は決まった。


「行こう、みんな!」


 俺の宣言に獣神達みんなは強く頷きを返して来てくれる。

 俺たちは街へ続く断崖を下り始め、生気が感じられない街へ一歩踏み込んだ。


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