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七章1:恐怖の軍団 ~エヌ帝国の光景~ 最後の将軍


 砲火で焼けただれた大地が広がり、

そこへ空っ風が鋭く吹き込む。

 ビアル表世界の中心に存在する、

かつては最も巨大で、

最も栄えていたアルデヒト大陸。

 しかし今のそこにはかつての栄華など、微塵も感じさせない、

荒野が広がっているだけ。

 その荒野にエヌ帝国の魔獣大将軍となったサルスキーは

一人佇み、思考に更けていた。


――既に表世界の半分は帝国のものとなった。いずれ、連中はここへ最後の戦いを仕掛けに来る筈。


 現在の帝国支配域に必要な兵力と、防衛に必要な兵力の割り出しを

サルスキーは頭の中で行う。


「ッ!?」


 突然、彼の胸へ嫌な予感が過った。

 刹那、背後に部下の気配が現れる。


「キングギネースか……」


 サルスキーはゆっくりと振替り、背後で傅く副官を見やる。

 身体の構成は他のギネース兵と同じく、

液体とそれを支えるコアで出ている。

 しかしキングギネースには足があって、

なによりも拳士に必要な立派な肉体が備わっていた。

 鎧も通常のギネース兵とは違って、装飾が施され、

何よりも堅硬なもの。

 当に兵の将である。


「何用だ?」

「ははっ……それがその……」

「早く申せ。俺は忙しい」

「申し訳ございません……その……大魔獣キジンガ―様が敗れました」


 多少は覚悟をしていた。

 今までの戦いを思い出せば、

そうした可能性が以前よりも増していると理解していた。

 だから心の準備はしたつもりでいた。

 だが、こうしてその可能性が突きつけられると、

否が応でも、サルスキーの胸の内へ苦しさが満ち溢れる。


「そうか……報告ご苦労」


 しかしサルスキーは胸の内を明かさず、

極めて冷静に、平生を装う。

 それが今の彼の立場だと思っているからだった。


――俺は魔獣大将軍サルスキー。俺の動揺は兵の士気の低下に繋がる。


「更に五獣神に加えて、新たに六体目の、深淵の獣神ダークロンなるものが新生したと報告がありました」

「ダークロンのスタウト?」

「ハッ。チート一味に同行していた黒龍の娘が、獣神になったようです」

「……」


 魔獣将を二人も倒し、更に新たな獣神を得たともなれば、

きっと表世界の連中は、予感通りに最後の地、ここアルデヒト大陸に

攻め入ってくるはず。

 サルスキーはそう頭の中で計算し、


「キングギネース、至急シュガー・ドラフトへ駐留させている兵の集結させよ。割合は貴様に任せる。近い将来、この地は我が帝国と表世界との主戦場となる。心して戦支度を整えよ!」

「かしこまりました。至急、手配へ移ります!」


 キングギネースは液状化して、

地面へしみこんで姿を消す。


――既に決戦の狼煙は上がっている。


 サルスキーはそう判断し、

覚悟を決めた。


――残った魔獣将は俺一人。帝国の命運は俺の働きに掛かっている。


 身体が震えた。

 決戦へ赴き、命を懸けることへの恐れでは無い。

 それは闘いへの疼き。

 このときばかりの彼は、魔獣大将軍という大局的に物事を判断する

存在ではなかった。

 闘いを求め、その拳に命を懸ける。

 目の前の敵へ、その魂を燃え上がらせて、ただ純粋に己の拳で運命を

切り開く一人の拳士。

 魂が闘いを渇望し、その疼きが体の震えとなって現れていた。


【サルスキーよ】


 彼の周囲に主君の声が響く。

 アルデヒト大陸の蒼天が一瞬で黒雲に覆われた。

 稲光が至る所に沸き強い風が吹きすさぶ。

そして、黒雲の中へ、背後に五つの首を持つ、黒い竜の瘴気を

背負ったサルスキーの創造主であり主君の大魔獣神の姿が浮かんだ。


「大魔獣神様!」


 敬意を表すためにサルスキーは不毛の大地へ膝を付き、

浮かび上がった巨大な大魔獣神の幻影へ傅いた。


【いよいよ表世界の連中と雌雄を決する時が来た……】


大魔獣神のあらゆる感情が込められた声を聴いて、

サルスキーはより居住まいを正す。


「仰せの通りでございます。そのために先ごろ、キングギネースへ決戦に向けての指示をいたしました。ご安心ください」

【うむ。魔獣大将軍サルスキーよ、貴様は我が帝国の最期の要。その命に代えても表世界の軍勢を退け、大獣神を亡き者にせよ。その手段はわかっておろうな?】

「はっ! 今や大獣神はチートなる人間の制御下にあります。よって、第一目標は奴の抹殺。しかし不可能な場合は、獣神一体へ狙いを絞り抹殺することを第二目標といたします」


 サルスキーがそう淀みなく答えると、

大魔獣神の幻影は満足そうに頷いた。


【肝に銘じよ。獣神を一体でも抹殺すれば、その時点で奴らは大獣神になれん。ただの獣神ごときで我を滅ぼすことは不可能。サルスキーよ、貴様は己の命に代えても必ずやいずれかの目標を達成するのだ!】

「承知いたしました!」

【吉報を期待しておるぞ、魔獣大将軍サルスキーよ。フフフ……フハハハッ!】


 荘厳に聞こえる高笑いと共に大魔獣神の幻影が目の前から消える。

 アルデヒト大陸には再び荒野の静けさが戻った。

 サルスキーは胸の内を使命で燃え上らせる。


――キジンガ―殿、イヌ―ギン殿。お二人ことは忘れん。俺は、俺の使命を全うするためにこの命を燃やし尽くす。


「英霊となられたキジンガ―殿、イヌ―ギン殿! 見ていて下され! 俺はこの拳でことを成し遂げてご覧にいれる!」


 サルスキーはそう決意を改めて立ち上がると、

アルデヒト大陸の荒野へ一人歩き始めたのだった。


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