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六章9:誕生! 深淵の獣神ダークロンのスタウト!(*新獣神参考画有り)


「ブレスさん、こんなことってビアルには良くあることなんですか……?」


 俺は足元にずっと見えていた像にただ言葉を失っていた。


『いや、わたしの知る限り存在はしない。だが、大獣神と大魔獣神はこの世界を表裏から創造した壮大な力を持つ存在だ。そのぶつかり合いから生じる計測不能な力は、こうした事象を引き起こす可能性は十分に考えられるな』

「そうですか……」

『どうかしたのかね?』

「いえ……あれ?」


 知らないうちに涙がこぼれ出ていた。

頬を伝って落ちてゆくそれは、胸へ切なさを去来させる。

 苦しいような、嬉しいような気持ちで胸がいっぱいになる。


 その一端は前の世界の両親の姿を見たからだった。

 転生の影響で記憶はぼんやりとしている。

 だけど、両親には随分と酷いことをしていたように思う。


 焦燥感から怒鳴って、

無視して、

煩いと思って、

失礼な態度をとって……でもそれって甘えだったんだと思った。


 親だから云えたんだと思った。

親だから受け止めてくれると思って、自分の黒い部分を

遠慮なくぶちまけていた。

だけど、親はそれを受け止めてくれていたんだと思う。


 何よりも俺が死んだことを、

あそこまで悲しんでくれていただなんて、

思ってもみなかった。


 死ぬことに対して、

親のことなんて微塵も考えていなかった。

 二人おやがここまで悲しむだなんて想像もしてなかった。

だからこそ、俺が今ここにいるのが申し訳なくて仕方がない。

でも俺はもう転生した身で、もうどうすることもできない。


――できれば親に謝りたい。ずっと失礼なことをしててごめん。悲しませてごめんって……


【死ぬ、の、嫌……】


 か細い声が聞こえて顔を上げる。

 目の前には何も着ないでうずくっているスーの姿が浮かび上がった。


――もう親に謝れない。だけど……


 俺はスーへ向けて一歩を踏み出した。

 スーは俺の両親が、

俺の代わりに最後まで大切にした命だ。


――取り戻したい。


 スーは俺のことを想って、

今こうして目の前に存在してくれている。

それがありがたくて、嬉しくてたまらない。


――傍にいて欲しい。


 スーはずっと俺のことを想ってくれていた。

 その強い彼女の想いに俺も答えたい。

 だけどスーまであと少しってところで、

蹲っていた彼女が視線を上げる。


【死な、ない!】


 スーは俺へ明らかな敵意の視線を俺へ向ける。

彼女は立ち上がり、手へいつもの杖を召喚した。


【わた、し、は死な、ない! これ、から、もマス、ターと、知人くんと、一緒、に生きるッ!】


 危険を感じて横へ飛び退く。

 スーの杖から放たれた紫の炎が、

さっきまで立っていた場所へ放たれていた。


【わた、し、は死な、ない! 邪魔、する、奴、消え、るッ!】


 スーはそう繰り返し叫びながら杖から炎を放ち続ける。


『少年よ! 今のスーは恐らくキジンガ―によって君を敵と認識させられている! 近づくのは危険だ!』


 ブレスさんの叫びが聞こえる。

 いつもは納得しているけど――今は否だった。


――避けているばっかじゃだめだ。


 先に進まなきゃ意味がない。

 俺は足を一歩前へ踏み出す。


【来な、い!】


 スーはそう叫んで炎を放つ。


「いや! 行くッ!」


 叫び返すと、スーの体がビクンと震えて、

俺へ定まっていた杖の狙いが逸れた。

 そうして俺は更にもう一歩を踏み出す。


『少年よ! 危険だ! 下が……』

「少し黙っててください!」


 俺はブレスさんの言葉を遮って、一歩を踏み出す。

 その度にスーは炎を撃って、近づけないようにする。


――負けない!


 爆風で何度か吹き飛ばされた。

 盛大な爆発音に怯むこともあった。

 スーの鋭い眼差しに怯えたこともあった。

 だけど、それでも俺は歩き続ける。

 強い想いに突き動かされながら。


――スーを取り戻したい!


 その一心で、ただひたすら、

まっすぐ、彼女を目指して。

 

【わた、し、は!】

「うわあぁぁぁ!」


 スーが杖を上げて、

俺は彼女を目指して一気に駆け抜けてゆく。

 そして俺はスーの小さな体をそっと抱きしめた。

 途端、スーの体から強張りが抜けてゆくのが分かる。


【マス、ター……?】


 いつもの、少し舌っ足らずで、

でも丸いスーの声が聞こえる。

 

「良く頑張ったね、スー。本当に良く……」


 くしゃりとスーの髪を撫でる。

 彼女の手から杖がするりと落ちた。

 俺の中で想いが一気に破裂する。


「スー。君が一緒にいてくれたおかげで俺はここまで来れたよ。本当に、本当に感謝している! そしてこれからもずっと……ずっとずっとずっと一緒に居たいから! 絶対に離さないから! だって俺は、朝日知人はスーのことが大好きなんだから!」


 力の限り、元気よく叫んだ俺の言葉は、

闇に溶けてゆく。

 すると胸の中のスーの体温が少し

上がったような気がした。

 ゆっくりと、小さくて、

細いスーの腕が俺の胴へ回って、そして、


「わた、しも……ずっと、ずっと、マス、ターと……知人くん、と一緒、居たい……」


 スーは真っ赤だけで、嬉しそうな顔を上げてくれた。


「お帰り、スー。二度目の再会だね?」

「は、い! ただ、今!」


 はにかむスーを見て嬉しい気持ちで一杯になる。


「初め、て、会った時、分かっ、た。知人くん、が、居た。会え、って……

「ごめん、ずっと気づけなくて……」


 スーは首を横に振った。


「会えた、から! だか、ら、それ、で良い!」

「ありがとう、スー!」


 俺とスーはお互いに強く抱きしめ合って、

お互いの熱を感じ合う。


――もう絶対に離さない。何があっても、どんなことが起こってももう!


「にゅ?」


 その時、スーの胸の辺りから紫の輝きが迸った。

 いつもの黒龍に変身するときのものとはまた違った、

眩しくて、温かくて、神々しい輝き。


『おお! これは!! 良し! 接続をするぞ!』


 ブレスさんの声が聞こえた。


「接続?」

『そうだ! 論より証拠! まずはスーへ再びエクステイマーを施すのだ!』

「えっ? どうして?」


 急すぎて訳が分かんない。


「知人、くん……」


 だけど当のスーはやる気満々みたいで、

小さな唇をそっと俺へ向けていた。

 ほかの獣神達みんなとは違って、

まだ小さくて、花の蕾みたいなスーの唇。

そこを蹂躙しちゃうのは、少し罪悪感というか、

しちゃいけないことのような気がする。

 だけど、肝心なスーオッケーしてるし、

俺自身も実はそうしたいと思ってる。


「じゃあ、行くよ?」


 スーへささやきかける。

 彼女は目を閉じたまま、コクンと小さく頷いた。

 胸のドキドキを堪えつつ、俺はスーの唇に触れた。

今までに感じたことのない柔らかさと、

気持ち良さに身体が震える。

俺の中で何かが弾けた。


「にゅ、に、にゅぁ! ……むふ……はむぅ……むちゅ……んっ!」


 スーは俺の舌を簡単に受け入れて、

更に深く絡みついてくれた。

 俺は夢中でスーを愛撫し、

彼女もそれに応えてくれる。

 絡み合う俺とスーの舌は、お互いを求めあって、

強く、激しく、お互いの唾液を交換し合う。


 次第に俺たちは熱を持って、更に深く混ざり合う。

最初は仄かだった熱が、

やがて火傷をしそうに感じるほどに高まって、

俺の胸の内を焦がしていった。


「にゅはー……」


 どちらからともなく、俺たちは唇を離した。

 深く混ざり合った証として俺とスーの間には、

想いを繋げた証拠として煌めく銀糸が繋がれていた。

瞬間、スーの胸から更に紫の輝きが噴出する。


『相互接続確認! 素晴らしい! これは素晴らしいことだぞ少年!』


 妙にブレスさんが興奮している。


『ここに新たな獣神が誕生した!』

「えっ!?」

『表世界と裏世界の力を持ち、少年が新たに生み出した獣神! スーよ! 

これから君は【深淵の獣神ダークロンのスタウト】と名乗るが良い!』

「にゅーッ!」


 スーはぴょんと飛んで、俺から離れる。

 刹那、彼女の胸から噴き出ていた紫の光が荘厳な輝きを放った。

 ずっと何も着ていなかったスーへ、

紫の光が炎となって、彼女を包み込む。

 そして、



挿絵(By みてみん)



「わたし、深淵の獣神! ダークロンの、スタウト!」

『ちなみに【ロン】は【龍】の字を当てるのだぞ! HAHAHA!』

「知人くん!」


 ダークロンのスタウトとなったスーは、

はまた俺の胸へ飛び込んできた。


「好き、です! わたし、知人くんの、こと!」

「俺もだよ! スー!」 

「にゅー!」

「そう云えば、どもり、少し治ったね?」

「はい! マスターの、知人くんの、お蔭、です!」


 まだ少し言葉遣いはたどたどしいけど、

でもそれも彼女の良いところ。

 俺とスーはお互いに抱きしめ合って、

熱を確認し合う。


――これならいける!


 そう俺は確信した。


「スー! いや、スタウト! 行くよ!」

「はい!」


 スーの掲げた立派な杖から、紫の輝きが迸る。


「崩れる! わたしの、闇! そして、光、照らせッ!」


 スーが高らかに咆哮こえを上げた。

 俺たちの周りを囲んでいた闇に罅が入る。

 周囲の暗黒は、まるでガラスのように砕け散って、

そして俺たちは元の場所へ戻った。



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