五章10:ビアルを守る守護の咆哮! 我ら大獣神の子、五獣神!
『おお! これは!』
右腕のテイマーブレスから、
赤、青、緑、黄、桃の輝きがあふれ出て、
イヌ―ギンへ踵を返した獣神達へ降り注ぐ。
そして彼女たちへ、
【法衣みたいな揃った上着】、
【スカート】
が装着された。
最後に、胸の真ん中へ、
【獣神達の属性を表す大きな花】が、
大きく花開く。
その姿はどこか神々しくて、艶やかで、
そして綺麗だった。
『少年よ、おめでとう! 君のお陰でビアル表世界を守護する全ての獣神がここに復活を遂げた!』
「これが、みんなの本当の姿……」
神々しい獣神達の様子に俺は見入ってしまう。
横隊にそろい踏みした獣神達。
真ん中にいるアルトが、左右へ強い頷きを送る。
すると、右のエールとボックさん、
そして左のピルスとランビックが大きく頭を振って応答した。
「いくよ! みんな!」
「「「「おうっ!!」」」」
強い獣神達の声が戦場の開幕を告げた。
真ん中の強く地面を踏みしていたアルトは体の緊張を解く。
「レッドドラゴン! 灼熱の獣神――アルトッ!」
そして棒を鮮やかに振り回して、腰を沈めた。
「グリーンレオ! 大地の獣神――ボックッ!」
ボックさんは鋭く拳を突き出し、構えを取った。
「ブルーマーメイド! 大海の獣神――ピルスッ!」
ピルスは回し蹴りのような動作をして、力強く地面を踏む。
「ブライトケイロン! 雷鳴の獣神――エールッ!」
エールはバスターソードを呼び出して、軽々を振り回して
切っ先を正面へ向けた。
「ローズフェニックス! 疾風の獣神――ランビックッ!」
ランビックは緩やかに、踊るように舞い、そして肘を突き出す。
荒れ果てた地獄谷に獣神達の勇ましい声が響き渡る。
正面のイヌ―ギンはその圧倒的な声量に気圧された、
たじろいでいた。
「ビアルに轟く守護の咆哮! 我らッ!」
アルトの叫びを合図に、みんなが一斉に大きく足を振り上げ、
大地を強く踏みしめた。
「「「「「大獣神の子! 五獣神ッ!」」」」」
五獣神の咆哮を聞いて、自然と鳥肌が立った。
恐怖じゃない。
それは雄々しさを耳にして、勇敢さを肌で感じた証拠。
彼女たち五人の背中は逞しく、そして神々しくみえた。
「ええい! 小癪な! 沸け、ギネース兵!」
目の前のイヌ―ギンは、声を荒立てて、十字剣を掲げる。
それを合図に地獄谷の荒野にネバついた水が浮かび上がり、
エヌ帝国の雑兵:ギネース兵が姿を現す。
次々とギネース兵は沸いては出て、地獄谷はあっという間に、
ギネース兵で埋め尽くされた。
「マスター! ご指示をッ!」
アルトが叫び、みんなの視線が俺へ向かってくる。
俺もまたみんなのように地面を踏みしめた。
「みんな! ギネース兵とイヌ―ギンを倒して、ビアルを守るんだッ!」
『Go Fight! Five beast God!』
ちゃっかり美味しいところを持ってくブレスさん。
「「「「「かしこまりました! マスターッ!」」」」」
五獣神は俺の指示―― 一応ブレスさんのも――を受けて、
力強く地面を蹴って飛んだ。
「オラオラ! 雷鳴の獣神様のお通りだぁ!」
エールはバスターソードを軽々と振り回して、
次々とギネース兵を切り裂いてゆく。
「ブライトサンダークラッシュッ!」
バスターソードが地面へ金色の輝きを呼ぶ。
大剣のスイングに押し出された金色の衝撃波は、
一瞬でたくさんのギネース兵を飲み込んで蒸発させた。
「獅子爪拳ッ!」
ボックさんの目にも止まらないフックの応酬は、
空気の刃をたくさん呼び起こして
ギネース兵の弱点の胸のコアを引き裂く。
ボックさんを囲んでいたギネース兵はものの数秒で、
一気に吹き飛ばされる。
だけど、ギネース兵は再びボックさんの正面へ立ちはだかった。
「はぁーーッ……」
ボックさんは呼吸を整え、
地面をしっかりと踏みしめて、拳を構える。
「砕け散りなさい! 獅子正拳ッ!」
ボックさんの鋭い正拳突きは、
緑色の衝撃波を呼び起こす。
それは目前に迫ったギネース兵の集団、
を一瞬で吹っ飛ばした。
「それそれそれそれー! 今の僕を止められると思うなーッ!」
ピルスはトライデントを鮮やかに振り回して、
切っ先や柄でギネース兵を次々となぎ倒していた。
ピルスの槍捌きは海の渦潮みたいに、
ギネース兵を飲み込んでゆく。
「いっきにやっちゃうぞぉー! ライドロウィン!」
ピルスはトライデントの切っ先で地面を抉った。
すると、砂利ばかりの不毛の地に突然、水が湧き出た。
湧き出た水は細かな粒になって、結晶する。
沢山の氷の矢はギネース兵を、次々と貫いて撃破した。
地獄谷にたくさんの銃声が響き渡る。
二挺拳銃を構えたランビックは、何回も転がりながら、
だけど正確な射撃でギネース兵を撃ち倒す。
「風の獣神を舐めんじゃないわよ!」
ランビックは二挺拳銃を真上へ投げた。
「ショット! ラン・スタァ―ッ!」
空中をクルクル回る二挺拳銃は自動的に撃鉄を倒し、
引き金が引かれる。
弾数無限の二挺拳銃は空中から下のギネース兵へ向けて、
風の銃弾の雨を降らせ続けた。
「いきますッ! 炎龍乱打ッ!」
真っ赤な炎になったアルトは、
素早くギネース兵の中へと潜り込む。
「はいぃっ! やぁっ! とぉっ! はいぃっ!」
アルトの棒はギネース兵を穿ち、吹っ飛ばし、なぎ倒す。
赤い炎のアルトはギネース兵をどんどん飲み込んで、
戦闘不能へ追い込む。
「わた、しも、頑張、る! にゅふー!」
スーは気合を入れると、
「ナイト、オブファイヤー!」
杖から紫の炎を放って、ギネース兵を倒していた。
――俺も負けてらんないぞ!
「ブレスさん!」
『心得た! ワッショイ!』
テイマーブレスから体へ流れてくる奇跡の力。
それは俺の身体能力を一気に高めてくれる。
しかも今は、アルトとの契約を結んだばっかだから、
未だ俺の中には彼女の炎の力が宿ったままだ。
【ギネースッ!】
ギネース兵の集団がこっちへ向かってきている。
「伸びろッ! 炎龍尾ッ!」
俺の叫び応じて、得物の棒が伸びて、ギネース兵の集団を
ボーリングのピンみたいに吹っ飛ばした。
「おっし! ストライク!」
『油断するでない!』
ブレスさんの声を聞いて、
すかさず踵を返して、棒を構える。
「やるな、小僧!」
イヌ―ギンは十字剣を引いて、
距離を置いた。
「イヌ―ギン……いや、トラピストさん! そんな変な仮面を脱いで、早くアルトの所へ帰ってあげてください!」
「貴様までも! これは帝王より賜った聖なる鎧! 侮辱することは許さん!」
かなり怒った様子のイヌ―ギンは十字剣を抜いて、最接近を仕掛けてくる。
「電磁装着!」
瞬時にブライトケイロンの鎧とバスターソードを装備。
発泡スチロールみたいに軽く感じる重厚なバスターソードを掲げて、
イヌ―ギンの斬撃を受け止め、押しかえす。
「ぬっ!?」
イヌ―ギンの体勢が崩れた。
「結晶装着!」
今度はブルーマーメイドの鎧とトライデントを呼び出す。
すかさずトライデントの先で地面を抉ると、
水が一気に噴き出してきた。
「行けッ! ライドロウィン!」
噴出した水の中から凝固した氷の槍が、
まっすぐとイヌ―ギンへ進む。
「こんなものッ!」
イヌ―ギンは十字剣を華麗に振って、
氷の矢を次々と撃ち落とす。
――だけどそれも予想済み!
すでにローズフェニックスの恩恵で、
ガンマンスタイルに変わっていた俺は
風に乗ってイヌ―ギンの背後を取っていた。
「Set Gatling!」
二挺拳銃はお互いに混ざり合って、
巨大なガトリングガンへ変化する。
イヌ―ギンは振り返って、
剣を構えようとしていたけど、遅い!
「俺を舐めんなぁ! うららららっ!」
引き金を引けば、六連装砲が火を噴いて、
風の銃弾を高速でイヌ―ギンへ撃ち込んでゆく。
風の銃弾は容赦なくイヌ―ギンを撃ち、
ダメージを蓄積させる。
「クッ……!」
風の銃弾を撃ち尽くし、
イヌ―ギンが剣を地面へ突いた。
その隙を俺は見逃さない。
「着鋼ッ!」
ガトリングを投げ捨てて、
翡翠のプロテクターを装備する。
瞬間、体中に緑の輝きが沸いて、力が漲った。
それでも呼吸は落ち着いていて、心は静かだった。
「はぁーっ……」
ゆっくりと呼吸を吐き、気合を最高潮まで練り上げる。
「いくぞぉっ!」
「ッ!?」
イヌ―ギンの懐へ潜り込み、裏拳で奴の兜を叩く。
怯んだ隙に腹へ思いっきり肘鉄を叩き込んだ。
「獅子拳の奥義が1つ獅子旋風拳! 続けて!」
拳を脇に構えて、根を張るように地面を踏みしめる。
右の拳へ力をたぎらせ、だけど心は落ち着けて、そして!
「獅子正拳ッ!」
「うぐおわっ!?」
イヌ―ギンの胸の鎧を拳が粉々に砕く。
奴はそのまま思いっきり吹き飛ばされた。
俺は姿勢を正して、呼吸を整える。
「ありがとうございました!」
『少年! イヌ―ギンはおらんぞ!』
ブレスさんの声を聴いて、慌てて辺りを見渡す。
脇から鋭い殺気を感じて振り返れば、
そこにはすでに立ち上がったイヌ―ギンが居た。
「よくも、我が聖なる鎧を……貴様だけは許さん!」
イヌ―ギンは剣を鞘へ戻し、
腰を深く落として、呼吸を整える。
この構えに見覚えがあった。
最強の獣神のアルトを弄んだイヌ―ギンの剣技。
思い出しただけで身の毛もよだって、棒を握る手に汗が浮かぶ。
「烈魔獣剣! 地獄番犬!」
「ッ!?」
イヌ―ギンの姿が視界から消えた焦った。
刹那、鋭い殺気と、鋭利な輝きが横目に見える。
が、斬撃は落ちてこなかった。
俺の脇には大きな体の、二人の魔獣が逞しい背中があったからだ。
「き、貴様らッ! 元帝国軍団員である誇りを忘れたか!?」」
イヌ―ギンは刃を、刀と槍で受け止められ、
仮面越しでも分かるくらい悔しそうな声を上げていた。
「団長……いや、元団長殿! そのような言葉、今の我らにとっては何の意味も成しませんぞ!」
元剣魔獣軍団副将ウルフ兄弟の兄:ワ―ウルフは、
綺麗に磨かれた刀でイヌ―ギンの十字剣を受け止めながら叫ぶ。
「兄者の云う通り! この身この命! 我ら兄弟は既にマスターのものッ!」
弟のコボルトは槍を押し込んで、
イヌ―ギンを弾き飛ばした。
「ありがとう! 二人とも! でも、どうしてここに?」
「マスターの匂いを追ってここまで参った次第!」
ワ―ウルフはそう答えて、
「それに我ら兄弟だけではございませんぞ! いざ!」
コボルトはそう叫んで地獄谷の岩壁を指す。
するとそこには沢山の武装した人たちが大勢集まっていた。
「獣神様方にお任せしてばかりじゃダメです! 自分達の国は、いえ自分たちの世界は自分達で守りましょう!」
双肩使いのコーンスターチギルドの受付嬢アクアさんが叫ぶ。
「そうです! ギルドの力ここにあり! 行きましょう!」
ハンマー使いでアクアさんの同僚のブルーさんも声を張る。
「「「「おおーっ!!」」」
逞しい叫び声を上げて、完全武装したギルドのみんなが
岩壁から地獄谷へ駆け下りてきて、ギネース兵との戦いを始める。
「おめぇら!」
エールは嬉しそうな声を上げた。
アクアさんとブルーさんはエールに背中をぴったりとくっつけて
それぞれの武器を構える。
「さっきまで活躍をみて、相変わらずエールさんは怒らせないほうが良いって思いました!」
アクアさんは双剣を構えたまま、
少し冗談っぽく云って、
「ええ、アクアの云う通り。じゃないと、私達、あっという間にエールさんの電撃で焦がされちゃいますね。さすがは恋の力! 恋する乙女はかくも強いのですね!」
ブルーさんがさらっとそう云うと、
引き締まってたエールの顔が真っ赤に染まった。
「なっ! お、おめぇら、それ!?」
「ふふ、分かってます、わかってますとも! 今夜、ゆっくりエールさんの想いを肴に一杯やらせてもらいますからねー」
ケラケラと笑いながらアクアさんはそう締めくくった。
三人はまた顔を引き締めて、接近するギネース兵へ武器を構えた。
「行くぜ! アクア、ブルーッ!」
「「了解しました! エールさんッ!!」
エール、アクアさん、ブルーさんは同時に三方向へ飛んだ。
――本当に仲が良いな、あの三人。
ちょっとアクアさんとブルーさんに嫉妬する俺だった。
「参りますぞ! マスター!」
ワ―ウルフの声で現実に戻った俺は棒を構える。
またギネース兵が周りに沸いて出てきたからだ。
「「やあぁーっ!!」」
「そらっ!」
俺とウルフ兄弟は同時に飛んで、ギネース兵へ向かってゆく。
地獄谷に溢れかえるギネース兵。
だけど五獣神、アクアさん・ブルーさん、ウルフ兄弟、そして俺は
ギネース兵を千切っては投げ、千切っては投げる。
数では敵が圧倒的。
戦は数だって、前にどっかで誰かが云ってたと思うけど、
今の俺たちにその言葉は当てはまらない。
俺たちは次々と群がるギネース兵を倒し、その数を減らしてゆく。
――数なんて関係ない!
今ここで戦っているのはみんな一騎当千の猛者。
無双で無敵の戦士たち!
そしてほとんどのギネース兵を倒した俺たちは、
揃ってボロボロのイヌ―ギンの前へ並んだ。
「イヌ―ギン! ここまでだ! 諦めろッ!」
「ぬっ……」
目の前のイヌ―ギンは剣を杖にして、
立っているのがやっとな様子だった。
「師匠! その鎧を早く脱いでこっちへ来てください! なにがあったかはわかりませんけど、でも師匠が心を改めてくれるなら私が守ります! みんなを説得します! だから戻ってきて下さい!」
アルトはイヌ―ギンへ、
気持ちの籠っている声をぶつけた。
「……」
だけどイヌ―ギンは何も答えない。
「師匠ーッ!」
「わ、私は、エヌ帝国剣魔獣将イヌ―ギン! トラピストではない!」
イヌ―ギンは声を張って、
アルトの言葉を重ね消した。
奴は背筋を伸ばして、腕を組む。
「イナジャ・ンモムノ・テンナケサ! ……いでよ! 岩巨人コウボッ!」
イヌ―ギンの呪文が地獄谷に響き渡る。
途端に地面が大きく揺れ始めた。
そしてイヌ―ギンの背後に複数体の岩巨人コウボが現れた。
岩巨人コウボはイヌ―ギンを、
そして残ったギネース兵を取り込んで、
次々と巨大化させる。
数は未だエヌ帝国の方が遥かに多い。
その殆どが巨大化したことで、
さっきまで勝利を確信していたみんなの表情が凍り付く。
【これまで散々とコケにしてくれたな。この屈辱、晴らさせてもらう!】
巨大イヌ―ギンが剣を抜いて、
背後のギネース兵が一気に沸く。
さっきまで戦は数じゃ無かった。
一騎当千のみんながいたから、ここまでできた。
だけど相手は体を大きくして、
あいつらこそが一騎当千となっている。
絶望的な状況だと思った。
到底勝ち目がないと、
きっと他のみんなは思っていると思った――だけど、
俺と獣神達は違った。
右腕のテイマーブレスが異様な熱さを持つ。
かがげて見てみるとテイマーブレスに嵌っている、
五色の宝石が眩しい光を放っていた。
『少年よ』
ブレスさんが響きの良い声で俺を呼ぶ。
「わかってます。どうすれば良いか……」
『そうか。ならば私からは何も言うまい……さぁ、少年よ! 心のまま、想いのまま、そして元気よく叫ぶのだ!』
「はいっ!」
俺は踵を返して、後ろに並んでいる五獣神へ向かった。
「行くよ、みんな! 復活の時だ!」
「「「「「はいっ!!」」」」」
五獣神の勇ましい返事が返ってくるのと同時に、
腰のバックルからテイマーカードが一枚飛び出してきた。
神々しい白銀の光を背景に、
雄々しく佇む戦女神が描かれたそのカードを、
テイマーブレスへ素早く通す。
「ニド・ホドホ・ハケ・サオォーッ! 復活せよ! 大獣神ッ!」




