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五章6:イヌ―ギンと帝王エヌと獣神のみんな


「うっ、つつ……」


 ゆっくりと意識が戻った。

 未だ、イヌ―ギンに切りつけられたわき腹がズキズキ痛む。

 俺は冷たくて固い床の上へ仰向けに倒れていた。


『大丈夫か? 少年よ?』


 ブレスさんの心配する声が聞こえる。


「は、はい、なんとか……」

『傷の方は私の方で治癒をしている。幸い軽傷だったのでな。あと少しすれば元通りになるだろう』

「相変わらず、俺よりもチート、ですね……」


 なるべくブレスさんに心配かけないように強がる。

 

――本当は今も痛くてたまんないけど……


『少年、君というやつは……」


 ゆっくりと冷たい床に手を突いて、身体を起こす。

 目の前には色々な機械が並べられている不思議な部屋だった。

 周囲はガラスのようなもので囲まれていて、

その向こうには紫色をした空が見えた。

 そして、立ち上がった俺の目の前には赤いマントが見えた。


「ようやく起きたか、人間よ」


 赤マントがひらりと揺らいで、奴がこっちを向く。

 犬のような仮面を付けて、腰に十字剣を指すエヌ帝国の剣士、

エヌ帝国剣魔獣将イヌ―ギンが目の前に居た。

 傷を受けて身体が弱っているためか、

もう三度目の対峙だっていうのに、

イヌ―ギンの放つ静かな気迫が肌を撫でてて、

身体を震えさせる。


「こ、ここは……?」


 俺は絞り出すように呟く。


「我が、帝国の空中戦艦ボトルの艦橋だ、チートよ」

「ッ!? どうして俺の名前を!?」

「帝国の情報網を侮ってもらっては困る。我々は貴様がコーンスターチでブライトケイロンを復活させていた時から、貴様のことを知っていた。無論、貴様が獣神共を従えていることもな」


 どうやら、俺のことは帝国に全部筒抜けだったようだった。


――こいつらが表世界で俺のことを喧伝していたら、とんでもないことになっていただろうな。


「どうして俺はここに?」


 そうイヌ―ギンへ聞くと、

奴は腕を大きく振り上げた。


「偉大なる我が王、帝王エヌよ! ご命令通りチートを捕らえて参りました! どうぞ、ご降臨くださいませ!」


 イヌ―ギンが声高らかにそう叫ぶと、

艦橋の金属の天井がゆっくりと左右へ開いた。

 紫色の空から艦橋の中へ、

激しい風が吹き込んで来る。

 刹那、空に一筋の稲妻が走ったかと思うと、

巨大な影がゆっくりと浮かび上がってきた。


 人の顔を模した鉄仮面で素顔を隠し、

耳のように見える突起物がみえる兜。

緋色のマントで身体を覆う明らかに邪悪な影。


【良くぞ参ったチート。我が名は帝王エヌ。エヌ帝国の王にしてビアル裏世界の支配者なり!】

『こいつが、帝王エヌ……恐ろしいほどの邪気だ』


 ブレスさんの言葉を、俺は肌で感じていた。

 圧倒的な存在感、空を揺るがしかねない声音、

そして異様な恰好。

まるで前の世界でよく見たゲームの中の魔王を思わせる。

 足がすくんで、動けない。

俺は床に縛り付けられたような感覚を得る。


 だけど、その時、そんな体の硬直が解けるような気がした。

どこからともなく温かい感じが体に流れ込んできて、

自然と体の緊張が解ける。


「その帝王エヌが何の用だ!」


 気が付くと、俺は空に浮かんだ帝王エヌの像へ叫んでいた。


【勇ましい咆哮こえぞ。流石は四体の獣神を従えているだけのことはある】

「どうもありがとう! だけど、俺の問の答えにはなっていないぞエヌ!」

「貴様! 帝王へ向かって!」


 俺の言葉を聞いて、イヌ―ギンが腰の十字剣へ手を回す。

 しかし空に浮かぶ帝王エヌの像は手を翳して、

イヌ―ギンへ静止を促した。

 イヌ―ギンは渋々といった様子で十字剣から手を離す。


【その勇ましさ、気に入った! どうだチートとやら、我が帝国と手を組まぬか?】

「えっ?」

【貴様は既に四体の獣神を従えておる。貴様と我が帝国が組めば、ビアルは手中に収めたも同然。支配を終えたのちは、余が裏世界を貴様が表世界を治めるが良かろう】

「つまり、手を組めば世界の半分を、しかも表世界の方を貰えるってことだね? 悪くない条件だね」

『少年! 君は!?』


 ブレスさんが怒ったような声を上げた。


「いや、ブレスさん前に云ってたじゃないですか。文脈から察しなさいって」

『しかし!』

「世界の半分が貰えるんですよ? これって凄くないですか?」

『少年、君と云う奴は……』

「あはは……」


 きっとブレスさんは怒っているのか、

右腕のテイマーブレスがカタカタと震えている。

 それっきりブレスさんは何も喋らなくなった。


【チートよ、返答は如何に】

「そうだねぇ……」


――そろそろ頃あいだ!


 俺は思いっきり床を踏みしめて、

空に浮かぶ帝王エヌの像を強く指した。


「申し訳ないけど半分じゃいらない! 俺は全部欲しい! 表世界も裏世界も! だから俺は邪魔なお前達エヌ帝国を倒す! 必ず!」

「貴様! 一度ならず二度までも!」


 俺の言葉に我慢できなくなったイヌ―ギンが剣に手を回して、床を強く蹴る。


 その時、俺の後ろにある金属の扉がけ破れて、

真っ赤な炎みたいな女の子が艦橋へ飛び込んできた。


「はいぃっ!」

「ぐっ!?」


 俺とイヌ―ギンの間に割って入ったアルトは、

長い棒で十字剣を受け止めていた。


「ナイス! アルト! いいタイミング!」


 アルトへそう声を掛けると、


「分かってたんですか!? 私が戦艦ふねに乗り込んでいたの!?」

「うん! なんか、アルトの匂いがするなって思ってっね!」


 どうも獣神のみんなと一緒にいたおかげで、同族の匂いを嗅ぎ分ける

謎なスキルを手に入れたようだった。


「おのれ!」


 イヌ―ギンはアルトとの距離を置いて、

再度突撃を仕掛ける。


「今度は負けませんよ!」


 アルトはまたしてもイヌ―ギンの斬撃を棒で受け止めた。


『女の子が匂いで分かるとは、君は変態さんかね、少年よ?』


 いつものブレスさんの声が聞こえる。

 もう怒ってないみたい。


「あはは! そうですね! すっかり変態さんです」

『それにしても、人が悪いぞ少年。こうなるのが分かっていたのなら一言……』

「いやぁ、ちょっと時間を稼がないと思いましてね」

『何?』

「お祭りはこっからですよ!」


 指をパチンを弾くと、


【ギャオォォーン!】

【キュアコォーン!】


 艦橋の上へ黒龍のスーとローズフェニックスが飛来する。

 二体の空の獣は、浮かんでいた帝王エヌの像へ紫の炎と竜巻を放つ。

 エヌの像は砂のように吹き飛ばされて、消えた。


みんなと繋がっている感覚があった。


――きっとみんなはこっちに来てくれる。


 だからその為の時間稼ぎをした。

 こうして来てくれるのが嬉しかった。

みんなとの繋がりを、信頼を肌で感じられることが嬉しくてたまらなかった。



「ご苦労様! スー! ラン! 早くこっち来て!」


 その時二体の上空に翼に砲筒を、

足に爆弾を付けた鳥型の魔獣:ヴァイツェン航空兵団が現れた。

 航空兵団の爆弾をローズフェニックスの竜巻が弾き、

スーが紫の火炎放射で次々と航空兵団を焼き尽くす。

 だけど敵の数は遥かに多い。

 二体の空の獣の力は圧倒的だけど、

それでも数に押されて足止めを喰らってしまう。


「はいぃっ!」

「小癪な!」


 目の前ではアルトとイヌ―ギンが激しくぶつかり合っていた。

 

「やあぁっ!」


 イヌ―ギンの一瞬の隙を突いて、

アルトが棒をまっすぐと突き出す。

 虚を突かれたイヌ―ギンの体勢が大きく崩れる。

 アルトは素早く足を開いて床をしっかりと踏みしめると、

棒を後ろへ構えた。


炎龍乱打ドラゴンマシンガン!」


 アルトの姿が真っ赤な炎のようになって、

よろめくイヌ―ギンへ一瞬で接近する。

 そして赤い棒での連撃が始まった。

 棒はイヌ―ギンを突き上げ、突き下げ、

そうかと思うと横へ殴り、斜めから振り落される

 目にも止まらないアルトの鮮やかな乱打はイヌ―ギンに反撃する間を与えない。


「とおぉっ!」

「うぐっ!!」


 アルトの止めの突きが、イヌ―ギンの鉄兜を思いっきり突いた。

 奴の兜に一瞬で罅が入って、バラバラに砕け散る。

 そして床に膝を突く。

 瞬間、アルトの連撃が止まった。


「し、師匠!?」

「おのれ……良くも帝王より賜った我が聖なる鎧を……!」


 仮面を砕かれて、素顔を晒したイヌ―ギンは立ち上がりる。

 黒髪で細面の美形の男。

 だけど、その目は血のように赤く染まっていて、

アルトをへ忌々しそうな視線を送っていた。


「師匠……しーしょぉー!!」

「アルト、ストップ!」


 俺の静止を無視して、

アルトは棒を投げ捨ててイヌ―ギンへ飛び込んでゆく。


「寄るなッ!」

「きゃっ!?」


 イヌ―ギンの平手打ちがアルトを弾いた。

 

「し、師匠……? なんで……?」


 アルトは床へペタリと座り込むと、

瞳に薄い涙を浮かべながらイヌ―ギンを見上げる。


「我が名は剣魔獣将イヌ―ギン! 貴様のことなど知らん!」

「そんな、師匠、なんで貴方はこんな……」

「失せろ!」

「きゃっ!」


 イヌ―ギンはアルトを思いっきり蹴り飛ばす。

それまでの燃え盛る炎のような勢いがすっかり失せたアルトは、

人形のように吹っ飛ぶ。

 俺は咄嗟に飛び出して、アルトをしっかりと抱き留めた。


「大丈夫!? アルト!」

「そんな……師匠が、どうして……」


 アルトは腕の中でイヌ―ギンを見ながら大粒の涙を零す。

 そんなアルトの姿を見て、堪らなく切なくなった俺は、

そっと彼女を抱きしめた。


「来い! レッドドラゴン! 奴らをお前の炎で焼き尽くすのだ!」


【グガオォォーン!】


 強烈なレッドドラゴンの咆哮が聞こえた。


――このままここに居ちゃダメだ!


「ブレスさん!」

『えいやっ!』


 ブレスさんに肉体強化を掛けて貰って、

俺はアルトを抱いたまま飛んだ。

 丁度良いタイミングで黒龍のスーが近くに寄ってきてくれて、

俺は背中へ飛び乗る。

 既に空中に犇めいていたヴァイツェン航空兵団の姿は全くなかった。


【グガオォォーン!】


 だけど目の前には最大の脅威――雄々しく翼を羽ばたかせるレッドドラゴンが目の前に居た。


「あいつを倒すんだ! スー! ローズフェニックス!」

【キュアコォーン!】


 最初に動き出したのはローズフェニックスの方だった。

 フェニックスは翼を大きく羽ばたかせ、

嘴を思いっきり突き出してレッドドラゴンへ突き進む。

 速度で勝るフェニックスは、鋭い嘴でレッドドラゴンの巨体を引き裂いた。

 だけどレッドドラゴンは少しよろめいただけ。

すぐに旋回をして、火球を放つ。

 火球はフェニックスの背中へぶつかって、大爆発を起こした。


「ランッ!」


 ひらひらと地上へ墜落してゆくローズフェニックス。


――ランの作ってくれた機会を無駄にはしない!


「やれ! スーッ!」

【ギャオォォーン!】


 指示に従って黒龍のスーは大きく顎を開いた。

 すぐに紫の壮絶な光が口腔に集中して、激しい炎が一直線に噴出する。

 狙うは背中を向けている、レッドドラゴンの背中。


【グガオォォーン!】


 するとレッドドラゴンは素早く旋回をして、

スーの同じように口から赤い炎を吐いた。

 空中で激しくぶつかり合う紫と赤の炎。

 どっちも譲らず、離れず、

相手をその炎で焼き尽くそうと、放射を続ける。

 

【ギャ、グギャ……!】


 スーの顎が少し震えて、少し苦しそうな呻きを上げた。

 炎の拮抗がやや、レッドドラゴンへ傾く。


「スー! 頑張って! ファイトッ! ファイトッ!」


 黒光りするスーの鱗を叩いて、

心の限りエールを送る。


【ギャオォォォ――ンッ!】


 勢いを取り戻したスーは、更に強い炎を吐いた。

 紫の炎は一気にレッドドラゴンの紅蓮の炎を押し返す。

 そして、レッドドラゴンの巨体が眩しい光を伴った、

大爆発に飲み込まれた。

 赤竜の巨体が、蒸気を上げながら、

墜落してゆくのが見える。


【ギャ……】

「うわわわっ!?」


 同時に力を使い果たした黒龍のスーも墜落を始めた。

 落下する中でスーの巨体が紫の光の粒となって砕けて、人間の姿へ戻る。

 俺は片手でアルトを、そしてもう片方の手で目をつぶったまま、落下を続ける

スーの手を取った。


「シューティングフォーメーション!」


 風の獣神の力を纏い、


「ジェット! タイ・フーン!」


 意識を足元へ集中させてそう叫べば、

下の方から俺たちを包み込むように風が吹き出してきた。

 風は落下の力を相殺して、緩やかに俺達を地上へ導く。


【ルゥーン!】

【グオォォーッ!】

【ガオォォォン!】


 緩やかに落下する中、

ブルーマーメイド、ブライトケイロン、

そしてグリーンレオが

墜落して鎌首をガレキの上へもたげているレッドドラゴンへ、

突撃しているのが見えた。


【グガオォォォン!】


 突然、レッドドラゴンの目に生気が戻って起き上がる。

 レッドドラゴンは長い尾を張り立たせて、勢いよく踵を返した。

 長い尾は突撃を仕掛けた三体の獣神を、まるで人形のように弾き飛ばす。

 弾かれた三体の獣神はガレキの中へ埋もれてしまった。


「ピルス! エール! ボックさん!!」


 思わず叫んだ俺の上空を傷ついたローズフェニックスが飛んで行った。


【キュアコォーン!】


 フェニックスは翼を羽ばたかせて、

竜巻を起こしてレッドドラゴンへぶつける。


【グガオォォーン!】


 レッドドラゴンは身体を揺さぶるほどの強い咆哮を上げた。

 空気を震撼させるその方向は、ローズフェニックスが発した竜巻をかき消す。

 そして、鋭い爪を携えた腕で、

接近していたフェニックスの細い首を掴んだ。


【キュ、キュア……!】


 フェニックスは苦しそうにもがいているけど、

レッドドラゴンの腕は首を離さない。

 レッドドラゴンはあっさりとフェニックスを投げ飛ばした。

 瓦礫の上へひらりとおちたローズフェニックスは動かなくなった。


「ラン!」


 俺の叫びは丁度地上へ降り立ったことで、

ガレキに阻まれて届かなかった。

 


 刹那、すっかり暗くなった黒い空へ一筋の稲妻が迸る。

 最初はぼんやりと、次第に確実に空へ不気味な鉄仮面の異様が現れる。


 エヌ帝国の支配者:帝王エヌ。


 空中に大きく結ばれた奴の像は緩やかにマントの中からガントレットに覆われた腕を出した。


 エヌの腕から黒い稲妻が迸って地上へ降り注ぐ。


『こ、これは!? なんたることか!?』


 突然、ブレスさんが声を上げた。

 思わずテイマーブレスを掲げて見て、俺も言葉を失った。


 テイマーブレスに嵌っていた色とりどりの獣神晶が次第に黒く染まってゆく。

 どんなにその黒を袖で拭き消そうと頑張っても、浸食は止まらない。

 そしてテイマーブレスに嵌っていた全部の獣神晶が真っ黒に染まった。


【グオォォォ……】

【ガオォォォ……】

【ルゥーン……】

【キュアコーン……】

【グガオォォォン!!】


 五つの大きな足音が、地面を激しく揺らしながらこっちへ近づいてくる。

 そして俺たちへ黒々とした大きな影を落とした。


 真ん中には目を赤く輝かせたレッドドラゴン。

 その周りには同じように目を真っ赤に染めた、

四体の獣神が鋭い視線でこっちを睨んでいた。


<フハハハッ! ついに手に入れたぞ! 五獣神を我が手に!>


 空に浮かんでいた帝王エヌの像が、狂喜していた。


<礼を云うぞチート! 貴様が全ての獣神晶を修復してくれたおかげで、我が浸食の術を懸けることができた! もはや獣神は貴様のものではなく、全て余のもの!>

「バカ云うな!」


 思わず俺は空に浮かぶ帝王エヌへ叫ぶ。


「みんな! 目を覚まして! みんなであのエヌの像をかき消すんだ!」


 想いを込めて、力の限り命じる。

だけど、四体の獣神は俺を赤く光る目で睨んだまま、

動き出す気配を見せない。

 明らかな敵意の視線に、俺の体はすくむ。


<無駄だ! さぁ、五獣神よ! 踏み潰すのだ!>


 帝王エヌの指示を聞いて、五体の獣神がゆっくりと動き出す。


『少年! 何をしている! 動くのだ! 早くッ!!』


 ブレスさんの声は耳に入っては反対方向から抜けて行くだけ。

 みんなから向けられた敵意に満ちた視線。

 それは凄く鋭くて、まるで刃物で切り裂かれたみたいに、

俺の胸の内をズタズタにしていた。


 なによりもさっきまで感じられていたみんなとのつながりが、

突然消えてしまっていた。

 いや、繋がりはある。

だけど俺に流れ込んでくるのは――負の感情ばかり。


 消去、不要、邪魔、怒り、憎しみ……

ありとあらゆる負の感情が、

獣神のみんなから俺へ伝わってくる。


 苦しくて、切なくて、悲しくて、俺から動く力を奪い去る。


「マス、ター!」


 ボロボロのスーが俺の手を取った。


「スー……俺……」

「逃げ、る! ここ、危ない!」


 スーは一生懸命俺の手を引いて歩かせようとする。

だけどスーの力じゃ、俺の体は動かない。


――どうしよう、もう俺には何もできない、何も……


 俺たちへ大きな三角形の影が落ちた。

 見上げればそこには、大きな一角に、

激しく電撃を蓄えているブライトケイロンの姿が。


「エール……」


 昨日まで、俺の傍で笑ってくれていたエールは目の前に居ない。

 負の感情をむき出しにして、彼女の稲妻で、俺を焼き殺そうとする

強い意志だけが強く伝わってくる。


「マス、ター!」

「……」

【グオォォォー!】


 容赦なくブライトケイロンの激しい電撃が、

俺たちを焼き尽くそうと迫る。


「「やあぁーっ!」」


 刹那、俺たちの目の前へ二つの影が勇ましく降り立ってきて、

刀と槍で電撃を弾いた。


「マスター! ここは我らに」


 ウルフ兄弟の兄ワ―ウルフがそう云い、


「任されよ! アクア殿! ブルー殿!」

「「はいっ!」」


 瓦礫の向こうからコーンスターチギルドの双肩使いアクアさんと、

ハンマー使いのブールさんが飛び出してきて、俺たちを抱えた。


「さっ、ここはウルフ兄弟と皆さんにお任せしましょう、荷物持ちさん!」


 アクアさんに言われるがまま、俺は彼女に縋りつく。

 空には俺が従えたヴァイツェン航空兵団と元副将ガルーダの姿見える。

 俺は獣神達へ立ち向かってゆくみんなを呆然と眺めながら、

その場から立ち去るのだった。


 

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