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四章閑話2:獣神飲み会

『この物語は本編から少し外れた、いわゆる閑話と言うやつだ!

なので、あえて読む必要はなく、読まなくても何の問題はないぞ!

しかし!

それでも敢えて読もうとしてくれているそこの君!

Thanks!

 以上、テイマーぁブレぇスであった!

どうぞゆっくりと閑話を楽しみたまえ!

HAHAHAHA!』


「みんなー! 僕の秘蔵ヴァイン飲もーッ!」


ピルスの元気な声が響いた。


 今日はみんなオフの日だった。

エールはスーと一日デート、

ボックさんは買い物、

ランビックは美容院からのエステと

みんな普段の疲れを癒すために思い思いの時間を過ごしたらしい。

 ちなみに俺は、仕方なくブレスさんと一日ゴロゴロしていたっていう、

とっても有意義とは言えない一日を送っていた。



『なんだね? 不満何のかね?』


――そーいや、ブレスさんは俺の心の声も読めるんだっけ。気を付けないと……



 閑話休題。


 そんなリフレッシュした日の晩、

ピルスはみんなの食卓の前へブダウっていう果物を発酵、

樽貯蔵して作ったヴァインっていうお酒を持って来たのだった。


「まぁ! ヴァインですか!」


 ボックさんはピルスが持ってきたヴァインのボトルを見て、

嬉しそうに声を上げて、


「たまには麦酒じゃなくて、ヴァインも良いな」


 エールも嬉しそうに笑っている。


「……」


 だけどランビックだけは、

何故か無言のままだった。


「ささっ、どうぞどうぞー!」


 ピルスは素早くグラスをみんなの前へ並べて、ボトルからヴァインを注ぐ。

 グラスの中には黄金色をした、

まるで蜜みたいにトロトロな液体が満たされた。


「それじゃあ、明日もみんなで表世界のみんなを元気よく助けよー! カンパーイ!」


 ピルスの元気な乾杯の音頭に合わせて、

俺たちは飲み始めた。

 いつもはこういうのはお断りするけど、

少し興味があったから俺もお相伴に預かることにしたのだった。



……そして数時間後……


「スーぅ~! 愛してるぜぇ~!」


 顔を真っ赤にして、

口元をへにゃっと曲げたエールは、スーへ覆いかぶさっていた。


「エー、ちゃん! い、やっ! お酒、臭い!」


 一人、素面しらふなスーはエールを払いのけようと、腕で押している。

 だけど体格も、力もあるエールにガッチリと抱きしめられて動けずにいた。


「ううっ……」


 珍しくボックさんはヴァインの入ったグラスを持ったまま、

冷や汗を浮かべていた。


「ボック、もうおしまい?」


 ピルスはグラスに入っていったヴァインを飲み乾して、

ケロッとしている。

 そんな彼女の周りには既に空になった、

ヴァインのボトルがゴロゴロと転がっていた。


「い、いえ! お酒はチートさんに次いで私が愛してやまないもの! ここで挫けるわけには参りません!」


 ボックさんはまるで獅子拳レオマーシャルで戦ってる時みたいに、気合を入れると、

グラスに入っていたヴァインを一気に飲み干した。

 ますますボックさんのおでこには冷や汗が浮かんで、顔は青ざめている。


「良いぞー! ボック―! じゃあもう一本いっちゃおー!」


 ピルスはほんの少し顔が赤いだけで、あとはいつものまま。

 テーブルの下から新しいヴァインボトルを取り出して、

器用に栓を抜く。

 そしてボックさんのグラスへまたヴァインを注ごうとしたけど、


「注ぐの面倒だなぁ……よしッ!」


 っと云って、

もう一本ボトルを取り出して、栓を抜いてボックさんの前へ置いた。


「じゃあカンパーイ!」

「か、乾杯……!」


 ピルスとボックさんはヴァインボトルを直接打ち合って、

直に口を付け始めた。


「んぐ、んぐ、んぐ……」


 ピルスはまるで水みたいにヴァインをゴクゴクと飲んでいる。


「んぐ、んぐ、んっ……んんっ!」


 ボックさんは顔を真っ青に染めながら、

だけど必死な形相でヴァインを飲んでいる。



――ピルス恐るべし……


 こういう風にお酒を飲める人のことを「ザル」っていうんだっけ……


「んっ!」


 突然、ボックさんの顔が一気に青ざめた。

 ちょっとマズそうな雰囲気。


『いかん! 少年よ、私をボックの所へ!』

「は、はい!」


 急いでテイマーブレスを外して、

ボックさんの前へ置く。


「どーりゃ!」

「ぶはっ!」


 ブレスさんが叫んで、

青白い膜のようなものを張った途端、

ボックさんの口からヴァインが噴き出た。


「はぁ、はぁ、はぁ……」

『だ、大丈夫かね、ボック……?」

「え、ええ……お恥ずかしいところ……助けて頂いて感謝します……」

「ああーっ! もったいなーい!!」


 ピルスは眉を吊り上げて、

少し怒ったような声を上げた。


「す、すみません……ピルスの大変貴重なヴァインを私は……」

「そうだよ! 責任とって!」

「せ、責任?」

「そう! 最後まで責任とって飲み乾してよね! じゃないとブダウ農家さんと作り手さんに悪いよー!」

「うっ……」

『ボックよ、そこまで……』


 ボックさんは勢いよくボトルを手に取って、立ち上がる。

 姿勢を正して、


「申し訳ございませんでしたブダウ農家さん、作り手さん、ピルス……酒を愛するこのボック! 愛を態度で示します!」


 そう叫んでボックさんはボトルを咥えて、

腰に手を当てて、顔を真っ青に染めながら、

それでもゴクゴクとヴァインを飲む――いや、、流し込んでいるに近い。


「良いぞー! ボック―! あはは~!」


 ピルスは子供みたいにはしゃいでいた。


――ピルス、怖い……


 正直あの惨状に巻き込まれたくないって思った俺は、

そっとピルス達から距離を置いた。


「……」


 その時、突然ガタっと音が鳴った。

 さっきまで机に伏せて眠っていたランビックが起き上がる。

 ちなみにピルス曰く、

ランビックはあんまりお酒が得意じゃないみたいだった。

 ヴァインをグラス三杯飲んだあたりで、

顔が真っ赤になって、早々に机に伏していたのだった。


「ラン?」

「……」


 ランビックは何も答えないで、

どんどん森の奥へと進んでゆく。

 足元はフラフラしていて、放っておけない様子だった。


「ラン! どこへ行くの!?」

「……」


 急いで立ち上がってランビックを追いかける。

何度声をかけても、ランビックは歩くのを止めないで、

どんどん深い森の中を進んでゆく。


「ねぇ! ランったら!」


 少し声を張って、彼女の肩を思いっきりつかんだ。


「なひよ……ひっくっ」


 顔を真っ赤に染めたランビックが、鋭い眼差しをこっちへ向けてきた。

 だけどすぐに目は丸くなって、


「ましゅたー!」

「わわっ!?」


 突然、ランビックが胸に飛び込んできた。

 不意打ちだったから俺はそのまま、

ランビックに地面へ押し倒される格好になった。


「ちょ、ちょっと、ラン、何……」

「……すぅー……はぁ……良い匂い……」


 俺に覆いかぶさったランビックは、俺の首筋の匂いを嗅いで

体重を掛けてくる。

 獣神達みんなの中ではスーに次いで、ランビックの胸は小さい。

でも無い訳じゃないし、確かな柔らかさはある。

首を匂いを嗅がれながら、それが遠慮なく押し当たっていて、

俺の頭は混乱する。


「あ、あの、ラン!? 何を……」


 っと、突然ランビックはムクッと上半身を起こした。


「あつい……」

「えっ?」

「熱い、の……」


 小さな声でそう呟いたランビックはゆっくりと、

自分の服のボタンへ手を伸ばす。

 一つ、二つ、と外れてゆくボタン。

 はだけた上着の向こうから、

玉のような汗を浮かべた、

白く透き通るような肌が、

星の光を浴びてぼんやり明るい夜の森に浮かび上がる。

そしてランビックが三つめのボタンに手を伸ばす。


「ス、ストップ!」


 辛うじて、三つめのボタンが外される前に、

俺はランビックの手を取ることができた。


「なひよ……ひっく」


 またまた鋭い目で睨まれた。

 石化みたいに動けなくなる俺。

 そんな俺を見て、ランビックは顔を俯かせて肩を震わせた。


「ラン……?」

「熱いの……凄く、熱い……だから……」


 ランビックが俺の手を強く握り返してくる。


「早く……」

「……」

「熱いの……お願い……早く……」


 消えそうな声をそう云うランビックをみて、

俺は思わず息を飲んだ。


――これって、もしかして!? でも、まさか……


 急に心臓の鼓動が早くなって、顔や耳は熱を持つ。

 正直、今の状況がどんなのか正確に把握できない。


「良いの……?」


 自然とそんな言葉が出た

 小さく振られる首。

 肯定。

 その証なのか、ランビックは更に俺の手を強く握りしめてきた。


「もう私は、マスターのものなの……だから、欲しいの……みんなよりも、早く……私が一番に……」


――どうしよう……


 心の中ではそう呟く。

だけど、それは理性的な俺がだ。

 本能の俺はちゃんと察していて、

ランビックが何を求めているのか分かった。

 理性じゃこういうことって勢いじゃなくて、

きちんとした段階を踏んで、

しかるべき時に、

しかるべき関係になった時にすべきだって云っている。


 でも本能はそんな大義名分なんてどうでもいいよ、

と後押ししてくる。

理性的にふるまいたい。

でも本能はソレを許さない。

それに……


 ランビックに握られた手から、

彼女の鼓動がしっかりと伝わってくる。

 彼女は勇気を出して俺へ告げてくれた。


――その勇気を、想いを無下にしたくない。


 正面からぶつかって来てくれたランビックの想いに俺も答えたい。

 覚悟は決まった。


「じゃあ、行くよ?」


 優しく、囁くように呟く。

 ランビックは小さく首を縦に振ってくれた。

 俺が手に力を籠めると、ランビックの指が緩やかに解かれる。

 解放された俺の指はゆっくりと、三つめのボタンへ手を懸ける。


 心臓はバクバクなってるし、

顔も耳も熱いし、

その熱のせいで頭は少しクラクラしている。


――でもちゃんとしないと。


 ここで俺がちゃんとしないと、ランビックを傷つけちゃう。

 そんなことは絶対にしたくない。


 だから俺は意識をシャンとさせて、そして三つめのボタンを外し切った。

 はらりとランビックの上着が開いて、森の暗がりの中に、彼女の柔肌が

見え始める。


「うっ!?」


 その時、突然ランビックの上半身が急激にのけ反った。

 ボワンと彼女の体からピンクの煙が上がって、姿を隠す。

 俺の上へ乗っかっていた彼女の体重が急になくなって、

代わりに胸の上へ小さな何かがポテンと落ちてくる。


【クゥー……ヒック……】


 俺の胸の上へは妙にお酒臭いトイプードルが舌を出しながら

寝ころんでいた。


「たっはー……」


 緊張感から解放された俺は、

そのままランビックの充電形態のトイプードルを抱きしめる。


「酔った勢いでそういうことしようとするんじゃありません」


 やんわりそう注意しながらトイプードルを撫でる。

 彼女は俺の腕の中で夢見心地なのか、胸にすり寄ってくる。

 

――少し残念……いやいや、これで良い!


「なんて思う俺って、やっぱチキンだよなー……」


 あざけてみたけど、別に悪い気はしない。


「お休み、ラン。明日からまた一緒に頑張ろうね」


 少し眠くなった俺はトイプードルのランビックを抱っこして目を閉じる。

 モフモフで温かいランビックの感触を感じながら、幸せな気分で俺は少し

眠りに就いたのだった。


*お酒は二十歳になってから。飲みすぎ注意です!

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