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四章18:降臨! 大海と疾風の獣神!


『そーりゃぁー!』


突然、ブレスさんの気合の入った声が聞こえたかと思うと、

身体がビクンと震えた。


「ぶはっ!」


 口から一気に海水が噴き出して、青空目がけて飛んでゆく。

 俺は何故か、砂浜の上に仰向けで倒れていた。


『はぁ、はぁ、はぁ……め、目が覚めたかね? 少年よ!』

「は、はい、ここは……?」


 起き上がって回りを見てみると、

そこはみたことの無い海岸だった。


『ここはドラフトの沿岸に点在する小さな無人島の一つだ。運が良いことに、我々はここに流れ着くことができたようだな』


 ブレスさんの言葉を聞いて、

記憶が一気に蘇る。


――俺たちは大会で勝ってゴール地点に着いた。だけどキジンガ―とあいつの巨大化した副将のガルーダとクラーケンに襲われて、そして……


「ピルス! ラン!」


 叫びながら辺りを見渡す。

俺から少し離れた浜辺の上でピルスとランビックが倒れていた。

 未だ少しおぼつかない足を砂に少し取られらながら、

それでもピルスとランビックへ駆け寄る。


「ピルス! ラン! 大丈夫!? ねぇ、二人とも!!」


 倒れている二人からの応答はない。

だけど、少し肩が上下しているのがわかった。

 命に別状はないと思った。


 その時、遠くの方からたくさんの爆発音が聞こえた。

 咄嗟に視線を海へ戻すと、

視界の端に黒々とした鋼鉄の船がたくさん浮かんでいるのがみえた。

 空には帝国の巨大空中戦艦も浮かんでいる。

 空と海の船に搭載されている大砲が一斉に火を噴いていた。

 放たれたたくさんの砲弾は、

その先にあるドラフトの大陸へ降り注ぎ、

地上へ赤い火花を散らせる。


 巨大化した副将のガルーダも突風で、

ドラフトの家屋をなぎ倒して、

クラーケンの怪光線が、

海岸から帝国軍勢へ降り注いでいる矢の焼き尽くしていた。


 ドラフトの沿岸は帝国艦隊の執拗な砲撃に晒され、

地面を、

家屋を焼かれて海を赤く染めている。

 そんな光景を目の前にして、俺は再び怒りを覚えた。


――容赦なく破壊されるピルスの国ドラフト。きっとこのままじゃドラフトはシュガーと同じ運命を辿ってしまう。


 許せなかった。

見逃せなかった。

そして怒った。

たぶんこれは正しい怒り。

悪を憎んで、みんなを守るための正しき怒り!

 俺は勢いよく立ち上がった。

決意と誓いを胸に秘めて、ピルスの顔を覗く。


 いつも元気で、でも凄く人を気遣うことのできる優しいピルス。

俺は意識を失って、静かに目を閉じている彼女の頬をそっと撫でた。


「ピルス、君が俺を引っ張ってくれたから、大会で優勝できたんだよ。君の一生懸命さと優しさがあったから俺はここまで来れたんだ。本当にありがとう。」


 そう告げて、俺は眠っているピルスの唇へ自分の唇を付けた。

微かに開いている口へ舌を差し込んで、

彼女の中を優しく撫でまわす。


「うう、んっ……むちゅ……」


 微かにピルスの体が震えた。

冷えた彼女の体がゆっくりと温まって、

もう十分だと感じた俺は、ピルスから唇を離した。

 そして今度は、隣に倒れていたランビックを見る。


 水で濡れた前髪が変な感じでおでこに張り付いていて、

せっかく可愛いランビックにはもったいないと思たから、

その髪を少し横へ流した。


「ラン。最初の頃はごめんね。君の気持ちに気づけなくて。君のみんなを想う気持ちに俺は心を打たれたよ。絶対に、絶対に君の国のシュガーを解放しようね!」


 ランビックの小さな花弁みたいに見える唇へ、自分の唇を添えた。

彼女らしく口はちょっと固く閉じられていた。

 でも俺が舌を差し込むと、

自然と彼女の口は受け入れてくれるように薄く開く。

仄かに熱を感じるランビックの口の中を丁寧に愛撫した。


「ちゅ……んっ……はむぅ……」


ランビックの体もまた熱を取り戻した。


『相互接続確認! 行け少年!』


 ブレスさんの声を聞いて俺は立ち上がり、

ピルスとランビックへ向けてテイマーブレスをかざした。


「獣神ブルーマーメイド、ローズフェニックスへ命ずる! 我が手中に収まり、我が下僕となりて、この世界ビアルを守りたまえ!」


 テイマーブレスから蒼と薔薇の輝きが迸って、俺の掌へ集中する。

二つの輝きは素早く臨界に達して、


「エクステイマーッ!」


 力の限り、想いを込めて叫ぶと、

輝きはピルスとランビックの胸へぶつかって消えた。

同時にテイマーブレスに嵌っていた蒼と薔薇の宝石の罅が修復され、

輝きを取り戻した。

 途端、二人をそれぞれの色をした輝きが包み込んで、

大きな爆発が起こった。


「へへっ! やったー! 今度はチートが……マスターが僕にチューしてくれたぞー! やったー! 嬉しー!」


元気よくピルスが立ち上がって、


「全く……寝込みを襲うなんて……でも優しくしてくれたから勘弁してあげるわ!」


ランビックは前髪を治しながら立ち上がる。


 俺たち三人は、同時に海の向こうでドラフトへ侵攻している

エヌ帝国の大艦隊を睨む。

 すると俺の手に二枚のテイマーカードが召喚された。


 1つは海を割り長い三又のトライデントを手にした上半身が鎧騎士、

下半身が魚の人魚マーメイドの獣神。

 もう1つは風の中で優雅に薔薇色の翼を広げて滑空する不死鳥フェニックスの獣神。


「行くよ! ピルス! ラン!!」

「「かしこまりました! マスター!!」」


俺は二枚のテイマーカードをブレスレットの溝へ連続して通した。


「ニド・ホドホ・ハケ・サオォーッ! 降臨せよ! 大海の獣神ブルーマーメイド、疾風の獣神ローズフェニックス!」


 テイマーブレスから蒼と薔薇の光があふれ出て、

ピルスとランビックを飲み込む。

そして輝きは急激に膨張を始めた。

 巨大な二つの影が、俺の背後に立つ。


【ルゥーン!】


トライデントを持った蒼い鎧の巨人は低い鐘のような鳴き声を上げて、


【キュアコォーン!】


薔薇色の鮮やかな二枚の翼を持つフェニックスは甲高い鳴き声を上げる。


結晶装着クリスタルメイル!」


 呪文を叫ぶと、

俺の身体にピルスと同じような鎧が装着された。


『三度目だが説明しよう! チート少年は獣神を目覚めさせ、一体になることによってギルドクラス評価を三倍に跳ね上げ、強大な力を発揮することが可能となるのだ!』


 俺は手に握られた長い氷のトラインデントを握りしめて、


「フェニックスは空から!」


 指示を受けてローズフェニックスは飛び出す。

 ブルーマーメイドは屈み込んで、掌を差し出してきた。

 俺がその上に乗ると、


【ルゥン!】


 マーメイドは思いっきり地を蹴った。

空中でマーメイドの足が、一瞬で魚のように変化する。

 俺とマーメイドは一気に海中へ潜った。


 マーメメイドは下半身の尾ひれを華麗にいで、海中を素早く潜航してゆく。

 水中なのに目は沁みなくて、息苦しくもなく、

まるで地上にいるみたいに身体が軽い。

やがて、俺の視界は帝国艦隊の巨大な艦艇部を捉えた。


 途端、海中にまるで前の世界のウニを思わせる、

金属の塊が沢山投げ込まれてきた。


『機雷だ! あの針に触れれば爆発をして一瞬で蒸発してしまうぞ!』


ブレスさんの注意を聞いて、一瞬頭の中を回転させる。


――あの間を巨大なブルーマーメイドが潜るのは難しい。だったら!


 俺は一人、マーメメイドの掌を蹴って、先行した。

 迷わず目の前に見える機雷群の中へ突っ込む。


「そらっ!」


 勢いよくトライデントを薙ぐ。

機雷の針は衝撃を感知して、水中で大きな爆発を起こした。

 だけど大海の獣神の加護を受けた俺の体は、まるで魚みたいに水中で

華麗に動いて、爆発をあっさりと回避する。


 既に海中は自分のフィールド。


 俺はトライデントを薙いで、次々と機雷を除去してゆく。

その間を俺とマーメイドは徐々に潜航して行くけど、機雷の投下は

なかなか収まらない。

 流石に数が多すぎて、骨が折れる。

そう思った俺はトライデントを意図的に凪いで、泡を発生させた。


「ライドロウィン!」


 トライデントを突き出すと、泡が一瞬で凍り付いてたくさんの氷の矢を

形作った。

 たくさんの氷の矢は海中を素早く先行して、浮かんでいる、投下されている

ありとあらゆる機雷を撃ち抜く。

海中にはたくさんの爆発が起こって激しく泡立つつ。

 その衝撃を利用して俺とブルーマーメイドは一気に海中から飛び上がった。


 海中から出ると目下にドラフトへ砲撃を加えていた、帝国の大艦隊を収める。

すると鈍色の艦隊の甲板で小さな何かが一気にたくさん動くのが見えた。


『対空迎撃が始まるぞ!』


 ブレスさんの声と同時に艦隊から針みたいな赤い弾が、

次々と俺とマーメメイドを狙って突き進んでくる。


【キュアコーン!】


 突然、俺たちの更に上空にローズフェニックスが現れて、

緩やかに翼を羽ばたかせた。

翼は幾つもの小さな竜巻を起こす。

 その竜巻は、まるで生き物みたいに空中で停滞している、

俺とマーメイドだけを避けた。

細い竜巻は滞空迎撃のために放たれた銃弾を全て絡めとって、

次々と海中へ落としてゆく。


「ありがとう! ラン!」


 そう叫ぶと、上空のフェニックスは少し首を縦に振って、

ドラフトの大陸を目指して滑空していった。

 滞空迎撃が止んだ隙に俺は艦艇の甲板へ降り立った。


【ギネェース!】


 甲板で警戒に当たっていた軍服のようなものを着たギネース兵が

一斉に脇に抱えたマシンガンみたいなものの引き金を聞いた。

 全方位、四方八方から銃弾が俺を狙って突き進む。

 だけど全然そんなの怖くない!


 軽々とトライデントを振り回せば、

銃弾は全て矛先で弾かれた。

逆に弾かれた銃弾は次々とギネース兵の手から、

マシンガンを撃ち落としてゆく。


「そぉらっと!」


 一気にトライデントを時計回しに振り回す。

すると、回りにいた全部のギネース兵の軍服が引き裂かれて、

マシンガンが手からすべて落ちた。

 回りにいたギネース兵はバタバタと倒れて意識を失う。

 包囲が解かれれた俺はトライデントを軸にして飛んだ。


「そらっ!」


 矛先を艦載の巨大な大砲の砲身へ過らせる。

俺の体よりも遥かに大きい砲身があっさり綺麗に切り取られて甲板へ落ちた。

 続けて踊るようにトライデントを振り回す。

その度に矛先は大砲や機銃を破壊して、甲板を炎上させる。

ギネース兵も次々と襲い掛かってくるけど、全く敵じゃない。


【ルゥーン!】


 ブルーマーメイドも水面を滑るように泳ぎながら、

手にしたトライデントで次々と

帝国の艦隊を沈めている。


 ドラフトの沿岸を席巻せっけんしていたエヌ帝国の大艦隊は、

次々と海の藻屑もくずとなってゆく。


【ヌーン!】


 その時、背後から黒い大きな影が落ちてきた。

踵を返すとそこには砲魔獣副将の一体:クラーケンが居た。

 奴の体が沢山の触手が飛び出してくる。


「キモイっ!」


 粘々した触手が足元を襲って気持ち悪い。

 なんとかトライデントで触手を切り裂きながら、攻撃を避けているけど

クラーケンの触手攻撃は全く止まない。


「わわっ!?」

『少年!!』


 クラーケンの触手がまき散らした粘液に足を取られて、

尻餅をついてしまう。

 目の前の巨大クラーケンの金色の目が強烈な光を宿す。


【ルゥーン!】


 そんなクラーケンの脇へ、

ブルーマーメイドが飛び着いた。


【ヌーンッ!】


 クラーケンは向きを変えて、

飛びついたマーメイドへ怪光線を発射する。

 でもマーメイドは咄嗟に、トライデントを掲げて光線を弾いた。


【キュアコォーン!】


 甲高い鳴き声と緩やかな風圧を感じる。

 俺の後ろにはローズフェニックスが滞空していた。


【ルゥーンッ!】


 マーメイドがクラーケンを取り押さえながら、

より強い鳴き声を上げると、


【キュアコーン!】


フェニックスは応答するように吠えた。


それがマーメイドからの「先に行って!」っていう合図だと確信した。


「ピルス! 気を付けて! 無茶しちゃダメだからね!」

【ルゥーンッ!】


 そう叫ぶと、マーメイドは更に力強い鳴き声を返してきて、

巨大クラーケンと一緒に海中に沈んだ。


俺はローズフェニックスへ向き直ると、


「シューティングフォーメーション!」


 呪文を唱えると、

今度は装備がまるで西部劇のガンマンのようなものに変わった。

 疾風の獣神の加護を受けた足の筋力は、

一気にフェニックスの背中まで身体を飛ばす。


「行くよ! ローズフェニックス!」

【キュアコォーン!】


 俺を背中に乗せた疾風の獣神ローズフェニックスは、

殆ど壊滅した帝国艦隊から飛び去った。


目指すはドラフトへ爆撃を仕掛けている帝国の空中戦艦群!


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