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四章14:会場へ向かって走れ!【後編】

 目の前に立ちふさがる見上げるほど大きいボウワのボス:ギガントボウワ。

奴の巨体が道を塞いでいて、通れそうもない。


俺とランビックをあざ笑うかのように太陽は刻々と昇って、

号砲の音は止まない。


【ブグフォォー!】


 ギガントボウワが激しい唸りを上げた。

 大きくて立派な四本の足で地面を蹴って、

強い揺れを起こしながらこっちに猛然と迫って来ている。


「超えるわよ!」

「う、うん!」


 俺とランビックは左右に散った。

ギガントボウワの進路は、


「や、やっぱ、俺ぇッ!?」

【ブグフォォー!】


 巨大な猪:ギガントボウワは荒い鼻息で、俺に接近してくる。

一生懸命逃げるけど、距離は縮まるばかり。


「エ、エターナル、ガトー!」


 俺は渾身の力を込めて、スキルを発動させた。

だけどギガントボウワは俺が精製した木の実になんて、

全く興味を示さないで蹴散らした。


【ブグフオォォォ!!】

「うわっ!?」


 ボウワの大きな影が、俺の頭上を覆いつくす。

 もうだめかと思ったその時、ボウワの顔に何発も風の弾丸が当たった。

 ボウワは動きを止めて、忌々しそうに視線を横へ傾ける。

そこには二挺の回転式拳銃を構えたランビックが居た。


「Set , Armstrong!」


 ランビックがそう叫ぶと、

二挺拳銃は大きなバズーカに変わった。


 勢いよく放たれた大きな風の砲弾。

だけどギガントボウワはランビックの風の砲弾を、

ものともせずに突進する。


「ランッ!」

「きゃっ!」


 突進の直撃を受けて、

ランビックの身体が紙切れみたいに宙を舞う。


「エターナルガトーッ!」


 思わず、俺はスキルを発動させて、ボウワへ木の実をぶつけた。

今度は忌々しそうな視線が俺へ傾いてくる。


――どうしようもない……だけど!


 俺はしっかりと地面を踏みしめた。


――ここで諦めるわけにはいかない!


 ここ一か月の記憶が蘇る。

ピルスとランビックと一緒にラフティングの練習をした日々。

ピルスの想い、そしてランビックの……ランの覚悟。

その全てに報いるにはラフティング大会に出て、三人で優勝するしかない!


 本当はギガントボウワが怖いし、どうにかできる自信は無い。

だけど、ここでなんとかできるのはもう俺しかいない。

俺は覚悟を決めた。


「こ、来い!」

【ブグフオォォォッ!】


 ギガントボウワは地面を思いっきり蹴って、接近してくる。

大きな地鳴りを起こしながら、トラックよりも何倍も大きな巨体が迫って来ている。

奴の速度は凄まじくて、俺に考える時間を与えない。


『わっしょい!』


 その時、ダンディーな男の人の声が聞こえたかと思うと、

テイマーブレスから光が俺の体へ流れ込んできた。


「そらっ!」


勢いよく地面を踏むと、

身体が軽々飛んで、ギガントボウワを目下の視界に収めた。


【ブグフオォォォ~~!?】


 急に狙う先を失ったギガントボウワは止まろうとする。

 だけどボウワは急に止まれない。

幾ら足を踏ん張っても、速度は落ちない。

ギガントボウワは思いっきり吹っ飛んで、

森の木々のなぎ倒しながら姿を消した。


【ブグ……ブフォォー!!】


 一瞬、森の木々が揺れて、ギガントボウワが起き上がると思ったけど、

結局奴は森の中から出てこなかった。


――なんだろ? 今の? 変な音が聞こえたような……


『Good morning! 少年! 良い朝だな!』


 テイマーブレスからブレスさんの元気な声が聞こえた。


「おはようございますブレスさん! ナイスなタイミングです!」

『HAHAHA! なんといっても私はテイマぁーブレぇス! ナイスで、ベストな少年の相棒だからな! さぁ、充電は完了した! 行くぞッ! 

「はい! お願いします!」

『うむ! 良い返事だ! では早速……えいや! わっしょい!』


 テイマーブレスから更に光が走って身体へ溶け込む。

なんだかいつも以上に身体が軽い。


『説明しよう! この私テイマぁーブレぇス! は寝起きが非常に良いのだ! 特に今回は深い、深かぁーい眠りだった。そのため寝起き直後の私の性能は普段の三倍となるのだ!』

「なるほど! まるで赤い塗装の角突き専用機みたいですね!」

『なんなら大佐と呼んでも良いぞ!』

「やっ、それはしません」

『チィッ!』


 俺は紙みたいに軽く感じる足で、

ランビックへ駆け寄る。


「いっつつつ……あれ? ボウワは?」


 ランビックは何があったのか良く分からん無いのか、

辺りをきょろきょろ見渡している。

さっきの体当たりは大したダメージじゃなかったみたいだ。

 俺はランビックへ手を伸ばすと、


「え?……ええっ!? きゅ、急に何よ!?」


 俺は軽々とランビックを抱きあげた。

いわゆるお姫様抱っこって姿勢だ。


「またまた俺の番だ! 今度はランがしっかり俺に掴まっててね」

「え?」

「行くよ!」

「きゃっ!」


 一歩踏み出すと、俺の身体はまるで弾丸みたいな速度で動いた。

ランビックは少し怖いのか、薄目を閉じて、俺の首にしっかりと掴まっている。

 俺はどんどん森の中を駆け抜けた。


 虫も鳥も、

他の動物も、

俺が走り去った後は何が、何があったんだ!?みたいな視線を向けてくる。

 内心森の皆さんにはお騒がせしてごめんなさいって、

思いながら駆け抜ける。

 野を越え、

丘を越え、

谷を下って、草原を突っ走る。


『少年! そろそろ制限時間だ! 一気に行くぞッ!』

「はい!」


 なんとなくブレスさんがジャンプしろって、

言いそうだと思って膝を深く折る。


「『えいやーッ!!』」


 俺とブレスさんは一緒に叫んで、そして飛んだ。

 身体は大きく跳ねて、

ジャンプって云うよりもむしろ飛んでいるに近い。

 高い木々の向こうには大きな湖が見えて、

その周りにはテントや人がひしめき合っている。

だけど俺の強化された視界はしっかりちゃんと捉えていた。

 入場ゲートに置かれている俺たちの蒼いゴムボート:ガロイン。

そしてその脇でキョロキョロ心配そうに周囲を見ているピルスの姿!


「ピル―スゥッ!」


 大声を張ると、ピルスの視線がこっちへ向かう。

 途端、彼女は本当に嬉しそうな笑顔を浮かべて、手を大きく振った。

 ランビックを抱いた俺は綺麗な孤を描いて、雄大な森を飛び越えた。

そして綺麗にピルスの目の前へ着地する。

 衝撃が物凄かったのか、

砂煙が上がって、他の周りの人たちは、

何があったんだみたいな視線を向けてくる。


「お待たせ! ピルス!」


俺がそう言いながらランビックを降ろしていると、


「チート! ラーン!!」


 ピルスは周りの視線なんてお構いなしで、

俺とランビックを強く抱きしめた。


「良かった! 良かったよー! 二人ともどこに行っちゃったのか心配だったんだよー! うわぁぁぁーん!」


 ピルスは子供みたいに大粒の涙を流しながら泣き始める。

 そんなピルスの背中をランビックはそっと抱きしめた。


「ごめんね、心配かけて。私が無茶して、昨日下流まで流されちゃったの。心配かけてごめんね……」

「良いよー! ランとチートが無事なら僕はそれで良いよー! うわぁぁぁーん!」


 後ろから三つの強い視線を感じて振り返る。

そこには相変わらず俺の背中を心配そうにみつめている、

ボックさん、エール、スーの姿があった。

 みんな土でドロドロに汚れていて、

服の色んな所には葉っぱや枝がくっついている。


――たぶん、みんな俺とランビックのことを探してくれてたんだろうな。だけどピルスは会場に向かわせた。そして起き上がろうとしていたギガントボウワを倒してくれたのもあの三人。たぶん、そういうこと。


 エクステイマーで刻まれた絆があるからこそ、

なんとなくだけど、でもそうしてくれたって分かる。


(あ・り・が・と・う!)


 口でそう形作ると三人は嬉しそうな笑顔を浮かべながら、

頷いて、そして姿を消した。


 俺は再び、未だ泣きじゃくっているピルスへ向き直る。

そして彼女の頭をポンポンと撫でた。


「さぁ、ピルス! ラン! 行くよ!」

「うん!」


 ピルスはぴょんと後ろに跳ねて距離を置き、涙を拭う。

彼女の顔は引き締まって、いつもの元気があふれ出ている表情に戻った。


「じゃあ二人とも! 行っくよー!」


 ピルスが手を差し出す。


「私たちの力、見せてあげましょう?」


 ランビックがその上に手を重ねる。


「ランの言う通り! 大会で優勝してドラフトとシュガーを解放するんだ!」


 最後に俺は手を重ねた。


「そういえばさ、ランいつの間にかチートと仲良しさんになったんだね?」


 突然、ピルスが悪戯っぽい笑みをランビックへ向ける。

 途端にランビックの顔が少し赤く染まった。


「な、なによ! ニヤニヤして!?」

「二人に何があったんだろなー、気になるなー」

「べ、別に何もな……」

『説明しよう! 少年は怪我をしたランビックを背負ってここまで来たのだ。その行為が、ツンケンしていたランビックの心の氷を融解させたのだ!』


っと、ブレスさんからの解説が挟まる。


「ツンケンってなによ!? 私は別に……」

『ふふん! このツンデレ娘め! ついにデレモードに入ったな!』

「なによツンデレって! 人のことバカにするのもいい加減に……!」

「まぁまぁランもブレスさんもそこまでそこまで」


少し長くなりそだったんで、間に入った俺だった。


「全く、このプリプリブレスは……」

『ふふん!』


 とりあえずランビックとブレスは引いてくれるのだった。

 気を取り直してピルス、ランビック、俺の三人は互いに視線を交わす。

そして、ピルスは思いっきり息を吸い込んでから、


「ぜーったいに勝つぞー!ガロイーン、ファイトぉー……」

『「「「オーッ!!!」」」』


俺たち三人とプラス一は心と声を合わせて気合を入れる。


――絶対に勝つ! ピルスとランビックのためにも!


俺は自分へそう強く言い聞かせながら、大会の入場ゲートを胸を張って潜るのだった。



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