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四章6:練習とガロインと初めてのラフティング


「じゃあ、ラフティングの説明をするねー!」


 水の国ドラフトの占有権をかけてのギルドと、

エヌ帝国のラフティング大会の受付を済ませたピルス、ランビック、そして俺の三人。

 受付を済ませた翌日、

早速ピルスはラフティング初心者の俺に基本を教えてくれていた。

 なので俺たちは今、ドラフトの海岸から少し進んだ山の中の川辺にいた。


「まずねーこれば僕たちのボート。名前はガロインっていうよー」


 相変わらず青いビキニスタイルのピルスは、

川辺には青いゴムボートが係留けいりゅうされていた船を指してそう云った。

 楕円上の青いボートで、

中を2本のベンチのように幅広いチューブが左右に通っている。


「ガロイン?」

『ふむ! ならば赤いボートはブライストで、必殺技はトゥインロードと言うのだな、HAHAHA』


またまたブレスさんは訳の分からないことを言っていた。


「ねぇ、ピルスなんでボートの名前がガロインなの?」

「さぁ? なんとなくー! 思いついたからー!」

「なんとなくって……」

「いつまで無駄話してる訳? 名前のことなんてどうでもいいじゃない」


 っと、横にいたランビックが鋭い声を上げた。

 彼女も既に水着姿――ピンクのフリルの着いた花柄のビキニとライフジャケット――

になっていて、準備は万端な様子だ。


「ランビック、貴方はどうしてそんな物言いをするのですか!」


俺が心配だからとついてきたボックさんが文句を言う。


「ツンツンするのは構わねぇが、マスターに対しての暴言は聞き流せねぇな!」


一緒に来ていたエールもランビックをジロリと睨んで、


「マス、ター、悪、くない!」


スーもまた文句を云っていた。


「まぁまぁ、みんな、確かに俺、ピルスと無駄話しちゃってたからさ。本当申し訳なかったです、ランビック」

「ふん! 分ればいいのよ分れば! さっ、ピルス続き!」


 ランビックがそう云うと、

苦笑いを浮かべてたピルスは表情を元に戻した。


「船の周りの部分はアウターチューブ、中にある2本の仕切りみたのがスウォートっていうから、これだけはしっかりと覚えてねー。じゃあ、まずは乗ってみよー」


と、いう訳で早速乗船。


「うわわっ!?」


 ボートに乗ると、案外足元が不安定で、よろめいた。


「おっと!」


だけどピルスが手を取ってくれて、なんとか姿勢を整える。


「ありがとう」

「いえいえー」


ピルスはそう云ってくれたけど、


「こんなのであんた大丈夫な訳?」


ジロリとランビックが俺を睨んだ。


――ランビックの目つきはエールとはちょっと違うけど、でも怖いなぁ……


なんだか胃の辺りがキリキリする俺だった。


「じゃあまず座ってみよー! えっとね、座る場所はアウターチューブだよ。チューブの上に灰色のラインが書いてあるでしょ? そこが座るポジションだよ!」


 言われた通り、アウターチューブの上をぐるりと走っている、

灰色のラインの上へ座る。

 丁度真ん中にあるから、思いのほか姿勢が安定した。


「あとスウォートには座らないでね、危ないから。これは船の強度を高めるためのもので座る場所じゃないからねー! だけど途中で怖くなって自然と身体が寄ってきちゃうことがあるけど、そこは我慢してね!」」


――なんとなく、スウォートに座るんだろう、って思ってたことは黙っておこう。

きっとランビックに凄く文句を言われそうな気がするから……



「で、両足のつま先をスウォートの下に思いっきり蹴り込んで足を固定して!」

「わかった! ……えいや!」


 ピルスの説明を聞いて、本当に思いっきり足を蹴り込む。

 すると両方のつま先がしっかりと、

スウォートの下に潜り込んで足がしっかり固定された。


「はぁ……そんな勢いで蹴らなくなって入るわよ。あんたバカなの?」


 ランビックが呆れてため息をつく。

思い返すと、確かにそんな勢いよく蹴り込む必要なんてなかったような気がする。

 そう考えると無茶無茶恥ずかしくて仕方がなかった。

だけど、


「良いよー! チート! その元気良いよー! じゃあ、この勢いのままパドルを握ってみよー!」


 ピルスがそう云ってくれて救われた俺だったのだった。


 ピルスは先端がT字になっている短いパドルを掲げて見せた。


「先端の T グリップに親指をかけて、包み込むようにしっかりと握ってねー。あっ、

チート、君の利き手はどっちー?」

「右だよ」

「わぁ! 丁度良いねぇ! なんか僕運命感じちゃう! ねっ? ラン?」

「えっ? ああ、まぁ、そうね」


ピルスの反応に対して、ランビックは微妙な感じだった。


「ならチートはTグリップは左で握って、シャフトには利き手の右を。たぶんその方が漕ぎやすいよ!」


 言われた通りしてみると、

確かに利き手の右手が割と自由に動いて漕ぎやすそうに感じた。


「どう?」

「うん! 結構いい感じかも!」

「良かったー! じゃあチート、君には船の右側、右舷をポジションにしてね! 実はランは左利きでさー。もしチートも左利きだったら、どうしようって思ってたけどこれで安心だ―!」


本当にピルスは喜んでるみたいだった。


「まぁ、左利きの方が少ないから。右の人の方が多いから。別にあんたが特別ってことじゃないから勘違いしないでよね」


 またまたランビックの鋭い突っ込み。

ランビックの言うことは当たり前っちゃ、当たり前だと思う。


「それでもこうやって僕たち三人はバランスよくチームを組めたんだ。これは奇跡、運命! 一緒にみんなで優勝目指して頑張ろうねー!」


 またまたピルスに救われた。


――きっと俺とランビックだけじゃ、空気は最悪になるんだろうな。


 あんまりランビックとは二人きりにならないようにしよう。

 そう思う俺だった。


「あのじゃあ、ピルスはどこを漕ぐの?」

「僕? 僕はねー両方さっ!」


なんかピルスの目が光って見えたような気がした。


「ピルスの運動神経は凄いのよ。つまりこの子は、私とあんたの足りない部分を補うために状況に合わせてポジションを変えるって云ってるの。まっ、せいぜいピルスを困らせないようしっかりすることね」


ランビックの言葉に、俺は苦笑いを浮かべることしかできなかった。


「あと僕が船頭をするから二人ともちゃんと指示聞いてね! とにかく僕がストップっていったら漕ぐのを止め、水から上げて膝の上において! それとTグリップは一度握ったら絶対に離さないこと! もし離してパドルが水の底の石とかに引っかかったらグリップがぶつかって怪我するからね。これ絶対に守って! 以上、基本の説明は終わり―! チート、なんか聞きたいことある?」


「大丈夫! ありがとうピルス!」


 ピルスの声に自然と返事を返す様になっていた。

こういう元気な子の傍にいると、こっちもつられて元気になる。


――ホント、ピルスって元気で良い子だよな。


かなりピルスには好感を抱く俺だった。


「あんた、幾らピルスが良い子だからって甘えるんじゃないわよ」


 っと、ランビックが俺の気持ちなんてお見通し、みたいなことを言った。

やっぱりランビックってなんとなく怖い。


「さぁて、じゃあ早速漕ぎだしてみよーう! 僕のイチ、ニィの掛け声に合わせて漕いでねー! まずイチでパドルを水面に沈める!」


言われた通りパドルを水の中に着けた。


「ニィで、思いっきり後ろへパドルを引いて漕ぐ!」


 Tグリップを強く握りしめ、

シャフトを掴んでいる右腕を同時に、思いっきり後ろへ引く。


「うぬっ!?」


 だけど予想以上にパドルが重くて、なかなか後ろに下がらない。


――水ってこんなに重いんだ!?


 ボートなんて今まで一回も漕いだことのない俺の正直な感想だった。


「このっ!」


だけど情けないところは見せられないと、両手に力を込めて、

パドルを思いっきり後ろへ引いた。


「うひゃっ!?」


 急に水の重さがパドルから無くなって体勢が崩れた。

俺の体はアウターチューブの上に倒れる。


『水面からパドルを上げてはダメではないか……』


 呆れ気味のブレスさんの声が聞こえる。


 ブレスさんの言う通り、何故かパドルは水面から上がっていて

俺からちょうど斜め四十五度位置の宙で止まっていた。


「何やってんの? バカじゃないの?」


 ランビックの冷たい視線と言葉が、グサリと突き刺さる。

すると、船首バウにいたピルスが近づいてきた。


「ちょっとごめんねー」

「え、ええっ!?」


 ピルスは俺の背中に回ると、身体をぴったり密着させてた。

 パドルを握る手にも彼女の細くて綺麗な指先がしっかりと重ねられる。

 胸はエールやボックさんほど無いけど、だけどはっきりと感じられる

 その柔らかさに俺の心臓は一気に跳ね上がった。


「な、ななな、ピ、ピ、ピルス!?」

「大丈夫! 漕ぐフォームは僕が教えるから! だからチートは安心して身体を預けてね!」


 だけど当のピルスはあっけらかんとそう云った。

何か物凄く意識してる自分の方が恥ずかしい気になってくる。


「チートはねぇ、腕だけで漕ごうとするからああなっちゃんだよ。パドルはねー、全身を使って漕ぐと良いんだよ!」


 ピルスは俺の耳元で囁く。

 元気が良くて張りのある声と、水を感じさせる爽やかなピルスの匂いは

俺の頭をかなりクラッとさせていた。


「じゃあ、行くよ! 僕に身体を預けて! せーのぉ、イチッ!」


ピルスが一気に上体を倒してくる。

押された俺も上半身を前へ大きく倒した。


「こっから上体を起こしながら思いっきりパドルを引くよー! せーのぉ、二ィッ!」


 ピルスと密着したまま同じことをすると、パドルは水面から外れないで

しっかりと水面を蹴った。


 ボートは少し進んでからクルリと半回転する。

俺はなんとなく、手応えのようなものを感じた。


「こんな感じだよ! じゃあもう一回やってみよう!」

「うん!」


 上手に漕げたことが嬉しくて、もうピルスと身体をくっつけ合ってることは

あんまり気にならなくなっていた。


「せーのおぉー、イチ!」


上半身を少し前へ押し込んで、


「ニィ!」

「おりゃ!」


 気合と共に上半身を使って、パドルを引く。

またまたパドルは綺麗に水を切って、ボートを少し進ませると半回転させた。


「上手い上手い! チート上手いよ!」

「ピルスの教え方が上手いからだよ!ありがとう!」

「あはは、照れるなぁー。あんまり褒めると嬉しくてチューしちゃうよ?」

「ええっ!?」


 顔の近くでいきなりそんなことを云われたら、

誰だってきっとドッキリする筈。


「うっそ冗談! そんな恥ずかしいこと僕できないよー!」

「だ、だよねぇ……」


 ちょこっと期待した自分が物凄く恥ずかしかった。


「チートってさ、色々反応してくれるから面白いんだぁ!」

「いや、俺、おもちゃじゃないんだけど……」

「あっははーごめーん! じゃあ冗談はここまでにしといて続きしよ?」


 ふとボートの向こうから、何かわんやわんやと声が聞こえる。

 岸の方を見てみると、


「チートさん! は、早くこちらへ! ま、摩力の流れが狂ってしまいますよ!」


ボックさんはそう叫び、


「てめぇ、こらピルス! どさくさに紛れて何してやがんだ!」


エールはバスターソードを掲げて吠えていて、


「マス、ター! めっ!」


スーもピョンピョン跳ねながら、怒っていた。


――いや、スー、「めっ!」って俺の責任じゃ……


「あんた達さっきからうっさいわよ! ピルスと私たちは真剣に練習してるんだから! 邪魔しないでよ!」


 ランビックがそう叫ぶけど、岸の三人は叫ぶのを止めない。


「ああ、もう!」


 ランビックは怒り任せに立ち上がると、


「シューティングフォーメーション!」


 彼女がそう叫ぶと、突然空の向こうから小さな竜巻が飛んできた。

竜巻は一瞬でランビックを飲み込んだ。

 そして竜巻が履けると、そこには水着から着替えたランビックがいた。


 色は全部鮮やかな桃色。

 だけど、テンガロンハット、ベスト、ポンチョにブーツ。

 タイトスカートの腰元には西部劇でおなじみ二挺拳銃が差さっているホルスターがあった。


「ッ!」


 ランビックは素早く左のリボルバー式の銃を抜く。

撃鉄を右の掌で素早く撃鉄ハンマーを撫でれば、装填数全6発のシリンダーが

素早く回転して、すべての弾丸を一瞬で押し出す。

 ランビックの銃弾が岸の三人の足元を撃った


「きゃっ!」

「ぬわっ!?」

「にゅー!?」


 岸の上の三人は踊るように飛び上がる。

 その次の瞬間にはもう、ランビックはもう片方の銃で、またしても岸の上の

三人へ向けて銃を撃った。

 またまた踊るように飛び上がって後ろへ下がる三人。


「あ、危ないではないですか!」


ボックさんは文句を言い、


「てめぇ、こらぁー! 飛び道具なんざ卑怯だぞ! 文句があるならこっち来やがれぇ!」


エールは無茶苦茶なことを云っていて、


「銃、人に、向けちゃ、めっ!」


スーも怒った声を上げていた。


「ちょ、ちょっとランビッ……ッ!?」


 流石にやりすぎだと思った俺はそう叫んだけど、

ランビックが鋭い視線で睨んできたから怖くなってつい黙ってしまった。


「Set , Armstrong!」


 ランビックは静かに呟いて、二挺拳銃をホルスターに収めて、

まるで神輿を担ぐみたいな姿勢を取る。

 突然、ボートが少し沈んだ。

 気づくとランビックは肩にバズーカ―のようなものを肩に抱えていた。


「あれ! や、やべぇぞ!」


 真っ先に危険性に気付いたのはエールだった。

 彼女はスーとボックさんの首根っこを掴んで、踵を返そうとする。

 ランビックはニヤリと笑みを浮かべて、引き金を引いた。


 バス―カーが火を噴いて、何かとてつもなく大きな何かの塊が

岸の向こうにいる三人へ向けて発射される。

 ボックさんとスーを掴んだエールはなんとか後ろの森へ逃げ込んだ。、

 だけどランビックが撃った砲弾は器用に森の木の間へ縫うように入り込んだ。


「ぎゃーッ!」


 森の向こうから爆発音とエールの叫びが聞こえる。

 突然、森の中から大きな竜巻が発生した。


「きゃあぁぁ~!」

「うわぁ~!」

「にゅ~!」


 ボックさん、エール、スーの三人は竜巻に飲み込まれてどこかへ飛んでゆく。


『説明しよう! 先ほどからランビックが放っていたのは全ての風の銃弾だ! 当たると痛いし、風が強ければ吹き飛ばされるが、絶対に死なない人畜無害な銃撃だぞ!』

「いや、全然無害じゃないような……」

「なんか云った?」


 ギロリとランビックが俺を見下す。


「な、なんでもありません!」

「ふん!」


 ランビックは冷たくそっぽを向く。

すると、彼女の着ていた衣装が風になって解けて元の水着姿になった。


「あははー相変わらずランは手厳しいねぇ」


 ピルスが苦笑い気味にそう云うと、


「邪魔だったし、うざかったし。こっちは真剣だし」

「そうだねぇ……」


ピルスは俺の耳元へ口を寄せると、


「ごめんね。後で僕からみんなに謝っておくから」


そう囁き終えると顔を上げた。


「よぉし! じゃあもう少しチートが漕げるようになったら早速練習に入ろー!」


 ピルスは元気よくそう宣言する。


――本当にピルスって元気で、気が利くいい子だな。


そう強く思う俺なのだった。


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