三章15:合体拳! 放て、獅子牙拳ッ!
ボックさんに続いて駆け抜けて、森を飛び出す。
すると、緑の国ラガ―の城壁を前にする広大な草原へ出た。
そこにはエヌ帝国闘魔獣軍団の団長サルスキーと、
もう一人の副将オークマスター、
操られているバンディットやバビットの群れ、
そして多数のスライム型魔獣ギネース兵が集まっていた。
「ゴーレム……ご苦労であった……クッ!」
サルスキーはゴーレムの残骸から飛び出た、
茶褐色の玉を強く握りしめた。
そして俺たちへ鋭い視線を向けて、一歩踏み出す。
しかし彼の横にいたオークマスターがサルスキーの前へ立った。
「団長は下がってるだぁ」
「しかし!」
「ゴーレムの恨みはオラに晴らさせて欲しいだぁ!」
オークマスターは手を振り上げた。
「行くだぁ!ゴーレムの復讐だぁ!」
【ギュイギュイ!】
【ギネースッ!】
オースマスターの指示を受けて、
バビットの群れと拳を構えたギネース兵が一斉に襲い掛かってきた。
「卑劣な!」
ボックさんは叫びながら拳を放つ。
だけどギネース兵の間に決まってタミング良く、
バビットが割って入ってくる。
そのためにボックさんの拳筋が勢いを無くして、
ギネース兵に有効打を与えられずにいた。
再三ボックさんに注意を受けたエールやスーもバ
ビットの群れに翻弄され、満足に戦える様子じゃない。
【ガルゥーンッ!】
「うわっ!」
俺へバンディットが襲い掛かってきた。
思いっきり横へ転がって、バンディットの牙を回避する。
「やるだぁ! 血祭りにあげるだぁ!」
オースマスターは夢中で指示を送っている。
その姿を見て、閃いた。
「スー! 俺をオースマスターへ投げろッ!」
力の限り、想いを込めて叫ぶ。
すると、スーは俺の方を向いて力強く頷くと、杖を俺へ向けて翳した。
杖から紫に光る紐のようなものが沸いて出て俺の体へしっかりと巻きつく。
「う、りゃあ!」
「うおっ!?」
スーが力いっぱい杖を引くと、俺の体が持ち上がった。
俺はちょっとビビりながら、綺麗な孤を描きながら宙を舞う。
「なんだぁ!?」
一瞬でオークマスターの背後へ降り立った俺は、
奴を羽交い絞めにすると、
「バンディット! 俺はここだ!」
【ガルゥーンッ!】
目を真っ赤に染めたバンディットが一気にこっちへ迫る。
「や、止めるだぁ!」
オークマスターが命じた時には既に、
バンディットは足の爪を向けていた。
俺は奴を背中から思い切り突き飛ばす。
「うぐわっ!」
刹那バンディットの鋭い爪と牙が、
オークマスターのわき腹を引き裂いた。
オークマスターがペタリと地面へ倒れ込む。
すると、バンディットやバビットの群れの目から赤い輝きが消失した。
【ガルゥ……? クッー!】
突然目の輝きを取り戻したバンディットが、
俺へ飛びついてくる。
鋭い牙の代わりにバンディットは長い舌で、
ぺろぺろと俺の頬を舐めまわしてくる。
「あは! くすぐったいって!元に戻ったんだな!」
【クー! クー!】
「だ、めッ!」
すると横からスーが突然抱きついてきた。
【ガルゥー! ウウッー!】
「がるぅー! ううっー!」
オークマスターの呪縛は解けても、
スーとは相変わらず仲の悪いバンディットなのだった。
「マスターやりましたね! さすがです!」
ボックさんが俺の横へ並んだ。
「ギネース兵はあらかた倒したぜ! 後はあのサル野郎だけだ!」
続いてエールが並んできてバスターソードを構える。
「オークマスター、貴様までも……」
正面のサルスキーは倒れたオークマスターを抱きあげていた。
「す、すまねぇだぁ、団長……最後に、頼む、だぁ……」
「オークマスター……」
「た、頼むだぁ! オラの命をゴーレムにぃ!」
強くオークマスターは叫ぶ。
「ま、待って!」
思わず俺は声を上げた。
サルスキーとオークマスターが、
なんだと言いたげな視線を向けてくる。
彼らの言葉のやり取りから、命にかかわることだと思った。
確かに目の前にいるのは敵。
そしてその原因を作ったのは俺。
だからどうしてもこのまま見過ごせなかった。
「最後とか、命とか、そんなこと言わないで! 今すぐ俺が……!」
俺がテイマーブレスを掲げると、
「情けは受けねぇだぁ!」
傷ついたオークマスターは、
サルスキーが驚く位の叫びを上げた。
「オラは拳士だぁ! こうなったのもオラが弱かったからだぁ! 弱いやつは強い奴に負けるだぁ! それが当たり前だぁ! 情けなんてかけて欲しくないだぁ!」
「で、でも……!」
「黙るだぁッ! オラは拳士の宿命に殉じるって決めただぁ!」
オークマスターの激しい気迫に、
俺は気圧されてしまった。
そんな俺の肩をボックさんはそっと抱いて、
首を横へ振る。
「ボックさん、俺……!」
「これは戦いです。仕方のないことです。マスターが気になさることはありません。それに私も、一人の拳士としてあの魔獣の気持ちは分かります……」
「……」
「ですけど、マスターの御心もまた尊いものだと私は思います。真実は存在によって様々。マスターはマスターが信じた道をお進みください」
「……わかりました」
俺は大人しくテイマーブレスを下げた。
未だ、オークマスターの気持ちを完璧に理解できたわけじゃない。
だけどアイツは、助けではなく、死を望んでいるのが分かった。
痛いくらい伝わってくるその気持ちを素直に叶えさせたい。
それだけはしっかりと俺の心にあった。
「団長! さぁ、早く!」
サルスキーは静かに頷いて、
オークマスターを地面へ寝かせた。
「すまぬな」
「団長と一緒に戦えてオラ幸せだったぁ……さぁ、早くするだぁ!」
「今までご苦労だったオークマスター。ゆっくりと休むが良い」
サルスキーは、拳をオークマスターの腹へと突き刺した。
一瞬、オークマスターの体がビクンと震える。
だけどすぐに首をもたげて動かなくなった。
そんなオークマスターの腹の中から、
サルスキーは茶褐色の玉を引きずり出した。
二個の玉を手にしたサルスキーはゆっくりと立ち上がって、
手を組み、姿勢を正して、そして、
「イナジャ・ンモムノ・テンナケサ! ……いでよ! 岩巨人コウボッ!」
サルスキーが叫ぶと、奴の背後へ亀裂が走ってゆく。
突然、大きな地鳴りと振動が起る。
そして突然サルスキーの背後にソレは地面を割って現れた。
空をも貫きそうな巨体。
俺たちの目の前には見上げるほど巨大な岩の巨人が姿を現していた。
「蘇れ! ゴーレム! 拳士の意地を見せるのだ!」
サルスキーはコウボに向けて、
ゴーレムとオークマスターの玉を投げる。
すると岩の巨人が変化を始めた。
ゴツゴツとした岩の表面が変化を始めた。
【ウガ―!】
岩の巨人は巨大なゴーレムに変化していた。
続けてサルスキーは天高く腕を振り上げた。
「偉大なる盟主帝王エヌよ! 今一度立ち上がった我が軍団員にその力を貸したもう!」
サルスキーの叫びが木霊する。
《良かろう! 裏世界に引きずり込んでやる!》
空が不自然に歪んだ。
これまで感じたことの無い、嫌過ぎる予感を得る。
すると空の中から、巨大なガントレットを付けた腕が現れた。
俺、スー、エール、そしてボックさんは叫ぶまもなく、
大きな手に掴まれてしまう。
そしてすぐに、不気味な空間へ投げ出された。
『またしても裏世界か……気を付けろ!』
ブレスさんの声を聞いて辺りを見渡す。
この間とは違い、そこはボロボロに朽ち果てた闘技場だった。
空は不気味な色でねじ曲がっているようにみえる。
そこへ巨大なサルスキーの上半身が映った。
「良いか! ゴーレム! ここが貴様の最後の闘技場だ! 必ずや奴らの首級をあげるのだ!」
サルスキーの言葉を聞いて、
巨大ゴーレムは強く頷く。
【ウガ―ッ!】
ゴーレムの拳が大地を割った。
「うわわわっ!?」
巨大な剛腕から放たれる衝撃波凄まじく、
俺の体は紙切れのように宙を舞う。
だけどすぐにボックさんが飛び出してきて、
俺を抱きとめてくれた。
「す、すみません」
地面へ降り立った俺はボックさんへお礼をいう。
「気にしないでください。それよりも!」
俺とボックさんは揃ってゴーレムの巨体を見上げる。
その時、テイマーブレスが緑色の輝きを放った。
ブレスを掲げて見てみれば、緑色の輝きを放つ一枚のカードが浮かび上がる。
大地を踏みしめ、雄々しく佇む獅子が描かれた、
テイマーカードだった。
――これなら勝てる!
俺はそう踏んだ。
「行きますよ、ボックさん!」
「はい!」
俺とボックさんは、ゴーレムを再び見上げた。
「ニド・ホドホ・ハケ・サオォー! 復活せよ! 大地の獣神グリーンレオ!」
呪文と共にテイマーカードをテイマーブレスの溝へ素早く通す。
すると光に包まれたボックさんの体が、広がり、膨張して、
巨大な形状を形作ってゆく。
【ガオォォォオンッ!】
目の前に現れたのは巨大な獅子だった。
まるでライオンのような緑色をした逞しい鬣が煌びやかに揺れている。
そんなグリーンレオを見上げていると、頭の中に一つの言葉が浮かんだ。
「着鋼ッ!」
ボックさんと同じようにそう叫ぶ。
【ガオォォーン!】
するとグリーンレオが吠えて、
鬣から四本の緑の光が飛んできた。
それは俺の両手足で渦を巻いて、翡翠に輝く、
雄々しい手甲と脛当てに変わった。
身体の底から力が漲って来るのが分かる。
『説明しよう! グリーンレオと、いや、ボックと心が一つになった時、少年は化身が使っていた武器が使えるようになり、クラス評価も三倍になるのだ!』
「二回目の丁寧な説明ありがとうございますブレスさん!」
『いざ往かん! ビアルを守る戦いへ!』
「行くよ! グリーンレオッ!」
【ガオオォォーンッ!】
俺とグリーンレオは同時に走り出す。
【来イッ!】
巨大ゴーレムは拳を構えた。
巨大ゴーレムは地響きを起こしながら、
拳を構えて突撃を仕掛けてくる。
【ガオォォォン!】
ゴーレムへ巨大な緑の獅子:グリーンレオが体当たりを仕掛けた。
【ウガーッ!?】
ゴーレムは拳を弾かれて、体勢を崩す。
俺は拳を構えて飛んだ。
グリーンレオの肉体強化のおかげで、
すぐにゴーレムの顔のところまで達する。
空中で身をひるがえし、
「そらっ!」
巨大なゴーレムに対しては、
圧倒的に小さな俺の拳の裏拳が奴の頭を横に殴る。
拳に感じる確かな手応え。
ゴーレムの巨体がバランスを崩す。
その隙を見逃さず、俺はボックさんのように肘鉄を思いっきり、
ゴーレムの顔面へ叩き込んだ。
【ガ―――ッ!?】
巨体は思いっきり突き飛ばされて、コロシアムのスタンド席を
崩しながら倒れ込む。
俺は静かに着地した。
「獅子拳奥義・獅子旋風拳打たせて頂きました、ありがとうございました!」
俺は自然と、ボックさんのように礼を尽くしていた。
ボックさんの拳の力を借りている今の俺だったら分かる。
――ゴーレムもまた、自分の拳に掛けて全力でぶつかり合っている。
こいつは敵だけど、でも拳士としてのそのまっすぐな想いには拳で正直に答えたい!
『少年よ! 油断するでない!』
ブ レスさんの叱咤が聞こえた。
【豪魔獣拳奥義!追従飛翔拳!】
背後に圧倒的な圧力を感じる。
振り返ると左腕を掲げたゴーレムが腕を発射していた。
既にゴーレムの腕は俺の目の前まで迫っている。
その時、脇からグリーンレオが飛び出してきた。
【ガオォォーン!】
グリーンレオの牙は俺へ突き進んでいた、
ゴーレムの腕に喰らいついた。
牙がゴーレムの腕をあっさりと砕く。
【コウナレバ最後ノ手段! ウガァァァァーッ!】
立ち上がったゴーレムが叫ぶ。
すると奴の体が分裂を始めた。
ゴーレムの巨体は大小様々な石の塊に変化する。
そしてそれは竜巻のように渦を巻きながら迫ってきた。
竜巻は急に広がったかと思うと、俺とグリーンレオを中心に円を描く。
途端、周囲を取り囲む渦から大小様々な岩が飛び出してきて、俺達を襲う。
様々な方向から繰り出される岩の勢いは凄まじい。
だけど俺とグリーンレオは踊るような綺麗なステップを踏んで、
岩の応酬を避け続ける。
――何か方法は!?
そう考えながら岩を避け続けていると、見えた。
俺たちの周囲を取り囲む岩の渦の一角。
そこに見え隠れする茶褐色の玉が浮かんでいた。
「行くぞぉ! グリーンレオォッ!」
【ガオォォーン!】
俺の想いの籠った叫び、
グリーンレオは応答の咆哮を上げた。
【押シツブス!】
刹那、ゴーレムの声が聞こえた。
俺たちの左右から、ひと際大きい岩が飛び出してくる。
最初に飛んだのはグリーンレオの方だった。
グリーンレオが地面を踏みしめ、地面を割りながら高く飛ぶ。
【ガオォォーン!】
グリーンレオがグリルと身体を横へ凪ぐと、
左右から迫った巨大な岩を跳ね除けた。
グリーンレオは着地すると、
立派な四肢で地面を踏みしめた。
【ガオオォォォォンッ!】
とてつもない咆哮が辺りに響く。
その咆哮は衝撃波となって、周囲を囲む岩の渦へ真っ直ぐと突き進んでゆく。
衝撃波は岩の渦にぶつかって、中の大小様々な岩を粉砕した。
渦の勢いが弱まる。
ラッキーなことに茶褐色の宝玉の周りには細かい石の粒しか集まっていない。
「はあぁぁぁぁー……」
どうしたら良いのか、自然と理解した俺は右の拳を脇に構えて、
呼吸を整える。
意識をすべて拳に集中させる。
ボックさんのようにしっかりと地面を踏みしめ、そして
「獅子牙拳ッ! つりやぁッ!」
裂ぱくの気合を込めて、拳を突き出した。
すると、俺の正面に立つグリーンレオが緑色に光輝いた。
【ガオォォォォオーン!】
グリーンレオは俺の拳となって、突き進む。
あらゆる岩をグリーンレオは粉砕して進み、そして大きく口を開いた。
拳となって飛んだ緑の獅子の牙が、茶褐色の玉へ噛みつく。
そして強靭が顎の力で固そうな玉を粉々に砕いた。
俺たちの周囲に渦巻いていた岩の渦が突然、
動きを止めて次々と落下を始める。
裏世界の闘技場に静けさが戻る。
そこで俺は姿勢を正し、
「ありがとうございました!」
【ガオォォーン!】
俺とグリーンレオは揃って挨拶をするのだった。
すると、裏世界の空が、ガラスが割れるように綻びを見せた。
ガラガラと音を立てながら裏世界の風景は崩壊を始める。
そして俺たちは裏世界から元の草原に戻ったのだった。
「ふふっ……くっははははは!」
正面に佇んでいた闘魔獣将サルスキーは高笑いを上げる。
そして奴は、鋭い構えを見せた。
「良くぞ我が闘魔獣軍団を破った!その実力に敬意を表し、このサルスキーが直々に相手をしよう!」




