三章14:復活! 大地の獣神グリーンレオのボック!
走りだそうとした俺たちの前へ、
ボックさんが降り立ってきた。
「ナイト、オブファイヤー!」
俺の前に立ったスーはすぐさま、
ボックさんへ向けて紫の火炎を放出する。
しかし炎が履けた先にボックさんの姿は無かった。
嫌な予感を感じた俺は、
「ブレスさん!」
『分かった! えいや!』
ブレスさんに肉体強化をして貰って、
スーを後ろから抱きしめて前へ飛んだ。
刹那さっきまでスーが立っていたところに、
ボックさんの鋭い拳が叩き込まれていた。
拳は地面を大きく凹ませて、
彼女の拳の破壊力が尋常ではないことを示している。
――ダメだ! スーと俺が束になっても敵わない!
俺の手がベルトの脇に伸びる。
スーやエールを獣化させるテイマーカードを取ろうとしたが、
「させません!」
ボックさんが地面を蹴って、
一気に距離を詰めてきていた。
獣化させる呪文を唱えるどころか、
テイマーカードを取る間さえ今はない。
「マス、ター!」
しかし突然スーが俺とボックさんの間に飛び込んで来た。
「獅子爪拳!」
「あうっ!」
ボックさんの鋭い右フックが、
杖を翳したスーを紙切れのように吹き飛ばした。
「スーッ!」
『少年!』
ブレスさんの声を聞いて、後ろへ飛び退く。
ボックさんの左フックが空気の刃を発生させて、
俺の前髪を数本散らせた。
肉体強化をして貰っているおかげで、
辛うじてボックさんの拳をバックステップを踏んで避けることができる。
だけどそれ以上は無理。
俺はただ避けることしかできず、手も足も出ない。
「ボ、ボックさん! 目を覚ましてください! 止めてください!!」
しかし言葉をぶつけても尚、
ボックさんの拳は延々と俺を狙っていた。
――肉体強化の時間制限までもうほとんど時間がない!!
頼みのエールは依然ゴーレムに足止めをされていて、
その場から動けずにいる。
『少年! もはや一刻の猶予も許されん! 至急、ボックの獣神晶を修復するのだ!』
「で、でも!」
一瞬、俺は立ち止まってしまった。
するとボックさんは素早く背中を見せる。
「ぐっ!」
刹那、振り向きざまの鋭い裏拳打ちが俺の頬を強打した。
ボックさんの強烈な一撃は、一瞬視界を真っ白に染める。
全身は激しい悪寒を得た。
鋭利な殺気が全身を駆け巡って、
心臓の鼓動が一瞬で頂点まで上り詰める。
――ここまでなのか……!?
しかし一撃必殺のボックさんの肘鉄は、
俺の腹へ叩き込まれていなかった。
「……!」
俺に背を向けているボックさんは、
両腕を紫に輝く紐のようなもので拘束されて
大きく胸を開いていた。
「マス、ター! 早、く……!」
スーは杖から放出した紫に輝く光の紐で、
ボックさんを拘束していた。
「離しなさい!」
ボックさんが腕の拘束を解こうと身体を激しく動かす。
「は、離さ、無い!」
スーは懸命にボックさんの力に負けまいと踏ん張って、
光の紐を引き続ける。
だけど、体格で勝るボックさんの力に、
小柄なスーは次第に引かれ始めていた。
『今だ少年! スーの作ってくれたチャンスを無駄にするんじゃない!』
ブレスさんの声が響く。
俺は決断した。
「うわぁぁぁぁぁーーー!」
勢い任せに地面を蹴った。
スーの光の紐から逃れようとするボックさんの背中へめがけて俺は走る。
「捕まえた!」
「ッ!?」
ボックさんへ後ろから抱きついた瞬間、彼女の顔が俺の方を向く。
絶好のチャンスだった。
「ボックさん!」
「ッ!!??」
俺はボックさんの後頭部を右腕で押さえつけて、
彼女の唇へ自分の唇を強引に押し当てた。
そのまま、一気に舌をねじ込もうと試みる。
だけどボックさんは歯を固く閉じられていた。
なんとかこじ開けようと、舌を這わせたけど、
ボックさんの歯は一向に開かない。
ただいたずらに俺とボックさんの唾液が混じり合うだけ。
『ええい! こういう時はこうするのだ!』
突然、ブレスさんが叫んだかと思うと、
ボックさんの腹の辺りを抑えていた左腕が勝手に動き始めた。
左腕がボックさんの上半身まで上ると、掌が大きくパーに開く。
そのパーは、迷いもせずにボックさんの大きな胸に吸い付いた。
勝手に指先に力が入り、左手の指先に凄く柔らかくて、
凄く気持ち良いボックさんの胸の感触を感じた。
「あっ……!」
ボックさんが色っぽい声を上げる。
瞬間、口の中への侵入を固くなに拒んでいた歯が開いた。
「いひまふ! (行きます!)」
「んっ!」
俺はボックさんの口の中へ舌をねじ込んだ。
温かいボックさんの口の中を舌で弄ると、すぐに彼女の舌に当たった。
少し弾力があって、シルクのように滑らかなボックさん舌を、
ゆっくり、丁寧に、優しく、包み込むように扱く。
「んっ、んはっ、くちゅ……んっ……んちゅ……!」
俺とボックさんの舌が絡み合う度に、
彼女は熱い吐息を漏らして、頬を赤く染める。
次第に彼女の体から力が抜けて行く。
ボックさんの口の中は、エールの時みたいに熱を持った。
『相互接続確認! もう十分だ! 早く止めたまえ!』
エールの時よりも明らかに怒りの籠ったブレスさんの合図が聞こえた。
俺は少し名残惜しさを感じつつ、ボックさんから唇を離した。
彼女の背中へ向けてテイマーブレスの嵌められている右腕を突き出す。
「獣神グリーンレオへ命ずる! 我が手中に収まり、我が下僕となりて、この世界を守りたまえ!」
テイマーブレスから緑色の輝きが迸って、俺の掌へ集中する。
緑色の輝きは素早く臨界に達して、
「エクステイマーッ!」
力の限り、想いを込めて叫ぶと、
緑色の輝きはボックさんの背中へぶつかって消えた。
同時にテイマーブレスに嵌っていた緑色の宝石の罅が修復され、
輝きを取り戻した。
スーが拘束を解く、とボックさんは一瞬膝を突く。
だけど、すぐに立ち上がって踵を返してきた。
ボックさんの目はもう元の色に戻っていた。
「チートさん、申し訳ありませんでした。私は皆様へなんてことを……」
ボックさんは申し訳なさそうに顔を顰めていた。
「これでお相子ですよ」
「えっ?」
俺がそういうとボックさんが顔を上げた。
「俺もボックさんにたくさん迷惑かけましたからね! だから俺も同じようにボックさんを助けただけですよ!」
「チートさん……いえ、マスター!」
俺はボックさんの手を取って、強く握りしめた。
「さぁ、一緒に戦いましょう!」
俺がそう言うと、ボックさんも強く握り返してきてくれて、
「はい! マスターのおかげで全てを思い出しました! 私はビアル五獣神の一匹、大地の獣神グリーンレオ!」
「ぐわっ!」
その時俺たちの目の前へ、
ボロボロのエールが倒れ込んできた。
「エール!」
「エー、ちゃん!」
俺とスーはエールのことを抱き起こす。
「す、すまねぇ、大口叩いておきながらよ。あいつ、属性が大地であたしとの相性最悪だったんだ」
「獣神トハ、コノ程度ナノカ?」
ゴーレムの巨漢が俺たちへ黒い影を落とす。
そんな俺たちの前へ、ボックさんが立った。
「マスター、ここはこのグリーンレオのボックにお任せを!」
「分かりました! お願いします!」
俺がそういうとボックさんは嬉しそうに微笑んでくれる。
だけどすぐに顔を引き締めて、ゴーレムの方を向いて姿勢を正した。
「獅子拳三代目師範、そして大地の獣神グリーンレオのボックです! よろしくお願いします!」
ボックさんがいつも通り挨拶をすると、
ゴーレムの目が赤く輝いた。
「豪魔獣拳、エヌ帝国闘魔獣軍団副将ゴーレム! 宜シクオ頼ミ申シマス!」
戦い前の挨拶を追えたボックさんとゴーレムはお互いに構えた。
「オークマスターノ呪縛ヲ逃レルトハ流石獣神ダナ!」
ゴーレムの言葉を聞いてボックさんはニヤリと笑みを浮かべた。
「マスターの慈しみのお心の賜物です!」
「面白イコトヲ云ウヤツダ!」
「さぁ、お喋りはここまでです! 始めましょうか!」
「コイッ!」
ボックさんとゴーレムは同時に地を蹴って、
お互いの距離詰めた始めた。
大地の獣神グリーンレオとしての力を目覚めさせたボックさんは、
地面を蹴って、対峙するゴーレムとの距離を詰める。
「豪魔獣拳奥義! 追従飛翔拳!」
ゴーレムは両腕をボックさんに向けて叫ぶ。
途端、奴の肘から上が外れて矢のようにボックさんへ突き進む。
しかし、ボックさんは綺麗に跳躍してゴーレムの腕を避けた。
「ガ―ッ!」
ゴーレムが頭を上げると、飛ばした腕が急激に方向を変えて、
空中に停滞しているボックさんを狙う。
「ボックさん!」
危ないと思って俺は思わず叫んだ。
だけど空中にいるボックさんは笑っていた。
「はぁっ! はっ!」
ボックさんは華麗にワンツーパンチを放った。
テンポよく左・右とボックさんの拳はゴーレムの腕を打つ。
彼女の鋭く、そして重い拳は岩でできたゴーレムの腕をあっさりと砕く。
「ウガーッ!」
すると両腕を砕かれたゴーレムは、
頭をボックさんへ向けて地面を強く踏んだ。
ゴーレムの巨体が軽々と宙へ飛び、ボックさんへ向けて突き進む。
「くっ!」
ボックさんは辛うじて、
手でゴーレムの文字通りの石頭を受け止めた
「押シツブス!」
突然、ゴーレムの足の底から炎が噴出した。
まるで前の世界でみたロケットのようにゴーレムは噴出した炎を推進力にして、
ボックさんを押し切ろうとする。
ボックさんは一瞬、ゴーレムの頭から手を離した。
そしてすぐに、奴の頭を抱きかかえた。
彼女の腕がゴーレムの頭を万力みたいに締め上げる。
ゴーレムの頭に罅が浮かんだ。
「獅子腕破壊ッ! 砕け散りなさいッ!」
「ウグ!? ヌヌヌッ……!?」
ボックさんの腕がゴーレムの固そうな頭を粉々に砕いた。
ゴーレムの岩の巨体が地面へ落下する。
しかし頭と腕を失っても尚、ゴーレムは立ち上がった。
ボックさんは綺麗に着地する。
そして大地をしっかりと、力強く踏みしめて拳を構えた。
「はぁー……ふぅー……」
ボックさんは目を閉じて、静かに呼吸を整える。
それを隙と感じたのか、頭と腕を失ったゴーレムがボックさんめがけて走り出す。
だけどボックさんは未だ目を開けない。
ゴーレムの巨体がボックさんへ黒い大きな影を落とす。
瞬間、ボックさんは目を開いた。
「つあぁっ!」
「ッ!!」
裂ぱくの気合が籠った正拳突きがゴーレムの腹を力強く穿った。
ゴーレムの腹から罅が全身へ行き渡る。
そして岩の塊だったゴーレムの身体が一瞬で、バラバラに砕けたのだった。
ボックさんは拳を引いて呼吸を整え、挨拶の姿勢を取る。
「獅子拳奥義が1つ獅子正拳打たせていただきました。ありがとうございました」
圧倒的な強さでボックさんは、
あっさりとゴーレムを倒してしまった。
だけど、倒したゴーレムの残骸から茶褐色の玉が飛び出して、
森の向こうへ消えてゆく。
ボックさんの長い耳がピクリと動いた。
「未だです! みなさん、追いましょう!」
ボックさんは走りだし、俺たちも続いた。




