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三章13:侵攻! エヌ帝国闘魔獣軍団!

 

 俺たちは先に森の中へ駆け込んだバンディットを追っていた。

 既にバンディットの姿は見えない。

だけどあの子が走って作った、草を踏み潰した後を追って、

俺たちは森の中を進んでゆく。


 森の中へ飛び込むとすぐさま異変に気が付く。

昨日まで静かだった森が、にわかに騒がしいように思えた。

微かに聞こえる動物の唸り声のような音は俺に嫌な予感をもたらした。


「止まれッ!」


 エールは真っ先に飛び出して、バスターソードの面を翳した。

言われた通り、俺たちは走るの止める。


【ギュイッ!】


 何か柔らかいものがエールのバスターソードにぶつかって、落ちた。

それは昨日森の中で心無いギルド構成員に殺された、

ウサギのような動物:バビットだった。


【ギュイッ!】

【ギュイッ!】

【ギュイッ!】


 不気味な唸り声が辺りから聞こえる。


「何だよ、これ……!?」


 エールがバスターソードを正眼に構え直す。

視界が開けて、目の前に数えきれない程のバビットが集まっているのがみえた。

瞳は何故か充血したように真っ赤に染まっていて、

不気味な唸り声を上げながら、こちらをジッと睨んでいる。


「避けろっ!」


 エールが叫ぶのと同時に、

バビットは固そうな齧歯を翳しながら一斉に飛びかかってきた。

 俺たちは散り散りに飛んで、小動物の体当たりを避ける。


「この、バビットの癖に!」


エールはバスターソードを薙ごうと構えたが、


「待ってください!」


ボックさんがエールの腕を取った。


「んだよ、ボック! 離せ!」

「離しません! 貴方、何をなさろうとしていたのかお分かり……!?」


しかしバビットが二人の間に割って入り、分断した。


「うわっ! ひゃっ!」

『良いぞ! その調子だぞ少年! 避け続けるのだ!』


 俺もまたバビットの体当たりを避け続けていた。

跳躍力は凄いけど、動きは少し鈍い。

だから俺でもなんとか、辛うじて回避できていた。


「うっざっ、たい!」


スーも顔をしかめながらバビットの体当たりを避けていた。

そんな中、スーは杖を掲げた。


「プロ、テクトッ!」


スーの叫びに呼応して、杖から円形の紫の光の幕が湧き出た。

その光は俺やエール、そしてボックさんをドーム状の幕で覆う。


【ギュイッ!?】


 バビットの群れはスーの展開した紫の幕へ、突撃する。

しかし幕はバビットの体当たりを防いだ。

 どうやらスーは防御陣を展開したみたいだった。

だけどバビットの群れは次々とスーの展開した防御陣へ突撃を仕掛けている。


「おい、ボック! ここのバビットはこんなに狂暴なのかよ!」

「い、いえ、そんなことは……」


 エールの質問に答えているボックさんは戸惑いの表情を浮かべていた。

その時、ボックさんの耳がピクリと反応を見せる。


「着鋼ッ!」


 ボックさんが鋭い叫びを上げて、手足を装甲で覆う。

 刹那、スーの防御陣を、森の奥から飛び出してきた何かがあっさりと突き破る。

 それに向かってボックさんは装甲で覆われた右腕を掲げた。

防御陣を突き破った何かが、ボックさんの右腕に噛みつく。


【ガウルゥー! ウウッー!!】

「バンディット!? どうして!?」


 ボックさんの腕に噛みついていたのは、バンディットだった。

バンディットもまたバビットの群れと同じように目を真っ赤に染めていた。


【ガウッ!】


 突然バンディットはボックさんの腕から離れた。

木々の間の木漏れ日がバンディットを照らして、

彼女の全身に薄らと細い糸のようなものが絡まっているように見える。

 スーの防御陣へ次々と突撃を仕掛けていたバビットの群れも、

波が引くように後ろへと下がってゆく。


「見つけたぞ!」


 凛とした男の声が聞こえた。

 俺たちは揃って方へ視線を向ける。

バビットが群がり、バンディットが横に着く森の木々の間から、

ぼろぼろのローブを羽織った三人の男が姿を見せた。


 背筋を伸ばしている身長の高い男を中心に、

小さくて背筋の曲がった奴が左側、

そして他の二人も遥かに大きい奴が右側に並んでいた。


「この匂いは……てめぇがエヌ帝国の奴だな!」


 エールはバスターソードを構えて叫ぶ。

 木々の間から現れた三人の内、

真ん中にいた奴がはローブを投げ捨てた。


「如何にも! 俺はエヌ帝国三魔獣将が一人サルスキー!」


 ローブの下からは現れたのは、

大人の大きさ程もある鎧を着たキツネザルだった。


「ヒヒッ! オラは副将オークマスターぁ!」


 左側の奴がローブのフードを取って、緑色の肌をした、

豚か猪のような不気味な顔を晒した。


「同ジク、ゴーレムッ!」


 最後にローブを脱ぎ捨てた奴の身体は、

全身が岩でできていた。


「「「我ら、豪魔獣拳の使い手、エヌ帝国闘魔獣軍団! 宜しくお頼み申します!」」」


 目の前に現れたエヌ帝国の三人組はボックさんのように、

姿勢を正して挨拶をした。


「てめぇ、挨拶なんてふざけた……」


 エールは直ぐにでもバスターソードで切りかかろうと踏み込む。

 だけどそんなエールをボックさんが腕で制した。

ボックさんはオークマスターの前へ立つ。


獅子拳レオマーシャル三代目師範ボックと申します。宜しくお願い致します!」


 ボックさんも闘魔獣軍団へ挨拶をした。

でもボックさんの表情は和らがなかった。


「拳士としての礼儀はわきまえているようですね。ですが、その割には随分と非道なことをなさるのですね?」


 ボックさんが言葉にとげを含ませてそういうと、

真ん中にいる闘魔獣将サルスキーが一歩前に出た。


「俺たちは一人の拳士であるまえに、帝王エヌに忠誠を尽くす戦士だ! 卑怯と言われようとも構わん! これが我らが創造主帝王エヌの御意志だからだ!」


 サルスキーは高らかにそう云う。


「帝王の意思? 動物を操り、私たちを襲わせるようなことがですか?」


 ボックさんは厳しい眼差しを、

サルスキーへ送ったまま、そう返した。


「なんとでも言うが良い! 俺は、ただ帝王の御意志を遂行するために動くだけだ! やれ、オークマスター!」

「ヒヒっ!」


 サルスキーの指示を受けて、

オークマスターが手を翳す。


「いくだぁ、畜生共ぉ! 奴らを血祭に上げるだぁ!」


 オークマスターの手から細くて透明な糸のようなものが見えた。

それは奴の足下に群がっているバビットやバンディットに繋がっていた。


【ギュイッ! ギュイッ!】

【ガルゥーンッ!】


 バビットの群れとバンディットが再び俺たちに襲いかかってくる。

さっきよりも統制が取れていて、

様々な角度から襲いかかってくるバビットの突撃は避けるので精一杯。

 そんな中、スーはまた防御陣を展開しようと、杖を高く掲げる。


【ガルゥーッ!】

「ッ!?」


 しかしスーが防御陣を展開しようとすると、素早く飛びあがったバンディットが

彼女の杖を弾いた。

 バンディットの突撃はスーの身体を弾き飛ばす。

 俺はバビットの群れの間から飛び出してスーを抱きとめた。


「マス、ター!」

「怪我無いか?」

「はい!」


 とっても嬉しそうに元気よく答えるスーだった。


「てめぇら、スーが怪我したらどう落し前付けるつもりだ!もう許さねぇぞ!」


 エールは凄く怒った声を上げて、バスターソードの柄を握り締める。


「ダメです!」


 しかしまたしてもボックさんがエールを制した。


「てめぇ、ボック! いい加減にしやがれ!」

「バビットやバンディットを傷つけることは許しません! ここは私にお任せください!」


 そう云ってボックさんは地を蹴った。


 バビットの群れは縦横無尽に飛び上がってボックさんへ体当たりをしかけた。

 しかしボックさんは流れるような動きで、

最小限の足裁きのみでバビットの群れの間を抜けて行く。


【ガルゥーッ!】

「ごめんなさい! ハッ!」


 最後に飛び掛かってきたバンディットへボックさんは掌打を繰り出した。

バンディットは思いっきり吹き飛んで、草むらの上へ落ちた。

 どうやら気を失っているらしい。

 その時、ボックさんの腕へ細い糸のようなものが巻きついた。


「ッ!?」

「掛かったんだなぁ! オラの計算通りだぁ!」


 指先から出ている糸でボックさんの腕を拘束したオークマスターは、

不気味な笑みを浮かべる。


 突然、オークマスターが飛び上がった。

奴は軽々と飛んで、ボックさんの後ろを取る。


「豪魔獣拳奥義:操糸マリオネットぉ!」


 オークマスターがボックさんの背中に人差し指を突き立てる。


「うっ!」


 ボックさんの身体が大きく一回ビクンと震えた


「ボックさん!!」


 俺の叫びも空しく、ボックさんは地面へ膝を突いた。

そしてゆらりと立ち上がる。

彼女の目はバビットやバンディットと同じように、

充血しているみたいに真っ赤に染まっていた。


『なんたることか! 奴らめ、ボックを手中に収めるのが狙いだったか!』

「だからバンディットやバビットを!?」

『おそらくそうであろう。卑劣なエヌ帝国め! 許すまじき!』


 ブレスさんは本気で怒ってる様子だった。


「マスターッ!」


 突然、エールが俺の前へ飛んできた。

エールはバスターソードでボックさんの正拳突きを受け止めていた。


「ボックてめぇ!」

「ッ!?」


 エールはバスターソードを押し込んで、ボックさんを弾き飛ばす。

その隙に彼女は大剣を地面へ叩き付けた。


「ブライトサンダー……ッ!?」

「ウガーッ!」


 突然地面の中から飛び出してきたゴーレムの拳がエールの足元を打つ。

 その衝撃は彼女を大きく吹き飛ばした。

 それでもエールは空中でクルリと体勢を立て直して綺麗に着地する。


「団長、ココハ俺ガ!」


 ゴーレムがそう叫ぶと、奥にいたサルスキーは、


「有無! 良くぞ云ったゴーレム! ここはお前に任せる! 必ずや奴らの首級を帝王へ献上するのだ! 侵攻作戦は俺とオークマスターに任せろ!」

「リョウカイ、団長!」

「参るぞ、オークマスター!」


 サルスキーは飛び、


「ヒヒっ! ボック、ゴーレムと連携して奴らを血祭りにあげるだぁ!」


 オークマスターの言葉にボックさんは静かに頷く。


「待ちやがれ!」


 エールはオークマスターを追おうと踏み込む。

しかし彼女の正面に岩の巨漢ゴーレムが立ちふさがった。


「雷鳴ノ獣神! 俺ガ相手ダ!」

「クソッ……マスター、スー! ここはあたしが引き受ける! 二人はサル野郎とブタ野郎を追ってくれ!」

「わかっ、た! エー、ちゃん、気を付け、て!」


 スーは俺の手を取って、


「マス、ター! 行、く!」

「で、でも……?」


 エールのことが心配な俺は彼女へ視線を送る。

すると俺の視線に気づいたエールが頷き返してくれた。


「安心しな! あたしは獣神だ! こんな奴に遅れはとらねぇよ。代わりに後で、ウンと撫でてくれよな!」


 エールはそう叫んでゴーレムへ立ち向かってゆく。

 ゴーレムとボックさんは一斉にエールへ飛びかかった。


「うらぁーッ!」


 エールはバスターソードを勢いよく横へ凪ぐ。

 その風圧は巨漢のゴーレムとボックさんを紙切れのように吹き飛ばす。


「早く行けッ!」


 俺は後ろ髪を引かれる思いを持ちながらも、スーと一緒にその場から走り始めた。


「ボック!」

「……!」


 エールと戦いを繰り広げているゴーレムがそう叫ぶ。

走りだそうとした俺たちの前へ、ボックさんが降り立ってきた。


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