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三章11:ボック VS エール! 拳対剣!


「ん……この匂い……おめぇ、もしかしてグリーンレオか!?」


 ボックさんの家の扉を蹴破って突然現れたエールがそう叫んだ。


「それホント!?」


 俺は思わず叫んだ。


「ああ! 間違いねぇぜマスター! この女は間違いなく大地の獣神グリーンレオの化身だぜ!」

「グリーンレオ? 何のことですか! 私はボック! そのような名前はございません! それよりも貴方方は何者ですか! 名を名乗りなさい!」


 ボックさんは獅子拳の構えのまま、

警戒心を露わにする。


「おう、悪かったな。あたしはエール! で、こっちのきゃわゆい女の子は……」

「スーッ! お前、マス、ターの、何!?」


 珍しくスーが一歩前に出て鋭く叫んだ。


「私はここでチートさんに治癒士の知識を教えています!」

「わたし、は、マス、ターのもの!」

「えっ!? それって……」


 ボックさんの少し冷たい目線が俺へ向く。


「へ、変な誤解しないでください! スーとエールは、その友達っていうか、なんていうか……」

「おいおい、それはねぇんじゃねぇかマスター? あたしをこんなのにしたのはおめぇだろ?」

「わたし、は、マス、ターのもの!」

「だから二人とも変な言い方しないでッ!」


 一生懸命、力の限り叫んだ。

すると、ボックさんはフッとため息をついた。


「まぁ、良いでしょう。チートさんが良い人なのは分かってますし」


 なんとか誤解は解けたみたいだった。

俺はホッと胸をなで下ろす。


「にしてもよ、グリーンレオ……あたしの匂いから何も感じねぇのか?」

「何も感じません! そもそも私は貴方がた等存じ上げません!」

「なるほどなぁ、そういうことか……」


 エールは何か納得した様子をみせた。


「エール、どういうこと?」


 俺が聞いてみると、


「三年前の戦いでよ、かなりの深手を負ったのがグリーンレオとレッドドラゴンなんだ。たぶん、その影響でコイツからは自分が獣神だったって記憶が無くなってるんだと思うぜ」

「獣神? 私が? 何を仰ってるのですか?」


 ボックさんは理解しがたい、といった風の顔をしている。

そんなボックさんを見て、エールはニヤリと怖い笑みを浮かべた。


「まぁ、記憶は無くてもよぉ、身体は覚えてる筈だ。だったら!」


エールはバスターソードを抜いて、切っ先をボックさんへ突きつけた。


「この剣でその身体に染みついた獣神の記憶を思い出させてやるぜッ!」


 ボックさんは巨大な刀身を突きつけられても微塵も動じなかった。

彼女もまたニヤリと笑みを浮かべて、拳を構える。


「何を意図としているかは分かりかねますが、売られた喧嘩は買います! それが私の主義です!」

「はっ! その勇ましいところ、やっぱグリーンレオらしいな! なら早速殺ろうぜ!」

「良いですとも!」

「エー、ちゃん!」


 スーはエールに声を掛ける。

しかしエールはスーの頭を撫でて外へ出て行った。


「ボックさん!」

「安心してください。私は治癒士であり獅子拳の使い手。遅れはとりませんよ!」


 ボックさんは俺を横切って、エールの後に付いて行く。


「ブレスさん、なんとか二人を止められませんか!?」

『無駄だな。ボックとエールは既に戦闘態勢だ。今更止められんよ。それにしてもボックがグリーンレオだったとは、だから嫁に……ふむ、なるほど……』


 ブレスさんは全くあてにできないと思った。

俺は急いでボックさんの家から飛び出した。


 綺麗な花が沢山咲いているボックさんの家の庭。

底ではバスターソードを構えたエールとボックさんが少し距離を置いてにらみ合っていた。


着鋼ちゃっこうッ!」


 ボックさんがそう叫ぶと、森から緑の風が吹き出して来た。

その風は彼女の手足で渦巻いて、翡翠に輝く手甲と脛当てを装備させた。


獅子拳レオマーシャル三代目師範! ボック! よろしくお願いします!」


 ボックさんは構えを取りながら名乗った。


電磁装着キャストオンッ!」


 続けてエールが叫んだ。

彼女の周りに突然電気が迸ったかと思うと、

それは彼女の肩や胸を覆う、鎧に変化した。

鎧はまるで磁石のようにエールの体に吸い付いて武装を完了させる。


「雷鳴の獣神ブライトケイロンのエールッ! 受けて立つぜ!」


 エールはバスターソードを正眼に構えた。


 もうやる気満々の二人をどうも止められそうにない。

とりあえず今は、この状況を静かに見守るしかなさそうだった。


 完全武装したボックさんとエールの間へ静かな風が吹き込む。


 気迫に満ちた二人の様子に俺は息を飲む。


 森に吹き込む風が、ボックさんの庭に咲いている白い花の花弁を散らせた。

一枚の白い花弁がひらひらと風に弄ばれて、踊るように舞う。

やがて、その花弁がそっと地面へ落ちた。


「「ッ!」」


 ボックさんとエールが同時に地面を蹴った。


「でやぁっ!」


 エールは大きくバスターソードを振りかぶって、ボックさんへ襲い掛かる。

しかし、ボックさんは、最小限の動作で身を翻してエールの一撃を避けて見せた。


「こんのぉっ!」


 エールは重そうなバスターソードを、

まるで発泡スチロールのおもちゃみたいに軽々と振り回し続ける。

 だけどボックさんはその全てを、

リボンで結った後ろ髪を優雅になびかせながら避け続けていた。


「獣神と仰いましたね? この程度ですか?」


ボックさんはエールの鋭い斬撃を避けながら、静かにそう呟く。


「舐めんじゃねぇ!」

「ッ!?」


 ボックさんは思いっきり後ろへ飛び退き、

エールのバスターソードが地面を強く打って

小さな砂嵐を巻き起こしていた。

 エールはまたバスターソードを高く掲げる。


「ブライトサンダークラッシュ!」


 エールはバスターソードを地面へ打ち付けて、噴き上がってきた金色の衝撃波へ

向けて巨剣を横へ凪ぐ。

 衝撃波は素早く前進を始めて、ボックさんへ突き進む。


「はーぁッ……はっ!」


 ボックさんは気合と共に衝撃波へ向けて正拳突きを繰り出した。

手甲を装着した彼女の拳はエールの衝撃波をあっさり粉砕する。


「なにぃ!?」


 エールの顔に驚きが浮かぶ。


「今度はこちらから参ります!」


 ボックさんは地面を蹴って前へ飛び、エールとの距離を一気に詰めた。

エールの懐に潜り込んだボックさんは、拳を脇に構えてエールの腹を狙う。

 しかしエールはバスターソードを上へ投げ捨てて、腰から短刀を抜いた。

エールの短刀はボックさんの拳を受け止める。


「へっ!」


 それでもボックさんはまた拳を引いて、エールへ向けて繰り出す。

だけどエールはボックさんの拳を、余裕の表情を浮かべながら短刀で弾き続けていた。


「やっぱ獣神の力を失ってちゃこんなもんか?」

「クッ!」

「寂しいぜ! なぁ! ねぇさんよぉっ!」


 エールはボックさんの拳の間を縫って、もう一本短刀を抜いて鋭く振った。

 ボックさんはその斬撃を、上体を反らして間一髪のところで避ける。

 その時、投げ捨てたエールのバスターソードが彼女の手に戻った。


「うらぁっ!」

「ッ!?」


 エールは思いっきりバスターソードをボックさんへ向けて振り落す。

 ボックさんは咄嗟に手甲に覆われた腕をかざす。

彼女は寸前ところでエールのバスターソードを真剣白羽取りで受け止めていた。


「やるじゃねぇか!」


 エールが嬉しそうにそう叫ぶ。


「貴方こそ!」


 ボックさんも嬉しそうな表情を浮かべた。


「参ります!」


 ボックさんは受け止めたエールのバスターソードを捻る。


「うおっ!?」


 すると、バスターソードを握るエールの体が、一緒に宙へ浮いた。

エールの体勢が崩れる。

 ボックさんは再び拳を構えて、脇を絞め、地面を強く踏みしめる。


獅子爪拳レオネイルッ!」



 ボックさんの右のフックの風圧がエールのバスターソードを捉えた。

拳から放たれた鋭い空気の刃はバスターソードを上へ弾いた。


「はぁっ!」


 間髪入れずにボックさんは左のフックパンチを繰り出そうとする。


武装形状変化チェンジ・ザ・ソードッ!」


 エールがそう叫ぶと、巨大なバスターソードの形状が一瞬で変化する。

エールはバスターソードをもう少し小回りの利きそうなロングソードへ変化させて、

ボックさんの左フックから繰り出されてた空気の刃を受け止めた。


 鋼の剣と空気の刃の間に激しい赤い火花が何十も散る。

 暫くすると、ボックさんは拳の応酬を止めて、また地面を強く踏む。

右足を軸にして、瞬時にエールへ背を向ける。

 虚を突かれたエールの動きが一瞬止まった。


「せやぇっ!」

「うぐっ!」


 振り向き様のボックさんの裏拳が鋭くエールの頬を打った。

ボックさんは続けて身を屈めてエールの腹へ向けて強く肘鉄を叩き込んだ。

エールの体がくの字の折れ曲がる。


「奥義、獅子旋風拳レオサイクロン打たせていただきました。ありがとうございました」

「……へっ!」

「ッ!?」


 しかしエールはボックさんの奥義を受けても、笑みを浮かべていた。

エールはすぐさま体勢を立て直して、ロングソードを振る。

 エールの斬撃を察知したボックさんは再び飛び退いて、距離を置いた。


「面白れぇ! 面白れぇぞ! こんなにワクワクすんのひっさびさだぜぇッ!」


 エールは血の混じった唾を吐き捨てると、嬉しそうにロングソードを構えた。

 対峙するボックさんもまた笑みを浮かべた。


「私もですエールさん!まさかこのような強敵に出会えるとは、拳士として嬉しい限りです!」

「エールで良いぜ! 代わりにあたしもボックって呼ぶからな!」

「是非そうしてくださいエール!」


 エールはロングソードを構えて、


「行くぜっ! ボック!」


「エール! 覚悟ぉっ!」


 ボックさんは地面を蹴って、距離を詰め始めた。


――もう絶対に止めらんない。ってか、間に入ったら確実に死ぬ……


 ずっとエールとボックさんの対決を眺めてた俺の正直な感想だった。

それにこっちも色々と大変で……


【グゥーウゥー! ウゥーッ!】


 俺の左側では俺の足に抱きついたバンディットが、

歯を覗かせながら唸っていて、


「うぅー! うぅー! マス、ター、はダメッ!」


 俺の右腕に抱きついているスーは同じように唸りを上げて、

バンディットとにらみ合っていた。


【ウゥーッ! ウーッ! ガルゥー!』

「うぅー! うーっ! がるぅー!」


 下手に動いたらバンディットかスーに噛みつかれそうで、

俺は直立不動の状態から全く動けなかったのだった。


「ブレスさん、なんとかなりません?」

『こういう時ばかり人に頼るな、少年よ』


 こういう時、全く役に立たないテイマーブレスさんなのだった。


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