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三章10:テイマーブレス、喋る!【後編】


「あのボックさん、一つ良いですか?」

「あ、はい! なんでしょうか?」

「前に言ったと思うんですけど、このブレスレット少しきついような気がするんですよね。調整とかできたりします?」


 ちなみにこれは確信犯。

 ボックさんの本棚にこっそりとアクセサリーの調整方法って、

タイトルの本をみつけたからだ。


「貸してくださいますか?」

「はい!」

『ッ!!』


 少しビクッと震えたテイマーブレスを外して、

ボックさんへ差し出す。


「お借りします」


 ボックさんは丁寧にそう言ってテイマーブレスを手に取った。

 彼女はテイマーブレスを眺めたり、軽く叩いたり、撫でたりしている。

これでブレスさんも声を上げるかなって思ったけど、なかなかそうならない。


――結構、かたくな、なんだなぁ……


 だけどボックさんがブレスレットの金属のベルトを持って、

思いっきり横へ開こうとしたとき、


『痛いッ!』

「わぁっ!?」


 突然、ブレスさんが声を上げた。

ボックさんはびっくりしてテイマーブレスを床に落としてしまう。


「す、すみません! チートさん!」


 ボックさんは慌てて拾おうとしてくれたけど、


「大丈夫ですよ」


 俺は先に屈んでテイマーブレスを拾う。

これはチャンスだと思った。


「ずっと黙ってたんですけど、このブレスレットって喋るんですよ!」

『ッ!!』


 テイマーブレスがビクンと震えた。

だけど俺はこのチャンスを見逃さない。


「喋るんですか……?」


 ボックさんは不思議そうにテイマーブレスを見ている。


「はい!だ からボックさんが怖がったら嫌だなって思ったんで、ずっと黙ってたんですけど、今喋っちゃいましたから、あはは……はい、ブレスさん、もう良いですよ。いつも通り喋ってください!」

『……』


 だけどブレスさんは黙ったままだった。


――この頑固親父!


 そんなことを思っていると、

ボックさんが真剣な目でテイマーブレスを見つめた。


「お、おはようございます!」

『……』

「おはようございますッ! えっと、ブレスさん! おはようございます!」

『……』


 まるでインコか何かに喋りかけてるような光景だった。

 だけどボックさんは至って真剣な感じだったので、黙っとく。


「おはようございます! 私はボックです! お声をお聞かせください、ブレスさん!」


ボックさんは凄く真剣そうにそう云った。


『……あ、えっと、うむ……』


 ようやくブレスさんが声を上げた。

するとボックさんの顔に小さな女の子みたいな笑顔が浮かんだ。


「喋りました! 喋りました! 本当に喋るブレスレットなんですね! お会いできて光栄です!」

『そ、そうか、有無…………やぁ、ボック初めまして! 私の名前はテイマぁーブレぇス! チート少年の相棒な、NICE! なブレスレットだ。以後、宜しくぅッ!』

「はい! こちらこそ! ここで治癒士をしております、ボックと言う者です!」

『よ、よろしくな、ボック』


 予想外に興奮しているボックさんにブレスさんは、

ちょっと戸惑ってるみたいだった。


「ブレスさんのお声って凄く透き通っていて、良い響きで気持ちが良いですね!」

『そ、そうか!?』


 俺はそっとボックさんの手の上へテイマーブレスを置いた。


「近い方が喋りやすいですから」

「ありがとうございます、チートさん!」


 ボックさんは目を子供みたいにキラキラさせて、

テイマーブレスへ戻る。


「ブレスさんはどうしてこうやって話せるのですか? どこか遠くから本体の方が摩法か何かで声を送ってらっしゃるのですか?」

『いや、色々と都合がありこのブレスレットに私の魂を移植したのだ。だからこのブレスレットこそが私であり、これが私! なのだよ、ボック』

「そうなんですね! 未だ世の中には私が知らないようなことが沢山あるんですね! 勉強になります!」

『ま、まぁな。個の存在が知りえることなど、世界の一部分に過ぎないからな。固定された概念の外にある、新しい概念や考え方などが無数に存在するようにな』

「ブレスさんの仰る通りです! 私が知っていることなど、世界にとってはただの一部分でしかありませんもんね! だって、こうして素敵なお声で喋って下さるブレスレットさんとお会いできたのですから!」

『う、うむ!ボックは知的探究心が旺盛なようだな。良いことだ!』

「ありがとうございます! ブレスさんのような方にそう……」


 やっぱり俺の予想した通りボックさんは、

全然平気な様子だった。

 むしろ喋るテイマーブレスを凄く気に入ったみたいで、

色々と話しかけている。


『HAHAHA! そうか、ボックもそうなのか!』

「ええ、そうなんです! 嬉しいです、分かって下さる方がいらっしゃって! しかもそのお方がブレスさんだなんて感激です!」

『なら良かったぞ、HAHAHAHA!』


――なんかちょっと胸の奥がムズムズする。


ブレスさんに不憫な思いをさせなくても良くなったことはオッケーとしよう。

だけど、ボックさんと仲良く話してるのをみてると、居てもたってもいられない。


【クゥーン】


 フワフワな毛並みのバンディットが、

すり寄って来てくれてるけど全然落ち着かない。


――きっとブレスさんもこういう気持ちだったんだな。


 って、思って我慢しようと思ったけど、

それはそれでこれはこれ。


「ボ、ボックさん! ブレスさんと話はそこまでにしてそろそろご飯にしましょうよ! 冷めちゃいますよ!?」

「あっ! す、すみませんでした! 私としたことが……」


俺はボックさんの手からテイマーブレスを取って、右腕に嵌め直した。


「ブレスさんもブレスさんですよ! 俺たち、これから朝ごはんなんですからお喋りもほどほどにしてくださいよね!?」

『なんだ少年、今度は君が妬いているのかね?」

「ッ!?」


 図星だった。

顔が熱い。


「そ、そんなことないですって! な、なんで俺が!」

『相変わらず分かりやすいVirgin boyっぷりだな、君は』

「誰がVirgin boyですか! 関係あるんですか!?」

『なるほど、やはりな』

「そういうブレスさんだって、ずっと妬ていたじゃないですか! ブレスさんだって同じじゃないですか!』

『フフ、甘いな少年。この私が既婚者だと忘れたわけではあるまいな! その辺は散々大獣神(よめと楽しませてもらったから、無問題もーまんたい!』

「ああ、朝っぱらダメ! No Way下ネタ!」

『少年よ、引用はまず使用許諾を得たまえ』


 昨日と打って変わって、俺とブレスさんの立場が逆転してた。

しかもさっきのブレスさんの言葉が余計な想像を掻き立てる。


――ブレスさんは大獣神さんと色々……で、ボックさんは大獣神さんに似てる……


 無駄な想像力と、エネルギッシュな妄想が頭の中で交錯して、

ボックさんのあんなことや、こんなことが、勝手に浮かんでは消え、

またそんなことや、どんなことの想像が頭の中で再生しまくる。


「チ、チートさん!?」


 突然、ボックさんが血相を変えて歩み寄ってくる。


「へっ?」


 俺の鼻から鼻血がぽたりとこぼれてた。


「大丈夫ですか!?」


 ボックさんは慌てて、俺の鼻の血を拭ってくれてる。

そしてすぐさま、また額を俺に当ててきた。


――ボックさん、きっと心配してくれる。

だけどごめん、今それ逆効果!


【ウーッ……ガウガウッ!】


その時、俺たちの横でバンディットが玄関の方を向いて、激しく吠えていた。


「みぃつけたぞぃ―! マスタぁーッ!」


 突然、玄関の扉が蹴破られ、バスターソードを背中に背負った、

身長が高くて、鋭い目つきをしたエールが乗り込んで来た。


「マス、ター! 何、してる、ですか!?」


 エールの後ろに続いて、黒いおかっぱ頭のスーが現れる。

スーも珍しく、鋭い目つきをしていた。


「貴方達! 何者ですか!? 人の家に勝手に上がり込んで!」


 俺から離れたボックさんは構えを取る。


【ガウガウッ! ガウガウッ!】


 バンディットも怒った声を上げていた。


 エールとスー、ボックさんとバンディットは

それぞれ警戒心を現しにして対峙している。


 ちょっと波乱が起きそうな、そんな風に思う朝の風景なのだった。


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