三章3:万能薬とエルフと緑の国
「自己紹介が遅れました。私はボックと申しまして治癒士を生業としているものです」
緑の髪の彼女がそう云うと、
少し長めの耳がピクピクと動いた。
「あの、もしかしてボックさんって、エルフとかそういうのですか?」
「ええ、私はエルフですよ。会うのは初めてですか?」
「リアルで見るのは」
「りある?」
「あっ、えっと……」
――ゲームとかではお馴染みですから、なんて言ったって余計に混乱させちゃうかな。
少しファンタジックな世界だと思ってたけど、
やっぱこういう所にはエルフがいるもんだなと思う俺だった。
「我々はルプリンの実を守るために普段は森の中で生活をしてますからね。会うのが初めての方も沢山いますからお気になさらないでください」
そういってボックさんは、柔らかい笑顔を浮かべた。
なんとなくその笑顔が綺麗で、可愛くて見とれてしまう。
「ところで、貴方のお名前は?」
「チ、チートですッ!」
――なんか舌噛んでる。情けない……
「チートさん、ですか。いいお名前ですね」
「そ、そうですか?」
「ええ。なんとなくその、凄く強そうに感じます」
――案外この名前って、色んな世界で共通なのかも
なんて思いながらボックさんと一緒に歩いていると、目の前の森が開けた。
断崖の向こうには城壁に囲まれた緑豊かで大きな街並みが見おろせた。
「あれが緑の国ラガーですよ」
「へぇ、自然豊かなんですね」
「ええ、この国の自慢の一つなんです」
そう云ってボックさんは断崖から街へ続く坂道を横切った。
てっきり、街へ降りると思っていた俺は拍子抜けしてしまう。
「あの、ボックさんどこへ?」
「えっ? あ、ああ、さっきのお詫びに私の家でお茶、でもと思ったいたのですけど……? 街の方が宜しかったでしたか?」
早くに街に降りて、獣神の化身を探したい気持ちはある。
だけど……
――女の人の家に招かれている!こんなチャンス滅多にない!
前の世界ではそんなこと皆無だった。
なによりもボックさんのような綺麗な人の家に行けるなんて、街より
確実に良い!
「いえ、そんなことありません! 是非是非伺わせてください!」
「良かったです。実は私も街は人が多くてちょっと苦手で……たぶんエルフってだけで珍しがられると言いますか……」
――いや、絶対に違う。違うに決まってる。
だってボックさんは物凄く美人だ。
しかも胸も、大きいと思ってたエールよりも迫力がある。
みんなきっと、そこに目が行ってるんだろう。
もれなく俺も。
「いでっ!」
っと、突然、右腕のブレスが少し締まった。
「いきなり何するんですかブレスさん!?」
『よこしまで邪悪なことを考えていた少年が悪い』
何故かブレスさんは妙に小声だった。
「チートさん? どうかされたのですか?」
ボックさんは首を傾げている。
「いや、実はこのブレスレットなんですけど……」
『……』
なんかブレスさんから、凄く嫌な雰囲気を感じた。
「綺麗なブレスレットですね。それがどうかしたのですか?」
ブレスさんからの反応は無かった。
良くわからないけど、黙っておきたいみたいと俺は思った。
「ちょっとこのブレスレットキツくて。嵌めてるとたまに痛くなっちゃうんですよね」
「そうですか。あまり体に合わないものは無理をして付けない方が良いですよ?」
「まぁ、そうんなんですけど、ちょっとこれ大事なものでして」
「そうですか……でも、本当に無理はしないでくださいね?痛くなったら仰ってください。これでも治癒士なので、痛みを軽減させることぐらいはできますので」
ボックさんは心底心配そうにそう云う。
たぶん社交辞令なんだろうけど、でも全然そういう風に聞こえない。
「わ、わかりました!その時はお願いします!」
「はい、喜んで」
まるで女神のような笑顔だった。
――ホント綺麗だな、ボックさんって。
そんなことを思いながら、俺はボックさんの跡をついて再び森の中へと入ってゆく。
そうすると森の中にひっそりと佇む小さな家が見えた。
丸太で作られたいわゆるログハウスってやつだ。
だけどそんな無骨な雰囲気の家は、鉢植えに植えられた色とりどりの花で装飾されていた。
家の前にある庭のような小さなスペースにも綺麗な花が咲いて、草木が陽の光を浴びて
葉を煌めかせている。
きっとこれはボックさんの趣味なんだと思った。
――綺麗なボックさんらしい可愛い趣味だなぁ……




