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二章9:三番勝負! VS エール 【中編】


「ルールは簡単、胸に刺したその花を先に散らされた方が負けだからな!」


 エールは巨大なバスターソードで、

俺の胸に刺さっている黄色い花を指しながら、そう云った。


 俺とエールは二番目の勝負:剣技をするために、アスレチックから少し離れた、

コロシアム状の闘技場に来ていた。


「マス、ター! ファイ、トー!」


闘技場の客席にスーは一人で座っている。

俺が応答の意味で手を振ると、スーは両手を使って、俺の倍以上の

動作で腕を振り返してきてくれた。

 スーは本当に俺のことを心から応援してくれていると思える。

やっぱり結構そういうのが嬉しくて、ついつい頬が緩んでしまう。


『イチャつくのも結構だが、そろそろ武器を選ばないかね?』

「べ、別にイチャついてなんかいませよ!」

『の割には随分と頬が緩々のようだが?』

「さ、さぁ、選びましょう!」


 俺は後ろにある剣がたくさん掛かっているラックの方を向いた。


 ロングソードに、ショート、三日月みたいに湾曲しているのはショーテールだっけ?

前の世界では画面越しにしか見たことのない剣がずらりと並んでいる。

聞くところによるとこの刀剣類は全部エールのものらしい。


――ソードマスターっ名乗ってるだけはあるんだね


 とりあえず、一番オーソドックスな長い横長の鍔が付いたロングソードを手に取ってみる。


「おえっ!?」


 持った途端、予想外の重さにふらついて、

思わずつま先を突き刺そうになった。


『そのロングソードはおそらく1.5kg位だろうな』

「結構重いんですね。みんな軽々扱ってるから軽いかと思ってましたよ」

『剣は武器。相応の重さがなければ武器としての性能を発揮できないからな』


――やっぱ剣を使ったことのない俺にはロングソードは未だ早いみたい。


「おっ? これなら」


 次に手に取ったのはショートソードの方だった。

そこそこ重さはあるけど丁度いい感じ。

刀身もロングの半分の長さで扱いやすそうだった。


『少年よ、まさかそれでエールと戦うつもりではないだろうな?』

「えっ?ダメですか?」

『彼女が扱うのはバスターソードだぞ? 長さ、重さも見立てその剣の数倍はある。それをそんな短くて軽い剣で受け止められると思っているのかね?』


 ちょっとエールの方を見てみる。


 エールはあの重そうなバスターソードをまるで発泡スチロールで出来たおもちゃみたいに軽々と振り回して準備運動をしていた。


『最も、剣は”斬る”以外に”刺す”という使い方もある。特に強固な鎧に身を包んだ相手に対しては懐に潜りこみ、短い剣で突き刺すといった戦法も十分に有効だ。ちなみに、そこにあるショーテールは相手を横から刺して攻撃するために刀身が湾曲しているのだぞ』

「懐に潜りこむっすかぁ……」


 たぶん無理。

バスターソードを軽々と扱うようなエールの懐なんかに飛び込めるわけない。

 俺は静かにちょっと気に入っていたショートソードを置いた。


「ブレスさん、じゃあどの辺りが良いんでしょ?」

『そうだな、最低ファルシオンといったところだろう』

「ふぁるしおん?」

『そこに片刃で刀身が幅広い剣がみえるだろ?』

「ああ、これ」


 見覚えがあった。

たしか大獣神と会った時に、

彼女もこれと同じ形をした剣を持っていたっけ。

 最も、彼女が持っていたものの方は刀身に不思議な模様が、

沢山刻まれていて、装飾もあった。

 でも今、俺の前にあるファルシオンは至ってシンプルな刃と鍔と柄があるだけ。

何気なく手に取ってみると、


「うっ……なかなか重いですね」

『断ち切ることに重きを置いているからな。歴史的には斧や鎌の代用品としても使われていたことがある』


 これならエールのバスターソードとでもなんとか渡り合えそうだ。

あくまで、俺がこの重さの剣を発泡スチロールみたいに扱えればだけど……


『仕方ない。また術をかけてやろう。しかし時間は5分だけだぞ?』

「すみません」

『しかし1つだけ言っておくぞ。ここで勝ったとして、それは少年の実力ではない。この私の性能のおかげだとな!』


――なんかどっかで聞いたことのあるようなセリフだけど、今はスルーで。


「わかりました。お願いします」

『よぉし、行くぞ……わっしょい!』


 変わった掛け声と共にテイマーブレスから光が迸って、俺の体へ素早く流れ込んでくる。

途端に持っていたファルシオンが発泡スチロールみたいに軽く感じ始めた。


「マス、ター! 頑張っ、てー!!」


 スーがまた応援はブレスさんの術も相まって俺に自信を呼び起こさせる。


「エール! 武器は決まったよ! 始めようか!」


 ファルシオンを掲げて、俺はエールのところへ歩いてゆく。


「へっ! あたしはソードマスターだ。悪いがこの勝負は頂くぜ!」


 エールは凄く怖い顔をしながら、バスターソードを軽々と構えた。

俺もまた、ファルシオンを構えて、呼吸を整える。


 俺は幅の広い片刃の剣ファルシオンを、

方やエールは彼女の身長ほど大きくて重そうなバスターソードを両手で構えていた。


 俺とエールはどっちが先に飛び出すか、様子を伺っている。

すると、エールの身体が少し前へ出る。

 それを合図に俺は思いっきり前へ飛び出して、先手を仕掛けた。


「はぁっ!」


 思いっきりファルシオンを振り上げて、エールへ斬りかかる。

しかしエールは、軽々とバスターソードを横へ掲げて、斬撃を防いだ。


「へっ! 良い太刀筋じゃねぇか」


 剣越しにそうエールが笑った刹那、突然体勢が崩れた。

エールが一気に剣を押し込んで、俺は後ろへ倒れそうになる。

そして鋭い殺気を感じて、体を横へ裁いた。


「ちっ!」


 エールの舌打ちが聞こえて、

巨大なバスターソードの刀身が俺の体スレスレを通り過ぎてゆく。

だけど、またまた強い殺気を感じて、今度は体を屈めた。


「ひぃっ!」


 頭の上をバスターソードが過ぎてゆく。

だけどエールの殺気は収まらない。


 上下左右、様々な角度から全く重そうに見えない、

バスターソードの斬撃が俺を狙ってくる。


「避けんじゃねぇ!」


エールは怒ったような声を上げながら次々と斬撃を繰り出す。


「避けなきゃ死ぬって!」

「避けるお前がいけねぇんじゃねぇか!」

「だから避けなきゃ死ぬって! 大体、胸の花を狙うのがルールじゃないか!?」

「くっ……なんでてめぇはそんなに余裕なんだ! ★2の癖に!」


 そう云われて、確かにそうだと気付く。

ギリギリばかりだけどエールの斬撃は全部避けられているし、

喋る余裕も確かにある。


――さすがブレスさんチート! これだったらもしかして!


 俺はエールの殺気を先読みして意図的にバックステップを踏んだ。

物の見事に縦方向のバスターソードの斬撃を回避する。

勢いよく振り落されたバスターソードが地面を穿うがって、大きな砂煙を上げた。


「クッ!」


 目論み通り、思いっきり地面を穿ったエールは、

衝撃で少し手が痺れたのか、顔を歪める。

 その隙に俺は飛んだ。


 肉体強化のおかげで俺は信じられないほど高く飛ぶ。

目下には未だ、

バスターソードを地面へ打ち付けたままのエールの姿が。


「マス、ター! ファイ、トー!」


 スーの応援を背に受けて俺は、


「貰ったぁ!」

「ッ!?」


 俺を見上げているエールへ向かってファルシオンの切っ先を突き出して、一気に急降下。

狙うはエールの胸についている花!


「さぁせるかぁ!」


 しかし突然、エールはバスターソードを掲げて横へ凪いだ。


「おえっ!?」


 物凄い剣圧が俺を紙切れみたいに吹き飛ばす。

なんとか空中で身を捻って体制を整えて地面へ着地する。

だけど目の前には既に、バスターソードを両手に構えて、鬼のような形相で

接近してくるエールの姿が。


「覚悟ォッ!」


 またまたエールの斬撃応酬が始まる。


――さっきよりも勢いが増してる!?


 体捌きだけでは避けきれず、俺はファルシオンを掲げて、

エールの攻撃を受け流す。

 ファルシオンの広くて丈夫そうな刀身は、

なんとかバスターソードを弾いていた。


 俺とエールの間に無数の赤い火花が散って、

闘技場には鋭い金音が響き続ける。

このままじゃ埒が明かない。


「マス、ター! 頑張っ、てー!」


 スーの応援が俺の気持ちを後押しした。

俺は思い切ってファルシオンを突き出して、

グッと一歩踏み込んだ。


「なにぃ!?」


 まっすぐと突き出したファルシオンが、

エールのバスターソードの軌道を逸らす。

 今、目の前のエールは驚きの顔と共に、俺へ思いっきり胴を晒している。


――狙うは胸の花一点!


「ぬおぉぉぉっ!」


 俺は気合共にファルシオンを、

エールの胸の花へめがけて進ませる。

しかし、突然、それまで全く感じてなかったファルシオンの重みが、

一気に腕へ伸し掛かってきた。


『時間切れだ!』

「まじっすかぁ!?」


 体勢がのめりに倒れ込む。


 すると、目前で胴を晒しているエールがニヤリと笑みを浮かべた。

エールは腰に隠し持っていた短剣を素早く逆手に持つ。


「終わりだぁ!」

「ッ!?」


 エールはそう叫びながら短剣を横へ凪いだ。

 鋭い短剣の軌跡が俺の胸を過る。

短剣の切っ先が、俺の胸の花の花弁を勢いよく散らせた。


 勝負は着いた。


 だけど勝敗と重力は関係ない。

俺はそのまま前のめりに倒れ続け、


「あわわわわっ!?」

「あっ!?」


 思わずエールの腰をガッチリ掴んで、そのまま倒れ込んだ。


「ふが、ふふっ!」


 なんか何かが顔に押し着いてて物凄く息苦しい。


「あっ! うっ……そ、それ、止めっ……!」

「ふが!」

「んんんっ! あっ!」


 突然、ちょっと高めで妙に苦しそうなのエールの声が聞こえた。


 頬に感じる柔らかい感触。

ちゃんと落ち着いてみれば、目の前に見えるのは太腿と太腿の間にあるVライン。

急に恥ずかしさと恐怖がこみ上げてきて、恐る恐る視線をあげてみると、


「て、てめぇ……」


 顔を真っ赤に染めて、怒りで顔を歪めるエールの顔があった。


 思わずエールの腰を掴んで倒れたせいで俺は恥ずかしげもなく、

彼女の股の間に顔をダイブさせていた――つまり、そういうことになる。


「こ、これは!」

「死に晒せやぁ!」

「ひやぁっ!」


 立ち上がった途端、エールのバスターソードが目の前を過ってゆく。

身の危険を感じて俺は走り始めた。


「逃げんじゃぇ! この変態野郎がぁ!」

「事故事故! 今の事故だから!」

「事故だろうとなんだろうとこんな辱め受けて許せるかーッ!」


 どんなに逃げてもエールはバスターソードを振り回しながら、

どこまで追いかけてくる。


『なんだ、術をかけなくても避けられるではないか。力を使うのも楽ではないのだ。できることは自分でしてもらわないと困るぞ』

「このタイミングで何言ってるんっすかブレスさん!」

「待てやこらぁー!」


 エールは延々と俺を追い続ける。


「マス、ター! ファイ、トー!」


スーは未だ俺とエールが真面目に戦っていると思っているのか、

応援をし続けてくれていた。



三本勝負二本目剣技、エールの【勝利】!


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