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二章7:スーのお家とお食事


「マス、ター!おもて、なし!」


 エールに勝負を挑まれて、ちょっと元気をなくした俺を元気づけたいって

スーが云うもんだから、俺たちはコンスターチの市場に来ていた。

どうやら今夜、俺はスーの家に泊まって、ご飯をご馳走してもらえるらしい


 夕飯支度のためのお客さんで市場は一杯だった。


「凄く人がいますね」

『なにせコーンスターチでは最大の市場だからな』


 俺が目を丸くしているとブレスさんがそう説明してくれた。


「マス、ター! こっち!」


 横にいたスーが俺の手を握って、引っ張り始めた。

 俺とスーは手をつないで人ごみの中へ入って行く。

今まで女の子とこんな風に手を繋いで歩いたことなんて全くない俺は

心臓をドキドキさせながら市場の中を進んでゆく。


 女の子と市場で買い物、しかもおもてなしと来たもんだ。


――きっとスーは美味しいものを作ってくれるんだろうな。


 女の子手料理。

想像しただけでウキウキワクワク気分な俺だった。


やがてスーは一件の屋台の前で立ち止まった。


 絵が付いた缶がたくさん並んでいる屋台だった。

絵から中身がたぶん食べ物だと想像できる。

なんだ嫌な予感がする。


「あの、スー、ここは……」

「おもて、なし!」

「いらっしゃいスーちゃん! 久しぶりだな? 良いのかい、ここに来て。エールの姉さんに怒られねぇか? また栄養が偏るってよぉ」


 お店に立っていたガタイの良いおじさんは、苦笑い気味に挨拶をした。


「おもて、なし!」


 そう云ってスーは次々と色々な缶を掴んでは、

店先にあったバスケットに詰めてゆく。

 スーはエプロンのポケットから金貨を無造作に取り出して店先に置く。

そして缶がたくさん詰まったバスケットを左手、

右手に俺の手を掴んでクルリと踵を返す。


「お、おい、スーちゃん! お金多いよ!?」

「おもて、なし!」


 スーは店のおじさんの声を無視して走り出した。


「ス、スー! お金多いって! お釣り忘れてるよ!?」


 スーに引っ張られる俺はそう云うが、


「おもて、なし!」


 全然スーは俺の話なんて聞かないで市場を走り続けた。


その後、スーは野菜の売っているお店にも寄って、綺麗な果物や

葉物野菜みたいなものを山のように買い込んだ。

勿論、さっきと同じくお勘定はザルで。

俺はスーに引っ張られ続けるだけだった。


 やがて、買い物は十分だとスーは思ったのか、

市場を抜けて郊外に走り出す。

そして、街の外れにあるとても大きな、

門扉が立派な一軒家の前で止まった。


「ここ!」

「ここっ、もしかしてスーの家!?」

「にゅふー!」


スーはそうだ、という風に笑った。


『スーのクラス評価は★4、しかも今のビァルでは希少な摩法士だからな。金はあるのだろう』

「あの、ちなみに★2だと?」

『平民に毛が生えた程度だ。少年がスーのような収入を得るのはまず無理だな』


 ブレスさんのはっきりとした言葉にがっくし凹む俺だった。


「おもて、なし!」


 凹んでいる俺はスーに引っ張られれて家の中に押し込められる。


 間取りでいうとたぶん2LDKくらいあるんだろう。


 玄関を入ってすぐのリビングには立派なソファーや大きな机が置いてあった。

スーは俺から手を離すと一目散にテーブルの近くにある、柔らそうな椅子へ入っていった。


「おもて、なし!」


 スーは椅子の背もたれをポンポン叩いていた。

なんとなく、座れって、ことを察して椅子の所へ行くと、


「うごっ!」


 突然、スーが椅子を押して、脹脛ふくらはぎをヒット!

膝かっくんの要領で、俺は強引に座らされた。


「待つ!」


 だけどスーは全然気にしている素振りを見せないで、またダッシュで別の部屋へ飛び込んでゆく。


 向こうからがしゃがしゃとか、ぱりーんとか、嫌な音が聞こえる。

暫くするとスーは二枚のお皿と、その上に二本の立派な短剣を乗っけて、

部屋から飛び出してきた。


 素早くお皿と短剣を無造作に俺の前へ置く。

そして野菜や缶詰がたくさん入ったバスケットを豪快にひっくり返してた。

何もなかった机の上があっという間に食べ物で一杯になる。


「にゅふー……」


 スーは一息ついて、おでこの汗を拭った。

凄く満足そうな顔をしてた。

どうやらこれで作業は完了らしい。


――ってか、これで終わり!?


「あのさ、スー……」

「にゅふー、にゅふー」


 スーは目をキラキラさせながら俺の方を見ている。


『これを食べろと言うことだな、おそらく』

「たぶんそうですよね……」


 ゴロゴロと転がっている缶詰の山と、

無造作に散らかっている生野菜と果物に唖然としてしまう。


――やっぱ上手くいかないよね、手料理ごちそうになろうだなんて俺が甘かったのね……


「にゅ!」


 すると、突然スーが飛び上がった。

スーは缶詰と短剣を手にする。


「おもて、なし!」

「ひゃっ!?」


 スーは短剣を逆手に持つと、思いっきり缶詰へ向けて振り落した。

缶詰にぶっ刺さる短剣。

飛び散る煮汁。


「おもて、なし!」


 だけどスーはなんにも気にしないで、

短剣を引き抜くと、また思いっきり缶詰へ突き刺した。


『どうやらスーは少年のために缶を空けようとしてくれているのだな』

「おもて、なし!」

「い、良いって!自分でやるから! つか、そんな空け方危ないって!!」


 思わず俺は短剣を持っているスーの手を取った。


「マス、ター? ……ポッ」


 急にスーの顔が真っ赤に染まった。


「マス、ター!」

「うわっ!?」


 スーは短剣を手放すと、俺の肩に抱きついてきた。

 落っこちた短剣が俺の前にあるお皿をバラバラに砕く。


「マス、ター……好、きぃ~……」


だけどスーはお皿が割れたことなんて全然気にしないで、

肩に抱きついてすりすりしてきている。


―――ここで一晩明かすのか……なにもなきゃいいけど……


不安に思う俺なのだった。


「マス、ター! 好きぃー!」

『モテモテだな少年!HAHAHA!』

「はぁ……」



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