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二章5:初めての登録と残念とエターナルガトー 【前編】


俺はエールに連れられて、コーンスターチギルド集会所の奥にある受付に来ていた。


 受け付けは横一列に机が並んでいて、それぞれに受付の人が座っていた。

各スペースは衝立ついたてで仕切られていてプライバシーの保護は完ぺき。

受付スペースには常にたくさんの人が受付の人と代わる代わる話をしている。

だけど一部のブースには全く人がいたりいなかったり。


――っていうか、ここ前の世界の市役所にそっくり?


「受付はよ、報酬の申請から新規登録までを網羅してるんだ」


 ブースを眺めていた俺のことを察してくれたのかエールが説明してくれた。

いや、たぶん違う。


「にゅふ、にゅふー!」


 エールの隣はスーが居て、俺の方を見て小さくコクリコクリと頷いてドヤ顔をしていた。


――スーさん、またまた人心掌握術のスキルを伸ばしましたね?


 この短期間にスーがすごく成長したことが、

なんとなく嬉しい俺だった。


「まずはあそこで申請内容を伝えな。あそこで振り分けてくれっからよ」


 エールはぶっきらぼうにそう云って、

受付の隅に立っているお姉さんを指す。


「こんにちは! 今日はどのようなご用件ですか?」


 早速、隅っこのお姉さんのところに行くと、

爽やかな営業スマイルからの、定型文句。


「えっと、ギルドに登録したいんですけど」

「新規ですね。かしこまりました。ではこちらの整理札の番号が、あちらの掲示板に表示されます。そうなりましたら、該当番号の窓口へ向かってください」


 そういってお姉さんは良く分からない、

象形文字が書いてある赤い小さな紙を渡した。

最初は何が書いてあったかわからなかったけど、

すぐにそれが数字の「1」ということだとわかる。


『説明しよう! 少年にはこの世界を救ってもらう都合上、必要な知識は私が自動的に君の頭の中へ直接送り込んでいるのだ! あと一日もすれば識字の問題は解消されるだろう! ちなみに言葉はコミュニケーションを取るに至って、最も重要なものだから最優先で自動学習させたからな! HAHAHA!』


 どうやら言葉や文字の問題はあっさり解決済みなようで。


――ブレスさんチート恐るべし。っていうか、世界ビアルってブレスさんが救うべきじゃね?なんか先代大獣神だって言ってたし。


 なんて心の中で突っ込んでみる。

そんなことを言ったらきっとやかましい逆突っ込みが入ると思って飲み込んだ。

だけど今突っ込みたいのはそこじゃない。


 赤い「1」と書かれている札を持って、

何も書かれていない黒板のようなものがあるところへ向かう。

黒板の前にある長いベンチに座ってすぐに、

掲示板に赤文字で「1」の数字と、「受付は32番」です、といった具合の文字が浮かんだ。

紙を渡して、移動させて、すぐに呼び出す。


――空いてるんだったらそのままブースに行くので良いんじゃね?


 なんとなく役所臭がプンプン臭うギルドの集会所なのだった。


「こんにちは! 新規登録ですね? ではまずこちらの書類に必要事項を記入してください!」


 早速32番受付に行くと、

凄くハキハキとした女の受付の人が紙を差し出してきた。

どうやら名前や住所、はたまた趣味嗜好まで書く欄がある。

ビァルに来てまだ殆ど時間が経ってないから、

今の俺に細かい個人情報なんてない。


――これってもしかして住所不定無職ってやつ!?


 時々、ニュースでそんな言葉を聞いて、

ふーん、と思っていたけど、

いざ自分がそうなると凄く心細いってか、物凄く凹む。


 そんなちょっとダークな気分に心を汚染されていたその時、

頭の中にまるで、昔から馴染みがあるような文字や数列が浮かんだ。

自然とペンが進んで、差し出された紙があっという間に文字で埋まる。


――っていうか、この趣味嗜好の欄何!?


 趣味:動物愛玩

 嗜好:モフモフ大好き! 人に興味はありません!けだものLOVE!


 紙を受け取った受付の女の人は真剣に書類をみようとしているんだけど、

趣味嗜好の欄を見て苦笑いを浮かべた。


――恥ずかしくて、もう俺受付の人の目を見れません。


「じゅ、受理いたします。では続いて三階の適正検査室で検査を受けてください。場所は右に曲がって突き当りにある部屋です」

「ご丁寧にどうも……」


 早くこのブースを離れたくて勢いよく立つ。


「あ、あの!」

「はいぃ?」


 受付の女の人が物凄く真剣な声を上げるもんだから、

思わず振り向いてしまった。


「差し出がましいのは重々承知ですけど……でも言わせてください!  人間の女の子もきっと良いところがある筈です! いえ、絶対にあります! それに貴方はとっても優しそうな顔をしてるんで……だから、そんなに絶望しないでください!」


 なんか受付の人に励まされた。


「あ、えっと、善処します」


 もう恥ずかしくて仕方がなくて、

俺は逃げるようにその場を去った。


「ブレスさん! なんてこと書かせるんですか!」

『住所等は偽りだが、趣味嗜好は真実を書いたつもりだが?』

「ブレスさんのバカ!」

『むっ?聞き捨てならんな!真実を書いて何が悪いのだ?』


 正論になにも言い返せない。


――ええ、そうですよ!万年いろんな人から優しそうな顔って言われ続けたけど、

動物以外にモテたことなんてありませんよ!


 住所不定無所の人間嫌いで動物ラバー。

動物は良いとして、他が残念すぎる。

 俺は涙を堪えつつ、三階への階段を駆け上った。


 そっからもたらい回しは続いた。

身体検査っていう適性検査を追えて、今度は二階に降りて申請用紙の印紙を購入。

 ちなみに通貨単位は数字+ビアでした。

現金の持ち合わせがなくて困ったけど、スーが貸してくれたので問題なし。


 住所不定無職の動物ラバーに加えて紋なし、女の子から借金。


――ダメだ! 早くなんとかしないと!


 どうもギルドに登録して、様々な人から来る案件っていう名前のクエストや、

エヌ帝国と戦えば、難易度に応じて幾らか貰えるシステムらしい。


働いて稼ぐ=自立の第一歩!


 印紙購入を終えた俺は再度一階へ。


「こんにちは! 今日はどのようなご用件ですか?」


 またまた一回受け付け隅に立っている振り分けお姉さんのところへ。

相変わらず爽やかな営業スマイルと淀みない定型文句だった。


「えっと、検査が終わったんですけど……」

「面接のご希望ですね? ではこちらを持って少々お待ちください」


 っとお姉さんは黄色い紙に「5」と数字の書かれた紙を渡してくれた。

そっからまたまた黒板の前で少し待つことに。

暫くして呼び出しがあって、受付ブースの脇にある、扉から奥へと入った。


 部屋の中には立派な机の前に座った、メガネをかけたおじいさんが居た。


「どうぞ、お座りください」

「あ、はい!」


 いそいそと椅子へ座る。

するとおじいさんが、


「では名前をお聞かせください」

「えっと、チートです」


 おじいさんはチラリと書類に目を落とす。

その確かめるような視線は自然と俺の背筋を伸ばさせた。


「ではギルド所属に際しての志望動機を聞かせてください」

「志望動機!?」

「はい。お願いします」

 

 なんか、少し嫌というか緊張する空気だって思っていたけど、これって、


――まるで就職か、推薦入試の面接じゃん!


「あ、えっと、その……」


 とりあえず登録ということで、とりあえずここにはやってきたわけで、

そんな動機とか信念とかなんて全然ない。

そもそも俺、アドリブ苦手な方で、頭は大混乱。

だけど、その時不意に色んな言葉が理論整然と浮かんできた。


「エヌ帝国の脅威からビァルを守るために志望いたしました!私が生まれ育ったのは風の国シュガーでして、昨今のエヌ帝国の侵攻により……」


 なんかまったく知らない記憶なのに、口が勝手に動く。

終いにゃ、面接のおじいさんと趣味の菜園作りの話題にまで発展して、

室内は大変穏やかな空気に包まれた。


「では面接は以上です。結果はこの部屋を出てすぐに合否が掲示板に掲載されます。もし合格だった場合は、利き手の手の甲に紋章が浮かび上がって、ご自身のステータスが確認できますので。それではお疲れ様でした」


「あ、ありがとうございました」

「また是非、ブダウ栽培についてお聞かせくださいね。いや、私も来年定年でしてね。そうしたら退職金を使ってエヌ帝国の被害が少ないところにブダウ農園を開いて、ヴァインでも造る余生を過ごそうと思ってますので。参考にさせてください」

「あ、ええ。そうっすね。じゃあ、また」


 にこやかな面接官のおじいさんに挨拶をして、俺は部屋を出た。


――また、なんて言ってるからきっと合格なんだろうな。


『ご苦労だったな、チート少年! これならば大丈夫だろう』

「ブレスさんのお蔭ですよ。面接の時も力貸してくれましたもんね?」

『ここでギルド登録に落ちられては困るからな」

「それもそうっすね。だけど、なんでまたこんなに登録が面倒なんでしょうね?」

『? どういうことかね?」

「いや、俺の知ってるギルドってやつは、受付に行けば、こうパパ~っと登録が進むんですよね。なんでこんなに色んな手間が……」


『それはきっとゲームの中の話であるからだろう。ゲーム内の登録など一作業に過ぎんし、ワクワクドキドキの冒険前に対して面白くもない煩雑なイベントを出したって億劫なだけだからな。つまり、その簡便さは開発チームの優しさだ! それに現実的に考えて、受付けが登録、検査、能力付与まで行うなんて業務過多で、ブラック企業だと言える! No Way(絶対ダメ) ブラック企業!』


――なんか時々ブレスさんが物凄く俗っぽく思えるのは気のせいじゃないんだと、きっと。


「マス、ター!」


 気が付くと、横にはスーとエールがいた。


「終わりま、した?」

「うん。今、結果待ちだよ」

「大丈夫かねぇ、こんなもやし男がさ」


 エールの辛辣な一言が胸を突く。

ってか胸にぶっ刺さるってことは、多少図星の証拠と思ったり思わなかったり。


「大丈、夫!マス、ターなら!にゅっふー!」


 何故かスーが気合を入れていた。

きっと応援してくれてるつもりなんだろう。

なんかスーって人間の時も仕草が犬みたいで、みていると気持ちがほっこりする。


 そんな時、掲示板に文字が浮かんだ。

予想通り俺の番号「5」


「マス、ター!おめで、とう!」


 スーは満面の笑みで、俺の無事登録完了を喜んでくれていた。


「まぁ、登録の後が大切だけどな」


エールは少し素っ気ない反応だった。


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