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チートは異世界を救う! 獣神全ては彼のモノ!!  作者: DSSコミカライズ配信中@シトラス=ライス
最終章:チートは異世界を救う! 獣神全ては彼のモノ!!
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最終章1:戦いのその後


 エヌ帝国との戦いが終わって、

異世界ビアルは平和を取り戻した。

 それは凄く良いことで、

嬉しいことなんだけど、

実は俺にとっては結構窮屈な生活の、

始まりだったりしたのだった。


「はぁ……今日はどうしよう?」


 相変わらず間借りしてる、

コーンスターチの獣神殿の中にある、

俺の部屋に自分の気のない言葉が響く。


『久々に運動はどうだろうか? こういう時は汗を流すのが良いと思うが?』

「いや、それはそうなんですけど……」


 気のない返事を返したとき、

部屋へ続く扉がノックされた。


「超獣神チート様、お食事の時間ですよ!」


 振り返るとそこには、

綺麗な白い衣装を着たアクアさんが居た。


「さぁ、どうぞこちらへ」

「へぇーい……」


 アクアさんと同じ格好をしたブルーさんに促されて、

重い足取りで部屋をタラタラと出る。


 ちなみにアクアさんとブルーさんは、

新しいビアル表世界の神:超獣神となった俺の、

専属の従者として今は働いてくれていた。

 なんか前の「荷物持ち」がどーの、こーのなんて忘れるくらいの

平服っぷりに未だに戸惑いを覚える俺だったり。


「コホン!」


 廊下に出て咳払いが聞こえると、

自然と俺の背筋が伸びた。


「いけませんな、ビアルを統べる超獣神たるチート様がそのようにだらけていては」


 咳ばらいをしたのは元エヌ帝国の闘魔獣将サルスキーを改めて、

拳士サルスキーさん。

 今は心を入れ替えて、

俺のボディーガードをしてくれています。

 彼はぎろりと俺を睥睨へいげいして、


「これは後で鍛錬が必要ですかね。ウルフ兄弟の御仁はどう思われる?」

「「むぅ……」」」


 同じくボディーガードのワ―ウルフとコボルトは、

だいぶ俺のことを理解してくれてるみたいで、

どっちとも取れない唸りを上げていた。

だけど、このパターンはいつものこと。


「だ、大丈夫です! いや実は昨晩はちょっと遅くまでブレスさんと、その色々してて、なははは! で、ですよね、ブレスさん?」

『……まぁ、確かに……』


――ホントは何もしてないんだけど。


 ここ最近、俺の不遇さを知ってかブレスさんも、

合わせてくれるようになりました。


「ぶはっ!」

「ちょ、ちょっとブルー!?」


 突然顔を伏せたブルーさんへアクアさんが飛びついた。

 顔を抑えているブルーさんの手の間から、

ポタピタ赤い液が、いつもみたいに滴っている。

 はい、コンボ発動です。


「チート様とブレス様が……可愛いお顔のチート様が、ブレス様を……ぶはっ!」

「ブルー、鼻血大丈夫!?」


 ここ最近知ったんだけど、

ブルーさんてちょっと腐の付く人みたいだった。

 どんな妄想をしてるかなんとなく想像は付くんだけど、

はっきり想像すると正直むずむずするので、

適当に頭の中で誤魔化す。


「さ、さぁ、食事の時間です! 皆さん参りますよ!」


 っと、慌てた様子でアクアさんが先導。

 俺は悠々と彼女に続いて、サルスキーさんは渋々と続く。


 心を入れ替えて、表世界のために働くことになってくれたサルスキーさん。

 だけど彼って結構まじめで、運動するにも容赦がない。


 運動といっては、まるで修行僧みたいな滝打ちをやらされたり、

山を二つ超える程のハイキングをさせられたり……

まぁ、俺の体の鈍りに気遣って、

そうしてくれるのはありがたいんだけど、

体を限界まで鍛え上げているサルスキーさんと俺の体のスペックは段違いでして……。


 さすがに水の国ドラフトで体を鍛えた俺でも、

ぶっちゃけ、付き合いきれないのが本音だったり。


 そんなこんなで豪華で絢爛な食堂へたどり着く。

 今日もまた長い長いテーブルの上には、

各国からの折々の食材を、これでもかってぐらい使った、

豪華な食事がところ狭しと並んでいた。

 最初の頃は感動を覚えてウキウキ、ワクワク気分だったけど、

こう毎日、しかも三食変わらずこうなってくると、

正直見ただけで胸やけを催しそうになる。


――ランビックのヘルシーなご飯か、エールのガレー飯でも食べたいなぁ……


 ぼぉーッとそんなことを考えながら、

うわの空で食事をとっていると、

またまた横から咳払いが聞こえた。


「食事に集中しないとは感心しませんな。これはビアル全域からチート様へ送られた大地の恵みですぞ?」


 サルスキーさんの云うことは最もだけど……

さすがにもう我慢の限界だった。


「ありがたいことですけど、毎日こんなのじゃ身体が付いてきませんって」

「ならばやはり運動をすればよいのでは?」

「あっ……」


 やばい、地雷踏んだ。


「俺は……いえ、私は大地の獣神グリーンレオのボック殿より超獣神たるチート様のご健康管理を預かっている身でして、故にこの言動は全てチート様の……」


 またサルスキーさんの長いお説教が始まった。

 なんだか”ボックさん”のところに妙にアクセントが付いてるように

思うけどどうしてだろう?


「その辺りにしておけサルスキー。チート様が辟易へきえきとしておられるぞ」


 気が付くと、俺の隣にはトラピストさんが居た。

 彼は今、相変わらず炎の国ホップでカフェを経営しつつ、

ビアル全域の復興に力を注いでいる。


「そうじゃ。お主は真面目すぎる。もう少し、こう肩の力を抜くことはできんのかね?」


 トラピストさんの隣にいたコエド将軍がそう諭すと、

サルスキーさんは「面目次第もない……」と云って、

喋るのを止めた。


 ビアル正規軍の将軍に復職したコエド将軍は、

裏世界からまた魔獣達が出てこないかどうか、ギルドと軍を指揮して

日夜監視を続けてくれている。


「お久しぶりですトラピストさん、コエド将軍。こんな時間に来るなんて珍しいですね?」

「お食事中のところ申し訳ないと思ったのですが……」


 トラピストさんがそう言い淀んでいると、


「知人くーん!」


 扉の向こうから颯爽と紫の閃光が飛び出してきた。


「わわっ!」

「ただいま! むぅー、ちゅ!」


 いきなり現れた深淵の獣神ダークロンのスタウトことスーは、

飛び出してきたなり、

いきなり俺に抱き着いてほっぺにチューしてきた。


「ちょ、ちょっとスタウト様ぁ~待ってぇ~!」


 遅れて扉の向こうから紫の法衣を着た、

猫耳の可愛い女の子が駆け込んでくる。

 彼女はコロナ。

大魔獣神に体を乗っ取られていた、

【獣耳種族:ドライ】の女の子だ。


「わっ! 超獣神様ぁ! お、お久しぶりです!」


 俺と目が合うなり、

コロナは顔を真っ赤に染めて、

ペコリと挨拶する。


「やぁ、コロナ久しぶり! どうアルデヒトの調子は?」

「は、はい! だいぶ復興が進みました!」

「そっか。これもコロナの手腕のお陰だね。本当にありがとう!」


 何気なしに手の届く距離にいたコロナの、

ふさふさで柔らかい髪をなでる。


「にゃにゃ! あ、ありがとうございます! 超獣神様に撫でて頂けるなんて……もうこの髪、一生洗いませんッ!」

「あ、いや、それは止めようよ……ばっちぃよ。撫でる位いつでもしたげるからさ……」


 そう突っ込んだけど、

コロナは「にゃ~にゃ~」言いながら、

俺の言葉を聞いているのか、

聞いていないのかわからない様子だった。

 なんだかこの子があの【帝王エヌ】だったなんて、

今の様子からは全く想像できない。


「コロナ、下がるッ!」


 するとスーが珍しく眉間に皺を寄せてコロナを睨んだ。


「ひ、ひぃ~! す、すみません! 出過ぎた真似でしたぁ~!」


 コロナは慌てて下がった。


「こら、スー。あんまりコロナをいじめるなよ?」


 俺がやんわりとそう諭すと、


「ごめんなさい……」


 スーは凄く申し訳なさそうに謝った。


「き、気にしないでくださいスタウト様! 私が出過ぎた真似をしただけですから!」

「ごめん、反省。にゅー……」

「だから良いですって、スタウト様ぁ!」


 スーは俺から離れてコロナへ深々と頭を下げる。

 それにも大慌てなコロナ。

 なんだかんだでこの二人もうまくやってるみたいだ。


 ちなみにスーはずっと獣神が不在だったアルデヒト大陸の獣神となっていて、

コロナは執政官のモルトに就任している。

 二人のお陰で裏世界に続くアセト山の大洞穴は完全に封印されて、

ビアルで最も大きい大陸は、その豊かさを取り戻しつつあるって聞いている。


「おっ? 早速盛り上がってるじゃねぇか!」

「エール、お帰り!」


 扉の向こうから今度は、

相変わらずかっこいい笑顔を浮かべながら、

エールが入ってきた。


「お久しぶりですチートさん!」

「こちらこそ、ボックさん!」


 エールと一緒にボックさんも入ってくる。

 瞬間、隣にいるサルスキーさんの身体がびくりと震えた。


「サルスキーさん、いつもありがとうございます。貴方がチートさんの傍にいてくれるおかげで安心して毎日職務に励むことができています!」

「あ、いえ! わ、私は自分の職務を全うしているだけであります!」


 ボックさんにそう労われて、

サルスキーさんは何故かものすごく嬉しそう。

 隣にいたトラピストさんとコエド将軍はそんなサルスキーさんを見て、

ちょっと笑顔を浮かべていたのだった。


「やっほー! たっだいまぁー!」

「ピルス! 待ってたよ!」


 元気なピルスの笑顔が見れて嬉しかった。


「ちょっとこの食事量何よ!? あんた達マスターを豚にでもする気!?」

「おかえり、ランビック!」


 ランビックは挨拶よりも先に、

目の前の食事の量に怒り心頭な様子だった。


「みんなぁー、集ぅー合ぉーッ!」


 アルトの通った声が食堂に響くと、続々と集まっていた

獣神達は俺の脇へ勢ぞろい。

 最後に真っ赤な髪を靡かせながら、アルトが獣神達の真ん中に

降り立つ。

 そして獣神達は揃って膝をついて、俺へ傅いた。


「「「「「「ただいま戻りました! マスター!」」」」」」

「みんな……本当に久しぶり! すっごく会いたかったよ!」


 思わず感極まって、

俺は席から立ちあがってみんなのところへ行く。

 信頼が浮かんが十二の目の輝きは、

本当に嬉しくてたまらない。

 

――前はこうして会うのが普通だったけど……


 獣神としての力を取り戻した彼女たち。

 彼女たちには平和になってもやることはたくさんある。

 今、みんなはそれぞれが守護する国へ帰っていて、

執政官のモルトと一緒に帝国との戦いで傷ついた、

ビアル全体に復興に力を注いでいる。

 だから前みたいにずっと一緒にいられないし、

こうして会えるのも極僅かで、短時間だった。


――本当は俺から動ければいいんだけど……


 戦いが終わって俺は超獣神、

つまりビアル表世界の新しい神様になった。

そのために俺はもう前のような生活を、

送ることはできなくなっていった。


 俺が一度歩けば耳目を集めてしまうようになったからだ。

 現に、大魔獣神を倒して、表世界に戻った時、

ついうっかりいつもみたいに街へ出て、

大騒ぎになった苦い記憶がある。


――あの時はホント、疲れてるみんなに迷惑掛けたよなぁ……


 だから俺は、これ以上みんなに大変な思いをさせたくないって思って、

コーンスターチの獣神殿に隠れることにした

 転生は前は、半ば引きこもりみたいな生活をしてたし、

大丈夫かなって思ったんだけど……どうにも退屈でたまらなかった。

 まぁ、前の世界には部屋の中にいてもいろいろできたし。


 それに寂しさもあった。

 今の俺の周りには確かにたくさんの人たちがいる。

 だけど獣神達やブレスさん以外は、

やっぱりどこかよそよそしい気がする。


 神様っていう立場だから、

仕方のないことなのかもしれないけど、

俺はもっと、こう気軽に接して欲しいと、

思っているのが本音だった。

 まるで家族みたいに心を通わせた獣神達は、

あんまり傍に居てくれない。

 そう思うと寂しくなって、

そして頭の中に自然と思い浮かんだのは、

前の世界でずっと傍に居てくれた俺の両親の事だった。


 実はスーがスタウトになった辺りから俺は、

徐々に前の世界の記憶を思い出すようになっていた。

 スーの精神世界で両親の姿を見たとき、

勝手な思いこみとか、焦燥感で両親に強く当たってたことを、

今更ながら反省している。

だけど、そんな俺だけど、死んでしまったら本当に悲しそうに

涙を流してくれた。

 それが申し訳なくて、でも嬉しい俺がいる。


――できることなら両親に謝りたい……


 そう思うとふと、前の世界に帰れたら良いと思う俺が居た。

 まぁ、もう俺は死んで此処ビアルに転生した身だから

どうしようもないのは分ってるんだけど……

 だけどそんな気持ちが心の中にくすぶっているのは確かだった。


「知人君?」


 気づくとスーが心配そうな顔つきで俺の顔を覗き込んでいた。

 それは目の前にいる獣神達も一緒。

 久々の再開に辛気臭い顔をもう見せたくないと思った俺は、


「大丈夫、何でもないよ」


 そう云ってスーの黒くて柔らかい髪をくしゃりと撫でる。


「本当、ですか?」


 いつもはこうすれば「にゅふー」なんて喜んでくれるスーなんだけど、

今日は珍しく食い下がってきた。


――やっぱ顔のでちゃってるのなか。ちゃんとしないと。


「うん、大丈夫。心配しないで!」


 そう努めて明るくそう云った。

 スーは笑顔を返してくれたけど、でもやっぱりその表情には

少し陰りがあったのだった。


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