七章16:神の新生! 超獣神誕生!
*是非、お好みの熱いBGMと共にどうぞ。
ちなみに著者はJAM Project「嘆きのロザリオ」でした。
重々しく俺の足が裏世界の大地へ降りた。
【き、貴様はぁ!?】
空の大魔獣神が驚きの声を上げる。
だけどそれは俺も一緒だった。
自分の手が白銀に輝いていたのに気が付く。
足も、体も、どこもかしこが白銀の鎧に覆われている。
そんな俺を、表世界のみんなが唖然と見上げていた。
逆に俺は足元のみんながすごく小さく見えた。
『少年よ! 君は今こそ大獣神の力を継承して、神となったのだ!』
いつの間にか胸元についていた、
テイマーブレスみたいな飾りが明滅して、
ブレスさんの声が聞こえた。
『新生した表世界の神……チートこと朝日知人よ! 君は超獣神チートッ!! 大獣神を超える新たな神に新生したのだ!』
「う、うぇ!? お、俺が!?」
まだにわかに信じられなかった。
だけどすぐに全身を巡る大きな摩力の流れを感じて、
気持ちが落ち着いて、動揺が収まった。
熱く、だけど優しい力の巡りは、
俺の心から動揺を払拭して、勇気を沸かせる。
【知人君! 私、使うッ!】
スーの声が聞こえた。
俺は腕をかざし、
「ウコイ・サ・ハケ・サオォー! 現れよ! 真獣神剣ッ!」
超獣神となった俺の白銀の腕に紫の摩力が集中して爆ぜる。
俺は顕現した雄々しい巨剣の柄を両手で握りしめて、
目の前のエヌ帝国の大軍勢へ突きつけた。
「覚悟しろ、エヌ帝国! 大魔獣神ッ!」
【ええい! 滅ぼせ! 我が軍勢よッ!】
大魔獣神の指示を受けて、エヌ帝国の大軍勢が一気に動き出す。
俺は背中へ灼熱の獣神の力を呼び起こして、
疾風の獣神の力を使って地面の上を滑った。
「そらっ!」
真獣神剣を目の前の大群へ向けて横へ凪ぐ。
剣から紫の衝撃破が発生して、
目の前の巨大ギネース兵はおろか、
遥か先にいたエヌ帝国の軍勢までもを一気に切り裂いた。
でも激しい爆炎の中から、
数体の巨大イヌ―ギンが飛び出してくる。
【チートさん! 私の力を!】
今度はボックさんの声が聞こえた。
「獅子正拳!」
【ガオォォォンッ!】
拳を打ち出すと緑の獅子が飛び出して、
巨大イヌ―ギンをまとめて飲み込み黒い結晶へ変えた。
それでも次から次へと敵が攻め寄せてくる。
【やっちまえ! マスター!】
エールの声に押されて、
「ブライトサンダークラッシュ!」
【グオォォォーッ!】
地面へ剣を打ち付けて、発生した電撃を叩けば、
中から金色の麒麟が現れて、颯爽と駆け抜けてゆく。
麒麟が駆け抜けた後には敵の姿は一体も残らない。
今度は上空からヴァイツェン航空兵団が迫ってきた。
地上の巨大ギネース兵群も諦めずにこっちへ向かってくる。
【今度は僕と!】
【私の番ね! やりなさい!】
ピルスとランビックの声が聞こえた。
「ライドロウィン! ショット・ラン・スター!」
空へ、地上へ二重に真獣神剣を振る。
真っ黒な裏世界の空へ不死鳥が鮮やかな翼を開いて舞い、
青の巨人がトライデントを片手にギネース兵へ突撃した。
【キュアコーンッ!】
不死鳥の咆哮が響いて、翼からたくさんの風が放たれた。
風は渦を巻いて細かい弾丸になって、
次々と航空兵団とキジンガ―を撃ち落としてゆく。
【ルゥーンッ!】
青の巨人がトライデントの切っ先を地面へ突き刺した。
そこから勢いよく水が噴き出す。
噴出した水は一瞬で凍り付いて、氷の矢となって、
群がる目前のギネース兵を撃ち貫いてゆく。
【我々も続くぞッ!】
ボロボロの巨大サルスキーが地を蹴って飛び出すと、
倒れていた巨大魔獣達も続いた。
「行くぞ! 今こそ我らの力を見せつける時! 進めぇ!」
トラピストさんの号令が響いて、
「例え敵がでかかろうと敵ではない! 全軍突撃じゃ!」
コエド将軍の一喝に、表世界のみんなは勝どきで答えて、
再度突撃を開始した。
【猪口才なぁ!】
すると空の大魔獣神が怒りに満ちた声を上げた。
奴の背後に浮かぶ瘴気の龍が首を上げる。
「プロテクトッ!」
黒い稲妻が放たれた瞬間、
俺は真獣神剣を掲げた。
【ギャオォォォン!】
剣から黒龍が飛び出して、空で渦を巻く。
高速で渦を巻く黒龍は紫の巨大な障壁になった。
【グオォン!?】
紫の障壁に稲妻を弾き返された大魔獣神は逆に攻撃を浴びて、
落下する。
だけど地表へぶつかる瞬間に体を翻して体勢を整えた。
禍々しい巨剣を構えて、こっちへ突撃してくる。
俺もそれに応じて、地面を蹴った。
【死ねぇ!】
大魔獣神が剣を振り上げた。
【マスター!】
アルトの声に反応して俺は、
「炎龍尾!」
【グガオォォォン!】
左手をかざすとそこから赤竜が飛び出した。
勢いよく飛び出した赤竜は大魔獣神を吹っ飛ばしたばかりか、
更に強靭な尻尾で大魔獣神を強烈に殴打した。
大魔獣神は今度こそ、地面へ叩きつけられ、
動けない状態になった。
『少年よ! 今だ!』
「はいっ!」
ブレスさんの声を受けて、俺は剣を振った。
剣から白い三日月のような衝撃波が発射される。
【お、おのれぇ!】
大魔獣神にぶつかった三日月状の衝撃波は奴を、
まるで見えない枷で封じるようにその場へ釘づける。
大魔獣神は必死にもがいて逃れようとしているけど、無駄なこと。
奴の巨体は完全に封じられていた。
「ニド・ホドホ・ハケ・サオォー……」
呪文に合わせて全身から六色の光が迸って、
俺の中へ流れ込んで行く。
その光は最終的に真獣神剣へ集まってゆく。
灼熱の炎、
壮大な大地、
逞しい雷鳴、
雄大な大海、
迅速の風、
安堵の闇、
六つの元素の力が真獣神剣へ流れて、周り、収束する。
そして俺は大地を蹴った。
足に風を纏った俺は地面を滑るように飛び、
大魔獣神との距離を詰める。
俺は真獣神剣の柄を両手で強く握りしめて、
そして、
「超獣神剣最終斬ッ!」
下に構えて、荘厳な輝きを放っている、
真獣神剣を一気に切り上げた。
壮大な力を秘めた一撃が、
黒い巨神:大魔獣神を切り裂き、
白銀の軌跡を刻んだ。
【フフフ……クハハハッ!】
だけど切り裂かれた大魔獣神は不敵な声を上げて、
真獣神剣の刃を握る。
【未だだ! まだ我は倒れんぞ! 我の真の姿を見るがいい! そして絶望せよ! グオォォォーッ!】
危険を感じて、飛びのく。
瞬間、黒い巨神は白銀の荘厳な輝きの飲まれて消えた。
でも、その輝きの中から黒い瘴気が勢いよく噴出してくる。
それは蠢いて、形を成し、
【グオォォォォン!】
目の前に現れたのは五つの首を持つ、黒い龍だった。
禍々しい赤い光を十の目に宿しながら、
龍は口から黒く激しい稲妻を放つ。
「プロテクト!」
俺は再度黒龍を呼び出して、紫の障壁を展開した。
障壁に黒い稲妻がぶつかる。
だけど威力はさっきの比じゃなかった。
足が黒い稲妻に押されて、深く沈む。
「ぐわぁぁぁー!」
障壁が破られ、黒い稲妻が俺へぶつかった。
信じらないほどの圧力に押されて、
俺は後ろへ吹っ飛ぶ。
【ふおぉぉぉぉっ!】
すると、吹っ飛んだ俺を巨大サルスキーが受け止めた。
でもサルスキーがいくら踏ん張っても、
俺の後退は止まらない。
「「マスター、お助けしますぞぉ!」」
「俺たちも忘れるな!」
「ヌゥーンッ!」
ウルフ兄弟、ガルーダ、クラーケンも駆けつけて、
俺を受け止めに来た。
五体の巨大魔獣に支えられて、
俺はようやく止まることができた。
「ありがとうみんな!」
「チート殿、負けるな!」
足元のトラピストさんが叫んだ。
「お主ならできる! 己の力を信じるんじゃ!」
コエド将軍が喝を入れてくれた。
「勝ってください!」
「そして表世界に平和を!」
「ガウ、ワン!」
アクアさん、ブルーさん、
バンディットも応援してくれた。
戦場のいろんな所から、いや、表世界の隅々から
表世界に暮らすみんなから願いの言葉が次々と流れ込んでくる。
それは俺の中に流れる摩力を膨らませて、上昇させてゆく。
『摩力とは人々が神の力に触れる双方向の力! 故に与えることも、与えられることもできる! 少年、今君には皆の摩力が集まった! 今こそその力を解き放つのだ!』
「うおぉぉぉっ!」
ブレスさんの声と表世界の人々声の後押しされて、
俺は大魔獣神へ飛んだ。
【ええい、そんな摩力など! 倒れろ、チートォォォッ!】
五つ首龍に変化した大魔獣神から、
また黒い稲妻が降り注ぐ。
稲妻は地面を抉り、
超獣神に装着されている装備品を次々と吹き飛ばしてゆく。
だけど俺は構わず突っ込んでゆく。
――みんなの願いに応えたい! いや、応えて見せる!
その一心で俺は大魔獣神の猛攻に耐えながら、
突き進む。
【何故だ! なぜ倒れぬぅ!?】
「決まってるだろうがッ! 俺はみんなの……表世界で平和を願ってるみんなの想いを背負ってるんだッ!」
大魔獣神からの攻撃が一層激しさを増す。
もう殆ど鎧は残っていないし、
白銀の巨神の体にはところどころ皹が入っている。
本当はその傷が痛い。
だけどその痛みに耐えて、
俺はそれでも前進を続けた。
【ならばこれでどうだぁ!】
龍の首が一か所に集まって、
増幅させた黒い稲妻を放った。
黒い稲妻が俺を飲み込んで、
爆炎で包む。
俺は敢えて超獣神の合体を解いて、
衝撃を分散させた。
赤、緑、黄、青、桃、紫、
そして白の七つの閃光が爆炎から舞い上がる。
「行くよ、獣神達!」
「「「「「「はい! マスターッ!!」」」」」
唖然と俺たちを見上げる大魔獣神を目下に収めて、そして!
「邪悪な力よ、消え去れぇ! 超獣神必滅弾ッ! これが俺たちの力だぁぁぁーーッ!」
白い輝きの俺を中心に、
アルトが、スーが、
ボックさんが、エールが、
ピルスが、ランビックが渦を巻いて、流れ、回り溶け合った。
一筋の、だけど荘厳な白銀の輝きを放つ輝きはまっすぐと大魔獣神へ
突き進み、奴を貫いた。
地表へ降り立った俺は獣神達と一緒に踵を返す。
そこには大きな風穴を開けられて、
空に漂う大魔獣神の姿が。
【こ、これで勝ったと思うなよ……世界には常に表裏は存在する……貴様らが存在する以上、また我も不滅な存在……その首、洗って待っておれ、表世界の……グオォォォォッ!!!】
五つ首龍の大魔獣神が白銀の光に飲まれてゆく。
凶暴な龍の首は白い輝きを口から吐いて、
光の中へと沈んでゆく。
やがてそこには邪悪な化身じゃなくて、
白くて綺麗な光の粒が漂っているだけだった。
それに連鎖するように裏世界に犇めいていた幽霊魔獣軍団も、
巨大ギネース兵も、次々と光の粒となって消えてゆく。
そして暗雲立ち込める裏世界に初めて、
一筋の明るい光が差したのだった。
「知人君! やった!」
「うわっ!」
真っ先に俺へ飛びついてきたのはスーだった。
「ちょ、ちょっと、スー!?」
「にゅふにゅふ! 勝った勝ったやったぁ!」
だけどスーは動揺する俺なんてお構いなしに胸へ
ほっぺたをスリスリしてきている。
するとそんな俺たちの目の前で、獣神達はお互いに目くばせして、
頷きあうと、
「「「「「マスターッ!」」」」」
「わわわっ!?」
一斉に飛びついてきた。
六人に、しかも一斉に抱き着かれた俺は、息苦しさを感じる。
「ブ、ブレスさん! 助け……!」
『HAHAHA! 勝利の抱擁だ! 存分に味わうが良い! HAHAHA!」
ブレスさんは面白がっていて、
全然助けてくれる気配がない。
じゃあ他の誰かに、って思ったけど、周りは戦勝の喜びに沸いて、
それどころじゃない様子だった。
「てめぇ、ボック邪魔だッ!」
「エールこそどきなさい! そこは私のポジションです!」
なんかエールとボックさんは、
いつもみたいに喧嘩してた。
「ちょっとラン、押さないでよー!」
「良いじゃない! あんたはいっつもマスターにチューしてるんだから! 今日ぐらいは譲りなさないよ!」
珍しくピルスとランビックも、
言い合いをしていた。
「よっし! くっつけたぁ! マスター!」
一番小さいアルトはするりとみんなの間を抜けて、
俺のほっぺにチューをする。
「アルト、めっ! 一番、わたし!」
するとずっと抱き着いていたスーが、
いきなり俺の唇を奪った。
いつもなら凄く嬉しいんだけど、
さすがにもみくちゃにされすぎて、
それどころじゃない。
むしろ命の危険さえ感じる。
「こ、今度は俺が死んじゃうよぉ! みんな、ギブギブ!」
『HAHAHA! ハーレムハーレム! HAHAHAHA!』
そんな俺の叫ぶも、
周りの戦勝の声でかき消されてしまう。
長いような短いような俺の旅と戦い。
それはこんなもみくちゃな幕引きだったのでした。
「みんな、犬になっちゃぇぇぇーッ!!」