七章14:表と裏の最終決戦! 【前編】
【ゴオォォン!】
獣神達が一つになり、表世界の創世神:大獣神となって、
裏世界の不毛の大地へ降り立った。
「君は物陰に隠れててね。終わったら必ず迎えに来るから!」
俺は大獣神から少し離れたところにダークロンを着地させて、
大魔獣神に憑依されていた猫耳のドライ族の少女を降ろした。
「あ、あの!」
ダークロンへ戻っている俺の背中に彼女の声が響いた。
「何?」
「その……助けて頂いてありがとうございました! 良ければ名前を教えて貰えませんか?」
恰好は未だ帝王エヌのままだけど、
結構可愛い猫耳少女に呼び止められた俺は、
ちょっと颯爽気味に振り返った。
「俺はチート! 君は?」
「コロナです! チートさん、どうかお気をつけて! 勝利を祈ってます!」
愛くるしいドライ族――獣耳の一族――の少女に応援されて、
結構嬉しい俺が居た。
「ありがとうコロナ! 必ず勝ってくるから! 絶対にビアルを大魔獣神から守るから!」
そう強く宣言して、また
コロナへ背中を向けて歩き出す。
できるだけ落ち着いて、無茶苦茶嬉しいのを必死に隠しながら。
本当はスキップでもしたい気持ちだけど、
流石にこの雰囲気じゃ、
ふざけてるようにしか見えないし我慢した。
『少年よ、気持ちは分かるがなんだその……ニヤニヤするのは止めよう。この緊張感の中でそれは少し場の雰囲気を壊してしまうぞ?』
「えっ? 俺笑ってますか?」
『盛大に、不気味にな』
【グルゥーッ……】
突然、目の前のダークロンが低い唸り声を上げた。
金色の目が鋭く光って、
その視線は俺の胸を貫く。
「あ、あれ? スー、怒ってる?」
『少年が別の女の子にデレデレしていたのだ。怒るのは当然だろう』
「うぐ……ご、ごめんごめん。もうデレデレしないから。だから、どーどー落ち着いて」
そう云って必死にダークロンの鱗を撫でる。
ようやく納得してくれたのかダークロンからの、
厳しい眼差しは止んだのだった。
【グオォォォン!】
大地を揺るがすような、低くそして恐ろしさに満ちた
咆哮が裏世界の大地へ響き渡った。
気持ちを引き締めて、そっちの方へ視線を傾ける。
白銀の大獣神に対峙していた漆黒の巨神:大魔獣神は、
先端が三又に割れた、不気味な剣を横へ構える。
「ウコイ・サ・ハケ・サオォー! 現れよ! 真獣神剣ッ!」
【ギャオォォォォォォン!】
俺の詠唱とダークロンの咆哮が辺りに木霊した。
ダークロンは俺を乗せて、まっすぐと大獣神へ向かう。
俺は紫に光り輝くダークロンから飛び降りて、
肩へ降り立つと、顔の横にある取っ手を掴んで、
テイマーブレスを口元へ掲げた。
次いでダークロンが雄々しい巨剣:真獣神剣に変化し、
それを大獣神が強く握りしめる。
戦闘準備は完了した。
白銀の大獣神と漆黒の大魔獣神は互いに武器を構えて、
緊張感を漂させていた。
「行くぞ、大獣神ッ!」
【ゴオォォォン!】
大獣神は背中からマントのように赤い炎を揺らめかせながら
むき出しの岩肌を蹴った。
【グオォォォン!】
対する大魔獣神も背中に浮かべている黒い瘴気に押されて、
禍々しい剣を構えて突撃してきた。
ぶつかりあう大獣神と大魔獣神の巨剣。
だけど互いに剣を弾き合って、受け流してそのまま過った。
大獣神も大魔獣神も揃って踵を返してにらみ合う。
「大獣神! 炎龍火球だ!」
俺の命令を聞いて、大獣神はラウンドシールドを構えた。
シールドに嵌る真っ赤な灼熱の獣神晶が光り輝く。
そしてレッドドラゴンが口から吐くような、燃え滾る真っ赤な、
火球がシールドから勢い良く飛び出した。
【グオォン!】
大魔獣神も同じようにして、シールドから紫電を浮かべた、
真っ黒な魔力の塊を放出する。
それは互いにぶつかり合って、
そして盛大な爆発を起こした。
「クッ……!」
一瞬、大獣神の巨体が揺らめいた。
復活してからここまで、こんなことなんて一度もなかった。
たまたまかもしれない。
だけど、この揺らぎは俺に、
動揺をもたらしたのは確かだった。
『少年! 大獣神を後退させろ!』
「えっ!?」
ブレスさんの声に気づいたときにはもう遅かった。
爆炎の中から剣を構えた大魔獣神が飛び出してきて、
一気に距離を詰める。
大獣神を後退させようと思ったけど、もう遅い。
【ゴォッ!?】
「うわっ!」
大魔獣神の一太刀が、大獣神の金色の鎧を切り裂いて、
巨体を吹っ飛ばした。
俺は咄嗟に取っ手を強く掴んで衝撃に耐えた。
幸い大獣神から俺に流れ込んでいる摩力に、
身体を守ってもらっているため、
そこから吹っ飛ばされることは無い。
だけど初めて、背中倒しになった大獣神の様子に、
俺はまたしても動揺してしまう。
刹那、また冷たい殺気と恐怖を感じた俺は、
「ジェット・タイ・フーンッ!」
大獣神の腰のスカートから勢いよく風が吹き出して、
巨体を上へ押し上げた。
瞬間、大魔獣神の剣が振り落され、さっきまで大獣神が倒れていた
場所に激しい砂煙が巻き起こっていた。
でも、安心する間は一切なし。
気が付いたときにはもう、大魔獣神は片手の五指を開いて、
大獣神と俺を狙っていた。
【グオォンッ!】
大魔獣神の五指の先から、黒い瘴気の弾丸が横殴りの雨のように
大獣神へ突き進んでくる。
すると大獣神は真獣神剣を自分の目の前に翳した。
剣から正面へ紫の障壁が発生して、大魔獣神の瘴気の弾丸から
本体を守る。
障壁に弾丸がぶつかる度に大獣神の身体が大きく震えた。
――やっぱり何かがおかしい。
これまで大獣神は一度も、こんなにまでピンチになったことがなかった。
相手が同じような力を持つ大魔獣神だから?
いや、他の何かが……そう考えた時、
大獣神の中に流れる摩力がおかしいことに気が付いた。
流れも正常だし、患部も見当たらない。
だけどいつもよりも流れに勢いがないように見えた。
――みんなの摩力が弱まっている!?
だけどここまでの道中を思い返してみれば、合点が行く。
突入からここまで、
獣神達は休むことなく戦い続けた。
どんな生き物だって、
長くて激しい道中では確実に消耗する。
――もしかして、ここまでの攻勢は全部このための大魔獣神の策略!?
そんなことを考えていた俺の目の前で、
瘴気の弾丸を防いでいた紫の障壁が、
ガラスみたいに砕け散った。
瘴気の弾丸が次々と大獣神を捉える。
大獣神の各所に装着されている、
色とりどりの装備品が罅を浮かべて、
砕けて、撃ち抜かれる。
遂にはスカートからの風も止まってしまい、
大獣神は地面へ叩き付けられるように落下する。
「うわっ!?」
俺もまた大獣神から投げ出されてしまった。
投げ出された途端、大獣神からの摩力の供給が止まって、
俺は勢いよく地面へ向かってゆく。
だけど地面へあと少しでぶつかりそうになった時、
テイマーブレスが光り輝いて、背中の辺りにクッションのような
摩力が生成されて、落下のショックを吸収してくれた。
「あ、ありがとうございますブレスさん……」
『礼は後だ! 今は大獣神を!』
ブレスさんの焦った声を聴いて、
すぐに視線を大獣神へ戻す。
瞬間、うつ伏せに倒れ込んでいる大獣神へ向けて、
大魔獣神が禍々しい剣を振り落した。
【ゴ、ゴォッ!】
ギリギリのところで起き上がった大獣神は、
真獣神剣を翳して、大魔獣神の剣を受け止める。
やっぱりその腕は大きな震えていた。
【グオォォォンッ!】
対する大魔獣神はグッと力を込めて、
剣を一気に押し込んだ。
力の均衡が破れて、
雄々しい巨剣:真獣神剣の刀身が真っ二つに折れる。
更に大魔獣神の剣戟は、
そのまま大獣神を頭から真っ二つに切り裂いた。
「みんなッ!」
俺の叫びは溶けて消える。
切り裂かれた大獣神が白銀の輝きになって、
六色の閃光へ崩壊を始める。
閃光がバラバラに散らばって、獣形態の獣神達が
力なく地面に伏していた。
獣神達はゆっくりと立ち上がったけど、
身体が震えていて、立っているのがやっとの様子に見えた。
そんな獣神達を大魔獣神はぐるりと見渡す。
そして背中の瘴気を黒い翼に変えて、
裏世界の暗い空へ舞い上がった。
【フハハハ! やはり消耗していてはこの程度か大獣神! さぁ、以前のようにバラバラに引き裂いてくれよう!】
大魔獣神から更に黒い瘴気が、
激しく沸いた。
【イナジャ・ンモムノ・テンナケサ! さぁ、現れよ! そして我の手足となれ! 我が軍勢、エヌ帝国よぉッ!】
黒い瘴気が裏世界荒野を駆け抜け、
地面を真っ二つに切り裂いた。
そこからも真っ黒で、
不気味な風が勢いよく噴き出してくる。
切り裂かれた地面の中から次々と、
巨大イヌ―ギンとキジンガ―が姿を現す。
更に地面からたくさんの水たまりが湧き始めた。
【ギネェェェース】!】
俺たちの目前は、
多数のスライム型ギネース兵で埋め尽くされる。
そればかりかギネース兵の背後に、
数えきれないほど岩巨人コウボが姿を現した。
岩巨人は次々とギネース兵を吸収して巨大化させる。
今度は空から機械的な轟音が響いて来た。
雲の間からは何隻もの空中戦艦ボトルが現れる。
ボトルが後部ハッチを開いて、
無数の鳥型魔獣ヴァイツェン航空兵団が発艦を始めた。
地上は亡霊魔獣イヌーギン軍団と、
巨大化した多数の巨大ギネース兵。
空は空中戦艦と航空兵団、
そして亡霊魔獣キジンガ―に埋め尽くされた。
圧倒的な数と物量。
裏世界の不毛の大地を見渡しても、
周りは敵ばかりだった。
対するこっちは満身創痍の六体の獣神と俺だけ。
数の差に、俺の胸へ絶望感が顔を覗かせる。
【グ……グガオォォォンッ!】
そんな中、真っ先に飛び出したのは、
灼熱の獣神レッドドラゴンだった。
レッドドラゴンは手近な巨大ギネース兵へ牙で食らいついて、
戦闘不能へ追い込む。
するとそれが合図になって一斉に獣神達が動き出した。
【ガオォォォン!】
グリーンレオは後ろ脚を蹴って飛んで
牙で幽霊魔獣の巨大イヌ―ギンに噛みつく。
鋭いグリーンレオの牙は的確に巨大ギネース兵の、
胸の中のコアへ喰らい付いて、
強靭な顎で粉々に砕いて瓦解させる。
【グオォォォ!】
負けじとブライトケイロンは角を突き出して駆けだした。
角から沸いた電磁バリアはを盾にして群がる、
巨大ギネース兵軍団の中へ突っ込んで行った。
電磁バリアとブライトケイロンの脚力は、
次々と敵をなぎ倒す。
【ルゥーン!】
ブルーマーメイドはトライデントを薙いで、
巨大ギネース兵やイヌ―ギンの斬撃を受け流す。
だけど周囲を取り囲まれていて、
剣戟を受け流すのがやっとの様子だった。
【キュアコーンッ!】
するとブルーマーメイドの上空を、
ローズフェニックスが過った。
ローズフェニックスが鮮やかな色をした羽を、
羽ばたかせる度に竜巻が発生して、
ブルーマーメイドを取り囲むギネース兵とイヌ―ギンの体勢を崩す。
その隙を突いてブルーマーメイドはトライデントで敵を切り裂いて、
貫き周囲を取り囲む軍団を排除してゆく。
【ギャオォォォン!】
空中のダークロンも、
延々と紫のエネルギーを吐き続けていた。
ダークロンのエネルギー放射はヴァイツェン航空兵団を次々と
蒸発させて、空中戦艦ボトルを轟沈させてゆく。
でもそんなダークロンへ、斧を構えたたくさんのキジンガ―が
急接近してきていた。
【グガオォォォン!】
そんなダークロンの周囲へ、
レッドドラゴンが、雄々しい翼を羽ばたかせながら飛来。
レッドドラゴンは大きく口を開いて、
沢山の火球を一気に吐き出す。
それは正確な狙いでキジンガ―を一体一体飲み込んで焼き尽くす。
空中に漂う龍と竜は互いに目配せをし合って、空中に存在する
敵の軍団へ突っ込んでいった。
獣神達は傷つきながらも、圧倒的な敵の物量に滅入ることなく、
果敢に戦いを挑んでいた。
――俺も負けてられない!
「シューティングフォーメーション!」
疾風の獣神の力を呼び出し、ガンマンスタイルになった俺は
地面を蹴って高く飛んだ。
腰の二挺拳銃を抜いて、すぐにそれを互いにぶつける。
「Set Armstrong!」
二挺拳銃は混ざり合って、肩に抱えられるほどのバズーカ砲へ
変化した。
スコープを覗いて、中の十字へ巨大ギネース兵のコアを
収めて、引き金を引く。
勢いよく撃ちだされた風の砲弾は的確に敵のコアを捉えて、
一発で粉砕する。
コアを失った巨大ギネース兵の体がドロドロに溶けて消えた。
すると、周囲に居たギネース兵と巨大イヌ―ギンが、
俺のことに気が付いて、踵を返してきた。
俺は何回も飛び上がりながら、
風の砲弾を放って巨大ギネース兵を駆逐する。
でも、巨大イヌ―ギンは剣で風の弾丸を弾いてしまう。
「電磁装着!」
今度は雷鳴の獣神の力を呼び起こした。
重厚な鎧と身の丈以上あるバスターソードが俺の手へ召喚された。
刹那、巨大イヌ―ギンが剣を振り落す。
寸前のところでバスターソードを掲げて、辛くも巨大イヌ―ギンの
剣をバスターソードで受け止めた。
凄まじい剣圧で足が地面へ少しめり込む。
「こ、このおぉぉぉッ!」
俺が渾身の力を込めてバスターソードを押すと、
俺よりも遥かに巨大なイヌ―ギンが後ろへよろめいた。
「ブライトッ!」
バスターソードを地面へ打ち付けて電撃を呼び起こす。
今にでもはじけ飛びそうな電撃が地面から沸き起こった。
「チッ! 結晶装着!」
電撃を打ち出すのを止めて、大海の獣神の力をまとった俺は、
空高く飛翔した。
刹那、背後にいた巨大ギネース兵が、
さっきまで俺が立っていたところに、
剣を振り落として大きな砂煙を起こしているのが見えた。
俺は手にしたトライデントを目下の、
巨大ギネース兵の背中へ突きつける。
『少年、上だ!』
「えっ!?」
氷の矢:ライドロウィンの発射を止めて、更に上空へめがけて
トライデントを投げる。
何羽かのヴァイツェン航空兵が串刺しになって、黒い結晶に消えた。
地面へまた降り立っても周囲の殺気は全く止まらない。
俺の周りを取り囲んでいた巨大イヌ―ギンとギネース兵が
一斉に迫ってくる。
「着鋼! 気合転身!」
試しに重ね掛けをしてみると、
体の半分がグリーンレオの翡翠のプロテクター、
反対側が真っ赤な炎の鎧になって、
得物の長い棒が握られていた。
「伸びろ! 炎龍尾!」
手にした赤い棒が素早く伸びて、
目の前の巨大イヌーギンへぶつかった。
俺は地面へ伸びた棒を突き立てて、
その上を橋のように駆け上がってゆく。
「獅子正拳!」
棒の上を昇り切って、
イヌーギンの顔へ鋭い一撃をお見舞いした。
俺よりも遥かに巨大なイヌーギンがゆっくりと倒れて、
棒がどんどん傾いてゆく。
俺は思いっきり棒を踏んで撓らせると、
その反動を使って上へ飛んだ。
右足を突き出して、その先に滞空している空中戦艦ボトルの
底部へ狙いを定める。
「炎龍脚!」
背中から突然、真っ赤な炎が湧いて、
全身を包みこんだ。
俺は紅蓮の炎を纏って、一筋の赤い閃光となって空中戦艦ボトルを
突き抜けた。
足元に灼熱の獣神の力を集中させてホバリングへ、
体勢を持って行く。
ボトルは黒煙を上げて、花火みたいな爆発を幾つも起こしながら、
沈んで行くのがみえた。
『どぉーりゃッ!』
突然、ブレスさんの声が聞こえたかと思うと、
俺の背後へ白い障壁が展開されていた。
「うわっ!?」
刹那、俺の背後に居た無数の巨大キジンガ―が、手をこっちへ翳して、
大きな魔力の放射を一斉にしていた。
延々と、絶えることなく、キジンガ―軍団の魔力放射は続く。
『うぐっ……!』
テイマーブレスが震えて、
苦しそうな声が聞こえる。
「ブレスさん!」
『クッ……先代大獣神を舐めるんじゃない……! どぉぉぉりやぁぁぁぁーッ!!』
テイマーブレスの真ん中にある、
大きなダイヤモンドみたいな宝石がひと際輝いた。
その輝きは眩しいほどのまっすぐな光になって撃ち出された。
ソレは目の前にたくさんいた巨大キジンガ―軍団を飲み込んで、
あっという間に蒸発させる。
圧倒的なブレスさんの火力に、俺は嫌な予感を得た。
「ブレスさん、大丈夫ですか!?」
『う、うむ、一応は……』
「一応って、あんな力使っちゃブレスさんは……ッ!?」
言葉を強引に切って、俺は足元に集中させていた、
灼熱の獣神の力を一気に解放した。
足元で真っ赤な炎が爆発して、
俺をロケットみたいに打ち上げて加速させる。
刹那、さっきまで俺が滞空していたところへ、ヴァイツェン航空兵団が
数えきれないほどの爆弾を投下していた。
ヴァイツェン航空兵団は俺が逃げたのを気取って、
こっちへ猛スピードで接近してくる。
翼を開いて、そこに装着されている銃みたいなものから、
黒くて細かい瘴気の弾丸の一斉射を始めた。
俺は足元の魔力を更に爆発させて加速し、
身体を何回もひねって回避行動を取る。
最初は何とか避けきれていた。
でも敵の射撃は一定。
対する俺は無茶苦茶な軌道で避け続けていたために、
身体が悲鳴を上げ始める。
肺が押しつぶされそうになるほど痛くて、
次第に意識が朦朧とし始める。
――いつまでも避けてるわけにはいかない。だけど……!
何も決定打が無いのが本音だった。
どんなに気丈にふるまっても、
策どころか案も浮かばない。
『しょ、少年! 前方ッ!』
「えっ!?」
ブレスさんの声で我に返った時にはもう、
目の前に手のひらを俺へかざし、そこへはち切れそうなほどの、
魔力を収束させているキジンガ―の姿が。
急いで上昇しようとするが、もう遅い。
『え、ええい……! どぉーりゃぁーっ!』
ブレスさんが障壁を張るのと同時に、そこへ
キジンガ―の放った激しい魔力の渦がぶつかった。
「くはっ!」
前方から激しい圧力を感じて、
体が地面へ向けて思いっきり吹っ飛ぶ。
障壁に包まれていたおかげで身体が焼かれることはなかったけど、
でも激しい魔力の圧力は俺を思いっきり地面へたたきつける。
必死に立ち上がろうとするけど、地面へ叩きつけられた衝撃で
身体がうまく動かない。
じわりと胸の奥から絶望感が顔を覗かせて、
俺へ諦めの手招きをしてきている。
『す、すまない少年。私も、限界の、よう、だ……』
「ブレスさん!」
テイマーブレスから光が消えた。
ブレスさんは眠りに入ったようで、
それ以上もう俺へ言葉をかけてくれない。
「ま、負けるもんか……こ、ここまで来て俺は……!」
絶望を払いのけようと身体に力を籠める。
だけど目の前に見えた凄惨な光景に、
俺はまた身体から力が抜けてゆくのを感じた。
【グ、グガオォォォン……】
【ギャオッ……】
目の前の空で空中戦艦ボトルの砲撃を受けた、
レッドドラゴンとダークロンが力なく墜落するのが見えた。
【キュアコーッ……】
低空を滑空していたローズフェニックスは鮮やかな翼を、
巨大イヌ―ギンの剣に切り裂かれて、
地上へ滑るように不時着する。
【ルゥーン!……ッ!?】
ブルーマーメイドは救援に向かったけど、
逆に巨大ギネース兵に囲まれて集中攻撃を受ける。
【グオォォォ……】
自慢の角を巨大キジンガ―に握りつぶされ、ブライトケイロンが
力なく地面へ倒れこむ。
【ガオォォォンッ!】
そんなブライトケイロンを見て、
グリーンレオは怒りに満ちた咆哮を上げて、
果敢にも敵の軍団へとびかかる。
だけど、剣でなます切りにされ、牙を折られ吹っ飛ぶ。
グリーンレオの巨体が俺の目前へ倒れこんでくる。
そして口からぐったりと舌を出したまま項垂れてしまった。
最悪な状況だった。
表世界を守護する、無双だったはずの獣神達は、
みんなボロボロになって、
地面へ蹲って、苦しそうな呻きを上げる。
「みんな! しっかりして!
俺の声は空しく溶けるだけだった。
更に絶望感が押し寄せてきて、
胸が押しつぶされそうに痛くなった。
「みんな、立って! こんなところで負けちゃダメだ! アルト! ボックさん! エール! ピルス! ランビック! スーッ!」
心を込めて、思うがままに叫ぶ。
いつもだったらみんなは応えてくれる。
でも、今は誰も俺の声に反応してくれなかった。
【フハハハハ! そろそろ終いとするか!】
上空でずっと高みの見物をしていた、
大魔獣神が声を上げた。
奴はゆらりと禍々しい剣で倒れて動けなくなっている、
獣神達を指し示した。
【我が手足エヌ帝国の戦士たちよ! 忌々しい表世界の獣神共を蹂躙し、完膚なきまで滅せよ!】
大魔獣神の命令を受けて、全く減っていないように見える、
エヌ帝国の大軍勢が重い足音を響かせ始めた。
「やめろ……」
胸の痛みは、声となって喉を通る。
だけど声は震えている。
恐怖、絶望。
――みんなを失いたくない。
「やめてくれ、お願いだから……」
本当は叫びたい。
大声で。
でも、これ以上声が出ない。
「……どうしてこんな……ここまで来て……!」
どんなに悔しく思っても、
エヌ帝国の足音は止まない。
そして黒い影が俺と、
目の前に倒れこんでいるグリーンレオの巨体を覆った。
剣を構えた幽霊魔獣の巨大イヌ―ギンが、
切っ先をグリーンレオの頭へ向けている。
グリーンレオは一瞬立ち上がろうとしたけど、
まるで地面へ吸い付けられるようにまた倒れた。
巨大イヌ―ギンの剣が鋭利な輝きを放つ。
周囲を冷たい殺気と緊張感が覆う。
瞬間、剣が動き出した。
「や、やめろぉぉぉぉぉッ!」
「豪魔獣拳奥義! 神殺蹴ッ!」
俺の叫びと聞き覚えのある声が重なった。
グリーンレオと巨大イヌ―ギンの剣の間へ紫電をまとった、
灰色の閃光が横切る。
その閃光は剣を折ったばかりか、
巨大イヌ―ギンを後ろへ思いっきり吹っ飛ばした。
「仮を返しに来たぞ! グリーンレオのボック!」
グリーンレオの上へ灰色の閃光が降り立った。
その影を見て俺は我が目を疑う。
グリーンレオの上に降り立ったのは、
エヌ帝国【魔獣大将軍サルスキー】だった。