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さて、今日初めてのまともな食事ということで心が躍るのと、異世界に来てからの初めての食卓ということもあって期待と不安と感じながら、グイール君に連れられて部屋に入った。そこには木のテーブルと椅子があり、テーブルの上には木の食器と籠に入ったパンがあった。鉄や銀の食器なんてものは無く、ましてやプラスチック製の物なんてあるはずもない。焼き物もあったが、水差しと思われる物だけだった。
すでに座っている村長を見て、急いで席に座る。それを確認すると、村長が顔の前で右手で握りこぶしを作り、その右手を覆うように左手で包み目を閉じてしゃべり始めた。
「我等が天子に誓いをたて、今を生きることを感謝いたします。」
「「感謝いたします」」
村長に続いて何かに感謝し始めたエイゼさんとグイール君。そして何事も無かったかのように食事を始めた。
その様子を見て、何も言えない僕と彩香だったが、食事を始めたのを見て小さく「いただきます」とだけ言って食べ始めた。
今日の献立は、
硬いパン
野菜と肉のスープ
チーズ
であった。食事のマナーがどうなっているのかや、食べる順番があるのではないかなど、判らないことが多くあるため、仕方なく目の前にいるグイール君の食べ方を見ながら真似て食べる事にした。パンをちぎってスープに浸し、それにチーズを乗せて口に放り込むグイール君、それを見て食べ始める僕と彩香。これでいいのか? と思いながら、ちらちらとグイール君の方を見て食べていく。
「グイールから聞いていたが、本当にこの国について何も知らないのだな。食前の祈りも知らないようだったし、食べるときの動作にも慣れないのか若干堅い動きをしていたようだしな。」
3~4口食べた辺りでそのような事を言われた。ずっと見られてた様だ。それにグイール君から聞いたと言っていたって事は、さっき話した内容の設定を確認したって感じだろう。やっぱり即席の設定じゃ甘々だったか…、明らかに怪しいですって感じだったし。グイール君はあまり気にしていなかったみたいだけど、普通なら何かしら警戒するだろう。しかし、今更である。今後はもっとしっかりと設定を作りこんでから話すことにしよう、でないと本当の事を話しているのに逆に怪しさがこみ上げてくる人物像になりそうだ。ま、考えるだけで設定を作る事をしないのだろうが…。
その場を苦笑いで乗り越えつつ、食事を終える。片付けなどをしなくてもいいのかと聞いたが、しなくてもいいということだったので部屋に戻った。
部屋に戻ったはいいが特にする事がないため、もう寝ようと布団に入った。ただ、彩香も布団に入っているのでお互いベットの端まで寄って、中央が開いた様になっている。しかし、疲れているのに眠れない、緊張してしまっているのだろうか。しばらく眠れなかったため、今日の出来事を頭の中で整理していた。
「(今日は、朝起きたら草原に居て、彩香と一緒に歩いて、シルフたちと会って契約して、…ゴブリンを見つけて逃げて歩いて、村を見つけてここに居る。)」
よくわからない出来事である。そもそも何故草原に居たのかがわからないのに、その後の事を繋げても何も見えてこない。
「(そもそも何で異世界に居るのだろうか? 世界に呼ばれたわけでも、どこかの国の人に召喚されたわけでもされたわけでもない。もしそれならもう少し解り易いか、現地人がすぐ傍に居るだろう。ゲームでいきなり『あなたは異世界に飛ばされました。』なんて展開のものがあったらクソゲー以外の何物でもないな…)」
答えが出ないであろう問を考えて、横道に逸れる。答えを求めてしまう人間の性であろう、答えの出る命題まで少しずつ自分のいいように解釈していく。そして、慶吾が辿り着いたのは…
「そうか…そうだったのか! 神は僕にこの世界で王となれと言っているのか…。だがしかし! 僕はそんな面倒なことは嫌いなのだ! 普通に生きて普通に生活してやるのだ!」
そのような戯言であった。しかも声に出ている。
「なに? 起きてたの? しかもなんでそんな変な事言ってんの?」
彩香に突っ込まれて声に出ていた事に気がついた。とても恥ずかしい。




