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村までの道を迂回して、ゴブリンたちに見つからない様警戒しつつ歩いて村の前に辿り着いたのは、すでに日が落ちる寸前だった。


「やっと着いたわね…」

「ああ…無事でよかったよ、本当に…」


無事に着いた事を喜ぶよりも、疲労の方が勝っていたため、そんな遣り取りしかできないでいた。


「宿をどうにかしないとな…」


いつまでもこんなところに立ってなんかいられない。はやくこの汗の掻いた体をどうにかしたい。湯船に入りたいところだが、この際贅沢は言わない。ぬれたタオルでも何でもいいからどうにかしたい! そんな気持ちだ。


「こんにちは、どうかされましたか?」


村の入り口に立っていると声をかけられた。声をかけられるなんて思ってもいなかったため、少し驚いてしまった。


「すみません、今ようやくこの村に着いたばかりでして。これから宿を探そうかと思っていたところなのですが、どこか紹介してもらえないでしょうか?」


彩香がすぐさま返答し、そのまま宿の場所を聞いてくれた。そんな余裕の無かった僕にとってはとてもあり難い。一応どのような宿でも構わないと言う事を付け加え伝えた。今から受け入れてくれるところが在るだけでも、こちらにとってはとてもあり難いということを伝えたかったのだが、言葉が足りず少し失礼なことを言ってしまった感がある。しかし、それを気にするだけの余裕は今の僕には無い。


「えっと、すみません、えっと…実はこの村には、その…人を泊める宿が無いんですよ…――あ、そんな顔をしないで下さい。宿は無いですが、村に来られた人は、いつも私の家であずかる事になっていまして、あなた方お二人も私の家に通したいのですが、よろしいですか?」


こっちが言い寄ってしまったためか、少し戸惑いながら返事を返してくれる村の人、そして、宿が無いと言った瞬間に二人ともが残念な顔をしてしまったのではなかろうか。すごい速さで自分の家に迎え入れる事を提案してきた。


「「すみません、よろしくお願いします。」」


こうして今晩の宿が決まった。







「わしがこのソダ村の村長グルジ、こっちが妻のエイゼ、そして君たちを連れてきたのが息子のグイールだ。今日ここに泊まると言うことはさきほどグイールから聞いたところだ。ゆっくりしていかれるといい。」

「「お世話になります。」」

「部屋については、一部屋でいいとの事だったがよろしかったかね? いつも一部屋銅貨2枚で貸し出すのだが…」

「いえ、お気使い無く。一部屋で大丈夫ですので。」

「そうか、わかった。何時貸し出してもいい様に、準備はできている。そのすぐ近くの部屋を使ってくれ。鍵はかからないが、不意には入らぬ。」

「わかりました、ありがとうございます。」


特に難しい事も無く受け入れてもらえたのは幸運だった。交渉や駆け引きがあったなら普段ならある程度は善戦できるかもしれないが、こうも疲労困憊だと回る頭も回せない。何より一部屋の値段の相場がわからない以上、交渉を持ちかけられればこちらが不利になるのは見えている。銅貨2枚にしても適正なのかどうかはわからないが、今の手持ちの金で十分足りるのでその値段で良しとした。それに、断れないことはわかりきっている、この村に宿が無いのだから。それでも吹っかけて来ようものなら、この村は人が来なくなり衰退するだろう。ぼったくられるとわかっていれば、商人なんてやって来ないだろうから。


「ここが、今日泊まる部屋か…」


扉を開けて中を見る。干草の上にシーツのような生地を被せたベッドが一つ、服をかけておくものが二つ、机が一つ、その上に油皿と点火石(彩香のスキルで判明)、タオルがある。以上が部屋の内装だ。


「必要なものはあるし、十分いい部屋だな。」


何もないといえばその通りなのだが、必要なものがあるんだ。それだけで十分ってものだろう。彩香もベッドの感触や机の上の物を確かめている。そんな事をしていると、扉からノックが聞こえてきた。


「どうぞ」

「失礼、親父に頼まれて水の入った盥を持ってきた。入ってもいいかな?」


グイール君が持ってきてくれたのは体を拭くための水だった。こちらから貰いに行こうと思っていたのだが、この家に着くまでに話していた事を村長に伝えてくれていたのであろう。話が終わってこっちが部屋に向かった後に話をして持ってきてくれたのだと思う。


「ありがとうございます、水を使うときは部屋の隅の少し低くなっているところで使えばよかったかしら?」


彩香がグイール君と話をしている内容を聞き、部屋の隅を見る。確かに部屋の隅の部分が石と土でできていて、少し下がっている。内装ばかりを気にしてそんなものがあった事に気付かなかった。


「はい、あの隅で使っていただければ。最後はそこに水を流してしまって構いませんので。」

「あと、お洗濯もそこでしてしまってもよろしいの?」

「洗濯もそちらでできますよ。あ、板を持ってこないといけませんが、すぐもってきましょうか?」

「お願いします、何から何までありがとうございます。」

「いえいえ、これもこの村での仕事の一つですから。」


そういってグイール君はすぐに出ていったと思ったらすぐに戻ってきて洗濯板を渡すと、ごゆっくりといってまたでていってしまった。忙しくしているのはこっちなので、少し罪悪感があるが仕事だといっているのだから甘んじて受けようと思う。体を拭いて着替えた後洗濯して、終わったら晩御飯にしようと考え汗まみれの服を脱いだ。


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