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「ねぇ、わたしのこと彩香って呼んでくれない? わたしもあなたの事慶吾って呼ぶから。」


委員長からそう提案された。理由は委員長に抱かれているシルフが問題である。なんとシルフたちが「委員長」を彼女の名前と勘違いして呼んでいるからである。私の名前は彩香だと言って何とか委員長と呼ばれなくなったのだが、今後会うだろう人にも勘違いされると面倒なので、名前で呼んでくれとのことだ。


「わかった、これからは彩香って呼ぶように意識するよ。」


これを断ると、僕を呼ぶときも変な名前を付けられそうな気がする。


「あと、私たちは名字を使わないようにしましょう。在らぬ誤解が広がる可能性が高いわ。」


これもシルフたちから聞いたとの事だが、貴族や豪族のような人たちしか名字を持ってないらしい。地球の15、6世紀ごろの文明なのかな?と考える。あまり歴史は得意ではないのが悔やまれる。委員長――彩香なら何か詳しい事を知っているかもしれない、この世界には合わないかもしれないが……。


「わかったよ。僕は慶吾で、きみは彩香。これでいいかな?」

「ええ。」


名前の確認をしたところで気付いた。シルフたちには名前が無いのだろうか?


「なぁ彩香、シルフたちには名前無いのかな?」

「そういえばそうね、どうなの?」


彩香の頭の上に乗っかっているシルフたちに聞いたところ、


「名前? ないよ?」

「誰にも付けられていないからー」


無いのか、あった方が呼ぶときに便利なんだけどな。いっそ付けてしまってもいいんじゃないだろうか。


「あ、じゃあ私が付けてあげる!」


あ、彩香が付けるのか。契約したのは僕のはずなんだけどな……、別にいいんだけれど。決して名前を付けたかった訳ではない、決して本当に!


「何にしようかな、シルフから採りたいよね! シルちゃんとルフちゃん、これだと安直だから――シルキーちゃんとルフェイちゃん! これでどうかな?」

「シルキー・チャンにルフェイ・チャン? いいんじゃない?」

「なんで『ちゃん』まで名前みたいに言うのかしら?」


彩香さん少し怒っていらっしゃる、ちょっとした冗談だったのに。まだ名前を勘違いされたのを根に持っているのかな?


「それじゃ、どっちがシルキーでどっちがルフェイにするんだ?」

「元気なほうがシルキーで、おっとりしたほうがルフェイだよ。いいかな?」


シルフたちの方を向く。


「いいよー。私がシルキーね!」

「私がルフェイー」


そう言って手を僕の方に伸ばした。あ、これってもしかして……。


「名前を付けるんでしょ?」

「はやく儀式をするのー」


やっぱりか! また魔力を送るのか! あまりよくわかってないんだけどなー……。


「さ! はやくしましょう。」


お前の名前はシルキーだ、と思いながら魔力を流し込んでいく。送っている感覚が無いのでこれでいいのかわからないのだが。


「私の名前は、シルキー。改めてよろしく!」


無事終わったようだ、同様にルフェイの方も終わらせよう。



そうしてルフェイの名前も付け終わったところで、少しの脱力感が僕を襲った。


「なんかだるいな、力が抜けた感じがする……」


あー、このまま寝てしまってもいいかなーなんて思えてくる。


「あ、それは魔力を使いすぎたからね。」


シルキーが少し楽しそうに教えてくれた。何が楽しいのだろうか?


「必要な量以上に、いっぱいもらえたのー。」


必要な量がわからないし、そもそも送っている感覚も無いからどれだけ使ったのかもわからないんだよね。契約も名付けもできたからいいけど。




「名付けも終わったみたいだし、また歩きましょうか。」


彩香がそういってまた歩き始める。山や林が見えてきて、そっちの方に進路を変更しようかと話し合いながら進んでいる。なかなか町が見えてこないためか、お互い少し焦っているのであろう、そんな気がする。そんな時は大抵藁を掴みにいくもので、シルフたちに質問してしまう。


「なあ、この辺りに人の住んでる町知らないか? この際小さい村でもいいんだけれど。もし知ってたら教えて欲しいんだ。」


そう言ってから知らないよなーと心の中で思う。しかし名字をもっているのは貴族等の偉い人っていう人間社会のことも知っていたんだ、そうしたら近くの町の一つや二つ知っていてもおかしくないだろう。


「町? 村? どっちか判らないけど林の近くに人が住んでるところはあったよ?」


あっちだよと指をさして教えてくれる。知ってた事に嬉しく思いながらも、聞いてみるものだなと少し驚いてしまう。藁もたまには浮くものが在るのだと言う事なのかもしれない。

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