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昨日、丁度討伐に向かおうとした時に揉めていたパーティに出くわし、そのときにグッチオと知り合ったのだが、いろいろ取り分で揉めていたそうだ。個人かパーティか、それとも出来高かと言う感じだ。最終的に出来高となったそうだが、その時に出来高では稼ぎにならないと思った者達がその臨時パーティを出た。そのとき出た一人がグッチオだった。
彼のスキルではビザールバットを狩ることが難しく、出来高ではどうしても稼ぎにならないのは目に見えている。しかし、折角準備をしたのにも関わらず、討伐に出ないのは不味いと考え、ダメモトで僕たちのパーティに声をかけたのだそうだ。
いろいろな冒険者に声をかけられた挙句、誰一人としてパーティに加えなかったとして有名になっていたパーティだとは知っていたようだ。それでも、買い込んだ物資を無駄にしないためにも、どこかのパーティに所属して討伐に向かわなくては! との思いが強かったらしく、声をかけたらまさか彩香からオッケーの言葉が帰ってくるとは思わなかったらしい。
実際そのオッケーの言葉が出る瞬間を見ていた僕としては、その揉めていたパーティの人たちが驚いて口を開けていたのを見た。
そんな訳で、5人となった我がパーティ。斥候のアルマを先頭に、盾持ちのグッチオ、精霊使いの僕、弓使いの彩香とアレックと言う布陣だ。戦闘に入ればアルマは僕の後ろに回ることとなっていて、弓使いの2人が遠距離でビザールバットを落とし、グッチオが直線上のビザールバットをガード。そして僕がビザールバットをシルフの風操作の魔力で落とし、アルマがナイフで止めを刺す。このようなローテーションで次々とビザールバットを落としていく。グッチオが入った事で凄く安定した戦いができるようになったのは大きい。それに籠が4つになったのだ。それだけビザールバットを持ち帰ることができるようになるという事は、報酬も増えるという事で間違っていない。ただ、狩るスピードが増したため、多く狩ってもそれほど帰ってくる時間は変わらなかった。
そんな訳で、今僕らはグッチオ含め5人で少し早めの昼食を取っている。この時間に食べる理由は一つ。ビザールバット討伐に体内時間を合わせているからである。そして、この昼食を終えると受付に行き、報酬を貰うのだが、それについてもグッチオには驚きの事態があったそうだ。
―― 昨日 ――
「あら、彩香さん慶吾さんお帰りなさい。今日もまたたくさんの――あら? グッチオさん! こちらのパーティに入ったのですか。」
「はい。縁あってこのパーティに。」
「良いパーティに巡り合えてよかったですね。」
「ええ、本当ですよ。」
冒険者登録をした人の顔と名前を全て覚えているとまで言われている受付のお姉さん。当然のごとくグッチオさんの事も知っていたようだ。そしてすこし話して終わったところで彩香が、
「それじゃこれお願いしますね。」
「はい解りました。」
「お金の方は5分の1と5分の4に分けて貰える?」
「はい。解りました。分けておきますね。」
「ええ。それじゃまた明日。」
そう簡単に言葉を交わすと、帰ろうとする彩香、それに続くように帰る僕とアレックとアルマ、そしてグッチオが、
「ちょ、ちょっと待って貰えますか? 報酬は受け取らないのですか?」
と僕らを引きとめた。あぁ…、やっぱり僕らのこの行動は非常識だったのかと再認識した瞬間だった。
「あー、えっとグッチオさん。私から説明させていただきます。」
と説明を引き受けてくれた受付のお姉さん。要点を掻い摘み、適切に説明して行く。そして説明が終わった時にはグッチオの口は開いたままだった。
「それじゃ、待ち合わせね。私たちは1階の酒場の入って右奥の机に座っているから、先に着たらそこで待っていて欲しいのよ。時間は―昼の2刻から3刻の間くらいが目安ね。それじゃまた明日。」
「は、はい…」
凄く疲れた目をしたグッチオを置いて、僕らは風見屋に帰るのだった。
ちなみにグッチオの事を呼び捨てにしているのは本人が望んだからであり、決して僕らが年上の人を呼び捨てにするような人間では無いとだけ言っておく。
食事が終わり、報酬をもらう為に2階に行く。もちろんグッチオも一緒に。そして受付のお姉さんに言われた事は、
「お待ちしてました。今回の報酬は金貨3枚と銀貨36枚です。一人当たりだと銀貨67枚と銅貨20枚になります。」
「ありがとう。」
と金袋を受け取る彩香。そして
「これがあなたの取り分ね。」
そう言って金の入った袋の片方を渡す。しかし、グッチオに動きは無い。昨日から少しおかしいし、一体どうしたのだろうか? …心当たりが無いとは言えない為、少しばかり心苦しいが。
「グッチオ?」
「あ、ああ。ありがとう」
そんな感じでようやく受け取って貰えた。すこしフォローしておこう。
「それじゃ、慶吾行くわよ。」
「先に行っててくれる? 少し、グッチオと話したいことがあるからさ。」
「そう? 私は必要な買い物をしてから宿に戻るわ。アルマ、アレック行くわよ。」
そうして彩香たちは階段を降りて行ってしまった。
残された僕とグッチオ、そして受付のお姉さんだけだ。
「グッチオさん悩んでも仕方ないと思いますよ。確かにこの人たちのパーティの1度に稼ぐ金額は他の冒険者の額と比べても多いし、ランク2としては破格の強さを持っていると思います。しかし、ランクの高い人たちでは1日にこのくらいの報酬を受ける人たちも…いるにはいます。毎日かといえば…本当にありえないほど急成長しているパーティではありますが、それは彼らのスキルの相性や、チームワークだと思うんですよ。それに、そこにあなたは選ばれたんです! 自信を持ってこの報酬を受け取るべきですよ!」
「クラリーチェ…」
「いくらあなたの一月分以上の収入を稼いでしまったからって、別に邪悪な事に手をかけた訳ではなく、列記とした報酬なのです。堂々と受け取ってください。」
「ああ、そうだな。」
何か知った者同士の会話が繰り広げられている。というか受付のお姉さん、クラリーチェって名前だったのか…。
「グ、グッチオ? その、受付のお姉さんとは知り合いなの?」
「ん? ああ。故郷、育った村が同じなんだ。そこで一緒に生活していたんだが、私が冒険者になった数年後、この町で働くために私の家に来ていた事があってね。」
「へー、そうなんですか。」
「ええ、私にとっては妹みたいな存在なのですよ。」
「へー…。クラリーチェさんって言うんですね。」
「ええ。でも知らないのはあなたたちのパーティだけじゃない? 受付さん受付のお姉さんって言って、私たち受付仲間の名前を呼ばないのって。」
…そうだったんだ。こっちの常識がまだまだ足りていないんだなって思った。
「あ、そうそう、グッチオ。今日の夜なんだけど、また昨日と同じ位の時間に出発するから、それまでに準備お願いね。」
え? っといった顔をしたグッチオにクラリーチェさんがフォローする。
「グッチオさん、このパーティはビザールバットの大量発生の依頼が出た初日から、1度も休まずに討伐に向かっているパーティなのよ…。おそらく、あの彩香さんの様子を見ると討伐依頼が無くなるまで、ビザールバットを狩る予定だと思うわよ。」
「この非常識になれねばならないのか…」
若干疲れ気味のグッチオ。その横で慰めるように動いているクラリーチェを見ながら声をかけ、宿屋に帰った。
僕の方もある程度の準備はしておかないとな。




