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ただいま夜の1刻の少し前、僕たちは何時もの薬草採取場所とタルレムの町の中間地点にいる。今日はビザールバットの討伐の依頼を請けてきたのだ。夜行性のビザールバットを狩るために夜の刻に町の外に出てきた訳だが、本当に暗い。街灯なんてものは無く、ネイベル様の明かりだけが頼りな状態である。



何故今回ビザールバットの討伐の依頼を請けたかというと、いろいろ理由があるのだが、簡単に言ってしまえば報酬が良かったからである。一匹当たり部位売却で銀貨3枚なのに、さらに討伐報酬で銅貨50枚貰えるのだ。そしてなんと、現在タルレムの町でビザールバットの大量発生が確認されたため、討伐報酬に銅貨30枚追加されている。解体費を引いても一匹当たり銀貨3.5枚の稼ぎなのだ。請け負わないなんて選択肢は無いし、今回ビザールバットの大量発生に気付けたのは僕たちが短期間に何度もビザールバットを納入していたからに他ならない。そういうわけで、依頼所の方からもそれとなくお願いされたのだが、お願いされる前に、


「ちょっと! ビザールバットが大量発生したそうじゃない! 討伐依頼請けるわよ!」


と、バーゲンを前に目の色を変える戦士おばちゃんのように彩香の闘志は燃え上がっていた。


「さあ、アレック用の弓買いに行くわよ! あと道具一式と矢の補充、ビザールバットの死体を入れておく大籠も準備しなくちゃ!」


凄い勢いで計画していく彩香に引っ張られ、武器屋・雑貨屋と回り、早昼を食べて町の外にでてきていたのだ。



そんなわけで、彩香は此処でアレックの弓の練習をしつつ、僕は風除けの矢の作成、アルマは矢を作る材料を集めて貰っていた。材料といっても、尖った石とまっすぐな木の枝なんだけどね。一応矢が切れたときの保険なので、そこまで数は必要ないとは思う。


そんな事よりもアレックの弓の訓練だ。弓のスキル持ちだけあって上達が早い。彩香が容赦なく怒鳴っている声が聞こえてきたほどには厳しい訓練をしていたのだと思う。思うっていうのは、見る勇気と暇が無いからなのだが…。




夜の0刻になる前に食事を済まし、現在に至るわけだ。ビザールバットを狙い始めて1刻が過ぎようとしている。既に一つ目の大籠に半分ほどのビザールバットが詰め込まれている。死体を入れるので臭いなんかが心配だったのだが、何でも大籠に臭い消しの魔術が施されているらしく、全く臭いが漏れてこない。ファブ○リーズも真っ青な性能である。その分値が張ったのだが…必要経費だからね。


僕たち4人パーティは効率よくビザールバットを狩っている方だと思う。アルマが夜目、嗅覚強化、遠視、超感覚とスキルをフルに使い索敵を、彩香とアレックが弓で迎撃、僕が雑用全般と役割分担を行いながら討伐しているからだ。…僕が役にたって無いんじゃないかって? そんな事はない。死体や矢の回収や風除けの矢の再作成、補給等々雑用だって大変だし、必要な作業だ――そう思わないとやってられないのが現実ではあるが…。


戦闘で役に立つ時が何れ来るさ、精霊使いとして大成してからさ! と涙を拭いながら黙々と雑用をこなす僕の耳にアルマの声が聞こえた。


「あっちとあっち、あとあっちから。敵いっぱい、いっぱいだよ!」


彩香とアレックに報告している声が聞こえた。


”敵いっぱい”と、何ともお粗末な報告なのだが、実はコボルト、数字に弱い事が判明した。極稀に数字に強い者が出てきて商人になったりしているようなのだが、ほとんどのコボルトは片手の指以上、つまり5より大きい数字を数えられないのだそうだ。アルマは斥候向きのスキルなのだが、斥候にしていいのか微妙なところである。


しかし、3方向からの襲撃は少しまずい。現在ビザールバットに有効打を与える事が出来るものは弓のみで、弓使いは2人である。3方向から来るとなると1方向をフリーにしてしまう。昼間であれば彩香の速射で対処は可能であろう。速射は1方向に矢を連続で放つ弓適正のあるものが使える技なのだが、精度がどうしても悪くなる。ただし、彩香には未知推測のスキルもあるために、出鱈目な精度を誇る速射が可能なのだ。速射を覚えるきっかけとなったのは、冒険者の酒場で酔っ払い共が絡んできたときに無意識に使っていた事なのだが、今はそれはどうでもいいだろう。


しかし精度がどれだけ良くても、視界が通らない夜ではどうしても接近してくるのを待つしか無い。その点アレックは夜目のスキルを持っているので、射程を活かすことが出来るが、速射が出来ない上にまだまだ命中精度がよくないのだ。


と言うわけでどうするかだが…


「慶吾、アルマ、はいこれ。」


と彩香が僕に木製のカイトシールド、アルマに木製のサークルシールドを渡してきた。


「頑張って食い止めるように、お願いね。」


そう言ってアレックにどの方角の敵を相手にしたらいいかを指示し、その後自分の受け持つ方角に向けて弓を構えた。


戦闘で役に立ちたいと思っていたさ、考えてもいたさ。しかしまだ攻撃手段がない状態で、同様に攻撃手段の無いアルマと一緒にビザールバットの群れを相手にする事になろうとは…。


アルマも横で震えている。そりゃそうだ。防御しか手段の無いものしか此処にはいない。しかも、両方とも防御に感するスキルを持ってもいない。アルマは超感覚をうまいこと使えれば、防御を有利に行えるかもしれないが…。


ああ、畜生! やってやる、やってやるさ! 覚悟を決めろよ中村慶吾。怪我をしたって魔法―いや、魔術がある異世界なんだ、死ななきゃ回復できるだろうさ! もしかしたら死者の復活も出来るかもしれないが、そこまでの可能性を考えるのは怖いし、死ななければいいだけの話。それに、彩香とアレックが1方向を迎撃し終えるまでの間じゃないか。それくらいやって見せるさ。


覚悟を決めて、ビザールバットが来ている最後の1方向に向かうことにした。



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