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”それ”に近づいて行くと、あちらも僕が気が付いた事に気付いたのか、座っていた木の枝から飛び降りて地面に立つ。僕が来るのを待っているのかと思うように、軽く木に寄りかかりながら僕を見ている。
すぐ近くまで行き、話しかけてみる。
「はじめまして、朝からずっと観てたのは君でいいのかな?」
「ええ、私で合っているわ。はじめまして、人間の精霊使いさん。」
初めて会ってすぐに精霊使いだと判るという事は、人間に可能かと言われたらほぼほぼ不可能だろう。しかし精霊であれば、相手が精霊への適正があるかはある程度判るという。シルフたちも僕と遭ったとき、なんとなくそれっぽいものを辿ってきた先に僕がいたと話していた事がある。しかしそのときはそれが精霊への適正の気配だとは気付いていなかったらしい。シルフのような低級精霊でも何かしらの気配を感じ取れるのだ。それならもっと上位の精霊ならば、もっと正確に判るのかもしれない。
そして、今僕の前に立っているこの女の子。ませてない小学6年生って感じの見た目をしているが、十中八九精霊だろう。しかもそれなりに位が高そうな。
「確かに君のいう通り、僕は人間の精霊使いだ…まだ見習いみたいなものだけどね。それより君は何ていう精霊なんだい?」
「あら? あなたは精霊と契約しているのよね? あなたが契約しているシルフたちに聞けばよろしいのではなくて?」
精霊使いだから知っていて当然だという意味なのだろうか? それとも素直に教えたくないのか…精霊心はよくわからない。仕方ない、シルキーたちに聞いてみようか。
「それじ――」
「まあ、特別に教えて差し上げます。私は精霊”くくのち”。あなたたちの言う所の上級精霊にあたりますわ。私と同じくくのちに会うこともこれから何度かあると思いますから、忘れないほうがよろしいわよ? 私はまだ温厚な方ですが、同種にはかなり高飛車な子達が大勢います。私の話し方で驚かれているのでしたら、出来るだけ早くなれる事をお勧めしますわ。」
割り込まれて自己紹介をされてしまった。それにしても、高飛車な種属なのか…すごく面倒臭そうだな。しかしこのくくのちさん、今のが普通の対応なのか、演技でわざわざ高飛車な感じにしてくれたのかは判らない。…是非後者であって欲しいところだ。
「それで、あなたは私に何か用が有ってきたのかしら? それとも観ていたのが気になったから探していただけかしら?」
あ、普通の話し方になった。演技だとわかって少し嬉しい。さっきみたいのだと話していて非常に疲れるので助かった。
「観ていたのが気になって探してたっていうのもあるし、もしかしたら精霊かな? って思ったから探してみる事にしたんだ。」
「ふーん。そして、あわよくば契約しようと思っていたというわけですか。精霊使いとしてはまずまずの心がけといったところですか。私たち精霊も、求められることに喜びを感じる者も多くおります故、是非ともその心を忘れぬようにしていただきたいですわ。しかし、ごめんなさいね。あなたの魔力の総量では私と契約を結ぶことは難しいでしょうね。それどころか、中級精霊の”この子”でさえも契約できない量しか持てていないとなると、下級の子で限界といったところね。」
契約のための魔力が足りないのか…残念だ。しかし、”この子”とは一体…
「その様子だと気付いていないようね。ここにある木、この子も精霊よ。トレントっていう精霊なのだけれど。」
トレント…聞いた事はあるけど、見分けはさっぱりつかない。どうみても普通の木なんだけど…これも精霊なのか?
「あれ? でも精霊って普通の人には見えないはずでしたよね?」
「トレントはね、下級精霊である木霊が木に憑いて、長い年月をかけて木になじむ事によってトレントになっていくのよ。初めからトレントとして生まれてくる子も多いけれど、原則としてはそうなの。だから本体は普通の木に魔力が通っているといった認識で殆んど間違ってはいないわよ。だから普通の人間にも見えているの。」
なるほど、つまり普通の木に精霊が宿っているということか。ま、難しい事を考えても仕方ない。
ただ、せっかく精霊と会えたのに契約できなかったのは少し残念である。またその内会える事を願って魔力の総量を大きくしておかないと。…どうやって大きくするんだろう?
「難しい事は今はわかりませんが、魔力の総量が増えてあなたと契約できるようになれればまた来ます。」
「そう? まあ、期待しないでいましょうか。――ああ、そうね。ちょっと待ってくれるかしら?」
そういうと近くの木に手を当てる。すると枝がくくのちに向かって垂れてくる。そしてその枝を2本折り何か小さなもの作っている。すぐに出来たらしく、持ってこっちに来た。
「折角来てくれたんだもの、これを持って行きなさいな。」
と言って2本の木の枝を捻り束ねたブレスレットを渡された。一体これは何なのだろうか。
「これは?」
「それは霊樹の腕輪。木霊を宿した枝を使って作ったものよ。」
そんな大層な物を貰ってもいいのだろうか? ん? 木霊を”宿した”?
「気付いた様ね。その通りよ。その腕輪には精霊の木霊が憑いているわ。あ、安心して、その子は分体だから。でもちゃんと契約は出来るから、契約してあげてね。」
そんなわけで、上級精霊のくくのちさんと中級精霊のトレントさんと別れ、林の外にでてきた。契約は既に済ませたが、木霊の名前を付けていないのでどうしようかと悩み中なのだ。木霊は会話が出来ないし、そもそも木から離れて実体化をする事が殆んど無い精霊らしいので名前を付ける必要があるかと言われれば必要が無い気がするが…。とりあえず実体化をしてもらった感想は…
「木霊って、狐なのか?」
特徴的な顔に、丸みのある尻尾、毛の色は黄緑色だけど…おそらく狐だろう。あぁ、彩香の犠牲者がまた1匹増えそうだ…。
「しかし、狐かー。狐って火属性のようなイメージがあったんだけどな…うーん。」
悩みながら村の入り口まで戻ってきた頃にはもう暗くなる寸前だった。
今回でた精霊は、精霊の中でも年月によって進化する珍しい種だという設定です。主人公が理解できているかは微妙なところですが。




