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「1匹たりとも逃がすなよ! 追撃せよ! ただし、自分たちで設置した罠にかかるでないぞ!」
村長の号令があり、防衛戦から追撃戦に変わる。その号令を聞いて、一先ずは危機を脱したとして後衛部隊の各所から安堵の声が聞こえる。僕も安心したのと疲れでその場に座りこんでしまった。
座ってしばらくすると、そこに彩香がやってきた。そして何も言わずに隣に座る。何を話すわけでもなく、ただ居るだけ。気まずく感じたので、声をかけてみる。
「彩香は追撃に行かなかったんだね。」
「…ええ、予め追撃に行くメンバーは決めてあったのだけれど、前衛で欠員が出たのよ。ゴブリンエリートとの戦いで軽めの怪我をしたらしいの。ただ、追撃戦は無理をしてまでやる事ではないから私たちの班は居残り。それに、追撃するゴブリンも殆んど居ないようだし、あまり大人数で行く程ではないの。ゴブリンたちが逃げていったのはゴブリンリーダーが討たれた後だったし、逃げ帰る間にも屋根から矢を撃っていたもの、10数残っていた程度に見えたわ。あと、援軍に来てくれた騎士たちも村にしばらく残って事後処理をするらしいのなんでも――」
聞いてもいない事まで次々と話し始める彩香をみて、辛い事があったんだろうと悟る。そういえば、妹も自分に聞かれたくない事があるときには決まって饒舌になる。話をし続ければ嫌な事も聞かれることも無いからだろう。責任感が強くて、よく考え事をしている妹だった。そのために自身の正義感のせいで、やってしまった後悔と罪悪感が強くなると考えが纏まらなくなり、相手に話させないようになってしまう。そんな時は頭を優しく撫でてやる。自分から話してくれるまでずっと。そんな事を思いだしながら彩香の頭に手を乗せて優しく撫でる。頭の上に手を乗せた瞬間、ビクッと縮こまる彩香をみて、そんなところまで妹と同じような反応をするのかと若干苦笑いをしながらゆっくりと撫でてやる。責任感が強く、頭の良い委員長である彩香、何所までも妹と似ている。ただし身長は彩香の方が低い。
そんなわけで頭を撫で始めて5分ほどした頃、彩香からゆっくりと何があったかを聞いた。
ゴブリンを殺した。
覚悟をしたとはいえ、全てが終わった後にあれで正しかったのかと自問自答していたようだ。しかし現状、ゴブリンとは意思疎通を行う手段も無いし、襲ってきたものを追い返すためにした事を僕は悪いとは思わない。…たとえそれが人間だったとしてもだ。
しかしその事を彩香には伝えない。自分の考えに他の考えが混じると余計に拗れる事が多いからだ。この問題は彩香が自分で答えを出すしかないのだ。
それからしばらくずっと頭を撫でていたのだけど、寝てしまったようだ。…これも妹と似なくてもいいのに。
ま、なんだかんだいって疲れたんだろうし、ゆっくり休ませてあげる為に村長の家まで彩香を担いで布団の上に寝かせる事にした。




