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「ねえ、これからどうするの? このままずっとこの世界で生きて…この世界で死んでいくのかな…」
淡々とした口調に聞こえたが、少し寂しさを感じさせる間があった。
「さあ? その辺は全然考えて無かったよ。まずはどうやって生きていくかを考えないといけないかな、他はそれからでもいいと思う。」
元の世界に帰りたいのは解る、解るがどのようにして帰るのかが解らない。帰る方法を探すにしても、まずはこの異世界で生き抜いていく事が重要なのだ。
「そうね…何とかして生きて、ある程度の生活ができないと帰る方法を探す事も難しいわね。」
「そうだな、ある程度の生活をするんだったらまずは仕事を見つけないとな。さすがに文無しだと何にもできないし…仕事か…」
仕事…と考えるだけでも気分が重い。好きな事をやってきた学校の部活とは違い、多少嫌だと思うことでも飲み込まないといけないのが仕事だ。好きな事を仕事にできる人も居るが、それはごく一握りの人だけだ。逆に好きな事を仕事にできたのならば、それだけでも凄く幸運なことだとだと思う、好きな事を仕事にすると言うことはそれだけ難しい事なのだ。それに今回の慶吾や彩香の場合は、なお難しいだろう。文化が違う、技術が違う、そして何より世界を取り巻く環境がまったく違う異世界で、自分のしたい仕事が出来るのか、そもそもそんな仕事が存在するのかさえ難しい。そしてそもそも――
「どこで仕事探したらいいんだろうな? 仕事を斡旋してくれるようなところがあるのかどうかもわからないし。」
「その辺りは明日村長に聞いて見ない? そう言うことは考えても解らないと思うから。」
それもそうだ。知恵と違って知識は頭を捻っても出てくるものではないのだから、その辺りの事を知っている人に教えてもらうのが一番だろう。
「じゃ、それは村長に聞くとして――あとは何かあるかな?」
結論が出た為、他の話題に話を振りつつ何か話しておかないといけない事があったかどうか考える。少し考えて、これと言って無いような気がしてきたところで、
「そういえば慶吾、シルキーちゃんたちと契約したじゃない? あの子達って今何所に居るのかな?村に入る少し前までは居たような気がするんだけど?」
彩香がそう言ってきた。確かに何所に行ったのだろうか? いや、引っ込んでろとは言ったし発光して消えたのは解ってるんだよ? ていうか、消えた時一緒にいたんだけど、見てなかったというか気付いてなかったのかな?
「いや、引っ込んでてもいいと言ったんだけど、精霊って何所で待機してるんだろう――そういえば、契約するとその精霊を呼び出せるようになるんじゃなかったっけ? そんな事を言っていた気がする。」
「あ、そうなの? ――そんな事を言っていた気がするわね。呼び出してみてよ。」
自分が思い出した事を実行しようとしたところで、「あれ? どうすればいいんだ?」なんて考えたが、また念じればいいんだろうと思い至りそれを実行する。出て来い出て来いと目を瞑り、胸の前で左手で右手を包み込むようにして念じていると、胸の辺りから暖かいものが体を流れていく気がする。そして手の内に集まったところで手を解くと、なにやら手の平の空間が揺らめいて見え、次の瞬間少し光り、その光の中からシルフたちが出てきた。
「おはよー。いい夜ですね、マスター。」
「おはー。外真っ暗だよ! 起こすの早くない!?」
何か言っているがとりあえずは無視しよう。ともかく精霊が召喚できたことは良かった。出来なかったら他の精霊使いに会うまで何も出来ないところだった。…自分で引っ込んでいいと言ったのにもかかわらずこのざまである。
「君らって今まで何所にいたの?」
「私たちは精霊界にもどってたの!」
どこだよ! と突っ込むのは後にして、精霊の力について聞くことにした。
土曜日に寝落ちして上げられなかったことを、心より謝罪申し奉りて候。




