彼女が見せてくれた色
「主ー!」
呼ばれた方を振り向けば、これぞメイドさん! と思わず言ってしまいたくなるくらい完璧にメイド服を着こなした少女が走ってくる。
「どうしたの? メイ」
「主、今日は主がこの世界にこられた十五回目の記念日です」
この世界――。私はちょっとゲームやアニメが好きな普通の会社に勤める普通の社会人だった。それがあるとき、当時はまっていたゲームの中に入ってしまったのだ。
そんなまさかとも思ったけれど、どうやら本当のことらしい。ただ、同じプレイヤーはおらず、しかもモンスターや魔物などの敵キャラもおらず、商人、村人などのNPC
までいなかったのだ。
……実質、一人ぼっち?
そう思ったとき唯一いたのが、私の従者として作ったばかりの、メイだった。ちなみに、従者というのは、プレイヤーがログインできないときなどに、あらかじめ指定しておくことで、素材集めをしてきたり、部屋のお片付けなんかをやってくれる子のことだ。それなりのレベルになると作れる。
この誰もいない世界でこの子がいなければ、生きていく価値も、楽しみも見出だせずに、とっくに自殺なりなんなりして、この世界に別れを告げていただろう。
ーこの子がいることで、私は生きているようなものだ。
「ああ、そうだったね」
「『ああ、そうだったね』じゃありませんよ!もう、主ってば!」
「ごめん、ごめん。にしてもよく覚えていたね」
この世界には暦がない。ただ、紅葉や雪などで季節をなんとなくとらえているだけだ。
「当たり前です。主に関する記念日など、忘れるわけがないじゃないですか」
……さすがだ。メイは私に対する忠誠心がとても強い。どんな時でも「主のためですから」と言って率先してやる。というか、私に娯楽以外のもので動かさせたりしない。
「それよりなにか用があったんじゃないの?」
そう促すと、メイが思い出したように頷く。
「そうでした。主、来てください」
メイに連れられるまま家の二階の一室へ来てみると、そこは一面、桃色世界だった。
「わぁ……綺麗」
それを聞いてメイが顔をほころばせる。
「主が前の世界では『桜子』というお名前だったことを聞いて、桜の木で埋めさせていただきました」
そう、メイに連れられて来て、私が見たのは、今が盛りと咲く桜で埋められた庭だった。
「……ありがとう。すごくうれしい」
やばい、感動で少し泣きそうだ。
この世界では、私と彼女しかいない。時にこんなうれしいハプニングがありながらも穏やかに回っていくこの世界で、私は今日も彼女と共に生きていく。
「桜色」、「ことわざ」、「最高の主従関係」、「邪道ファンタジー」というお題でやってみたところ、「ことわざ」がまるっきり無視され、邪道なのかもよくわからず、こうなりました。読んでしださり、ありがとうございます。楽しんでいただけたら幸いです。