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第一話

 広い草原がある。強い春風に()がれて草が光と陰で喋るようだ。

その中央、高台の処に城が建っている。城といっても王の間、王妃の間に客間と台所と召使の寝床、兵士の寝床、訓練所があるくらいで小さいものだ。それでも調度品は贅沢な渡来品ばかりで王の間と王妃の間と客間には大きなシャンデリアが高い天井から吊るされている。


 その客間に老人と少女がいる。老人は木の板にインクを湿らせた鳥の羽根の筆でもって何か書き付けている。その板の前に一つだけ椅子があって少女が坐っている。


 老人は白髪に(たくま)しい髯と皺だらけの肌と垂れた目尻が特徴的な中肉の人で白い衣を纏っている。彼は華美とは無縁な格好だが気品が溢れている。それは彼のストイックな気骨があればこそ。少女はぼろぼろの布製のワンピースを着ていて裸足である、これは単なるみすぼらしい少女に過ぎないが器量は優れているようだ。奴隷のようにも見える。 


「人間の精神世界の片隅にユトラシカという小国あり。その民族は翼を()ち、空を自由に飛び廻るも、千人のユトラシカ人が生まれるに一人必ず翼を有たぬ者が現わるという悲しき運命の下にありけり。我々は三千年来その者たちを這地者(バランセ)と呼び卑下して来ぬ。有史以来の記録をみれば確かにバランセの中にも優秀な人材もあれども彼らは劣等感に(さいな)まれて平気で我々有翼者(ガルファ)に怨恨を抱き、排他的な選民思想で以て殺しも犯し、国家をも転覆せしめたり。加えて隣国は彼らの支配下にあり……」


「話が難しいわお爺ちゃん、歴史なんて詰まんない」

「これパルモよ、ここでは先生と呼びなさい」

パルモは(けやき)の椅子の背に(もた)れて大きく欠伸あくびをした。


「まったく。折角教鞭を揮おうと云うのに生徒がお前だけとは……」

「だって堅すぎるのよ。もっと易しく軽やかにしなくっちゃいけないわ」

「みなこうやって教えを受けて立派になっていったのだ」

長き年月に渡って蓄えた顎の白髯ヒゲを愛撫しながらミナクモは云った。


「あーあエル来ないかしら。ほんと詰まんないわ」

ミナクモは怒って木の板を思い切り叩いた。すると大きな音を立てて倒れ、パルモは驚きに飛び上がった。

「わぁごめんなさい、ちゃんと聞きますから許して」

「よろしい」と彼はふんぞり返った。

パルモは退屈な講義をまだ聞かねばならないのかと苛々しながら貧乏ゆるりをした。


「どこまでいったかな……アア、フム、そして隣国はゼーランゲルと云って古来より我が国と懇ろの親交をせしが、バランセによる国家転覆凄惨なる鉄血革命の憂き目に会いて遂に2505年無謀にも我が国に宣戦布告をしたり。この野蛮なる国家に対して我が国は徹底抗戦の構えをとるもはかなき皇帝の玉の緒も、野蛮無比なるバランセによりてこそ崩御をしたまいにけれ……」


「ようパルモ!」

「あっエルぅ!」

「邪魔者がきおった」

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