陽爆の街、陰気の巫女
「もうそんな事を今更言っても遅いわよ、これで諸共落ちなさい!」
あの構えは、まさか!
「母さん!!!くそっ!逃げろ!」
『月光花ッ!彼らを消し飛ばせ!』
ジャンヌは槍を持つ右手に力を込め、シキめがけて光り輝くシンマネを解き放つ。
『この子は幼いから、力の使い方の加減が分からず、どんどん命を対価に捧げる事になってしまった』
物心つく前に突発的に暴走したシンマネは、私から両親を奪いました。
感情が抑えられないと、どうしたって力があふれてくるみたいです。
『私のこの立ち振る舞いを見て簡単に膝を付き、涙を流し、心はボロボロ、血の気は引き、巫女と呼ばれた少女の姿等、幻なんだと、簡単に分かってしまう』
だから悲しい目にばかりあえて遭うようにしていました。
涙が出ている内は、何故か力は大人しい子でいてくれるからです。
『気味が悪いわ……あの部屋、ずっと冷たくて。昨日だってジャンヌ様は封印したと言ってるけど、またすぐ熱くなってきたりするじゃない?本当にやる気、あるのかしら』
止まらない落涙は誰かの涙を絡めとるのだと、自分に言い聞かせました。
ですが、それは全て自分の為に行っていたことです。
『これまで民草は巫女が命を賭して、守って来た。覚悟を以って安寧を得てきた。なのにお前だけは、これまでの倣いを消し去って、封印を行っていく。お前を嫌い、恐れ、呪わしく思うのは、自然な事なのだ』
でもそれもようやく辞めにできるときがきました。
『換えはきく』
今、ここに集大成として結実します。
『強くなる為に必要な材料とは、自分を見てくれる視線』
『ユイさんがこれまで守ってきたのはオルレアンの民だけじゃなくて、自分を。みんなと自分の心を、守ってきたんだよなぁ……』
『今行動を起こせる者が、本当の特別な存在になれる!』
『心が傷付いて限界を迎えているなら、もう何もしなくていい!お前が力を使い続けて、天寿を全う出来ずに死ぬような事があれば、俺も一緒に死んでやる!』
うるっさいんだよ……じゃあ私の事ちゃんと見ててくれるんですか……?
ジャンヌも言ってた武術大会2位の実力で、トレーニングにも付き合って頂きますよ。
極大のエネルギーの本流がシキから回避の二文字を消し飛ばし、次に肉体を消し飛ばさんと迫っていた時である。
突発的に巨大な氷塊がシキの目の前に現れ、光のシンマネの奔流を塞き止めた。
「グスっ……その厚き人情……感服いたしました。義侠の意思で御助力します……」
落ちていく大粒の涙は地に付く前に氷結していく。
少女はこれまでに貯め込んだ涙の大海も、厳格な長から与えられた掟も、すべてを凍り付かせて、己の有終を飾らんと、旅立ちを決めるのだった。