陽爆の街、陰気の巫女
とは言え左手を切りつけられた痛みで、左腕は使えない。
お母さん……こんなに強かったのか……!
英雄の実力を実際に目の当たりにして、力が上手く出せない。
弱ったシキに襲いくるジャンヌの槍と剣のコンビネーションが、追い込みをかけてくる。
なら、あの人だけでも!
「ここは俺に任せて欲しい!街に引き返せ!」
「で、でも……!」
「貴方がここで死んだら誰があの太陽を止めるんだッ!」
「違う!長老さまに、言われたんだよ!直々に!『換えがきく存在』だってっ!お世話係は陰口ばかり、サトの人の中でも唯一助けてくれるジャンヌもこんな事になっちゃったし、だったらもう……!もう……!」
いつの間にか自分の事を話してる。
ジャンヌが聞かせてくれた話は、どれも息子であるシキくんに纏わる話だった。
私と違って力とカリスマに溢れる、オルレアンに立ち上がった英雄、乙女が世話をするみなしご。
恐らく同じ目線で話が出来る人は皆無。
それが分かっているからなのかな、そんな彼なら私の世界を変えてくれる気がしたのかもしれない。
「私は不完全なんだよ……!完全にコントロールが出来るように練習をしたって、意味もなく寿命を縮めるんじゃないかって、怖くて……怖くてたまらないんだよ……」
「換えがきかないなら、今からそうじゃないことにするだけだ!」
シキくんからもらったこの一言は、巫女と崇め奉られるしかなかった私の世界を、確かに変えた。
「武術大会で2位だからなんなんだ!だったら1位をとった人は今何をしているんだ?今行動を起こせる者こそが、本当の特別な存在になれる!」
少しだけ変えた。
敬語は使わず、崩れた言葉で真実の想いを届ける。
「心が傷付いて限界を迎えているなら、もう何もしなくていい!お前が力を使い続けて、天寿を全う出来ずに死ぬような事があれば、俺も一緒に死んでやる!これでお前の命は換えをきかせる事はできないぞ!」
「なんでそんな事……!」
「みんなに邪険に扱われながらもそいつらを守って、それなのに見返りもないまま、命を削り尽くして死ぬなんて……辛すぎる……」
分かってくれていた。
シキくんは一方的な感じだけど、それでもちゃんとサト一族の立ち位置と、この街の堕落した空気を読み取っていた。
「前世で何をやらかしたら、そんな人生になるんだ……」
「おい」