陽爆の街、陰気の巫女5
「もうやめてくれ!」
ジャンヌの持つ槍と剣、シキの持つ剣は加工が施されており、シンマネに霧散される事もない、いわば本物の武器である。
「オルレアンの民は私たちが毎回こうして守ってあげているにも関わらず、彼らは私たちサトのヒト達を恐れて、誰も近づいてこない、感謝もしていない」
武器というものはこの世界ではその場でシンマネを使役し、何もないところから作るのである。
「あんなのは、滅んで然るべきだと思っているわ」
何故なら鉄やそれに近しいものの素材にて作る方法を誰も開発出来ておらず、作ろうとも思っていないからだ。
「母さん!マイナスに向かっていくのはダメだよ!母さんこそ、幸せに生きてかなきゃいけないんじゃないのか!」
未発達の文化だった。
くそっ!あの戦い方は、この戦い方で分かる、本当に俺たちをやるつもりだ……!
「クッソぉ!!!」
しかし、シキの故郷は違う。
移り住んだ先代のサト一族が、武器の作り方を布教させ、この街ではそれが受け継がれているからだ。
だからこそこの街の住民はシンマネの使役の訓練は行わなかった。
ナイトメアを斬りふせる武器は、シンマネから作る必要がなくなってしまったからだ。
「決断しなさい、ここで私を討り、オルレアンの民とサト一族、そこにいる巫女を守るか、私に討たれて全てを終わらせるか」
なんで、なんでなんだよ!
母さんっ……!
巫女の人なんてずっと信頼した人からの本気の殺意で、立つこともできてなかった。
友達も、巫女も、街の奴らも……俺は。
俺に母さんを討つことなんて出来るのか……?
俺に委ねるのはやめてくれ……
「武器作りに長けたこのオルレアンでは、太陽神による天候異常の害を、コキュートスの巫女の力を対価に防いでいたの。そして私はこの子の旅路に同行して、幾度となく封印した。だけどまだこの子は幼いから、力の使い方の加減が分からず、どんどん命を対価に捧げる事になってしまった。」
「シキ、良く見ておきなさい!あの子は気丈に振る舞い続けるけど、私のこの立ち振る舞いを見て簡単に膝を付き、涙を流し、心はボロボロ、血の気は引き、巫女と呼ばれた少女の姿等、幻なんだと、簡単に分かってしまう」
限界の二文字がその小さな体躯に深々と刻まれていた。
1人部屋に残されて、ベッドで横たわりながら、扉の外から聞こえてくるオルレアンの民たちの会話が聞こえてくる。
『この食事、あなたが持って行ってよ』
『勘弁してよ!この部屋に入るなんて無理だわ!』
『昨日は私が持って行ったんだから一回くらい代わりをやってよ!』
『気味が悪いわ……あの部屋、ずっと冷たくて。昨日だってジャンヌ様は封印したと言ってるけど、またすぐ熱くなってきたりするじゃない?本当にやる気あるのかしら』
「……コホっ……ふぅ……」
咳込ながら涙を垂らし、静かに毛布に包まるのだ。
すぐに体調を崩すのも、部屋が冷たくなってしまうのも、氷の性質を生み出す力を制御できない自分が悪いのだと、少女は自分に言い聞かせて……