シキといっしょ6
「桜吹雪」と、ここにいる奴らはこの建物をそう呼んでいた。
桜の木によく似た木がこのあたりにはあるらしく、色々なナイトメア、ヒトがごった返しになったサマを吹雪に見立てて誰かがそう呼んでいたら、広まり、定着するようになったらしい。
様々な人種、とも言うべき奴等に見守られながら、僕とあいつはコートに立つ。
50メートル四方の正方形のコートで、シンマネで出来た仄暗い赤い透明な壁に区切られている。
まさかこんな大々的に、多くのヒトに見守られながらあいつと戦うとは思いもしなかった。
力を見せ合い精一杯の戦いをする事だけの場所らしい。
そうなるとほぼ殺し合い。
大いに盛り上がっている。
自分がコート外の人々だったら確かに興奮し、アドレナリンが出るように思う。
「精々、やり合って見せろよ。みんなが見てる中恥かきたくねーだろうからな」
自信に満ちた雰囲気、面持ちだ。
「既に何回かこの仕合、やっているみたいだな?」
「ああ、だが俺はお前とやるのは初めてなんだからイーブンなんだぜ?」
「別にこの状況に難癖付けるつもりはないよ」
そうは言ったものの、周りが応援してるのはみんなあの野郎だ。
誰もが僕に見向きもしない。
完全にアウェイだ、やっぱり不利じゃないか、くそぅ。
そんな中、一人だけ僕を見ていた奴がいた。
「おいで、君の力は全部知ってる」
手招きしながら、やはり爽やかに笑うナイトメア・ブレーキ、ロワールだった。
とりあえず言われるがままに近づいて行くと、ロワールは赤く透明な薄い壁に手を当てた。
まさか。
僕の黒い塊が彼の力を欲しがった。
呼応するように彼に近づいていった。
「僕の体内で生成されたシンマネは固形化させやすい性質がある。つまり、武器を作りやすいんだ」
「いいのか?というかなんで僕の力を知ってる」
「アゲハから聞いたんだよ、だけど見ての通り僕は休暇を取っている。アゲハからの指示は関係ない、戦うつもりもないからね、さあ早く、使え」
僕らは壁越しに手を合わせる。
すぐに僕の体内をシンマネが駆け巡った、吸い取れていた。
迷いなく自分のシンマネを差し出したロワールは相変わらず太陽みたいに笑っていた。
暖かな太陽を感じるシンマネ。
大切に使わせてもらう。
「もうこれで全部だ、あんな子供に負けるな。曲がりなりにも僕を撃退して見せた力を、ギャラリーどもに見せつけてやれ」
不思議だった。
殺し合いをしたはずの相手から応援されるというのは。
何度も相手をして、何度も打ち倒してきたのだろう。
誰もが相手へ歓声を送り、一人のナイトメアだけは、彼をひたすら見つめる。