旅
「来たな」
「うん、来たよ」
何故か睨みにも見た眼の鋭さを放つシキと。
苦笑とも取れる微妙な笑みを浮かべる燦。
あのシキとの戦いの日から翌日、燦は眠気に身を任せた結果、再び桜吹雪へ戻った。
ミハヤを取り戻す為なら、新たな世界を行き来する事に戸惑いはなかった。
シキはそんな燦に自分に同行するよう言いつけ、仲間のナイトメア達との会話の中シキが知り得た「たった1人のナイトメアの力により栄える街」という稀有な場所に行く事を提案した。
仲間のナイトメア曰く、「そいつは真っ白に輝くシンマネを放つ」と言う。
ジャンヌダルクかも知れない。
混じり気のないシンマネを放てる母。
他に似たようなシンマネを持つ者を見た事がない。
母に会えるかもしれない。
昨日の一貫して冷徹な面持ちとは一転して、期待に胸を膨らませているような顔をしていた。
「よし、行こう」
「いいのか?」
「会いたい人がいるんだろ」
「……ああ」
「よし、その街は何処にあるの?すぐに行こう、僕の夢が覚めたら君は1人になる、時間はあまりないから」
そういうクセに、あの時は……お前。
シキは思い出す。
燦とミハヤが桜吹雪にて再会した。
必死に二人で強大な敵に抗おうとしていたように見えた。
その時、俺にあったのは喜びだった。
戦う意志が彼から感じられたのだ。
大きな力に出会そうが、関係などないのだ。
「なんだよ、僕の顔になんかついてる?」
「なんでもない、必ず助け出そう。ミハヤって子も」
桜吹雪にいる仲間達に留守番を命じ、別れを告げたシキはこれからの旅への覚悟を固め、桜吹雪の出口へと繋がる扉を開けた。
「進み方は分かるのか?」
「ああ、俺が指を刺した方向へ歩いていくだけ」
「違うよ、アゲハに続く道の事」
「ああ?それも同じだ。指さした先をひたすら走るだけ」
そう上手くいくかなあ。
でも、ま、仲間ってこういう感じなんだよね。
この世界、僕はどこまでいけるんだ。
燦はダンジョンの白き世界を越え、出会いの果てを越えて、動き出す。
それは新たな冒険への第一歩となり、ミハヤへと続く確かな道筋へ成り替わるのだった。