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十字架に乗せる黒き君への思い  作者: 夢幻館の門番
1章〜運命の始まり
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7.予兆

7.予兆



薄暗い古びた洋館の中で蠢く影。窓から射し込む月光が、それらの姿が異形であることを写し出す。

がやがやと多数の魔族が長机の両端に座っている。

「また集会?最近多いなぁ〜…僕、あんまりこういう好きじゃないんだけど」

その集団の中で一際小柄で少年の容姿をした魔族が気だるそうに言った。

「致し方あるまい、実質的な行動はまだ取れぬ」

大柄の中年の男の魔族が落ち着いた様子で言う。

「実質的な行動は取れない?何を言っているのですか?(わたくし)は暇な貴方達と違って忙しいのですよ。これだから脳筋部隊は…全く…」

貴族の女性の様な声が響く。その発言に苛立ったのか、その魔族は食いかかる。

「誰が暇だって!?それに僕らは脳筋じゃなくて侵略部隊だ!諜報部員が戦闘の何がわかる!大体、人間共の動きなんて一々聞く必要なんかないだろ!?僕はわざわざ此処に――」

長机の一番前に座っていた1人の男が立ち上がると、右腕を高く上げ、振り下ろす。一瞬の静けさの後、魔族それぞれが座っていた椅子がバラバラに砕け散り、燭台やシャンデリアの蝋燭の灯りが一斉に消え去った。

「なっ!?」

「…どうやら一番怒らせちゃダメな人を怒らせちゃったみたいだね…」

一斉にその所業の原因人物に視線が集まる。細い長身に薄紫の艶のある長髪と、大理石の様に白く、だが生気を感じさせない肌、先端が尖った耳、何処までも堕ちていく様な感覚に陥らせる深紅の眼、全身を覆い尽くす程に長く、黒い外套を纏い、腰に長剣を携えた男は、静かに口を開いた。

「…あまり人間を侮らない方が身の為だ。我々が『飼っている』のはただ黙って死期を待つ大人しい家畜ではない。小賢しさが奴らの最大の武器だ。だからこそ、その小賢しい仕草を見逃す訳にはいかぬのだ。一つもな」

その男はおもむろに指を弾くと、砕けた木片が集まっていき、椅子が再構成された。また、いつの間にか消えた蝋燭の灯りが再び灯されていた。

「…」

誰もがただ黙って椅子に座る他無かった。

「偵察部隊からの報告は」

男がそう言うと、何処からともなく現れた老いた男の魔族が報告する。

「先程、王都上空の兵から連絡がありました。例の学校に新たに生徒が2人増えた様で」

「特別変な点でも無くなーい?この時期は人間の子供は『入学』とかいう儀式をするんだろ?というか1人は――」

少年の容姿をした魔族が口を挟む。

薄紫の髪の男が睨みつける。

「い、いや、何でもないよ…続けて」

「…どうやらその1人は、他の人間の子供と違うようで…通常値を大幅に越える魔力因子を持っているようです」

「つまり普通の人間の子供ではないと」

女魔族が言う。

「詳しくは分かりませんが、引き継ぎ調査を続けていくつもりでございます」

「それにしてもまたあの『学校』か…笑わせる、実態は実験施設ではないか」

大柄の中年位の魔族が吐き捨てるように言う。

「あははっ!全く、人間は何考えてるか分かりゃしないね」

「いずれにせよ、監視を増やす必要がある。リリン」

「はい」

女魔族が答える。

「何人かお前の部隊からも潜入させろ。上位魔族でもいい。なるべく多くの有益な情報を我々にもたらすのだ」

「お望みとあらば」

そう言うとリリンと呼ばれた魔族は何処かへ消えた。

「我らの唯一絶対なる願いを現実にする為にはどんなに些細な物事も見逃すしてはならぬ」



―――――



希は気になっていた。一つは咲のこと。二つ目は姫子が言っていた『対魔族』という言葉。そして最後は自分の持つ十字架の事だ。この頃咲の事を知れること全てを知りたい、という願望に駆られている自分がいることに気づいた。それからその思いを自分の脳の片隅に追いやるのだ。きっとこれを認めてしまったら、もう元には戻れない。そんな気がするから。そして姫子の発言を考える。考え過ぎだと言えばそれまでだが、何処か引っかかる。数百年前に人間と戦争して旧文明を滅ぼした魔族という存在。それにあの時の咲の顔、何か知っている様だった。

「はぁ…」

極めつけは最近いつも十字架が仄かに光を放つようになった事だ。母には何時も持ち歩けと言われているから外しようがない。こんなものを持っていると知れたらと思うと気が来でない。

――特に咲には。変な子と思われたくはない。

「咲さん…」

思わずその名を呟いてしまう。

「なに?陽元さん」

「うひゃぁ!?」

まさか近くにいるとは露知らず。

「陽元さん、さっきから難しい顔してるけど、どうかしたの?」

「な、何でもないよ!ただ、ちょっと、その、えと、あの、う、うーん…」

「悩み事は言ってしまった方が楽になるわ、陽元さん」

笑顔で言ってくる咲に

(余計言いづらいよ!)

と心の中で突っ込む。

「でも、咲さんがいいって言うなら…」

軽く呼吸を整え、

「わ、私!その、咲さんの事、知りたいなって…咲さんの事気になっちゃって…」

希の発言に咲は思わず目を丸くする。

「へ、変…だよね?」

「…変じゃないわ。だって私も陽元さんの事もっと知りたいもの」

あまりにも自然にそう返されれて、一瞬心臓が止まりそうになった。

(これじゃ私達まるで…)

「おいそこのアツアツカップル」

「ひゃあ!」

(ウソ…他人の目から見てもやっぱり…)

「なーんてな冗談だよ」

隣を向くと姫子と美琴がいた。

「ちょっと手伝ってくれないか?頼む!」

美琴が両手を合わせ、片目を閉じて頭を軽く下げてきた。

「えっと、何を?」

何の事か全く分からない希は2人に聞き返す。

「何でも転入生が来るからしいよ〜だからその子を迎える為の準備〜手伝ってくれないか〜って」

姫子がのほほんとした感じで答えてくる。

「珍しいわね、まだ学校が始まって2ヶ月も経ってないわよ」

冷静に判断する咲。

(さっきまでの空気は何処へ…)

美琴はそんな咲の様子を見て、

「そうなんだよ黒月、だからこうしてお前達2人に、信頼できるお前達に頼んでるんだ」

とわざとらしく困ったような顔をする。

「何で強調するんですか…」

珍しく呆れ顔の咲。

「えと、私はいいよ」

(それにこうして忙しければ、変なことも考えずに…)

そう思っていたが、

「じゃあ私も手伝わせて頂くわ」

打って変わって真面目な顔で即決した咲を見て、

「はや…」

「ふふーん、やっぱり…お似合い?」

美琴と姫子はヒソヒソと耳打ちしている。恐らくわざとだろうが、若干聞こえている。

「な、なに言って…!」

「ハイハイ…それじゃ付いて来て〜お二人さん」

希達はそう言って教室を後にした。


―――――



「楽しみよ…貴女達に会えるのが…陽元希、そして黒月咲」




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