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十字架に乗せる黒き君への思い  作者: 夢幻館の門番
1章〜運命の始まり
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3.見えぬ過去

3.見えぬ過去


「そう言えば、咲さんのご両親は?」

桜並木の道を咲と肩を並べて歩く希。幸いにも咲も学校に近い場所に家があるらしく、方角も同じだった。希の投げかけに対して少し顔を曇らせる咲。

「ええ、両親は二人とも今日は外せない用事があって」

「えーと、その…ごめん!咲さん!」

「ふふっ、何故陽元さんが謝るの?」

「で、でも…」

「気にしないで、いつもの事よ。別に陽元さんが謝ることではないわ。向こうでも…そうだったわ」

そういうと彼女は仰ぐように空を見上げる。

(咲さん…やっぱり寂しいのかな…)

「えと、本当にごめんね…?」

「…優しいのね、陽元さんは…」

「そそそんなこと!わ、私の両親も忙しくて…!」

困ったような笑顔を向けられ、希はまた赤くなってしまった。顔を伏せて、とぼとぼと歩いている希。―――要するに前を見ていなかった。

「痛っっっったぁぁぁぁ!?」

街灯の柱に見事にぶつかった。それだけならまだ不注意で済んだだろうが―――

「うわっ…!」

衝撃に耐えられなかった希の身体は、後ろ向きに地面へ叩きつけられた。

「大丈夫!?陽元さん!?」

駆け寄ってくる咲の姿を最後に、希の意識は途絶えた。



――――――――――



「……せ……ろせ……早く……その……人間を……」

(…声?)

暗い空間に響く途切れ途切れの声。

「何故…邪魔を…我々の…」

(誰なの…?)

正体不明のその声に希は怯えていた。

(怖い…何なの…?誰なの…?)

まるでこの世のものとは思えない、地の底から響いてくる様なそれは段々と大きくなっていく。

「殺せっ!!」

明確とした殺意を放つその言葉は、鋭い刃となって希の不安定な心に深く突き刺さる。自分の周りを得体の知れない何かが取り巻く。

(いやっ…!怖い…!誰か助けてっ!)

刹那、視界が白くなり、どこからともなく鈴鳴りの様な、心地の良い声が降り注ぐ。

「大丈夫…貴女は…私が守るから…」

慈悲や救済にも似た聖母の様な声。

「貴女は…心配しなくてもいい…私が全て…」

温かい光と甘い声が希の全てを包み込んで―――


「…さん!陽元さん!」

「…ぅぅん…?」

「良かった、気がついたのね」

「え…?」

再び目を開くと、咲がいた。

「私…」

「電柱にぶつかったと思ったらそのまま倒れて…私、貴女に何かあったらって心配で…」

どうやら倒れた希を、近くの咲の家に運んでいたらしい。気がつくと天蓋付きのベッドで希は横になっていた。

「…ごめんね。私、咲さんに凄い迷惑かけちゃった…」

咲への申し訳なさから俯く希。

「私…帰らなきゃ…」

「もう少し休んでいって。無理に動かすと危ないわ」

「でもこれ以上咲さんに迷惑は…」

「私のことは気にかけなくていいわ」

咲の心遣いに再び申し訳なさを感じる希。薄いレースのカーテンから差し込む光は既に鮮やかな橙色に変わり、二人を染め上げた。

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