2.陽元希と黒月咲
2.陽元希と黒月咲
入学式も終わり、教室はホームルームの時間。この王立学院高等部は一学年を五つの組に割り振っていて、希の組は三華。どうやら組とは呼ばず、一華、二華、三華…としているらしい。そのことについて希が咲に尋ねたところ、王都の成り立ちには花が縁の深い関係にあるらしい。何百年もの歴史ある建物で、温室や学生寮もあるらしい。
軽い自己紹介をクラスの皆がやっている。希は彼女――黒月咲の自己紹介に耳を傾けていた。
「黒月咲です。去年までは王都の外にいましたが、両親の都合でこの王都に戻って来ました。久しぶりの王都なので皆さんに色々教えていただけると有難いです。それではこの一年間という短い期間ではありますが、どうぞ皆さん、宜しくお願いします」
堂々とした咲の挨拶は希だけでなく、教室内を巻き込んだ。
(咲さん凄いなぁ…帰国子女だったんだ…)
心の中で希は呟く。隣にいるのは容姿端麗、性格もそれに違わないし、おまけに外国帰りのお嬢様ときた。さらに希の妄想は続く。
(王都は久しぶりって言ってたけど、咲さん困ってるような様子も無いし…きっと凄く頭良いんだろうなぁ…)
既に何人かの紹介が終わり、希の番が回ってきているのにも関わらず、当の本人は全く気づく気配を見せない。
「……」
「陽元?」
上の空の彼女に、担任が名を呼ぶ。
「……」
「陽元希?」
名前も含め改めて呼び掛けてみたが、反応は変わらない。
「……」
「陽元!」
最終手段である大声を使って、ようやく気づいた希は、
「ひゃあっ?!」
と気の抜けた声を出した。
「お前の番だ。全く、しっかりしてろ…」
「ごごごごごめんなさい!」
教室に響く笑い声。希は真っ赤になって思わず顔を伏せてしまった。横目でちらっと咲の方を見る。
咲は暖かい目で微笑んで希を見ていた。
(頑張って)
咲の口が動いた。緊張と恥ずかしさ、そして咲から見つめられているという事実から希の心臓は激しく鼓動していた。
「えーと、えーと…陽元希…です。好きなものは可愛いものとか…あと本とかも…よ、よろしくお願いします!」
拍手、と同時に席に着く希。座る直前に咲の顔を見た時、彼女は笑っていたが、何処か悲しげに見えた。
(咲…さん…?)
しかし彼女を再び見た時にはいつもの美麗な顔に戻っていた。
(…?気のせい…かな…)
先に声をかけてきたのは咲からだった。
「一緒に帰らない?もし貴女が良かったら、だけど」
「そんな、私…咲さんと一緒に帰れて嬉しいよ」
「ありがとう、陽元さん。私もよ」
本当に幸せそうに微笑んでくれる咲に希は、再び顔を真っ赤に染めるのだった。