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#7 一日目――最初の一枚

 7



 その日の夜、浜辺を散歩した。

 綺麗な月夜。丸々とした満月が夜の闇に現れ、星々はそれを取り囲むように夜の空に満遍まんべんなく輝いている。

 揺れる波は、何度も砂浜に上ろうとしては戻されていく。

 何度も、何度も。

 ざざあ、ざざあとひたすらに揺れる。

「……何十億年も、飽きないの?」

 呟く。

 向ける意味も無い疑問だ。

 何度も、何度も。

 波は揺れる。

 実際それだって意志の無い、ただただ引き起こされる自然現象の一つなのかもしれない。

 だけれど、私にはその波が〝あきらめの悪い何か〟に見えた。

 大陸が無ければお前はこの空間も、塩水で満たすことが出来るのにね。

 でも大陸が邪魔だから、ひたすらに波を寄せては砂浜を削り、元の場所に戻っていく。

 もしかしたら〝脱皮モルトロク〟を引き起こしたのは、海が抱くこのもどかしさなのかもしれない。

 なんて。

「今って何月なのかしら」

 カレンダーなんてものはどこにも無かった。比較的過ごしやすい気候だったのだけれど、そもそもここが何処どこなのかも分からないから一概に断定は出来ないのだった。

 青く、暗い海に踏み入れる。膝まで濡れる。

 ひやり、と気持ちのよい冷たさが、足を通じて全身に伝わる。

 私はそのまま胸の辺りが沈むまで、海に向かって歩いていった。

 このまま、海の底に沈んでいくのも悪くないなと思った。

 私は生きている。

 星が輝いている。

 波の音が聞こえる。

 夜の海は冷たい。

 漂う潮の匂い。

 海水はしょっぱい。

 私は生きている。

「――あれ?」

 泳ぎ回っていると、浜辺の端の方に光る物体が有った。

 私が投げ捨てた電子フォトアルバムであると気づくのに時間はかからなかった。

 耐水性ばっちりじゃないか。

 少し迷ったけど、取りに行くことにした。サイボーグさんの物だから、無事なら元に戻すべきだ。

 投げ捨てたのは私なのだけれど。

「あれ?」

 フォトアルバムの近くまで寄ると、ふとおかしな事に気づいた。

 エロ画像のスライドショーは、フォトアルバムが海を漂い、この浜辺に打ち上げられたからもずっと継続されて。

 その、最後の一枚。

 否。スライドショーは新しい画像から古い画像にさかのぼりながら進められていたから、この画像はフォトアルバムに納められている最も古い画像ということだ。

 つまり、〝最初〟の写真。

 写っていたのは、苦しそうだが、とても幸せそうな一人の女性と――。

「――赤ちゃん?」

 写真に刻まれた日付、西暦三〇〇一年二月十八日。

 私の――生まれた日。

 

「――あ、サイボーグさん」

 散歩から戻ると、家の前で壁に背を預けたサイボーグさんが居た。

『ただの散歩かと思ったらずぶ濡れじゃねえか。どうした?』

「ちょっと、泳いでました」

 少し言葉を濁す。まだ、気まずい。

『泳いでって……とりあえず、風呂は沸かしてある。入りな』

「あ、ありがとうございます」

 ぺこりと頭を下げてから、すぐさま家に入ろうとドアノブに手をかけると、サイボーグさんの『嬢ちゃん』という声が私を引きとめた。

 振り向かずに、腕を組んで目だけをこちらに向けていた。

「……?」

『明日、ちょっと連れて行ってやりたいところがある。いいか?』

「――は、はい」

 何処なのだろう。

 心の中が不安でいっぱいになる中。

 ほんの少し、期待が混じった。


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