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#5 一日目――サイボーグさんの秘密

 5



 サイボーグさんは、夜が明けるとすぐさま出て行った。私の分の食料の調達に行ってくれているのだ。

 サイボーグさんは電力と水素の充電だけでも動けるそうだ。全身の改造にあたり、効率的に考えて余分で邪魔なものはおおよそ取り払ってしまったらしい。

 取り払うってどうやったんだろう。

 サイボーグさんの体には、臓器の変わりに未知の何かが詰まっている。

 二十分ほどで帰ってくるらしい。

 その間、私はサイボーグさんの家を探検していた。失礼極まりないとは思ったが、何せあの人は謎だらけだ。私自身あの人が良い人なのはこれまでのやり取りでも十分に分かったのだけれど、それでもやはり正体不明のままを貫かれるのは少し気持ちが悪かった。

 名前年齢経歴目的、何もかも不明。

「まさか男ですらないのかしら? ……でも、あの人音声変換機で喋ってるもんなあ」

 思わず呟く。

 女である可能性だって十分にあった。

 私はこの二十分の間に、全てを明らかにするつもりだ。

 とりあえず調べる箇所は三つ。寝室とリビングと工場である。

 サイボーグさんの家はとにかくシンプルで、この三つしか主な部屋は無かった。これも効率を突き詰めた結果なのだろうか。

 手始めに寝室にあった机の引き出しを勢いよく開いた。昔の恋人との手紙なんか見つかればいいな、なんて思っていた。

 出てきたのは一つの電子フォトアルバムだった。空間上に写真を表示することの出来る、私も良く知っているアイテム。これなら、昔のサイボーグさんの写真があるかもしれない。迷わずに電源スイッチを押すと、一つの写真が映し出された。

 燦燦さんさんとした太陽の光を、爽やかな海は一つ残らず反射していた。まばゆい限りの黄色い砂浜で、向日葵ひまわりのように笑う女性。たわわに実った零れそうな胸は、もう少し水着がずれれば大切な部分が見えてしまいそうだった。というか若干見えている。恥ずかしそうでありつつこちらを挑発するようなくねりとしたポージングが、さらに男の何かをかきたてる、のかもしれない。

 私はすばやく窓を開け、海の彼方にそれを投げ捨てた。

 どうみてもサイボーグさんの秘蔵コレクションだった。私はそういったものに全く耐性が無かったので、拒否反応からか思わず投げ捨ててしまった。

 波に乗り、ゆらゆらりと漂うフォトアルバム。スライドショー形式で表示されるエロ画像。そのまま何処かに流されてしまえばいい。

 ひとつため息を吐いてから、私は調査を再開した。


 だが、お目当てのものは結果的に何一つ見つからなかった。余分なエロ画像は残していたのに、その他の彼の身辺関係を示すような書類や手紙、それらが収められていそうなコンピューターですらどこにも無かった。物が沢山散らばっていた工場のものはさすがに好き勝手に触るわけにもいかない。

「隙が無いわね……」

 時間ももう限界だった。そろそろリビングに戻っておかないと家中を漁りまわったことがバレてしまう。

「ん?」

 そこで私は、作業机の上にかかる白い布に気づいた。

 何か修理中なのだろうか。

 興味と期待から、思わずその布をいでしまった。

 転がっていたのは、ばらばらの――。

「……時計」

 銀の懐中時計。

 なんで、時計なんか直してるんだろう。

 しかしこの時計、どこかで見覚えがある。

 考えている暇はなかった。外にジェット機が着陸する音。轟音が地下にまで響き渡る。

「やばっ」

 私は螺旋階段に向かって駆け出した。

 白い布を被せることを、すっかり忘れて。


      *


 帰ってきてドアを開けると、彼女はソファに寝そべって本を読んでいた。

「お、おかえり」

 声がうわずっている。物心がついたときからの、嘘をつく彼女の癖だ。

『――何かしてたのか?』

「う、うん。ずっと本読んでた」

『そうか』

 とりあえず昼飯を作るか。嘘に関しては……まあ大体俺のエロ画像フォルダを発掘してしまったとかそんなところだろう。

 あ。でもフォルダの底は見られていたらまずいのか。一応五百枚は上に積もっている筈だけれど、後で確認したほうがいいのかもしれない。

 俺は台所に行き、今日のメニューを考える。あまり凝ったものは作ることが出来ないため、結局シンプルに野菜炒めに決まった。

 包丁を取り出し、取ってきた野菜を黙々と切り刻んでいく。

 昔は、家庭科ポンコツなんてひどい呼ばれ方もしたもんだったが。

 いや――今はもっとポンコツか。

 家庭科というか、父親として。

 昨日の丘で、彼女は言っていた。

 逃げて逃げて無理やりに命を繋いでも、それはもう〝生きている〟とは言えないんじゃないかって――と。

 彼女はもう、自身の生を肯定することが出来なくなっている。

 俺のせいか。

 俺のせいだ。

 心臓が掴まれるような嫌な感覚。

 もう心臓なんて残ってないのに。

 


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