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20話 素粒子分解

ジョージ=カォツマの事件から数日が経った。

ジョージは瞬殺だった。

マルガリータに首をちょん切られるという、あっけない幕引きだ。

ピヨリは、ただジョージが殺されるのを見ていることしかできなかった。

心のブラザーを、救ってやることはできなかった。


テルモが言っていた。仲間の死には早く慣れねばならない。

いちいち感傷的な気分に浸っていると、敵にいつか自分の心の隙を突かれる、と。

その通りだ。


世の中甘くない。いつかはピヨリも殺られるときが来るかもしれない。

主人公補正なんて、無いんだ……



「……………………」



テルモに課せられた、最後の修業の『ジョージを撃退しろ』という任務は完了したので、ピヨリの修業は数日間の休暇中に入っていた。


今はもう学校の授業が終わり、クラスの面々たちに別れを告げ、寄り道をせず家に着いた。

いつものようにポケットに入っている鍵で開錠して扉を開ける。


「ただいま」


家に帰ったとしても、そこに家族はいない。

親父は妹を連れてどこかに失踪し、お袋は他界した。

伯母さんだけだ。唯一血のつながりがある人は。


そして、ピヨリの今の目標はお袋の敵である、親父を殺して、妹の安否を確かめることだ。

そのためだったら、無関係な人間も殺すと決めた。

死んだ人間の感傷には浸らない。

ただ機械的に任務をこなして、親父の手がかりを探す。


こんなことを、家に帰るたびに何十、何百と思い返している。

それが今のピヨリの生きる意味だった。


改めて目標を噛みしめなおして家に入った。


と、そこでだ、


靴を脱ごうと思ったときに、あるものが目に入った。

陽香伯母さんの靴がある。


いつもだったら、この時間帯から売春婦の仕事に行くはずなのに。

と、ピヨリは不信感を抱いた。

ピヨリは急いでリビングに向かった。そこには、

陽香伯母さんはリビングのソファに座り、楽しそうに男と談笑していた。

そこで、ピヨリに気付いたおばさんは、


「あら、おかえりピヨリ」

と笑顔で言った。


向かい側に座っていた男が、

「おかえりなさい。そして、こんばんは、そして、初めましてピヨリ君」

ニッコリと笑い、言った。


「……はあ……はじめまして……」

ぴっちりとスーツを着こなしていて、髪はオールバック。誠実そうな顔の若い男だった。


「えっと……」


「単刀直入に言うが、僕と陽香さんは入籍することになったんだ」


「……ハイ?」


出会って、二言目に衝撃的な言葉を言われ、頭が回らなかった。


「……なぜ?」

最初に口をついた言葉は疑問だった。

こんなアル中、ニコ中、ヤク中の、言い方は悪いが、クソババアの陽香伯母さんのことを好きになる異性がいるなんて衝撃だった。


「はは、そんなの決まっているじゃないか。僕たちは愛し合ってるからだよ。な? 陽香」

男は陽香伯母さんの肩に腕を回す。

陽香伯母さんはポッと、顔を赤らめて恥ずかしそうに頷く。


「フフ、陽香はシャイだな。……それでは自己紹介をしよう。僕は狩野祈かのういのりだ」


「結婚するん……ですか……ハハ」

こんなアル中、ニコ中、ヤク中の陽香伯母さんも結婚するのか。陽香伯母さんはろくでもない人なのに……

でも、結婚することは、素直に祝福したい。


「おめでとう……陽香伯母さん」


「まあ……ありがとうピヨリ」

そう言って、陽香伯母さん向日葵のような笑顔で笑った。

ピヨリはその顔を見たとき、なんだか自分も嬉しい気持ちになっていた。



「ピヨリ君。少し外で話さないか? 親睦を深めるためにね」


「あ、はい。じゃあ、陽香伯母さん行ってきます」


出る前に、陽香伯母さんに目線をやると、

「行っておいで」

陽香伯母さんは優しく笑いながら言った。

ハイ、と短く言い残し、二人は外に出た。






ピヨリと祈の二人はファミレスに居た。

「おお、なかなか美味いもんだな!」

「ですよね! 俺の大好物なんですよ!」

二人が口にしているのは、ピヨリの大好物であり、万人にオススメする、ココナッツカレーだ。

二人は早くもココナッツカレーの話題で盛り上がり、意気投合していた。


「これなら、三杯いけそうだよ」

祈は美味そうに食べながら言った。

「それは無茶ですよ」

と、苦笑交じりに言いながらも、ピヨリはココナッツカレーを三杯食べた。

祈は三杯目の三分の一は食べたが、三分の二は残した。



「まあ、腹ごしらえしたところでなんだ……君に尋ねたいことがあるんだが……」

祈は少し暗いトーンで話しだした。

「なんですか……?」


祈は少しためてから言った。

「ピヨリ君……君は能力者なんだよね……?」


「え――――?」


あまりにも予想外過ぎた問いかけに、言葉が詰まった。


「し、知ってるんですか? 祈さん……?」


「知ってるもなにもねぇさ、実は、俺も君と同じ能力者だからな」


祈の口調が明らかに変わっていた。


「じゃあ僕たちのこと手伝ってくれませんか!? 僕たちは反逆者リベロって言って――」

ピヨリは身を乗り出して言った。


「ああ、それね。俺はそのことについて話に来たんだよ……君、いや、テメーに合うために、あの陽香ババアと結婚なんて言う、クソキモイ約束事させられたりよ、……マジ吐き気がするぜ、……オェッー」


「て、テメー? あのババア?」

なにがなんだが分からなかった。祈の性格の変化についていけなかった。



「どういう……ことですか……? つ、つまり陽香伯母さんとの結婚は嘘だってことなんですか!?」

声は震わせながら、そんなことは嘘であって欲しいと祈るように尋ねた。

ピヨリは陽香伯母さんが結婚する、と言ったときの嬉しそうな顔を思い出した。



陽香伯母さんは、ろくでもない人だけど、ピヨリを食わすために働いてくれている。

こんなピヨリを養ってくれる、感謝してもしたりないぐらいの恩人だ。

そんな陽香伯母さんの想いを踏みにじるなんて、

次の返答次第では、こいつをぶち殺すと、心の中で思った。


「ハッ! 嘘に決まってんだろ気持ち悪ぃ。いちいち言わせるなよカスが」

祈が貶すように鼻で笑った。


「てめええええぇぇぇぇぇ!!!」

夕方で人の少ないファミレスに、ピヨリの怒号がうずまく。


「調子に乗るなよガキがッ!!」

ピヨリは祈に殴りにかかったが、それよりも速く祈の服の裏ポケットから拳銃を取り出してピヨリの眉間に銃口を向けた。

ファミレスにいるほぼ全員が二人に注目していた。拳銃を見て悲鳴を上げて逃げだす者もいた。


それを見た従業員が急いでどこかに電話をかける。


「チッ、サツに連絡された。さっさと要件を済ますぞ。要件は伝言だ。『ガキが俺らの組織に手を出すな。命は大切にしろよ』だ。確かに伝えたぞ。じゃあな」

そう言って、祈は眉間に向けていた拳銃を離し、そのまま外に出ようとした。


「オイ、テメェ……話は終わってねぇだろうが。人の話をきちんと聞いていきやがれ!!」

低く俯きながらピヨリはドスの効いた声で祈に向かって叫ぶように言う。


ピヨリは会計に向かう祈に、走って助走をつけ、ドロップキックをかます。


「能力ぐらい使ったらどうだ、ガキ」

なんなく躱され、そのままズッコケた。


祈は近くのテーブルに手で触る。

「”分解”」

祈がそう言った瞬間、テーブルが虚空に消えた。

そして祈はピヨリに向けて手をかざす。


「”製造”」

今度は虚空から分厚い大木が飛んでくる。


ピヨリはそれにモロに直撃し、内臓が破裂するかと思った。

その衝撃で5mほど転がる。


「ぐほぉ……なんでこんなところに大木が」

血をまき散らしながら言う。


「うーん? ココナッツカレー吐くなよー?」


「ごはぁ、一体何が」


「……そうだな、俺は親切だから教えてやるよ。『物質変換能力』の”素粒子分解”だ。手で触れた物体を素粒子まで”分解”し、また別の物体を”製造”できる」

祈は痛みにもだえ苦しむピヨリをみながら愉快そうに説明した。


「チッ、テメェ本当に能力者かよクソが。いちいち俺の前に現れやがって、その上陽香伯母さんを騙しやがって、屑野郎!!」


ピヨリはブチ切れたように言うと、祈の顔にも血管が浮き出ていた。


「死にてえようだな、ガキ。殺してやるよ」

祈は束で置いてあるスプーンやフォークを乱暴に掴み、能力を発動した。


「”分解”」

言うと、スプーンやフォークは素粒子まで分解されていき、消えた。


「”製造”」


「来る――!」



鉄パイプが五本ほど、すさまじいスピードで飛び出してきた。


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