19話 無音領域
ジョージがマルガリータと呼んだ先に、背丈165㎝ほどの中学生のような幼い風貌をした少年が立っていた。
髪は黒くて長く、目つきは少し鋭い。
「僕をその名前で呼ぶのはやめてくれませんか? ……マルガリじゃないんで」
マルガリータ七世は頭をかきながら言った。
「それより……願先さん」
マルガリータ七世はジョージを無視し、ピヨリに話を振ってきた。
「あなた達の熾烈な戦闘で、学校内のものを破壊しまくっています。普通だったら警察沙汰になっているはずなのに、誰も何も言わないのは不思議だと思いませんか?」
「そういえば、そうだな」
ピヨリは思い出しながら答える。
「それは僕の能力のおかげなんです。『特殊変換能力』の”無音領域”(サイレントエリア)、僕が指定した範囲は外界からは音を絶ち、四方八方どこからも視認することができません。だからこういう所に僕が派遣されることが多いんですよ」
そう言ってマルガリータ七世はこちらに近づき、そのまま素手でジョージの脇腹を…………突き刺した。
「ぐぼぉ……ぁ」
マルガリータ七世が手を引き抜く。
ジョージは口から血を吐き、脇腹からは噴水のように血が溢れ出す。
「ジョージ!!」
滝のように流れ出る血をどうするればいいのか分からず、手で押さえるが、止まらない。
「そして、これは”刺々舞”(ししまい)、僕の二つ目の能力です。僕の手刀はどんなものでも突き刺します。二つの能力を持つ者の事を”二重能力”(デュアルスキル)使いと呼ぶんですが、知ってましたか?」
「”二重能力”(デュアルスキル)だと……?」
マルーガリータ七世はジョージについて、たいして気にも留めず、再び話し出す。
「ハーバード大学異能研究会が世間には秘密裡に研究している項目です……『人工能力』と言います。その名の通り、自然に能力が発生するのではなく、人の手が加えられて人工的に能力を発生する、それが人工能力。それ加え、自然に発祥した能力と人工的な能力を二つ合わせると……『二重能力』(デュアルスキル)使いの出来上がりです」
「…………」
「少し話が変わりますが、世界には何人『特殊変換能力』を有している人がいると思いますか? ……『HIB』の調べではありますが、能力者が世界人口の約3割、そして『特殊変換能力』が目覚めるのはさらに一億分の一の確率だそうです。つまり今は『特殊変換能力』を持つものは30人前後と言うことです。その中の一人に僕も含まれます。そして”反逆者”(リベロ)には何人かいましたね。……なぜこんなに都合よく『特殊変換能力』者がいると思いますか?」
ピヨリは黙ったまま、なにも言えないでいた。
「大半が裏のオークションで買われるんです。簡単に言うと人身売買のようなものです。事実、僕もそうでした」
マルガリータ七世はどこか憂いのある表情で喋っていた。
「そうか……それを俺に言って、何がしたいんだ?」
ピヨリは秘部を用意する。
マルガリータは少し時間を空けて、喋り出す。
「いえ、”反逆者”(リベロ)の人たちは情報に疎いと思っていたので、親切に教えていただけですよ」
「ジョージは俺を殺すために校長が送ってきた刺客なんだろ? だったらお前はなんだ? なにしにきたんだよ」
「そうです。僕も平和維持ボランティ会の『上』の人たちの命令で来ました。長話もここらへんで終わりにしましょうか」
平和維持ボランティア会……?
そして、マルガリータは瀕死の状態のジョージに顔を近づけて言う。
「カォツマさん、僕が直々にここに来た理由分かります? 一つは一般人にこのバトルを気づかせないために”無音領域”(サイレントエリア)を作り人の目を欺くため。もう一つはボスからの伝言を伝えること。ボスはこう言っていました。カォツマは平和維持ボランティ会の結成同時からいたので幹部にしてやっていたが、あいつは弱すぎる。今回失敗したら始末してこい、と」
マルガリータはジョージの首根をつかんで持ち上げる。
「ああ、あ、ああああ、し、死にたくない……待ってくれよ、頼む……お願いだ、よ、あああ、あああああ」
ジョージは涙を流しながら必死に命乞いをする。
「うおお! ”音速秘部”(ソニックマラー)!!」
ピヨリはマルガリータの顔面を狙うが、頭一つ分外れる。後になってすさまじいほどの風圧がやってきて、マルガリータは少しよろけた。
「くっ……すごいですねあなたの『神越』は……あなたの体力がMAXでやる気全開だったら、危なかったです。……ですがッ! ハッ!」
真っ直ぐに伸び切った秘部に、指を突き刺した。そして蜂の巣のように次々と指を差し込んでいく。
「アッああああー!!! アアアアア!!!」
ピヨリは秘部の痛みで叫ぶ、急いで定位置に収納する。
「邪魔をしないでください願先さん。カォツマさんはもう死刑なんですよ」
そう言って勢いよく手刀で首を一刀両断した。首の上から先の頭蓋が、鮮血と共に大きく舞う。
「――――ふぇ?」
ジョージは最後に素っ頓狂な声を発しながら、あっけなく、死んだ。
撥ねられ首は空中をクルクルと回り、やがて重力によって落ちてくるのをマルガリータは片手でキャッチした。
あまりに綺麗に切断されたので、血が一滴も垂れなかった。
ジョージの胴体と切断した首を手に持って、背を向けて歩き出す。
ピヨリはその隙を見て、秘部をまた準備する。
「やめといた方がいいですよ。今のあなたじゃ僕に敵うはずがありませんから」
そう言い残し、あっと言う間にマルガリータは、霧に飲まれるようにして消えていった。
へた、と床に座り込んだ。
ピヨリは考える事さえ忘れて、茫然としていた。
――チャイムが鳴った。
そして、遠くから聞き慣れたテルモの声が聞こえてきた。
「おーい、ピヨリー、お前今日やけに早くから学校に来てるんだな」
テルモがピヨリのところに小走りで来て、言った。
「って、お前、その血!」
「あ、ああ、……さっきまで校長の刺客と戦っていたんだ……それでそいつに勝ったと思ったら、また誰か違うやつが来て、……そいつがその刺客をあっけなく殺して、それで……どこかに行ったんだ……」
ピヨリの説明は要領を得なかったが、テルモは大方理解して、真剣な面持ちになって聞き返してきた。
「殺される前のそいつに、お前は勝ったのか?」
「……ああ」
なんとか頷く。
「それなら合格だ」
テルモはまたしても指で○を作って、ニカッと満面の笑みで笑う。
「そう……ヵ」
ピヨリはあまりの疲労に、その場で意識を手放した。




